AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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その眼を我らに

一撃で主力が消えたら混乱は避けられない。

 

聖国の連中が冷静なら即座に撤退を決断しただろうが、撤退も攻撃続行も決断できないまま目玉からのレーザーに貫かれて爆散していく。

 

『マスター、恒星の近くに何かいる』

 

「警戒と監視を続けてくれ。ものによっては追撃を諦めて撤退する」

 

俺が俺自身の言葉を認識できたのはここまでだった。

 

【おぞましい人形とその下僕が我らの聖地に迫っている。臆するな! 怒れ! 惑星改造用の獣と牧童を殺して勝ち誇る愚者どもに、我らの真の力を教えてやるのだ!】

 

巨大すぎる音量が俺の耳を麻痺させる。

 

おそらく数秒気絶していた。

 

気付いたときには、俺は倒れる寸前の体勢で相棒に支えられていたのだ。

 

「耳が聞こえん」

 

『マスターしっかり! 第一艦隊の指揮は僕が引き継ぐっ。全艦、行動はこのまま。マスターの命令通りに、内惑星の宇宙港を破壊する。その後は即時撤退! 急げっ!』

 

大音量で聴覚が麻痺しているはずなのに、相棒の声だけは……いや他の機械人間の声も聞こえるな。

 

『いいから黙って従え!』

 

相棒は強い口調と物理的に強い眼光で命令している。

 

既に第一艦隊は加速を開始しているが、その動きはどこか乱雑だ。

 

「すまん、もう大丈夫だ。俺だ。ケースだ。相棒の命令は追認する。聖国の艦隊との戦いはできる限り避けろ。俺たちがしているのは敵艦を破壊すれば終わるPvPじゃない。聖国に負けを認めさせるための戦争だ」

 

俺が言い終える前に、第一艦隊の乱れは完全に消えていた。

 

『ますたあ』

 

表情を変える余裕がないくらいに相棒が落ち込んでいる。

 

「国と艦隊の一番上がいきなり倒れてあの程度の動揺に抑え込んだんだから十分以上だ」

 

本音だ。

 

俺が相棒の立場ならパニックに陥って何もできずに国も艦隊も空中分解だったと思う。

 

【牧童に足止めさせろ! 弩級艦で敵を焼き払うのだ!】

 

大音量にも慣れてきた、というより麻痺してきた。

 

「弩級艦を出撃させろ?」

 

『また聞こえたの? 確かに聖国の弩級艦は動き出してるけど……』

 

多少は落ち着いてきた相棒が、顔で困惑を表現する。

 

恒星の光を浴びて青白く輝く弩級艦は実に優美で、しかしその巨大砲塔は第一艦隊にはまだ向いていない。

 

「そろそろ戦艦艦隊が出てくると思ってたんだが、いきなり弩級艦か」

 

もとは白なのだろう巨大戦闘艦は威圧感が凄まじい。

 

ただし遅い。

 

加速だけでなく、高速で頻繁に進路変更と加速を繰り返す俺たちに対応しきれていないのだ。

 

指揮艦を除いて単一艦種で構成されている俺たち第一艦隊は、得意と不得意がはっきりしている。

 

第一艦隊を構成するサーフボード型巡洋艦は速く、高加速で、距離による減衰がきついレーザーが主兵装だ。

 

低速の強敵は速度を活かして回避し、低速の弱敵は逃亡を許さず撃破はするが、高速の相手や「絶対に攻め落とす必要がある場所に陣取った長射程兵器装備の艦隊」にはかなり弱い。

 

『長射程の大砲かオートキャノンを満載した戦艦とか、警戒してたのにね』

 

「俺なら絶対に用意した上で伏兵させておくけどな」

 

なお、もし隠れていたなら既に俺たちに奇襲をしかけていないとおかしい。

 

『伏兵、いると思う?』

 

「いないだろうな……」

 

聖国の宇宙港が、大量のミサイルで高価な弾幕を張っている。

 

サーフボード型は一隻でも大量のレーザーを撃てる対空にも強い艦だが、八隻しかいないので限界もある。

 

『一番が被弾!? 嘘でしょっ』

 

「いくら操縦が上手くても当たるときは当たる。って一番! 早く艦を放棄しろ! サーフボード型一隻と熟練パイロット一人のどちらが貴重か考えろ!」

 

位相障壁を船体装甲の大部分も破損したサーフボード型巡洋艦から、球形に近い操縦室が飛び出す。

 

「回収する」

 

指揮艦からトラクタービーム複数を浴びせて操縦室を捕捉。

 

そのまま引き寄せて操縦室をまるごと船倉に格納する。

 

『後始末するよ!』

 

相棒は健在な七隻に命令し、頭脳である操縦室を失った巡洋艦を多数の緑の閃光で串刺しにする。

 

あらゆるものが融けて形を失い、戦闘後に聖国が回収した際に得られる情報を極小にした。

 

「当たると脆い艦だよな」

 

船体装甲は巡洋艦としては薄く、一時的な装甲である位相障壁と回避で生き延びる艦だ。

 

第二艦隊の主力であるマザーボード改型なら一度は耐えられる攻撃で、小さなパーツを含めて全て破壊されてしまうほどだ。

 

『回収されて弱点を調べられると怖いけど、でももったいない……』

 

「気持ちは俺も同じだが、ここまで育ったAIパイロットを失うよりマシだろ」

 

『あの……すみません』

 

船倉から相棒と俺の操縦室まで住み慣れた我が家のような足取りで移動してきた一番が、気弱そうに頭を下げてから隅っこで三角座りを始める。

 

ケース契約国の機械人間の中でトップ層の操縦技術を持つが、社交能力は相変わらず最底辺だ。

 

一番は簡単な報告だけして、後はどうすれば被弾しなかったかの計算を始めている。

 

「そろそろ艦隊司令になって欲しいんだがね」

 

『待遇いいよー』

 

肉人間の国家なら、艦隊司令は多くの人間で構成された組織を運営することになる管理職だ。

 

しかし、機械人間が人口の大部分を占めるケース契約国では、指揮能力だけでもなんとかなる。

 

ケース契約国は、列強で高級官僚や大組織の長なんかをしていた機械人間が大勢いる異常な国だからな。

 

一番は、怯えを隠せない表情で、ふるふると首を左右に振る。

 

これは謙虚ではない。

 

パイロットという自分好みの職にしがみつく、ケース契約に集まる機械人間らしい態度だ。

 

第一艦隊が、聖国の宇宙港すれすれを通過、しない。

 

俺や性格の悪いPvPプレイヤーなら罠を仕掛けているだろう場所を避け、結果として少し効率の落ちた距離とタイミングで、指揮下の巡洋艦にレーザーを全力照射させる。

 

距離による減衰があっても、対レーザーの装甲や熱を逃がすための機能があっても、膨大なレーザーを一箇所に集中すれば耐えきれなくなる。

 

位相障壁はすぐに破られ、船体装甲も融け崩れ、小型艦用の建造や修理を行うための大型区画が派手に爆発して宇宙港本体まで傷つける。

 

「このデザインは装飾目的かね?」

 

白い宇宙港は、傷ついても美しさを保っている。

 

【機雷原の直前で進路変更だと? まさか、牧童どもが恥知らずにも生き残り情報を流したかっ】

 

相変わらずアホみたいに大きな音に聞こえるが、まだ耐えられる。

 

「捕虜が協力的だと戦争が楽でいいな!」

 

相棒に目配せする。

 

『だよね! あの人たちも、ケース契約国を気に入ってくれたみたいだし!』

 

「降伏はいつでも受け付けてるからよろしくな!」

 

言いたい放題に降伏勧告と偽情報流布を行ってから、俺たち第一艦隊は一目散にケース契約国の星系目指して撤退する。

 

「さて」

 

『勧誘、始めよっか』

 

俺と相棒に凝視された一番が、恐怖でぷるぷると震えていた。

 

  ☆

 

ケース契約国に帰還してから俺がまず向かったのは、惑星の地表にある神殿じみた大規模建造物だった。

 

「ディーヴァの状態はどうだ? 仕事は続けられそうか?」

 

「ケース代表が見舞いに来ると知った直後に回復しました。もてもてですね!」

 

非常に軽い感じで返事をしているのは、評議員の一人である少女だ。

 

何故か聖女らしい能力を持ってこの宇宙で目覚め、しかしこの宇宙で生きていく能力と環境が足りずに奴隷市場のワゴンセールにまで流れ着いた、おそらく俺と同じ故郷の出身者。

 

なお、他に四人いる。

 

ケース契約国に来てからは、聖女の力で行った浄化や農業で膨大な金を稼ぎ、その稼ぎを故郷へ帰還のための研究に注ぎ込んでいる。

 

「相棒がいるのにもてても嬉しくねーよ」

 

「……女性を何人も囲っていそうな顔しているのに、ケース代表って一途ですよね」

 

実写ドラマで聖女役を演じたら賞をとれそうな少女がそんなことを言う。

 

「故郷に戻る前にその暴言癖を治しておけよ。この宇宙より、あっちの方が礼儀にうるさいはずだからな」

 

俺は一度だけ肩をすくめてから、機械人間用の病室にノックをした。

 

『どうぞ!』

 

うきうき、わくわくという感情が言葉にも声にも濃厚にこもっている。

 

「ケースだ。入っていいか?」

 

『はい!』

 

古代基準で未成年の聖女よりも若々しく、というより幼く感じられる。

 

「やはり相棒と一緒に見舞いするからちょっと後で来る」

 

強烈に嫌な予感に襲われた俺は、聖女に呆れられながら相棒に連絡をとるのだった。

 

  ☆

 

むっすー、と拗ねていてもディーヴァは神々しい。

 

明らかに特別に製造された機械人間だが、俺にとっては「向いていないのに宇宙船パイロットを志願する変わり者」だ。

 

「無事なようで何よりだ」

 

『回復おめでとう』

 

相棒は、俺に横からしがみついたままの体勢で淡々と言う。

 

『ありがとうございます』

 

普段は聖女たちを完璧にサポートすると同時に複数の惑星運営まで並行して担当しているディーヴァが、精神年齢が一桁減ったくらいの態度でいる。

 

この二人の相性は、見ての通りに酷い。

 

「倒れた理由は聞いて良いか?」

 

『はい。ケースさまの娘が現れたと聞いたときに、思考が乱れてあのようなことに』

 

「まあ、人間関係が激変しかねないことだからな」

 

特にドローンだ。

 

ディーヴァは何か言いたそうだったが、結局「娘」についてはそれ以上何も言わなかった。

 

『ところで』

 

ディーヴァから感じる気配が強くなる。

 

俺を守るかのようにしがみつく相棒も、雰囲気に飲まれたように動けなくなる。

 

『艦隊司令に勧誘されたと聞きました』

 

「一番の奴はパイロットとしては抜群だからな。指揮適性も悪くはない。本人が頷けばその瞬間に新規の正規艦隊司令だ」

 

全力で説得したのに断られたけどな。

 

『わ、わたくしも……』

 

ディーヴァの能力の凄まじさと比較すれば、美しさも迫力も添え物でしかない。

 

広大な土地と膨大な人間にたいした不満を抱かせずに統治するのがどれほど困難か、PvP以外は大して詳しくない俺でも分かる。

 

少なくとも、辛うじて準列強といえる程度のケース契約国にいるはずがないレベルの人材だ。

 

『船に乗る職に転属したいです!』

 

病室が静まりかえる。

 

ディーヴァを構成するパーツを遠隔から病室の機材で確認するAIがいるはずなのに、誰一人しゃべらず、騒がない。

 

俺は、本当に仕方なく口を開いた。

 

「どれだけ功績があっても向いていない職にはつけられない」

 

『でもっ、がんばればパイロットになれるって、ケースさま言ったもん!』

 

ディーヴァの今の言葉遣いが演技かどうかは分からない。

 

それでも、剥き出しになった心が悲鳴を上げているように感じられた。

 

しかしだなディーヴァ。

 

俺は確実にパイロットになれるなんて一言も言ってないと思うんだが。

 

『あの頃と今じゃ艦の性能と操縦難易度が違いすぎるよ。無印のマザーボード型とサーフボード型を比べたら分かるでしょ?』

 

相棒は、珍しくディーヴァに対する隔意も悪意もなく言う。

 

すがるように俺を見るディーヴァだが、俺も、部下の命を危険に晒す嘘は言えない。

 

「ディーヴァで辛うじてなんとかなりそうなのは、マザーボード型までかな……」

 

どれほどの美人でも、大口を開けてほげえと鳴くと間抜けな顔になることを知った。

 

  ☆

 

「今のところ侵攻は順調ですが」

 

ドローンが大きく息を吐く。

 

「聖国のステルスを確実に見破れるのがケースさんだけというのは問題です。聖国の戦い方は非効率ではありますが、聖国を構成する人間は馬鹿ではありません。いずれ気付かれるでしょう」

 

「艦の増産と新規パイロットの訓練は順調ですよ」

 

姉であるカノンがそう発言するが、ドローンの憂い顔は変わらない。

 

「聖国としか衝突していないケース契約国と、複数の列強に接している聖国で戦いが成り立っている時点で大問題です。聖国が他の列強と講和を結んで僕らに戦力を集中するまでに、聖国の継戦能力にダメージを与えないと……」

 

「だが急いで攻めれば罠にかかり易くなる」

 

『マスターがやられたらおしまいだよね。なんか、マスターの耳に直接大ダメージを与える手段が聖国にはあるみたいだし』

 

「ケースさんの感覚が鋭すぎるのは弱点にもなりますか。いっそケースさんを量産します?」

 

対策を思い付かなかったドローンが、ヤケクソで滅茶苦茶なことを言う。

 

対策を思い付かないのは相棒も俺も同じで、相棒は子供の設計図のための計算を始めている。

 

「耳は我慢するとしても、問題は目か」

 

俺の子供の目はどんな感じになるのかなと思った瞬間、俺は「あっ」と口に出した。

 

「設計図の目の部分だけ使ってみるのはどうだ?」

 

「ケースさんの娘さんの設計図ですか。確か遺伝子まで反映してるんですよね。もしかして聖国の艦とかが全部見える、とか? 機械人間用のパーツはある程度規格化されていますから、大勢に装備させられるかも?」

 

『可能性はある、かな? ちょっと嫌だけど目だけなら……』

 

出席者全員の目が、まだこの世に存在しない機械人間の設計図に向くのだった。

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