AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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『ケース契約国国営放送総合ニュースの時間になりました。司会進行はわたくしアナウンサーが。解説はハカセです』

 

『俺がハカセだ!』

 

この放送の冒頭はいつも同じだ。

 

『本日最初のニュースです。第一艦隊のパイロットの大部分がライセンス停止処分を受けました』

 

『検証が不十分なパーツに換装した結果だ! 俺のように自分自身で調整できないなら換装はお勧めしないぞ!』

 

ハカセの目は以前と違う。

 

相棒が基本的な設計を行い、研究職の機械人間が大勢で細部の修正とケース契約国での生産を実現した、俺たちの子供の目の先行生産版だ。

 

『使い心地を聞いてもよいでしょうか』

 

普段は無表情に近い笑顔のアナウンサーが、今は好奇心を隠しきれていない。

 

『基本的な性能はとても低い。俺のような研究職でも能力不足で、外部の視覚センサが必須になったほどだ』

 

現在のハカセは本当に歯に衣着せないが、嘘は言わない。

 

『ケース代表の目はこれより性能が低いと聞く。どうしてあれほどの操縦技術を持てるのか、直接調べてみたい!』

 

俺は指揮艦の操縦室でニュースを眺めながら、重いため息を吐いた。

 

「俺が失脚したら嬉々として人体実験しそうだな」

 

『大丈夫だよ。僕がマスターを守るし』

 

俺の隣に座る相棒は、穏やかに微笑んでいる。

 

ただ、画面越しに相棒に見られたハカセが「やべっ」という顔で口を押さえていた。

 

『目について、他には?』

 

アナウンサーは「早く言え」という態度だ。

 

『説明が難しい』

 

ケース契約国における研究職の頂点であるハカセの頭脳は圧倒的だ。

 

なのに、言葉をまとめるための時間が、位相戦闘中でもないのに十秒以上もかかっている。

 

『復元した聖国のフリゲートや駆逐艦を目視可能になった。聖女から未知の光を確認できるようにもなった。研究者にとり、この目は既に必須装備だ。だが、現時点では使用方法を模索している段階だ』

 

ハカセの言葉は否定的な要素が強く、しかしハカセのうきうきした様子を見れば、今ハカセがどれだけ新しい目に夢中になっているか分かる。

 

『ありがとうございます。続いてのニュースです。冷却水に古代の料理の形をとらせることに成功したと、先代のハカセが発表を……』

 

聞きたかったニュースが終わったので、俺は音量を落としてニュースから目を離した。

 

「……行くか」

 

操縦席から立ち上がる。

 

相棒が、俺を慰めるように身を寄せてきた。

 

そして一緒に操縦室から出る。

 

俺は、宇宙を航行中は安全のため操縦室から出ない。

 

鉄国で設計された操縦室は無敵ではないが特別に頑丈だ。

 

これに乗っているかどうかで死亡確率が一桁は違う。

 

だが今は宇宙港に付属した工廠の中だ。

 

操縦室以外も船体装甲で守られているから、艦内を移動するくらいなら危険はない、はずだ。

 

『どうしてこうなったのかな』

 

相棒は少し落ち込んでいる。

 

あの目は俺たちの子供そのものではないが、子供を構成する要素の一部のコピーだ。

 

それが大きな騒動を引き起こしている現状に、思う所があるのだろう。

 

「子育て前に実験できて良かったと考えよう」

 

『でも、目で見えるものって脳も影響するから』

 

俺たちにとって最重要の話をしている間に、目的地についていた。

 

『代表! 全然見えません!』

 

『遠くは全然見えないけど変なのが見え……ひぇっ』

 

見慣れた第一艦隊パイロットの面々が、いざというときは貴賓室としても使う予定の会議室で騒いでいる。

 

「強く止めなかった俺も悪いがな。まさか全員が目を取り替えるとは思わなかったぞ」

 

一番だけは騒いでいない。

 

操縦中の獰猛さと積極性はどこにいったのかと言いたくなる程度で、最も目立たない席で気配を殺している。

 

「お前ら、騒いでいる暇があるなら訓練し直せ。何のためにライセンス取り上げじゃなく停止にしたと思ってるんだ」

 

『ライセンス更新料払ってるのにー!』

 

二十八人も騒ぐとうるさい。

 

相棒の機嫌が危険な速度で悪化していく。

 

「税金のことをライセンス更新料と言うのは止めないか?」

 

各種インフラの維持費とか、働けなくなっても生きているときに本人の生活費にするための金を徴収している。

 

『でもライセンス更新ですし』

 

『マスター、パイロットになりたい子にとっては、宇宙船パイロットのライセンスって特別の存在だから』

 

なるほど。

 

慣習とか憧れとかそういうことか。

 

なお、俺は鉄国に行くこともあるから鉄国にライセンス更新料を払い続けている。

 

準列強の国家元首だろうが何だろうが、国籍もパイロットライセンスも持っていない肉人間は、鉄国では物でしかないからな。

 

『ケース代表。今いいか』

 

元ハカセからの通信が届く。

 

現ハカセに研究成果で連敗中の機械人間ではあるが、その知識も能力の高さもケース契約国で屈指の存在だ。

 

それに仕事も確かだ。

 

俺は相棒の目を見て特に懸念がないことを念のため確認してから口を開く。

 

「ああ。用件は」

 

『聖国の捕虜が弱っている。どう扱うかはケース代表の判断次第だが、知らせておいた方が良いと判断した』

 

相棒と俺が無意識に視線をあわせる。

 

連中の扱いについては、複数の案を用意している。

 

厳しくいくか、優しくいくか。

 

使い捨てるか、使い終えた後に部下か住民にするか。

 

『マスター、一度確認しておいた方が良いと思う』

 

「そうだな」

 

艦を飛ばせるのが相棒と俺と一番だけの現状では、第一艦隊を出撃させるのは自殺行為に近い。

 

俺はドローンたちに連絡を入れ、二十八人を訓練用施設に叩き込んでから、捕虜収容所へ向かった。

 

  ☆

 

材質も理屈も別物だが、捕虜を閉じ込めた分厚い壁はマジックミラーとして機能していた。

 

聖国の戦闘艦と引き離されて数十日経過した偽エルフたちは以前見た時よりも明らかに覇気がなく、虚ろな目で一点を見つめている者も多い。

 

「美形ではあるな」

 

そういう欲は相棒にしか向かない俺でも、美形かそうでないか程度は感じられる。

 

『肉人間の割に体の歪みが少ないね。元ハカセ……えっと元ハカセで悪いなら呼び方変えるけど、これって本当に肉人間?』

 

『元ハカセで結構』

 

苦虫を噛み潰したような顔で言う元ハカセは、白衣を着ていない。

 

白衣はハカセの装束というのがケース契約国の学会での伝統らしい。

 

国家元首である俺が今日初めて聞いた伝統だが。

 

『当初は肉人間だと推測して破壊せずに調査を行っていた。その頃はコピー回数が極端に少ない肉人間だと思っていたのだが、メモリ議員の指摘も含めて不自然すぎた』

 

元ハカセは、立体映像で偽エルフについての情報を表現する。

 

俺の頭では専門的な説明を理解できないしできたとしても時間がかかる。

 

だからだろう。

 

元ハカセは、絵と図面と簡単な単語だけで概略を理解できるよう要約してくれていた。

 

「工業製品? 超常現象を多用する聖国のパイロットが?」

 

元ハカセは、真面目に仕事をした結果おかしなことをすることはあっても、俺に対して嘘を言ったことはない。

 

「詳しい説明を頼む」

 

『うむ。より正確に表現するなら、工業製品の手法で作られた肉人間だ』

 

別の立体映像が現れる。

 

そこには捕虜全員の首から上が映し出され、元ハカセが軽く頷くと五つの集団に分割させる。

 

『才能を総合した場合、ドローン議員のかなり下、ケース代表より少し上になる。ケース代表ほどではないが宇宙船パイロットに偏った才能の持ち主ばかりだ』

 

俺を揶揄する気配はなく、現実のみを淡々と語る。

 

『才能?』

 

相棒が困惑している。

 

『鉄国のスクール卒業直後くらいの腕しかなかったよ』

 

『メモリ議員。スクールは宇宙船パイロットに育て上げるという一点ではなかなかの存在だよ。ケース契約国の評議員をしている肉人間パイロットを知った後だと感覚が狂うがね』

 

俺、カノン、ドローンに、パイロット三人組のことだ。

 

聖女五人組は、才能以上に本人たちの性格が闘争向きではない。

 

「俺の場合は才能よりもPvPに費やした時間の影響がデカイと思うぞ」

 

偽エルフの映像を眺めていた俺は、ふと気付いた。

 

「美形だからかと思ったが、こいつらほとんど顔が……もしかすると年齢も同じか」

 

五つある集団それぞれで、髪型や肌の状態を除けば顔の輪郭や顔の各パーツの形もほぼ同一だ。

 

元ハカセが静かに頷く。

 

『成長速度を弄っている痕跡があるので断言はできないがね。また、我々なら機械に任せる工程を改造した生き物にやらせている可能性もある』

 

「SFディストピアとしてはまだ温い方か。……続けてくれ」

 

『古代の文学作品については別の機会に話して欲しい。後は寿命だ。最初は早く育ち、ドローン議員の年齢になる前に急激に衰える』

 

俺は、無意識に出かかった舌打ちを我慢する。

 

「老後の面倒は必要ないってことか。為政者にとっては都合の良い、倫理的にはクソみたいなやり方だな」

 

もし俺がこの一線を越えてしまえば、ケース契約国は肉人間にとっての地獄と化すだろう。

 

『後は引き出した情報だが、既に分かっていること以上のことは何もなしだ』

 

『芋料理、効いたよね』

 

味覚はあっても食事は不必要な機械人間二人が、他人事のように言う。

 

実際他人事ではあるが、聖女たちが浄化した水と肥料で育てた芋は、オリジナルの肉人間から離れれば離れるほど劇的に美味いらしい。

 

スクールで最初の体を殺されてコピーとして蘇ったドローンとカノンなら「特別に美味しい」程度で済むが、数え切れないほどコピーを繰り返したパイロット三人組や、本人はコピー未経験でも祖先がコピーな地表の人間たちにとっては天上の味らしい。

 

『コピー五回から十回程度の反応だった。鉄国基準では特別に回数が少ないというべきだろう。代表やあの姉妹を知っていると感覚が狂うが』

 

聖女五人組も一回だけだったはずだが、訳の分からん力を使うから別枠扱いなのかもしれない。

 

『ケース代表。この者たちにどの程度の人権を認めるかどうか、できれば早めに決めて欲しい。使用する治療方法が変わって来る』

 

認めるなら一般的な治療を行い、ほとんど認めないなら実験動物同然に扱う、ってことか。

 

「地表の肉人間と同程度の治療は受けさせてやれ。人権について決めるのは後だ。戦後の聖国との関係次第って面もあるからな」

 

俺は、聖国の偉そうな声が「牧童」と呼んでいた偽エルフたちを改めて見る。

 

殺し合った関係ではあるが、勝ったのは俺たちだし特に恨みはない。

 

「エルフ役や異星人役で映画やドラマに出るなら応援してやるさ」

 

俺たちが生きているのは無法の宇宙だが、俺たちまで無法な人間になる必要はないのだ。

 

  ☆

 

戦闘中や戦闘前のカノンは上機嫌だが、今日は特別に上機嫌だ。

 

「第二艦隊の指揮、よろしくお願いいたします」

 

指揮権を俺に渡してきやがった。

 

正規艦隊である第二艦隊司令であるにも関わらず、頑なに指揮艦に乗るのを拒んできたのがカノンだ。

 

指揮を俺に押しつけてパイロットに専念するのは、カノンにとっては理想の展開なのかもしれない。

 

「質量弾系の艦の指揮は久しぶりなんだがな」

 

「それで指揮が鈍るケースさんではないでしょう」

 

カノンの言葉を否定できない。

 

第二艦隊を構成するのは、俺の指揮艦を除けば救難艇とマザーボード改型巡洋艦の二種類だ。

 

救難艇は対空砲とトラクタービームを積んだフリゲートで乗っているのはほとんどが機械人間。

 

俺が以前に指揮した機械人間も、俺が操縦を教えたことがある機械人間もいる。

 

マザーボード改型巡洋艦は、攻撃手段が極小質量弾兵器とドローン一台しかない、サーフボード型巡洋艦とは別方向に極端な艦だ。

 

防御面はサーフボード型とは逆に位相障壁軽視で船体装甲重視。

 

サーフボード型ほどの操縦難度はない、国産の高性能艦だ。

 

「俺はケース契約国代表、第二艦隊臨時司令のケースだ」

 

第一艦隊と比べて数が多い。

 

マザーボード改型だけでも二十隻近くいる。

 

「聖国に対する呼びかけは続けているが、未だに何の返答もない。どうやら奴らにとって、俺たちは交渉に値しない存在のようだ」

 

奇妙な声が聞こえる俺に対しても、特に呼びかけはない。

 

「だから連中を交渉の場所まで引きずり出す」

 

第二艦隊のパイロットに対する評価についての文書を斜め読みして作戦を微修正しながら演説を継続する。

 

「お前たちの中には、ケース契約国に仕方なく従っている奴もいるだろう。だが聖国相手の戦争では、国とお前たちの利害は一致している。聖国の中には俺の居場所もお前たちの居場所もない」

 

俺単独で演説すると山も谷もない演説になるが、相棒が『ここで反応があるまで待って』とか『ここは特に力強く!』という感じで演技指導してくれている。

 

「金も、命も、居場所も、この戦いで勝って手に入れる! 心配する必要はない。俺は聖国相手に負けなしだからな」

 

演説を終えてにやりと笑う演技をしながら、本来は第一艦隊艦隊所属のパイロットが乗る救難艇二十八隻に命令する。

 

サーフボード型巡洋艦と比べれば抜群に操縦しやすい救難艇は、機械人間二十八人の手により一つの生き物のように広がり、見えない何かが見えているかのように対空砲による射撃を集中する。

 

何もないはずの宇宙に、位相跳躍魚雷でしかあり得ない爆発が三度も連続して発生する。

 

「パイロットとしての腕は落ちたが、俺が見える物は全部見えるようになったらしいからな」

 

『僕はマスターの反応を見れば何が起こってるか分かるけどね!』

 

「頼りにしてるぜ」

 

ただ、それを相棒以外の機械人間に望むのは無茶がすぎる。

 

「聖国の特殊兵器は救難艇がなんとかする。マザーボード改型巡洋艦は落ち着いて射撃しろ。弩級艦でも当たれば削れる。撃て! 撃破すればお前たちは英雄だ!」

 

演説を再開する。

 

極小質量弾が次々に放たれる。

 

亜光速とは言えこれだけの距離があれば十分に回避可能なはずなのに、俺の予想以上の確率で弩級艦の超巨大位相障壁に命中して位相障壁を少しずつ抉り取っていく。

 

なお、俺がやっているのはカノンのチートじみた射撃を参考にしたデータを各艦に渡しているだけだ。

 

第二艦隊を指揮していたときのカノンと違って、艦隊に対する指揮と支援を行うための専用装備を使っているのでデータの精度が高い。

 

そこまでしてもカノンの射撃の数十分の一の命中率でしかないが、長距離射撃としては戦場の常識がひっくり返るほどの命中率だ。

 

「真似をされると、複雑です……」

 

たった一艦で総ダメージの半分近くを担当しているマザーボード改型から、カノンの愚痴が届いていた。

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