AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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偽りの凱歌

【何が起きている!? 何者だ。姿を見せろ!】

 

俺が聞き取れたのはそこまでだった。

 

今は耳の奥が微かに痺れるような感覚があるだけで、聴覚が機能を停止してしまっている。

 

『帰ったら耳を機械化する?』

 

「パイロットとしての能力が落ちたら問題だから、帰ってから検討する」

 

相棒はディスプレイに言葉を表示し、俺はディスプレイをキーボードとして使って返答している。

 

自分の声が聞こえないと発音に自信がなくなるんだ。

 

「ケースさん、この声ですか」

 

操縦に大部分の意識を割いているカノンは口で言っていて、俺が読んでいるのは相棒が文字として表示してくれた文章だ。

 

「どう聞こえているか報告してくれ。……ああ、助かった。戦闘はそのまま頼む」

 

俺に聞こえていた内容とほぼ同じだ。

 

『相棒。あれの聞き取りはカノンに任せる。俺だと聞くたびに耳がおかしくなるからな』

 

『うん』

 

相棒の言葉は軽いが仕事は迅速だ。

 

新しい仕事も任されたカノンが、ちょっと渋い表情になっていた。

 

「覚悟はしていたが熱管理が厳しいな」

 

『まだ不具合も出尽くしてないしね。当たりと外れのロットがあるなんて、ケース契約国だけ古代に戻ったのかな?』

 

外に聞こえないように設定してからお互い愚痴を吐く。

 

「国として足りないものが一杯だな」

 

『聖国を倒してからは内政に集中する?』

 

「そのときは、俺は判子押しと宇宙船教習の教官に専念かな」

 

個艦でのPvPから艦隊戦までたっぷり楽しんだ。

 

まだまだ飽きはしないが、満腹になる前に引退するのも良い終わり方だと思う。

 

『じゃあ僕は子作りとダンスに専念かな』

 

「おいおい。判子押しと教官は稼ぐ手段だぜ。そっちにも関わらせてくれよ」

 

お互いくすりと笑ってから、真顔になる。

 

『時間制限は聖国打倒まで?』

 

「聖国が弱った時点で鉄国が漁夫の利狙いで乗り込んでくるかもしれん。聖国と戦いながら技術と生産力を向上させて鉄国に国力で追いつくしかないだろう。頼りにしてるぜ」

 

『僕って前職はただのナビAIなんだよ?』

 

「俺だってここに来る前は凡人以下のPvP好きだよ。だがまあ人との出会いには恵まれすぎるほど恵まれている。大勢巻き込んでやっていけばなんとかなるさ」

 

『うん!』

 

相棒は元気に同意してくれながら、俺が見落として温度が上がりすぎた艦を強調表示してくれていた。

 

  ☆

 

主観時間……現実の時間とは一致しない、位相戦闘中に人間が感じる時間が、既に数時間経過した。

 

白い巨体は相変わらず美しいが、位相障壁はあちこちがひび割れている。

 

ときどき船体装甲の表面で小さな爆発が生じ、巨体と比べれば極小とはいえ傷の数がどんどん増えていっている。

 

位相障壁も、はるか過去に見たホタルのように明滅を始めていた。

 

「聖国の弩級艦の位相障壁が急速に弱っていきます」

 

俺たちの中で元気なのはカノンくらいだ。

 

俺は既に疲労で息が乱れ、機械人間パイロットも思考を司る部分の熱の排気が追いつかなくなっている。

 

回復したのは俺の耳くらいだ。

 

「脆いかもしれんが船体装甲の厚みはとんでもないがな」

 

弩級艦という名前はこけおどしではない。

 

攻防どちらも圧倒的な能力で、あらゆる敵を圧倒可能なのが弩級艦という存在だ。

 

俺たちが今追い詰めているのも、敵が適切な戦力を配置していないからだ。

 

戦艦やそれ以下の艦隊は護衛艦隊に任せて、敵の基地や弩級艦を吹き飛ばして戦争を勝利に導くのが、一般的な弩級艦の役目なのだ。

 

その分、小さな艦に対する攻撃は苦手な弩級艦がほとんどだ。

 

この聖国の弩級艦など、当たれば巨大惑星すら吹き飛びそうな戦艦サイズの位相跳躍魚雷を発射し、その準備と狙いが見え見えなため第二艦隊に一度もかすりすらしていない。

 

『聖国が軍事的にまともなら、今頃は正規艦隊をこの星系に急行させている頃?』

 

「そのはずなんだがな……」

 

ワンオ氏には第二の遊撃艦隊として聖国の増援を警戒してもらっているのに、ケース契約国対聖国の戦場周辺には聖国正規艦隊の動きがないらしい。

 

「この星系は、聖国にとっては時間稼ぎのための捨て駒なのでしょうか」

 

そう言いながら砲撃するカノンは、戦闘開始直後と比べて命中率が二割ほど上昇している。

 

こいつまだ成長してるのか。

 

「あり得るな」

 

俺は頷き、同時に、戦略や政略についてはドローンや専門家のAIの意見を聞いてから決めることにした。

 

「いずれにせよ敵の弩級艦は潰せるときに潰しておきたい。カノン、あれはいけるか?」

 

「はい!」

 

花が咲くような笑顔というのは、まさしくこれだ。

 

とても凛々しく、妖刀じみた切れ味も兼ね備えた花だが。

 

『カノンのマザーボード改型が急激に温度上昇中。時間あたりの射撃回数は三割増! 敵弩級艦に着弾まで後十……五……今!』

 

爆発はなかった。

 

優美な曲線を描く船体装甲が、まるで最初から切れ目が入っていたかのように広範囲にわたって本体から剥がれて漂っていく。

 

そこに質量弾が亜光速で命中する。

 

その数は決して多くはなく、しかし船体装甲がない状態で直撃した質量弾は装甲を深くえぐって位相跳躍機関と推進機に巨大なダメージを与える。

 

『うわっ。今のケース契約国じゃ修理費出せないくらい壊れてる』

 

「弩級艦は高いもんな」

 

外からが豪華に見える巨大艦も中身は他の国の艦とそう変わらないらしい。

 

大小の無数の部品が、燃え上がる船から立ち上る黒煙のように白い弩級艦から流れていく。

 

「脱出します」

 

「了解」

 

カノンの艦から操縦室が打ち出される。

 

それを聖国が狙おうとしても、弩級艦に対する追撃ではなく聖国戦力接近阻止に切り替えたマザーボード改型の群れに阻まれる。

 

「トラクタービームで捕捉完了。今、船倉に回収した」

 

カノンは、貴重という表現では全く足りないほど重要な人材だ。

 

万が一もないように回収するのは、ひどく疲れた。

 

『全艦散開! 敵弩級艦からいったん距離をとる。カノンの艦の曳航は認めない。破壊しろ!』

 

相棒が極自然に指揮を引き継ぐ。

 

俺が健在で相棒のすぐそばにいることを皆知っているからか、俺の耳がやられたときとは違って第二艦隊に動揺はない。

 

膨大な熱がこもったカノンの艦に、複数の質量弾が着弾。

 

衝突にエネルギーと内側のエネルギーの両方によって、艦の大きさの数百倍の爆発が生じた。

 

【逃がすな!】

 

再びの大音量は、広がった距離に比例して小さくなっていた。

 

「逃がすな、か。誰に向かって言っている?」

 

弩級艦の中の人間に命じたのだとしたらおかしい気がする。

 

「相棒、撤退を前提に行動する」

 

相棒は目だけで頷き指揮を継続する。

 

『全艦撤退準備。攻撃を継続するふりは続けろ』

 

相棒は、言葉での指揮だけでなく艦隊全体に対する進路の指示まで危なげなく行っている。

 

『聖国の増援、来ると思う?』

 

外に通信が聞こえないようにして、俺へとささやく。

 

「半々くらいだろう。絶望的な状況ではないし、罠に怯えながら攻撃を続行するより、聖国の弩級艦一隻をお荷物に変えたので満足すべきかもしれん」

 

『僕も戦闘や艦隊指揮なら迷わずできるようなったんだけどね。あ、カノン。怪我とかない?』

 

ノックの代わりに相棒あてに通信が届いたようだ。

 

相棒が許可を出し、俺たちの操縦室へ入る扉が開く。

 

「おかげさまで傷一つありません」

 

いつもと違うのは黒髪が汗でしっとりしている程度で、羨ましいことに疲れはほとんど感じられない。

 

「追撃するか?」

 

「なんとなく嫌な気配がします」

 

勘というのは馬鹿にできない。

 

特に、チートか何か知らないが、神秘的ですらある射撃技術の持ち主の勘ならな。

 

『帰ろう!』

 

「安全第一だな!」

 

それまで砲口を聖国弩級艦に向けていた第二艦隊が、一斉に回頭して全力逃走を開始した。

 

  ☆

 

『ワンオさんがこっちに向かってるって。合流まで主観時間で後十六分』

 

「ワンオ氏も何かを感じたのでしょうか」

 

「俺は第六感はさっぱりだからな。何か飲むか?」

 

『僕まんじゅう型ー!』

 

「お茶をいただければ」

 

相棒には饅頭の形に整えられた冷却水を、カノンには封が切られていないお茶を渡す。

 

前者は冷却水の加工費が高く、後者は汚染されていない水と浄化された茶がアホみたいに高額だ。

 

『今日はちょっと硬い?』

 

「こういうときだけは、一度地球に戻りたくなります」

 

食事については雑な俺とは違って、二人とも現状の食生活に思うところがあるようだ。

 

操縦室の中に警報が響く。

 

救難艇の一部が急加速して何もないはずの場所めがけて対空砲を乱射する。

 

そんな使い方では弾切れになってしまうと思ったその瞬間、対空砲の小さな弾が何かに当たって火花を散らした。

 

「は?」

 

呆然としたのは頭と口だけだ。

 

俺の手は反射的に、指揮艦と第二艦隊全ての進路を強引に変更する操作を終えている。

 

慣性制御でも消しきれない加速により、俺たち三人が操縦席に強く押し付けられる。

 

第二艦隊の面々からも抗議や悲鳴の通信が届くが、少なくとも戦死や生死不明を意味する信号は一つも届いていない。

 

「いました。戦艦四隻を含む三十……いえ二十八隻」

 

『フリゲート十六隻が接近中! 実相アンカーの作動を確認!』

 

第二艦隊の隊列が一瞬で崩れた。

 

「位相跳躍を妨害された艦は回避と退避に集中しろ。無事な巡洋艦は敵戦艦を狙え」

 

長い間戦い続けてきたパイロットたちは、奇襲にあっても的確な命令があればそれほど動揺しない。

 

『敵駆逐艦が前進して対空砲による弾幕を形成。これって対空特化型駆逐艦だよ!』

 

亜光速の速度を持つ質量弾が、対空砲から放たれた質量と衝突して進路を捻じ曲げられて敵艦に届かないまま宇宙の闇に消える。

 

……フリゲートが実相アンカーで足止め、駆逐艦が対空砲だけ積んだ特化艦なら、残りの戦艦は火力特化か。

 

「一番、やれ!」

 

俺は、今の今まで大事に温存していた予備戦力を使う。

 

この艦隊唯一のサーフボード型巡洋艦が、多数の眼球型レーザー砲塔を四つの目標にのみ向け緑の閃光を放つ。

 

敵はフリゲートとはいえ、巡洋艦の四分の一の攻撃力では破壊はされない。

 

しかしこのまま位相跳躍妨害を続けるなら確実に大破または爆散する。

 

宇宙を背景にしても黒く見えるフリゲート四隻が位相跳躍に対する妨害を中止して危なげなく回避と退避を成功させた。

 

「そこの艦隊、直ちに停止し降伏せよ。我々は聖国所属の独立艦隊である」

 

これが、初めての聖国からの呼びかけだった。

 

「こちらケース契約国第二艦隊。俺はケース契約国代表のケースだ。拒否する!」

 

気分は既にPvPなので、下品な言葉や仕草を我慢するために気合が必要だった。

 

「降伏は常に受け付けている」

 

敵の艦隊司令は、聖国で牧童と呼ばれる宇宙船パイロットよりも美麗だ。

 

「うるせえよつけ耳エルフが!」

 

敵の黒い戦艦から青いレーザーが……あの濃さと太さはレーザーキャノンか!

 

敵フリゲート十二隻に足止めされた巡洋艦のうち四隻が、青いレーザーに撃ち抜かれて戦闘能力を失う。

 

『脱出失敗は一隻!』

 

残る三隻の操縦室も、艦からの脱出には成功したが酷いダメージを受けている。

 

「失礼。他人の面に言及するのは非礼だった」

 

操縦室三つを回収しながら謝罪する。

 

しかし俺、なんでつけ耳なんて単語を口にした?

 

いや待て。

 

あの面、ケース契約国に攻め込んできた弩級艦に乗ってた奴じゃないか?

 

「今頃気付いたか。信じられないくらいに性能が低いな」

 

「AIと比べれば誤差だろ」

 

一番が、いかれた加減速で戦艦からのロックオンを遅らせながらレーザー攻撃を続けている。

 

敵フリゲートがさらに四隻離脱。

 

これで残り八隻。

 

しかしその八隻に足止めされたこちらの巡洋艦四先が、青いレーザーにより串刺しにされる。

 

『マスター、生き残りの整列完了したよ!』

 

「遠隔操作になりますが一隻をわたくしが」

 

相棒とカノンはやる気だ。

 

ワンオ氏も近付いているはずだから勝ち目はあるはずだが……。

 

「一番、指揮艦を盾にしろ。お前が落ちたら撤退すらできなくなる」

 

テンションが上がり過ぎると何故か冷静になる現象をなんと呼ぶんだろうな。

 

俺は一番に命令をして、一番が即座に指揮艦を敵戦艦からの盾にできる位置へ移動したのを確認してから耳付き美形に目を向ける。

 

「ずいぶんと派手にやってくれるじゃないか」

 

撃破されたマザーボード改型の破壊は無理だ。

 

俺は、トラクタービームを使って操縦室を回収してはパイロットだけ艦内へ取り込んで操縦室は捨てるという作業を繰り返す。

 

予算の捻出を考えると頭は痛いが、パイロットがいれば再建は可能だ。

 

わざとらしくにやにやと笑う耳付き美形に対し、俺は一度だけ鼻を鳴らす。

 

一番最初に救難艇を逃がす。

 

これは、白いフリゲートや駆逐艦が待ち伏せしていないか調べるためでもある。

 

次に生き残りのマザーボード改型。

 

最後に俺たちの指揮艦だ。

 

戦艦からのレーザーは船体装甲で耐え、実相アンカーで足止めしようとする黒いフリゲートは一番のサーフボード型巡洋艦に迎撃させる。

 

最初のうちは妨害され続けてレーザーキャノンで酷い被害が出たが、船体装甲が破られる前には黒いフリゲートも減って距離も取れて減衰したレーザーではたいした被害が出なくなった。

 

「ここまで生き残っただけあって冷静か」

 

耳付き美形の演技が消え、つまらなそうに口元を歪める。

 

幸運にも全員無事だった第一艦隊の二十八人が、小回りだけは素晴らしい救難艇と何より本人たちの目で、次々に白いフリゲートを見つけている。

 

高加速可能なフリゲートでも、既に十分高速な俺たちには追いつけない。

 

「今回は俺たちの負けだ。じゃあな」

 

俺たちはそれ以上は戦わず、ケース契約国への撤退を継続する。

 

聖国の弩級艦一隻の移動能力を激減させた代わりに、生き残りの第一艦隊まで加えた第二艦隊から戦死者を含む多くの被害を出した。

 

敗北というのは苦いものだと、久々に実感させられていた。

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