AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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水上艦、星海を征く

タキシード姿の相棒がタップダンスをしている。

 

自らの足音だけを伴奏に、キレのある動きで次々に美麗なポーズを空間に刻む。

 

「んあ」

 

俺の間抜けな声が漏れたと自覚してようやく、俺は今の今まで朦朧状態だったことに気づいた。

 

相棒はタップダンスを続けながら、しかし眼球を動かして俺の回復を見てほっとした感情を浮かべる。

 

俺は、誤魔化すために咳払いをしたい思いを我慢して、観客席に疲れた体を預けたまま相棒に集中した。

 

  ☆

 

『心配したんだから!』

 

舞台を終えた相棒は、全身で怒りを表現しているが目は不安そうに明滅している。

 

俺はどうやら、宇宙港にも戻った直後に意識を失ったらしい。

 

医療関係者がよってたかって治療しても遅々として回復せず、大急ぎで呼び出された聖女の治療を受けてもまだ意識が朦朧としていたのが先程の状態だった。

 

こうなったのが特殊な理由なら格好がついたのかもしれないが、原因は疲労と俺の回復能力の低さだ。

 

加齢は辛いね。

 

「相棒のおかげで意識が戻ったのか」

 

俺の口元だけでなく顔全体が緩んでいるのが分かる。

 

『そんな顔して!』

 

相棒の目は、俺の回復に安堵する気持ちがあからさまだ。

 

「悪い。相棒にも他の連中にも感謝してる」

 

俺は頭を下げてから、ステージとその周辺の様子がいつもと違うことに気付いた。

 

「客が少なくないか?」

 

相棒の踊りにはファンがいるし、相棒の後で舞台に上がる演者目当ての客も結構な数がいたはずだ。

 

しかし今は普段の半分もいない。

 

全くいないなら倒れていた俺に気をつかってというのもあり得たんだが。

 

相棒の表情は変わらず、目の光が少し物騒になる。

 

『強敵がね。現れたの』

 

背後に威嚇する猫が幻視できそうな物騒さだ。

 

「ふむ」

 

聞きたくないが、聞かないともっと機嫌を損ねる気がしたので態度で促す。

 

相棒はステージ衣装のまま、動きだけは優雅に俺の隣の席に座る。

 

すると、何故か次の演者がいないステージに、立体映像が表示された。

 

『ケース契約国国営放送総合ニュースの時間になりました。司会進行はわたくしアナウンサーが。解説はハカセです』

 

『俺がハカセだ!』

 

見慣れた二人なんだが、何故かそわそわしているようにも見える。

 

『本日の放送は通常とは違う編成になっています』

 

『聖女つきの研究者グループの成果だ! 俺の解説より続きが見たい国民がほとんどだろう。俺もそうだしな!』

 

何かが気になって仕方がないという感じだな。

 

『では再生を再開します』

 

立体映像が、何故が平面に変わる。

 

それまでの臨場感あふれる立体ではなく、俺にとっては見慣れた、しかし最近は全く縁がなかったアニメのオープニングが壮麗な音楽とともに再生される。

 

むっすー、とご機嫌斜めな相棒の横で、俺はぽかんと大口を開けた間抜け面を晒していた。

 

  ☆

 

『これが聖女つきの研究者グループが発表した古代の映像です』

 

『カノン議員と聖女の一人から、視聴した記憶があるという証言があった。今回の実験で捕捉した場所は、二人の故郷である可能性がある』

 

「展開が急すぎるな。俺たちの記憶をもとにでっちあげた動画と言われた方が納得できるぞ」

 

『そんなことはないぞ代表!』

 

俺の声が聞こえたかのように、実際聞こえているのだろうが興奮したハカセの声が聞こえてくる。

 

『代表や議員たちの立場でたとえるなら、古代の壁画が劣化なしの状態で発見されたようなものだ。しかも、新型位相跳躍機関を組み込んで送り出した偵察ドローンが持ち帰ったのはこれだけではない!』

 

その偵察ドローンは帰還時点で表面から中枢まで崩壊寸前だった。

 

新型位相跳躍が発展途上で、目的地が恐ろしいほど「遠く」にあるから、らしい。

 

『惑星地表から多種多様な情報が無差別に放出されていたことが確認されています。聖女つきの研究者グループは、本日中に複数のコンテンツを公開可能だとコメントしています』

 

アナウンサーが補足する。

 

「マジかよ」

 

相変わらず再生中のアニメは、少なくとも俺の主観時間では、俺がこの宇宙で目覚める前日に「来週から放送予定!」と宣伝されていたものだ。

 

「じゃあ何か? 聖女もカノンも過去の地球に帰還できるのか? SFじみた時代だからこれまで言わなかったが因果律とかどうなってんだ」

 

最大の輸出品である「芋」の生産が駄目になるのは辛いが、聖女五人組の今までの貢献を考えると引き止められない。

 

『代表が望むなら詳しく説明する。だが今はニュースの時間だ。偽物ではない、とだけ断言しておく』

 

『マスター、僕も専門じゃないから概略しか分からないんだよね』

 

相棒は少し困った顔だ。

 

相棒でそれなら、俺が理解するのに何十年もかかりそうだな。

 

「……この宇宙に向いていない子供が移住して満足できる場所なら俺はそれでいい。いきなり消えたことについての詫びや別れの挨拶をしたいって気持ちはあるがな」

 

俺は一度深呼吸して、席に座り直した。

 

なお、俺が大声が出したことに怒った機械人間たちが、じいっと俺を見ていることに気づいて、俺は軽く頭を下げて謝罪した。

 

「予想外に早かったな」

 

あの時代の地球に行けるのだとしても、正直なところ困惑の方が強い。

 

相棒はこっちにしかいないし、あの地球には相棒はいないしゲームとしてのPvPしか存在しない。

 

人間関係も、既に最低限しか残っていないし詫びや挨拶をしてそれで終わりで構わない。

 

だから、あの姉弟や聖女たちのことを除けば、どうでもいい存在に限りなく近かった。

 

『見つからない方が良かった?』

 

相棒が心配そうな目で俺を気遣う。

 

俺は苦笑いして肩をすくめ、過去を振り返るのを終わらせる。

 

「他に何か成果はあるか? 軍事に役立つ成果なら嬉しいんだが」

 

俺が言うと、ハカセの心底嬉しそうな笑い声が聞こえ、唐突に消えた。

 

『引き続き古代の映像をお楽しみください』

 

アナウンサーの声だけが、アニメを邪魔しない音量で響いていた。

 

  ☆

 

ナイアTECが用意した実相アンカー搭載フリゲートが、何もできずに右往左往している。

 

真新しい戦艦が、戦艦としては標準的な加速を行いながら小型の砲塔をフリゲートへ向ける。

 

この砲塔から飛び出すのがレーザーなら、フリゲートでもしばらく耐えられることができるかもしれない。

 

しかし砲塔全てが、マザーボード改型巡洋艦に一つだけ搭載されている亜光速質量弾用の砲塔だ。

 

ロックオンされたフリゲートは、降伏を宣言する信号を発信した。

 

「いつかものにするとは思っていましたが」

 

模擬戦を見ていたナイアCEOは、ほんの少しだけ苦く笑っている。

 

「銀河に覇を唱えるおつもりですか?」

 

「俺たちは生き延びるのに精一杯ですよ」

 

俺は本心を口にする。

 

パイロットの被害は少数ではあるが、戦闘可能な艦の数は減ってしまった。

 

「急な依頼に応じてくださり感謝しています。新しい技術が完成しても、戦力にできなければ無意味ですから」

 

模擬戦において、跳躍妨害が専門のフリゲート相手に、圧倒的な強さを発揮したのは新設計の新型戦艦だ。

 

「新型位相跳躍機関と外装を除けば既存設計の流用で、新型位相跳躍機関もケース契約国から提供されたものですよ」

 

それはそうなんだが、ケース契約国の建造施設より、ナイアTECがケース契約国内に建てた建造施設の方が大規模だからな。

 

特急料金はかなり痛いが、特急料金より節約できた時間の方が桁外れに価値が高い。

 

「お陰様で奇襲ができそうです」

 

口の端が釣り上がるのを止められない。

 

既存設計の流用ということは、操作方法もパイロットが慣れているということだ。

 

ケース契約国の戦力が激減したと思っている聖国に、戦争開始時点を上回る戦力で侵攻再開するのは、なかなかの奇襲になるはずだ。

 

問題は新型位相跳躍だが……。

 

『古代の地球への往復と比べれば、連続超短距離位相跳躍など安全すぎてAI抜きの自動操縦が可能な航行だ。ただ、実相アンカーによる位相跳躍妨害に対して無敵ではない』

 

元ハカセは、ハカセに比べると落ち着いている。

 

『既存の位相跳躍が平面的にしか動けないとすれば、新型の位相跳躍は跳躍も可能になっている。それでも実相アンカーの数や規模を大きくすれば影響から逃れることは不可能だ』

 

「広域の位相跳躍妨害や圧倒的な数には無力ってことか。新型戦艦にも護衛は必須だな」

 

強力な近距離攻撃と対空攻撃の両方が可能なサーフボード型巡洋艦が理想的な護衛なんだが、サーフボード型は難易度が高いから操縦できるパイロットが少ない。

 

相棒、俺、カノンにドローンに三人組に一番の、たったの八人だ。

 

この八人は巡洋艦よりもっと適した持ち場がある奴ばかりだから、一艦隊につきサーフボード型は一隻か二隻が限界だ。

 

「新型位相跳躍とその対処法に聖国が気づく前に攻めまくるぞ」

 

俺は改めて新型戦艦を見て、困惑を我慢しきれなくなった。

 

「なんで水上艦みたいな形をしてるんだ?」

 

単装砲三門が片面前側に二つ、本体から突き出た艦橋を挟んで一つ配置されている。

 

単装砲ではなく連装砲なら、俺の主観で八十年前くらいまで活躍していた古くて大きな戦艦にそっくりだ。

 

『マスターマスター。設計のときに計算能力が足りなかったから、考古学好きな子たちに協力してもらったの』

 

『性能が変わらないなら趣味に走った外見でも問題ないだろうと押し切られたのだ』

 

「そうか……」

 

美しさは感じるが、俺にとっては宇宙船の方がパワーを感じるので、どうにも不安が拭えなかった。

 

  ☆

 

水上艦型戦艦が、勇壮な隊列を組んで一斉射撃する。

 

亜光速の極小質量弾の群れは、聖国の駆逐艦が対空砲で弾幕を張っても十分に減らすことは不可能だ。

 

敵の最奥にいたレーザーキャノン戦艦も、それを守っていた駆逐艦まで位相障壁や船体装甲ごと質量弾に貫かれて大ダメージを受けた。

 

「焦るな。常に左右を意識して僚艦との連携を維持しろ。それだけで勝てる」

 

俺は堂々とした口調と態度を頑張って維持している。

 

水上艦型戦艦のパイロットは、ほぼ全員が元大地教信徒同盟のパイロットだ。

 

聖女の奇跡とディーヴァの巧妙な統治で飼いならされた奴らを選んで載せているので裏切りの心配はなく、しかし機械人間とは違って従わせるのに配慮が必要な連中でもある。

 

ケース契約国に集まった機械人間は、能力は高いが良くも悪くも単純だ。

 

配慮が必要な肉人間とは違って、俺が命令すれば素直に従うか最初から拒否する。

 

『マスター、この人たちってこんなに操縦上手だったっけ?』

 

「いや、成長したとしても上手くいきすぎだ。この設計が肉人間に向いているのか?」

 

古い水上艦にしか見えない戦艦が、単装砲で戦う光景には違和感が強い。

 

ただ、どうやらこいつらはこの形の戦艦がしっくりきているようだ。

 

技術水準の低い地表の生活をしていたから、水上艦に慣れているのかもしれない。

 

『砲塔がない側から襲われたら不利な、極端な設計なんだよね?』

 

「襲われないよう指揮しているがその通りだ。……うまくいっているなら良いと考えよう」

 

黒々とした宇宙に、小型艦に護衛された白ミミズが現れる。

 

俺が刻んだそれより小さくはあるが小惑星並の大きさはある。

 

『戦場宙域全体に力場が展開中。新型位相跳躍機関の力場に近い、かな、薄いけど』

 

「新型戦艦もそれ以外の戦闘艦も、新型位相跳躍機関が暴走したときのための対策装備を搭載している。気にせず戦え」

 

俺は命令を出し終え、軽く息を吐いて操縦席に体重を預ける。

 

「黒い艦隊が出てこないな」

 

『マスター、気にし過ぎじゃない? あのとき勝てなかったのはメタを貼られたからだよ』

 

「相手に勝てる戦力で戦うというPvPの基本を、この宇宙であそこまで徹底してきたのはあいつが初めてだ。偶然の可能性もあるが、できれば今のうちにぶっ殺しておきたい」

 

最初に戦い俺たちが勝ったとき、奴は躊躇せずに自殺し、そしてまた現れた。

 

これ以上経験を積まれる前に仕留めておきたい。

 

『でも、宇宙で一人を探すのって大変だよ?』

 

「そうなんだよなあ」

 

白い迎撃艦隊を数艦隊撃破すると、カノンが敵弩級艦に大怪我を追わせた星系に到着する。

 

白い弩級艦は恒星の近くではなく星系の端の方にいる。

 

そこまで移動して力尽きたようで、今は破損箇所の船体装甲を取り外して修理中だ。

 

【馬鹿な。護衛は何をしている!】

 

原始的な耳栓をすると多少マシになると、今回初めて判明した。

 

そのせいで頭が重いが、耳が麻痺したり気絶するよりはマシだ。

 

俺がキーボードで命令を出すと、護衛のマザーボード改型や救難艇より明らかに操縦技術が劣る新型戦艦たちが、非常に大きく目立つ的に対して攻撃を開始した。

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