AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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家畜たちの聖戦

俺が率いる艦隊……第二艦隊と第一艦隊と水上艦型戦艦をひとまとめにしたケース契約国の主要戦力が、真正面からの戦いで列強の弩級艦を圧倒していた。

 

非常に小さいとはいえ速度は光速に近い質量弾が、水上艦の形をした戦艦から猛烈な勢いで吐き出される。

 

主観時間の一秒あたり砲門一つあたり一発。

 

一隻あたり単装砲が三つなので三発。

 

ナイアTECが全力を振り絞って建造した戦艦が三十三隻いるので、最終的に一秒あたり九十九発が白く巨大な弩級艦へ向かう。

 

「でかい分、熱がたまっても耐えられるのがいいな」

 

『マスター、耐えられるだけで影響はあるからね?』

 

宇宙戦艦の艦隊は見た目は壮大でも、指揮している側にとっては金もエネルギーも大量消費する面倒な存在だ。

 

宇宙港に戻ったときにかかるだろう修理や補給のための予想費用が、凄まじい勢いで増えていく。

 

「分かってるさ。分かった上で、最初に最大の攻撃力をぶつけるのが一番安く済むと判断している」

 

『うん。リスクを把握してるならいいよ』

 

白い弩級艦の近くに展開している白い駆逐艦群が、猛烈な勢いで対空砲を使っている。

 

こちらは亜光速とはいえ軽い質量弾だ。

 

対空砲の砲撃が当たれば、進路を捻じ曲げられて少なくとも弩級艦には当たらなくなる。

 

だが、今回の砲撃は、情報面の支援は俺でもその情報のおおもとはカノンだ。

 

対空砲の効率が悪くなる場所とタイミングを異様な精度で見抜き、しかも撃てば一割は当たる精度を実現している。

 

『ロックオンしないとほとんど当たらないはずなんだけどね』

 

「あれは撃てば確実に当たるときにロックオンと表示されるだけじゃないのか?」

 

『マスター。それって重要な説明を省きすぎてると思う』

 

既に復活していた弩級艦の位相障壁に、一秒あたり約十発の質量弾が着弾する。

 

最初の十発にはびくともしなかった位相障壁は、時間が経過するにつれ着弾地点を削られていく。

 

『位相障壁貫通まで主観時間で二十秒も経ってないよ!?』

 

「必要な戦力を用意できればこんなもんだ。用意するのが本当に大変だがな」

 

位相障壁の大部分は健在でも、位相障壁に空いた穴から次々に亜光速の質量弾が内側に入り込む。

 

【おのれっ】

 

こいつ、星系内に無差別放送するのが趣味なのか?

 

俺は外付けの耳栓、というより耳カバーを追加しながら、カノンが猛烈な勢いで送り込んでくる射撃諸元を射撃支援用のデータへ変換していく。

 

白い弩級艦の装甲……美しく成形された船体装甲に水上艦型戦艦の弾が命中した。

 

亜光速まで加速されて巨大なエネルギーを持つ弾は、列強の凄まじい技術で作られた分厚い装甲によりその破壊力を抑え込まれる。

 

だが着弾したのは一発や二発ではないし着弾予定の弾も大量だ。

 

最初は表面が揺れる程度だった船体装甲は、小さく弾けてざらざらした表面になり、やがて着弾が連続して徐々に傷が広くそして深くなっていく。

 

『熱の限界まで後三十秒』

 

相棒は冷静に報告してくれる。

 

聖国の白い弩級艦が動きを変える。

 

未だに傷ついていない場所の綺麗な装甲が何箇所も開き、一つが戦艦サイズの位相跳躍魚雷が発射される。

 

その加速は位相戦闘では不十分だ。

 

第一艦隊なら軽い進路変更で躱し、第二艦隊ならカノンのチートじみた射撃で破壊されてしまうような、威力に特化し過ぎの「使い所を間違えた」攻撃だ。

 

もっとも、今のケース契約国艦隊にはそこそこ有効だ。

 

「新人パイロットは攻撃はいいが防御は雑だよな」

 

個々のパイロットに任せると被弾しかねない。

 

ここの四隻は砲撃を中断させて一旦後退とか、ここの三隻は砲撃を続けさせはするが加速させるとか、俺が直接指示する必要がある。

 

『救難艇は使わないの?』

 

「あの大きさの位相跳躍魚雷を潰すと対空砲の弾が足らなくなる。敵は弩級艦以外にもいるしな」

 

『了解。熱の限界まで後十秒』

 

『『ケース様。こちらの準備は整いました』』

 

普段は宇宙港で目にしないナニーが、近距離用の通信が話しかけてくる。

 

「撤退の判断はナニーに任せる」

 

『『では行って参ります』』

 

白い弩級艦に触れ合うような距離に、聖国ではなくナイアTECの技術でステルスした戦艦が出現した。

 

近すぎてすぐに聖国側に露見するがもう遅い。

 

弩級艦の至近距離から発射された小型突入艇が、船体装甲が完全に剥がれた箇所に深々と突き刺さった。

 

『熱の限界に到達!』

 

「水上艦型戦艦の射撃を終了させろ」

 

『マスター、冷却に不具合が発生している艦がいる!』

 

「航行に影響がないならそのまま。まずそうなら操縦室で脱出させろ」

 

『その基準なら大丈夫……うん、大丈夫だった』

 

俺たちはいったん水上艦型戦艦を後退させ、マザーボード改型巡洋艦を前に出す。

 

救難艇は敵の増援に対する警戒目的で、戦艦と巡洋艦を囲む形で広く薄く展開させる。

 

『排熱がうまくいってない艦が二割程度』

 

「いきなり本番でその程度の不具合しか出ていないなら十分だ。問題はどれだけ時間を稼げるかだが」

 

大金を使ってステルス戦艦をレンタルしたのには理由がある。

 

俺たちはほとんど聖国の情報を持っていない。

 

相棒の「地図」に載っている惑星や基地の名称や、使い捨ての駒である元聖国パイロットから聞き取った情報しかない。

 

弩級艦を操縦するような高位のパイロットや弩級艦のAIまたはコンピューターから、直接情報を入手するためのステルス戦艦だ。

 

『ナニーたち、大丈夫かな……』

 

頑丈な指揮艦の中にいる俺たちとは違い、ナニーや陸戦隊は生身で敵と戦うことになる。

 

はっきり言って想像もできない。

 

心配だ。

 

『『ケース様。メモリ様。撤退の必要がなくなりました』』

 

ナニーとの通信が再開され、血に塗れた壮麗な空間が映し出される。

 

ひときわ豪華な衣装の偽エルフを踏みつけたナニーの後ろで、返り血まみれの装甲宇宙服が慌ただしく何かを回収している。

 

『『評議会議員として正式に提案します。ステルス戦艦とその乗員を今すぐ買い取ってください』』

 

俺にはナニーの意図が分からず、しかし相棒は表情を変える余裕すら失い目を強く点滅させる。

 

『マスター、緊急だからマスターの議席も使って予算を通したよ。ナイアTECからはかなりふっかけられたけど、今からステルス戦艦も中身もケース契約国の所属だから』

 

相棒がディスプレイに表示させた数字を見て、俺は気が遠くなりかけた。

 

「理由を教えてくれ」

 

俺がなんとか口に出せたのはそれだけだ。

 

『『聖国の内部情報を入手しました。確度は極めて高いと思われます』』

 

「買い取ったのは口止めのためか」

 

相棒とナニーがほとんど同時に頷く。

 

どうやら、予想を超えるろくでもない情報だったらしい。

 

『『ついでになりますが、この弩級艦の完全な鹵獲にも成功しました』』

 

「弩級艦の鹵獲成功がついでかよ」

 

ストレスで顔面がひくりと動いた。

 

どんな内部情報か考えるだけで、頭痛と腹痛が襲ってくる気がする。

 

「分かった。ドローンを呼んで方針を決めよう」

 

俺は一人で悩まず、積極的に使える奴を巻き込むことに決めた。

 

  ☆

 

昨日までは聖国の弩級艦だった巨大艦の一室に、ケース契約国の評議員全員が集められていた。

 

「「「もう引退してもいいか?」」」

 

事態を察した凄腕パイロット三人組が本気で辞めたがっている。

 

「早く席についてください」

 

機械人間を除けば最も長く評議員を続けることになるはずのドローンが、いつもより余裕のない態度で三人を席につかせている。

 

『『緊急の呼び出しに応じてくださったことに感謝します』』

 

ナニーは、警備責任者ではなく議員として発言する。

 

『『列強である聖国の弩級艦を鹵獲した際、確度の高い内部情報の入手に成功しました』』

 

立体映像ではなく、ナニーから直接伸びたケーブルに繋がれたディスプレイに組織図が表示される。

 

聖職者、軍人、牧童を含む労働者からなる階層社会……というには何か変だな。

 

新規人材の供給についての表現がおかしい。

 

『『聖国に存在する人間は少数です』』

 

「惑星の地表には大勢人間がいるようだけど」

 

ドローンは何かを察した上で、話を円滑に進めるために質問してくれている。

 

『『はい、弟様。肉人間をもとに作成されたロボットが活動しています』』

 

聖女たちがショックを受けている。

 

なお、俺や三人組の手元のディスプレイには詳しい情報が届いている。

 

品種改良とかパーツ取りとかの、露悪がすぎる単語の映像がみっしりだ。

 

ナニーは聖女たちを気遣ってロボットと言ったが、要するにこれは、先祖が人間である家畜だ。

 

「わたくしたちは、聖国の何と戦っているのです」

 

カノンは動揺はせず、困惑している。

 

平和な社会では生きづらいほどに闘争と勝利を好むカノンだが、カノンが好むのは人間相手の闘争なのだ。

 

『『強いて言うなら、聖国の肉人間生産工場です。聖国における教育は非常に貧弱で、教育の大部分は生産時点での脳への情報の焼き付けです』』

 

ディストピアだな。

 

そう考えた俺は、喉奥に小さな骨が引っかかったような違和感に気付いた。

 

「つけ耳エルフ、いや今のなし。以前攻めてきた美形と似たような顔の偽エルフも聖国の人間工場産か?」

 

あんな性格も狙って作れるものなのか?

 

『『そこまでは分かりません。……元ハカセが発言の許可を求めています』』

 

俺が頷くと、元ハカセが深刻な顔で、自分から伸ばしたケーブルをディスプレイに繋いだ。

 

『聖国の内部情報も重要だが、聖国と勢力が接している列強にこの情報が露見したとき何か起きるかも問題だ』

 

聖国を中心とした勢力図がディスプレイに表示される。

 

「「「多いな」」」

 

確かに多い。

 

鉄国を含めて四、いや五つか。

 

『聖国は複数の列強とケース契約国と同時に戦えるほどの戦力を運用している』

 

『まさか、僕たちが攻め込んだ後も、他の列強と戦い続けてるの?』

 

相棒も驚いているが俺も驚いている。

 

多少不利な条件を飲んでも停戦か終戦をして、自由に動かせるようになった戦力を不利な戦線に増援として向かわせるのが常識的な思考のはずだ。

 

『肉人間生産工場の思考の癖までは分からないがね。……聖国相手の勝利条件は、肉人間生産工場の破壊または掌握だ。これを知れば他の列強がどう判断すると思う?』

 

「絶対にろくでもないことを考えますね」

 

議員の中で倫理観が最底辺のドローンですら、聖国と列強に対する嫌悪を隠せていない。

 

「なあ相棒。聖国に接しているのに列強じゃない国があるが、こいつは何だ?」

 

他の列強は聖国と戦っているのに、この国だけが一切戦っていない。

 

『ちょっと待って。……昔の「地図」にも名前が載っている国みたい。列強じゃないのに長生きだね?』

 

「聖国相手に、よほどうまいことやっているのかね」

 

楽園管理機構という国名に、俺は何故か不穏なものを感じる。

 

聖国に対してどう戦い、どう決着をつけるかについて話し合いは続いたが結論は出ず、結論は先送りになった。

 

  ☆

 

薄着の偽エルフたちが、大きな水鉄砲を抱えて射撃戦に興じている。

 

色付きの水をかけられても悔しがることはあっても怒りはせず、相手を殺すことも相手に殺されることもなく楽しんで戦っている。

 

とても元気そうだ。

 

「これが治療?」

 

聖国パイロットの治療を担当したのは元ハカセだ。

 

『地表の肉人間と同程度の医療では回復しなくてね。聖女の一人に相談したところ、娯楽が足りないのではと意見されたのでそのまま採用した』

 

俺と同じく、偽エルフたちの居住区を通信越しに見ている元ハカセが肩をすくめた。

 

「楽しそうにしてるな」

 

今のような明るい笑顔だと、すごく若く見える。

 

声が甲高くて物理的に耳が痛いが、生まれてからの年数なら本当に子供の奴らに文句を言う必要もないだろう。

 

『マスター、捕虜はどうするの?』

 

相棒は困ったような、憐れむような、いつもより気弱な雰囲気だ。

 

人間一人を生かすには多くの資源が必要だ。

 

国外から機械人間が移民してくれるケース契約国は、偽エルフを必要とはしていない。

 

「宇宙船のパイロットや相棒の観客になるかもしれないし、希望するならケース契約国に受け入れてもいいんじゃないか?」

 

他人の人生のために我が身をなげうつ趣味などないが、余力のごく一部で他人を助けることなら俺だってたまにはする。

 

『うん!』

 

相棒が喜んでいることに喜びながら、俺は聖国をどう終わらせるかを考えていた。

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