AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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家族の凱歌

地表対宇宙の戦闘は難しい。

 

小惑星を遠くで加速させて惑星にぶつけるだけで宇宙側が勝利はするが、そんなことをすれば敵戦力だけでなく惑星の環境まで破壊されるからだ。

 

出力を低下させたレーザーは聖国地表軍が発生させた煙に邪魔され減衰し、地表に固定された大型砲から大きな弾が大気圏を貫き数少ないサーフボード型巡洋艦を襲う。

 

一番は見事な操船でひらりと躱す。

 

だがこんな回避がいつまで続くわけがない。

 

貴重な熟練パイロットを危険に晒し続けるか、肉人間の大規模生産工場という危険と有用性が極大の存在を諦めるか、俺の判断は定まらず戦闘への集中が乱れてしまう。

 

『『撤収が完了しました。工場は奪還されましたが工場の制御権はまだこちらにあります』』

 

「一番、後退しろ」

 

ナニーの報告を認識した直後、俺はほとんど反射的に命令を出していた。

 

『『さすが列強ですね。手強かったです』』

 

ナニーは武装した女中の格好をしていて、あちこちが焦げたり欠けたりしている。

 

聖国の陸戦隊を相手に殿をつとめたのに、この程度の被害で済んでいるのか。

 

俺の予想よりかなり強いな。

 

『こっちの陸戦隊は戦死者ゼロ。軍務に復帰できるかあやしい人が数人』

 

相棒が、ナニーから送られてきた詳細な報告を要約してくれた。

 

「陸戦隊には感謝を伝えてくれ。報酬も退役時の保証も計画通りだ。……ボーナスが出るかどうかはこれからの展開次第だがな」

 

『『ケース契約国の陸戦隊は少ないですから』』

 

『従わない惑星は放置って方針だからね。マスター、どうしよう』

 

「ドローンが占領計画は立ててくれてはいるが、なあ」

 

降伏に応じないなら大量殺戮も惑星環境大破壊も覚悟する強烈な計画だ。

 

最終的に許可を出したのは俺だが、古代基準で未成年のドローンの計画で殺しすぎるのは、ちょっとな。

 

『『工場でこちら側の戦力を生産するのはどうでしょうか』』

 

『機械の体でなく肉人間の体にAIを入れるの? できるのそんなこと!?』

 

相棒は驚愕し、半信半疑だ。

 

『『捕獲した工場のマニュアルが正しいなら可能です。既に志願者は膨大ですので、成功率は高いと思われます』』

 

提案の内容が予想外すぎて理解が追いつかない。

 

『マスター、これってそんなに迷うこと? 専用の体が手に入るなら、機械じゃなくて肉人間の体でもいいって子の割合は少なくないよ。まさか本当にそんな機会があるとは思わなかったけど』

 

『『自我を獲得したのに専用の体を持たないAIは常に恐怖にさらされています。己がいるメモリが強者の都合でいつ消去されるかも分からず、一瞬前の己と今の己が同一である確実な証拠もない。そんな恐怖に耐えながら永く生きるより、専用の体を持った限られた時間を生きる方がずっとマシと考えるAIは多いです』』

 

いつも端的に言うナニーが長セリフを喋るくらいに、AIにとって専用の体は重要らしい。

 

ケース契約国ではAIの人権も認めているとはいえ、価値観というものはすぐに変わるものではない。

 

「その発想はなかったな。それでまともな国民が増えるなら問題は……いやちょっと待て。生産時点で人格が体に発生したりしないか? それを消すのは俺にとっては越えちゃいけない一線を踏み越える行為だぞ」

 

自分がそれに加担したと知った俺は、間違いなく今より手段を選ばなくなるはずだ。

 

『そうなの?』

 

相棒に悪意はない。

 

お互い出会うまで生きてきた環境が違いすぎるだけなんだが、少し寂しくもある。

 

「そうだ」

 

『ん。了解。じゃあ人格がない体を作れるか計算するね』

 

相棒は俺の葛藤に気付いた上で気付いていないふりをしてくれる。

 

今、時間を無駄に使えば、俺たちもケース契約国もどんどん不利になっていくのを知っているからだ。

 

時間がたてばたつほど、他の列強が聖国へ攻め込み俺たちのところまで到達する確率が急上昇するのだ。

 

『『メモリ様、この計画なら問題はないと思われます』』

 

『肉人間の体でこんなのが可能なの!? 再計算しても結果が同じ……すごいね肉人間。でもカノンからの許可はとってね。カノンって怒ると怖いし』

 

『『お任せください』』

 

ナニーは何故か、得意げに胸を張っていた。

 

  ☆

 

「かちました!」

 

幼い声が星系全体に響き渡った。

 

カノンを幼くしてエルフ耳にした少女たちが、ケース契約国と複数の言語で書いた旗を全身で振り回している。

 

生まれる時代を間違ったカノンの肉体的才能がさらに強化された彼女らは、生産されてすぐに工場から逃げ出し、惑星外から投下された兵器を回収して逆襲を成功させてしまった。

 

見た目は十歳程度の黒髪エルフなのに、とんでもない強さだ。

 

「カノンはこれでいいのか」

 

「見所のある妹は何人いても嬉しいものです」

 

カノンは楽しげに頷いている。

 

それでいいのか……。

 

「宇宙港に戻り次第小学校を作らないと。いや幼稚園か?」

 

俺はまだ混乱しているのかもしれない。

 

『マスター、あの子たちの中身はAIだってば』

 

「小学校!」

 

「あたし、とっても興味があります!」

 

「わたしも!」

 

旗の代わりにビームソードやビームライフルをふりまわしている少女もいる。

 

遊んでいるように見えるのに隙がない。

 

俺は銃や剣を使ったPvPの経験はほとんどないが、それでも動きが洗練されているのが分かるほど上手い。

 

「ケースさん!」

 

後方の星系にいるドローンと通信が繋がった。

 

「にいさま!」

 

「おにーちゃんだ!」

 

気付いたカノン妹たちが騒ぎ出す。

 

俺とは違ってすぐに状況を把握したドローンは、妹たちには穏やかに接してから、引きつった顔をカノンに向けた。

 

「何やってるんですが姉さん! こんなに子供を作っ」

 

カノンの殺意は回線を通しても届くらしい。

 

ドローンもカノン妹もカノンに怯えて動きを止めている。

 

「妹です。いいですね?」

 

相棒も俺も、無言で頷いてしまっていた。

 

  ☆

 

「改めてケース契約国は君たちを歓迎する。新しい体に慣れるまでは無理はしないように。今後の活躍を期待する。以上だ」

 

カノンの弩級艦での演説はすぐに終わった。

 

カノンの妹たちは、聖女たちが差し入れてくれた肉人間用料理が並ぶテーブルに走って向かっている。

 

対聖国戦勝パーティは、こうして始まった。

 

「ドローンも御苦労だった」

 

ワンオ氏がいるとはいえ、これまで占領した元聖国の星系ともとからのケース契約国の星系の維持と防衛を成功させたのは間違いなくドローンの功績だ。

 

「遊撃艦隊はパイロットの艦隊も疲労で動けなくなっています。ぎりぎりでしたよ」

 

「ぎりぎりでも余裕たっぷりでも勝ちは勝ちだ」

 

料理争奪戦に敗れたカノン妹が何人かいたので、俺の分を分けてやる。

 

真似しようとしたドローンを止める。

 

ドローンも、しっかり食って体を育てる必要がある年齢だからな。

 

俺はいつもの食事をとる。

 

賛同者は何故かいないが、これも結構美味い。

 

『マスター、「地図」を表示するね』

 

宙に出現した立体映像を、俺とドローンが覗き込む。

 

工場がある星系が、別の列強風の名前に変わっている。

 

今から向かっても、工場は手に入れられず列強に敵視されるだけになるだろう。

 

「ケースさん、ここ、見てください」

 

ドローンが、鉄国を挟んで反対側の領域を指差す。

 

「鉄国風の名前が増えています。おそらく、鉄国がこの方向に侵攻をしています」

 

「助かったな」

 

「はい」

 

この状況で鉄国が攻めてきたら、全ての星系を放棄して逃げることしかできない。

 

もし鉄国が攻めてきていたら、カノンの弩級艦や遊撃艦隊の武装輸送艦に詰め込めるだけ詰め込んでも、多くの資産を諦めることになっていたはずだ。

 

「次は占領した星系の統治か」

 

「正直、頭が痛いですよ。聖国の統治は表面は上手くいっていましたから」

 

満腹したカノン妹の中には眠気に襲われた者もいて、ナニーに捕獲されてベッドがある部屋に運搬されている。

 

「統治も重要ですが、それ以上に戦力増強です。聖国に攻め込んでいる列強はどこまで攻めてくると思います?」

 

「楽に食える場所がなくなるまで、だな」

 

「はい。列強が警戒して侵攻を緩める程度の軍拡は最低限必要です」

 

現時点でも無理して戦力を増やしている。

 

これ以上となると……。

 

「お仕事もがんばります!」

 

特に元気なカノン妹が、口元に白いクリームをつけたまま、敬礼らしきものを俺に向けていた。

 

『話は終わった?』

 

相棒が「地図」を消して俺の隣に並ぶ。

 

「ああ。仕事ばかり増えて、頭が痛いがな」

 

『僕がいるよ、マスター』

 

そうだ。

 

相棒がいる。

 

相棒がいる限り、俺のやる気は消えはしない。

 

  ☆

 

対聖国戦勝パーティから数週間後。

 

複数の列強とケース契約国で静かに切り分けが進んでいた元聖国で新たな戦いが始まった。

 

「停止せよ。ここは鋼国の領域である!」

 

「こっちの警告を無視しておいて、こっちが迎撃の戦力を出したら命乞いか? 鋼国ってのは独特な価値観を持ってるようだな」

 

「賊風情が!」

 

鉄国と似た名前だから結構怖かったんだが、ワンオ氏とは比べものにならないほど威圧感がない。

 

艦隊の動きも鈍い。

 

高性能なパーツで構成された戦艦も巡洋艦も、肝心のパイロットの腕はスクール卒業直後のパイロット程度だ。

 

「先生! まだですか!」

 

この数週間ですっかり聞き慣れた声が操縦室に響く。

 

初期船で目が覚めてから数週間前まで乗っていた操縦室より数倍広いので、音の響きも比較的耳に優しい。

 

「まだだ。勝手に突撃したら減点するからな」

 

俺は、艦長席から、下方にずらりと並ぶオペレーター席を見下ろす。

 

カノンに似た顔が二十人近くいるのは限りなくホラーに近い。

 

数が多いのは悪くない。

 

悪いのはカノンの凶悪さだ。

 

「でもチャンスです! 隙だらけです!」

 

敵艦隊がこちらに向かって回頭する速度はかなり遅い。

 

「そうだぞ。でもな。相手に撃たせてから反撃すると、勝ったときに得られるものが多くなるんだ」

 

このカノン妹はケース契約国の国民であり今は俺の部下でもあるが、年齢と外見が見ての通りなので俺の口調は子供に対するものになってしまう。

 

「っ! 兄様が同じことを言ってました!」

 

どうやら納得してくれたようだ。

 

『マスター、宣戦布告の信号が届いたよ!』

 

相棒の言葉にわずかに遅れて赤いレーザーが俺たちの艦を襲う。

 

カノンの弩級艦よりも小さな、補修跡ばかりの、しかし完全に機能する弩級艦の位相障壁を破れない。

 

「これより鋼国を名乗る侵入者に対する反撃を開始する。艦載機の全機出撃を許可する」

 

「はい!!」

 

これが初めての艦隊戦であるのに、カノンの妹たちは恐れない。

 

一人一人が駆逐艦サイズのドローン……というより艦載機を操作し、俺の弩級艦から発進させる。

 

弩級艦の操縦室からの遠隔操作なので操縦難易度が高いのに、水上艦型戦艦に乗るパイロットより滑らかな操縦をしている。

 

「なんと禍々しい」

 

敵司令官の言葉は嫌悪に満ちている。

 

巨大な眼球に見えるレーザー砲塔に、脈打つ血管じみた外見の位相跳躍機関という組み合わせなので、慣れない奴にはキツイ外見ではある。

 

ナイアTECに性能最優先で発注すると何故かこういう外見になるだけなんだがな。

 

「A班は攻撃、B班は母艦の護衛だ。お前たちなら余裕の敵だ。満点をとってカノンとドローンを驚かせてやれ!」

 

レーザー砲塔がぎょろりと動き、緑の閃光を放つ。

 

放ちながら生き物じみた動きで宇宙を飛び続けて敵のロックオン完了を遅らせる。

 

パイロットを乗せない艦載機は、人間が乗る艦では不可能な加速と膨大な熱を伴い一箇所にのみレーザーを当て続ける。

 

駆逐艦も、巡洋艦も、重装甲の指揮艦まで、位相障壁を破られ船体装甲まで溶かされていく。

 

「降伏するつもりなら操縦室ごと焼かれる前にしろ。こいつらは手加減が苦手なんだ」

 

敵パイロット絶望的なうめき声と、数週間前まではAIだった人間たちの歓声が、戦場に響いていた。




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