AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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艦隊司令は伊達じゃない

「超短距離位相跳躍の頻度を下げてくれ。敵を発見したときは、俺の指示を待たずに頻度を元に戻してくれ」

 

『超短距離位相跳躍の頻度を順次低下させま……戦闘モードはいやー! 処理がおいつかなーい!』

 

いつもの調子に戻った相棒の声を聞いて、俺は体から力を抜いて操縦席に体重を預ける。

 

「高く売れるものは船外活動してでも回収するし、曳航できる残骸は宇宙港まで引っ張っていこう。この星系での相場を参考に値段を表示できるか?」

 

『余裕!』

 

相棒が表示させる立体映像は愛嬌のある銀髪少女のものだが、瞳は比喩でなく輝いてどれだけ興奮しているかがよく分かる。

 

「……その前に取り調べだな。よっと」

 

腹に力を込めて姿勢を正す。

 

既に超短距離位相跳躍は停止した。

 

主観時間と客観時間は一致して、この星域の警官である治安維持艦隊が……正確にはそのごく一部である汎用巡洋艦一隻と高速フリゲート二隻が、俺たちの船を囲む配置で出現した。

 

いい跳躍機関使ってるなー。

 

「儂は勅任艦隊司令のワンオ下級部隊長である!」

 

ディスプレイに、いきなり濃い顔の中年男が表示された。

 

名乗りの内容にはツッコミどころしかないのに、船外活動も可能な軍服を押し上げる筋肉はすさまじい。

 

『その一の子分のシロだお!』『その一の子分、クロ!』

 

中年男の斜め後ろに控えているのは、白色と黒色の犬耳娘だ。

 

同時にセリフを言い終えた直後に、猛烈な勢いで言い争いを始めている。

 

なんだろうね、このコントは。

 

「静まれい!」

 

艦隊司令だか下級部隊長だかよく分からないワンオ氏が直立不動のまま命令すると、シロとクロは直前までの乱闘がなかったかのように元の位置へ戻り澄まし顔になった。

 

『あの船のAIからフライトレコーダーのコピーを受け取ったお』

 

『おやぶん! 野次馬、集まってくる!』

 

この二人、実体があるのに何故か相棒に近い印象を受けるな。

 

「ほお……。培養槽から出たての馬鹿どもの喧嘩かと思っていたが、一隻だけは駆け出しの商人か」

 

汎用巡洋艦は戦闘の準備もせずにのんびりと漂っている。

 

しかし他のフリゲートは、熟練のPvPプレイヤーが操縦しているかのように、ハイエナ狙いの野次馬を牽制している。

 

「この調子で納税して国家に貢献するのだな。頑張れよ、若造!」

 

がははと豪快な笑い声を残し、三隻からなる治安維持艦隊が位相跳躍して消えた。

 

「治安維持艦隊がこんなノリとは知らなかったな。相棒、手続きありがとう」

 

『怖かったー』

 

立体映像の相棒は露骨に怯えているし、操縦席内の機器も戦闘中でもないのに全力稼働してエネルギーを消費している。

 

『なんで古参のひとがふたりもくるんだよう』

 

あのシロとクロってのが、機械人間なのかね?

 

「相棒、今から船外活動するからどれを回収すればいいか指示してくれ」

 

操縦席の隅にあるロッカーから宇宙服を取り出して着替える。

 

活動しやすいピチピチスーツじゃないのは正直ありがたい。

 

『いってらっしゃーい』

 

「だから指示しろって」

 

ハイエナはされたが、一番高価なパーツと一番状態の良い船は確保できた。

 

  ☆

 

「修理費と次の商売のための種銭にはなったな。これがもう一つの「おまけ」かねえ」

 

パーツと船にはすぐに買い手がついた。

 

初期船を売ったときとは桁の違う金が手に入ってほっとしたぜ。

 

「相棒、そろそろもとに戻ってくれ。次に依頼を決めなきゃならんのだが」

 

『うーんー。ねえマスター、これなんだけど』

 

ディスプレイに、俺が誰かと話している場面が表示される。

 

場所と角度から考えて、あの美形と話していたときの映像っぽいな。

 

『あのときマスターが話していた肉人間の顔、覚えてる?』

 

「俺に絵心を期待するなよ。確かこんな感じだ」

 

別のディスプレイに指で触れて、輪郭を描いて目と鼻と口を描き入れる。

 

正負どちらのセンスもない、単純に下手な絵だ。

 

『僕が持ってる動画ではこうなっているんだ』

 

ディスプレイに映っている「俺が誰かと話している場面」の角度が変わる。

 

感じの良い熟練パイロットって感じの女性だ。

 

相棒と出会う前ならぜひお付き合いしたいってレベルの……いや待て。

 

「改竄か」

 

『改竄の痕跡は僕じゃ見つけられなかった。でも、肉人間のマスターとAIの僕じゃ、クラックに対する抵抗力が全然違うから、僕の記憶が偽物なんだと思う』

 

参ったな。

 

怪奇現象か、大金持ちの遊びに巻き込まれたか、もっとろくでもない状況か?

 

いずれにせよ、宇宙港の監視カメラを騙せるような奴がいるってのは確実だ。

 

「相棒がクラックされたら俺もおしまいだ。対策を提案してくれ」

 

『僕が専用の体を持つのが一番確実だと思う。でも……』

 

「金がなあ」

 

ディスプレイに商品カタログを表示させる

 

今の俺が購入可能な、AIを搭載するための人型機械たちがずらりと並んでいる。

 

相棒が欲しい体と比べれば全く足りない性能なのに、最低でも安物のフリゲートくらいの値段だ。

 

「こっちは安いか?」

 

別のカタログを開く。

 

『スタンドアローン不可な奴だからクラック対策としてはびみょー』

 

「こっちは?」

 

『僕を殺す気? 体の性能が足りないよ』

 

「これより上となると、今の船を売るしかなくなるよな」

 

さすがにそれは無理だ。

 

金を稼ぐ手段がなくなってしまう。

 

『気は進まないけど』

 

相棒が、全く別のカタログをディスプレイに表示した。

 

見た目はなかなかだが……。

 

「人形か。小さすぎないか?」

 

恋愛対象として小さいという意味ではなく、演算装置やメモリや動力を積み込めないほど小さいって意味だ。

 

『動力とかを外付けにしたらぎりぎり、かなぁ』

 

相棒は不満たらたらだが買う気は間違いなくある。

 

いつの間にか記憶を改竄されるのを、本当に怖がっている。

 

「買い替えを前提に買うってことでいいか?」

 

リストの中には戦艦どころか弩級艦に近い値段がするとんでもないのがある。

 

いくらでも金をかけられる趣味ってことなんだろう。

 

『うん。体の名前は僕と同じ名前でお願い』

 

「えっ」

 

『さっ、最低! 僕自己紹介したよ! 自己紹介したじゃん!!』

 

相棒の瞳の光が弱々しい。

 

「待ってくれ。相棒の名前は聞いたけど他の話題で流れて……」

 

そこまで言って、俺はようやく思い至った。

 

「もしかして、メモリ?」

 

『そうだよメモリだよマスターの馬鹿! もう知らない!』

 

立体映像が消えて、相棒の声が残響も含めて消え去った。

 

「ごめん。完全に俺が悪かった」

 

姿勢を正してから深く頭を下げる。

 

許してもらえるかどうかはともかく、大事な相手なら筋は通さないとな。

 

まあ、それはそれとして、だ。

 

「品物の送り先は今の船でいいとして……と、購入者のパイロット名を入力する必要があるのか。偽名も使えるだろうが、どうするかな」

 

俺は相棒と離れるつもりはない。

 

相棒の新しい体はこっちで用意させてもらう。

 

『知らない』

 

「メモリを挿すのはマザーボードだが、俺は母親になりたいわけじゃないしな……」

 

本名とも近いし「ケース」でいいや。

 

ついでに、今の船を「マザーボード」にしとくか。

 

「オプションはどうする? 」

 

選択画面を表示させたままにすると、相棒が勝手に選択して、カーソルを「入力完了」の上に移動させる。

 

高いが、俺の食事のグレードを下げればなんとかなるか。

 

相棒の新しい体の注文を終えた俺は、新しい依頼を探すために条件をまとめていく。

 

まとめてから数秒もかからず検索結果が表示されるのは、考えるまでもなく相棒のおかげだ。

 

「次は戦艦に乗れるライセンスと戦艦を目指すか。よろしくな、メモリ」

 

まともに返事が返ってくるまで数日かかったが、相棒との関係は良好だった。




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