AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
大量の降伏信号と通信が押し寄せている。
ハッキングが目的ではないのに凶悪なハッキングとして機能している。
敵フリゲートは俺たちに対する攻撃を中断しているが、今攻撃されたら危険かもしれない。
「降伏すると言われてもな」
『範囲攻撃兵器の所在と状態の確認には時間がかかります。現時点で降伏を受け入れるのは推奨できません』
いつもは相棒が情報の捕捉や助言をしてくれるのに、俺の隣に今いるのはディーヴァだ。
慣れないが、差し出される情報はとても分かり易い。
『マスター、敵フリゲートの動きが変!』
一番からも警戒を促す信号が届いている。
『ケース様を捕虜にするつもりかもしれません』
「そりゃ怖いな」
艦に溜まった熱を確認する。
レーザー砲塔全てを使いながら全力加速したら、確実に艦のどこかが壊れる程度に熱が溜まってしまっている。
「相棒」
『了解、マスター』
詳しく説明しなくても何を決めたか察してくれる。
それは一番も同じで、目の形をしたレーザー砲塔を獰猛に動かしながらレーザーは放たず排熱を進めている。
おろおろしているディーヴァとは対照的だ。
「逃げるぞ!」
敵フリゲートにぶつけても構わないつもりで加速する。
位相跳躍妨害専門の高速フリゲートたちは、自分たちがぶつけることはあってもぶつけられるとは思ってはいなかったのか、ほんのわずかだが反応が遅れた。
『位相障壁消滅! 三隻とも!』
敵艦と接触したのに被害がそれだけなら幸運だ。
「ドローンと合流するまで艦がもてばいい。いつでも操縦室で脱出できるよう準備しておけ」
「ケースさん気軽に命を賭けないでください。ケースさん抜きで戦後の交渉なんて僕への嫌がらせですよ」
「そうは言うがな。これ以上打てる手はないぞ」
一度は離れた敵フリゲートの距離が、急速にゼロへ近づいていく。
装甲の薄い敵は良い的ではあるんだが、今攻撃すると熱が溜まりすぎて位相跳躍機関に異常が発生しかねない。
「妹たちを向かわせています。指揮もお願いしますね」
「おい、指揮艦でもないのに……通信を切りやがった!」
正確には、通信は維持されているが聞き流されている。
とんでもない数の艦と人を統括してるのだから無理は言えないとはいえ、俺が国家元首なんだからもう少しだけ気を使って欲しい。
「いた!」
「先生とメモリ様!」
「一番さんがいる! 先生のごえいしてたんだ!」
全く同じ声なのに別々の個性が滲んだ声が通信越しに聞こえた。
『艦載機二十隻を確認。この速度だと空母型に帰還できないよ』
どうやら、ドローンは俺たちの命を助けるために無理をしてくれているようだ。
艦載機、高いからな。
「高得点で聖女さまのごはん!」
「ごはん!」
「ごはんはあたしの!」
このセリフは予想外だった。
「おいドローン! カノンの妹たちに変な約束してないだろうな!」
聖女たちはカノン妹を気遣って差し入れしてくれてはいるが、連中が気合を入れて作った料理は俺でも滅多に食えないくらい貴重なんだぞ。
貴重すぎるから俺の分は他の希望者にまわして、それで手に入れた金を相棒のステージに使っているけどな。
「士気を上げるために色々と。艦載機のことはお願いします。僕は忙しいんです」
ドローンは、防諜対策が万全な環境なら「うるさい黙れ僕に仕事を押し付けすぎなんだよっ」とでも言いそうな目をしていた。
艦載機が、生き物の群れを思わせる動きで離散集合を繰り返す。
巨大な目玉から放つ緑のレーザーも、発射のタイミングがばらばらに見えて一射一殺で敵フリゲートを破壊する。
……鋼国のフリゲートども、この状況でも降伏信号を出してるのか。
「こちらケース契約国のケース。鋼国艦に告げる。本当に降伏する気があるなら俺たちから離れろ。降伏しても命はとらないし、一般的な列強の下層民よりはマシな生活は保証してやる」
これでも反抗するなら後は知らん。
「僕がトップ!」
「まだ敵いるもん!」
言っていることは調子にのったガキでもやっていることは蹂躙だ。
いつ範囲攻撃兵器に狙われても即座に回避できるよう、余裕をもってレーザーを使い敵フリゲートを減らしている。
「敵を潰すのは手段だ。点数にこだわりすぎると評価が下がるぞ」
「先生!」
「なにいってるかわかんない……」
棒読みで誤魔化そうとする奴は、後で指揮の訓練もさせようと思う。
「艦載機には時間制限があるんだから有効に使え。あの戦艦とかは怪しいと思うぞ」
砲門をこちらに向けてはいないが、まだ戦闘可能な状態を維持した範囲攻撃兵器搭載戦艦艦隊を指定する。
「高得点!」
「にがすなー!」
俺を護衛する目的できたはずのカノン妹たちが、減速せずに進路の微修正だけして敵艦隊めがけて突撃した。
『あの子たち、単純すぎて騙されないか心配だよ』
「他人を疑う習慣を身につけるのは、もう少し育った後でいい」
人間相手にレーザーをぶっ放すのは言語道断かもしれんが、戦わないと生きていけないのがこの宇宙の現状だ。
「ドローンたちに合流する。……せめて宇宙港は建てたいな」
『他の艦を修理できる艦は高いもんね』
相棒と俺は、完全に同期してため息をついていた。
☆
侵攻艦隊主力に合流した後、サーフボード型巡洋艦から操縦室を切り離して空母型弩級艦の船倉に格納してもらう。
そこで操縦室から降りて艦橋に移動して、ようやくドローンたちと合流できた。
「爆撃の着弾が始まっています。惑星には数分後からです」
艦長席にいるドローンは俺に目も向けない。
ドローンが見えなくなるほど大量の立体映像を表示させて侵攻艦隊全体の状況を把握し、命令を次々に出し続けている。
「派手だな」
外惑星やその近辺にある宇宙基地は既に破壊されている。
亜光速の弾頭も、高価なミサイルも、強力な宇宙線に百年単位で耐える装甲を中身ごと砕いて無数の破片に変えている。
「惑星破壊ほどではありませんよ。最も近くの惑星に範囲攻撃が届くまで、後数時間です」
若いドローンの声に、疲れが滲んでいた。
「鋼国に速攻を仕掛けるのを決めたのは俺で、脅しに失敗して惑星に範囲攻撃をくらうことになったのも俺の責任だ」
「僕は侵攻艦隊の総司令です」
「なら俺はケース契約国の国家元首で独裁者だ。敗戦時に責任をとるのも仕事のうちだ」
『悪いけど、そのときはマスターを攫って逃げるから』
「……あの、ケースさんとメモリさん一人一人はともかく、二人そろうと酷いこと言ってませんか」
相棒と俺は顔を見合わせる。
俺にとっては相棒が最優先だから、まずい状況になれば相棒と俺で逃げ出すことになる。
うん、ろくでもないな。
「勝つしかないな。鋼国以外の国の動きは分かるか?」
「本当に、勝つしかないですよ」
ドローンは呆れた目を俺と相棒に向けてから、何かあれば即座に呼び出すよう命令して席を立つ。
「鉄国というよりワンオ司令は好意的です。鉄国が攻めてくる前に宣戦布告はしてくれるでしょう」
「宣戦布告するだけでお上品だってんだから、この宇宙はすごいよな」
「倫理のなさはいまさらですよ。鋼国に環境の良い惑星一つを破壊された列強……水国は頭に血がのぼりきっています。主犯も実行犯も全部渡さないと、ケース契約国ごと皆殺しにすると言ってますね」
「引き渡すのはいいが、逮捕までにかかった費用は負担してもらうか」
「なんとかその方向で交渉してみます」
古代基準ならまだ未成年なのに、ドローンは本当にできる奴だ。
「後は……すみません」
重要度の高い報告が届き、ドローンが艦長席に戻る。
「少し休憩するか」
俺には一食分の栄養が入った水、相棒たち機械人間にはスティック状に固められた冷却水、オペレータ席にいるカノン妹たちには無果汁ジュースと栄養付与済み乾パンを用意した。
妹は全員、聖女の手による食事の味を知っているためか、せっかくの食事なのに士気が下がっているように見える。
こいつらを増やすのは簡単だが、増やしすぎると食料問題で反乱まであり得る気がする。
『マスター、最終的に被害はどの程度になると思う?』
相棒は、行儀悪く冷却水スティックを咥えたままだ。
とてもかわいい。
「範囲攻撃の狙いが外れる可能性はあると思ってる」
俺は水を一口飲む。
味は酷いが、体に不足していた要素が急速に補われている感覚は心地よい。
「ただ、鋼国は同程度の規模の列強への先制攻撃に範囲攻撃を使った。前例がないことをするのと、一回でも前例があることをするのは、関係者に納得させるという面でも難易度が違う。今後は惑星への攻撃が、今より気軽に行われるようになる……と俺は考えてる」
『ケース様の意見に同意します。範囲攻撃への防御手段が開発されない限り、惑星居住者の多くが宇宙への居住を望むようになります』
今のディーヴァは、宇宙船を動かすことに憧れる機械人間ではなく、面倒な住人が住む惑星を複数同時に統治できる超高性能機械人間として発言している。
『惑星って、環境が悪い惑星でもいっぱい肉人間が住んでるよね。全員宇宙に住めるの?』
「一時的にはなんとかなるはずだ」
気休めではない。
最悪の場合でも、人間が住めるぎりぎりの環境になるだけだ。
「惑星に残りたがる人間を無理やり宇宙へ運ぶ余裕はないがな」
そこまで面倒を見る余裕は、物理的に存在しない。
『わたくしは聖女さま方にお仕えしている身です。聖女さま方の心身に負担がかからないよう、要望いたします』
「当然だな。聖女の五人の環境は最優先で整える。五人だけで構わないか? 配偶者やその候補がいるならそちらも手配するが」
精神的な不調で野菜や料理の出来が悪くなると悪影響が大きいから、最大限配慮するつもりだ。
『その点については問題ありません』
ディーヴァは一度だけドローンを見た。
『マスター、ドローンってもてもて?』
「力も顔も若さも兼ね備えてるからな」
これだけ揃ってたら、多少の性格の悪さも魅力に感じるんじゃないか。
『いえ、ドローン様を慕っているのはお一人だけです』
「そうなのか?」
『ドローンって性格すごくきついもんね。マスターとカノンがいるときは柔らかいけど』
「僕に聞こえる距離で何を言っているんですか」
ドローンは呆れた表情でそうコメントし、その直後に表情を引き締める。
「ここ以外の星系でもクーデターが発生しました。駐留艦隊全てを巻き込んだクーデターです。複数の情報源から確認済みです」
ドローンが、周辺に存在する星系の地図を表示させる。
水国を含む列強の艦隊が、ケース契約国の勢力圏にも鋼国への勢力圏にも近付きつつある。
ケース契約国と鋼国の戦いが長引くなら、どちらも併呑してしまうつもりなのだ。
「クーデター勢力である、自称鋼国正当政府の勢力圏を表示します」
鋼国の星系のうち、首都星系と辺境星系を除く全てが、クーデター勢力の制圧下にあった。
「範囲攻撃したのは正当政府ではないから正当政府には責任がない、とでも言うつもりかね」
「実質的にそういうことを言ってます。ケース契約国が行っている、鋼国の首都星への残虐行為を止めろとも」
ドローンが発する冷え冷えとした気配は、自称正当政府に対する殺意だ。
「可住惑星を残骸に変える国の正当政府が、せいぜい数年ひとが住めなくするだけのケース契約国を非難する訳だ」
ここまでイカレたことを言われると、怒りの対象にすらならねーよ。
俺は別のディスプレイを見上げる。
鋼国の首都惑星から膨大に打ち上げられる対空攻撃が、ミサイルの豪雨を見事に迎撃している。
だが迎撃はそれで終わりだ。
亜光速の小さな弾が、対空攻撃のために姿を現した砲台ごと地表基地を破壊していく。
巨大なクレーターがいくつも地表に刻まれる。
しかし鋼国の範囲攻撃とは異なり、地殻にまでは届かない。
「後ひとつあります」
ドローンの機嫌は最底辺だ。
「位相崩壊砲……僕らが範囲攻撃と呼んでいるものを防ぐ手段を提供する用意がある、とほのめかしています。嘘とは断定できません」
「そんな手段があるなら範囲攻撃兵器も所有しているな。自分だけ防御手段を持っているならますます気軽に範囲攻撃できる」
俺は水を飲み干し、立ち上がる。
「こうなったらお互いにお互いを許容する理由がない。他の列強への対応を最小限にして、鋼国に関係する勢力全てを潰すぞ」
『はい』
「主観時間で一時間で再編を完了させます」
『出撃の準備はしておくからマスターは仮眠をとって』
皆、やる気は十分だった。