AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
「先生、戦争に負けたら逃げちゃうんですか?」
「ひきょーもの?」
カノン妹たちからの質問は悪意が皆無で、だからこそ俺の少ししかない良心を刺激する。
「ケース契約国が敗戦するときはケースさんは戦死しているでしょうから、あれはケースさんとメモリさんの願望でしかありません」
そんな見解を妹たちに吹き込んでいるのはカノンだ。
故人のコピーを同一人物とみなすのが普通のこの宇宙では、間違いなく少数派の意見だ。
俺は、少なくとも俺のコピーのことは、同一人物とは思えないがな。
「そっかー」
「あたしが守ってあげるね!」
『マスターを守るのは僕だから!』
相棒が強く目を光らせて妹たちに対抗している。
しかし、相棒はいるのは指揮艦を操縦中の俺の隣だ。
カノン妹たちも、空母型弩級艦のオペレーター席か、侵攻艦隊に含まれる非武装輸送艦を護衛するマザーボード型フリゲートの操縦席にいる。
俺を直接的に守るのは、彼女たちではない。
『復帰戦がこれかあ』
『サーフボード型最高! サーフボード型最高!』
二十八人の機械人間が好き勝手に喋っている。
一度はサーフボード型巡洋艦のパイロットになったのに、その時点では性能が不明な目に換装してサーフボード型の操縦資格を取り上げられた連中だ。
『マスター、作戦中なのにおしゃべりさせていいの?』
「これから鋼国正当政府の艦隊に真っ先に突撃するんだ。これくらいの自由は許してやるさ」
俺が指示を出していないのに、二十八隻のサーフボード型が指揮艦を先頭にした突撃隊列を組む。
無数の目が、まるで一つの生命であるかのように、ぎょろりと動いた。
「指揮官先頭だなんて職権乱用ではありませんか?」
カノンの目にあるのは呆れではなく嫉妬だった。
「適材適所って奴だ。……始まるぞ」
複数の星系に対する、無差別放送が開始される。
「僕はケース契約国総軍司令のドローンだ。鋼国正当政府を名乗る武装勢力に告げる。即座に無条件降伏し、惑星破壊可能な兵器の検証可能な形での廃棄に協力しろ」
主観時間で数秒後、距離や真意を問う通信が、ドローンが座乗する空母型弩級艦に殺到する。
俺たちに中継されているドローンは、ひどくつまらなそうな顔をしていた。
「鋼国正当政府を名乗る武装勢力の全てが無条件降伏を行わない限り、ケース契約国はお前たちに対する攻撃を開始する。主観時間で十秒待つ」
表情は全く動いていないのに、敵を嘲笑しているように見えた。
『マスター、十秒って長い?』
「妥協不可能な相手には十分長いと思うぞ」
「始めますね」
上機嫌なカノンの言葉とともに、鋼国殲滅戦の第二戦が始まった。
☆
「改めて作戦を説明する」
指揮艦を先頭に、サーフボード型巡洋艦二十八隻が加速を開始する。
「カノンが撃った亜光速質量弾を敵艦隊まで護衛する。予想される妨害は敵艦と敵の新兵器だ。防御不能な兵器からの攻撃は必ず回避しろ」
言っている間に高速のフリゲートが接近してくる。
俺たちを食い止めてから、後続の駆逐艦で対空攻撃を試みるつもりなのだろう。
『マスター、新型位相跳躍機関搭載艦は一隻だけだから気を付けて』
一隻は侵攻艦隊主力と合流後に装置に小さな故障が見つかった。
一隻は最後の予備戦力として一番ごと後方に配置されている。
「了解」
『敵フリゲートが有効射程に到達』
俺のパイロットとしての感覚では少し狙いすぎなタイミングで、俺の指揮官としての感覚ではできすぎなほど素早く、二十八隻が百を超えるフリゲートに対し緑の閃光を叩き込んだ。
『撃沈十二、大破八十三、中破以下が七』
「作戦に変更なし」
敵フリゲートの残骸と損傷艦を放置して俺たちは進む。
俺は先程の攻撃で把握した二十八人の癖をもとに、二十八隻の配置と何から狙うかの優先度を変更する。
『敵駆逐艦が対空攻撃を開始。大型駆逐艦サイズの用途不明艦が三つ』
「全艦、緊急回避の準備をしろ」
サーフボード型の一隻に大量に開いた目が、特定の目標ではなく限られた空間全体を狙う。
一つの目から放たれるレーザーでは極小の質量弾を打ち落とすことも難しい。
しかし、亜光速には届かない小さな対空用砲弾から機能を奪うには十分だ。
『健在な亜光速質量弾は八割七分』
「いい感じだ」
とても、嫌な気配を感じた。
『敵用途不明艦からの攻撃を確認。細い直線範囲攻撃複数である可能性大』
細い範囲攻撃を広範囲にばら撒いている。
惑星を巻き込んでも惑星崩壊には至らず、戦闘艦の位相障壁も船体装甲も無意味にする極悪兵器だ。
それはレーザーよりは遅いが、亜光速質量弾より速かった。
だが俺はもっと早い。
『マスター、データとれない!』
指揮艦を捨てて操縦室で脱出すればそうなる。
救命艇としての機能はあるが、操縦室は戦闘艦ではないのだ。
「できることは全てやった。後は幸運を祈るだけだ」
操縦室が激しく揺れ、俺の体が席に深く押しつけられる。
その直後に操縦室のディスプレイの情報更新が再開される。
指揮艦を通しての情報ではなく、サーフボード型巡洋艦を通しての情報だ。
少し前まで俺たちがいた指揮艦は、位相障壁も船体装甲も関係なく複数穴を開けられ機能を停止していた。
「助かった……」
サーフボード型を加速させて、指揮艦の代わりに先頭へ移動する。
艦内と繋がる扉が軽く叩かれた。
俺が許可を出すと、この艦の本来のパイロットである機械人間が明るい表情でこちらに語りかける。
『ボーナスは耳と肌のパーツがいいです!』
『マスターと僕の子供用の?』
『はい!』
自艦の操縦室を捨てて、操縦室のないサーフボード型巡洋艦を操縦して指揮艦の操縦室を操縦室として受け入れるという離れ業を成功させた奴だ。
しかも操縦室の中身は国家元首とその妻。
功績は絶大であり、できれば各種パーツを子供専用にしてしまいたい相棒も、ボーナス要求を断るのは不可能だった。
「お前の功績は正式な記録として残したから、ボーナス交渉は後にしてくれ」
『仕方がないですね。通信の手伝いをしますから、これも功績として扱ってください』
相棒やもとのパイロットが操縦以外をしてくれている間も、俺は艦の操縦と艦隊の指揮を並行して行っている。
俺の艦隊に突破された敵艦に大量の質量弾が叩き込まれて粉砕される。
当たり前のことだが、俺たちの後にもケース契約国の戦力は続いている。
俺たちが知ったこと全てを知らされた彼らは、効率良く敵の艦を破壊できるのだ。
『操縦中は気付く余裕がなかったですけど、ここの敵って脆くないですか?』
『それは僕も思った。よく分からない名前を名乗ってるけど、この星系にいるのって列強の艦隊だよね。なのに、ぎりぎり列強と呼べるかどうかの性能しかないよ。……範囲攻撃兵器、じゃなくて位相崩壊砲? を除けばだけど』
「範囲攻撃可能な超兵器が大きくて、船体装甲や他のパーツを搭載するための空間が足りないのかもしれないな」
敵の巡洋艦群が猛烈な勢いでミサイルを発射する。
後方にいるカノンの砲撃用弩級艦や、ドローンの空母型弩級艦だと、回避では不十分で防御のために弾やエネルギーを消費するかもしれない。
『マスター、質量弾に当たりそうなのと、この艦に当たりそうなのと、後ろの艦に当たりそうなのに別の色をつけるね』
相棒が言い終わる前に、ディスプレイに表示されるミサイルの色が変わっている。
「範囲攻撃兵器の超性能とそれ以外の落差がなあ……」
サーフボード型の目は絶好調だ。
緑の閃光を放つたびにミサイルが爆発して、本来の目標に到達すれば大きな破壊をもたらしたはずのエネルギーを無駄遣いする。
『それは鋼国が降伏してから考えてもいいんじゃないかな、マスター』
「確かに」
ミサイルの多くは破壊したが敵巡洋艦群は無傷だ。
その奥にいる、外見だけでも豪華装備なのが分かる戦艦群も、まだ装備の取り付けが終わっていないように感じる弩級艦も無傷。
「亜光速質量弾の護衛はここまでだ。これ以降、我々は敵艦隊から距離をとり嫌がらせに徹する」
高速艦で逃げようとすれば打ち落とし、別の星系から敵の増援が来るようなら一撃離脱で位相跳躍支援艦を狙う。
いずれにせよ、これ以降の戦場の主役は俺たちではない。
サーフボード型巡洋艦が一斉に逃げ出した後も、大量の亜光速質量弾は吸い込まれるような進路で敵の大型艦に向かっている。
「カノンは予知でも使えるのか?」
これまでは雑にチート……特殊能力だと考えてきたが、ここまでの距離でここまでの数が当たりそうなのを見ると、な。
『カノンは敵味方の行動を予測してるだけって言ってたよ。マスターみたいに見てから躱せる相手には通用しないんだって』
「俺にも通用しとるわい。カノンの射撃を躱すたびにどれだけ気力と体力を消費してると……」
雑談している間に動きがあった。
戦艦群が、まるで弩級艦を庇うかのように位相障壁を全開にして質量弾の前に立ち塞がる。
その動きを最初から予測できていたかのように、移動前の戦艦群に向かっている質量弾は少数だ。
着弾が始まった。
戦艦の位相障壁は亜光速の攻撃にも耐える。
しかし亜光速質量弾は不規則かつ継続的で、しかも着弾するときはほとんどが一つの艦に集中する。
位相障壁が割れ、船体装甲でも衝撃を吸収しきれず、強靱な耐久力と強大な攻撃力を兼ね備えた戦艦が次々にひび割れ、大小の爆発を伴い粉々に砕けていく。
「懐かしいと言われても、最後にクラスメイトと顔を会わせたのはかなり前のことですし
通信越しにカノンの言葉が届く。
敵弩級艦は範囲攻撃の白い光でカノンの艦を狙ってはいるが、操縦室を含む重要区画に当たらないようしているようだ。
『敵の弩級艦の艦長と知り合いみたい。カノンとの温度差がすごいね、マスター』
「この宇宙には、あなたが言う常識を実力で保証する国家も武装勢力も存在しませんよ」
これはカノンの声だ。
『マスターのこと悪く言ってる! マスター、今からカノンに助太刀しようよ』
相棒の表情は停止し目は殺意に光っている。
「なあ相棒。カノン以外の声も受信してるのか? 俺には相棒とカノンの声しか聞こえないんだ」
『えっ』
相棒の目の光が明滅する。
『脳や心臓には異常なし。耳は?』
俺は相棒に耳元で囁かれ、軽く体を震わせた。
『どういうこと?』
『メモリ様、司令に聞き取れない音声があるなら加工して再生すればよいのでは? 原因究明はボーナスの後でいいじゃないですか』
『じゃあそうして』
『しました!』
とたんに音声が一種類増える。
「この世界はゲームじゃないか! NPCを殺しても、人間を殺したことにはならない!」
範囲攻撃の光がカノンの艦をかすめる。
みっしりと搭載された砲塔がいくつも切り取られて宇宙の闇に消える。
「この宇宙を、現実と同じ五感で感じ取れるゲームだと主張されるのですね」
カノンの砲撃は、俺と模擬戦をするときと同程度に容赦がない。
敵の操縦室があると思われる区画に、徹底的に亜光速質量弾を集中し続ける。
「どうしてだよ花音っ!」
「同郷のよしみです。拷問ですり切れて消える以外の終わり方を、今、差し上げます」
ひときわ大きな爆発が敵弩級艦で発生し、一種類の声が途絶した。
俺は眉間を揉む。
何が何だか分からない。
それでも今すべきことは分かる。
「ドローン! 敵が完全に降伏するか攻撃手段を失うまで攻撃を続けろ。最低限、宇宙港か基地を建てないとミサイルや質量弾を生産できない。継戦能力を失えば鋼国以外の列強が攻めてくるぞ!」
とんでもない量を持ち込んだのに、ミサイルや質量弾の残りはわずかしかない。
「分かっています! ケースさんも止めを刺すのに協力してください!」
一方的な武力行使が、しばらくの間、続いた。