AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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時空の傷跡

白い閃光が正面からぶつかりあう。

 

まるで生きているかのように互いを食らいあい、暗黒の宇宙に膨大なエネルギーを撒き散らす。

 

空虚ではあっても堅固であるはずの宇宙が、痛みにのたうつように揺れる。

 

劇的な動きは長くは続かない。

 

無限とすら思えたエネルギーは広く薄く広がり、白い輝きは極限まで薄れていく。

 

宇宙は相変わらず暗く、しかしほんの少しだけ変化していた。

 

  ☆

 

『契国国営放送総合ニュースの時間になりました。司会進行はわたくしアナウンサーが。解説はハカセです』

 

『俺がハカセだ!』

 

いつもの二人の背後で、範囲攻撃どうしの衝突の瞬間が繰り返し再生されている。

 

『契国は非常事態宣言を解除しました。地表への移動の制限と宇宙船売買の制限は引き続き行われています』

 

『範囲攻撃兵器の影響については現在調査中だ』

 

ハカセはシリアス顔だが、リバースエンジニアリング中の鬼気迫る表情と比べれば、これでも非常に温和だ。

 

『ハカセ、範囲攻撃は星系間で迎撃できなかったのでしょうか』

 

『色々破壊しすぎて実質的に光より速い攻撃だ。狙われている惑星の近くで攻撃しようとすれば難易度が高すぎる』

 

『回答ありがとうございます。続いて鉄国についてのニュースです。鉄国からの宇宙居住地用の資材が各星系に届き始めています』

 

『さすが鉄国というべきだろう。公開された設計図は美しかった。資材の到着が早かった星系は、数日中には居住可能になるはずだ』

 

ニュースの雰囲気が明るいのは、俺たちの国が窮地から脱したことの証明のように感じられた。

 

『マスター、ステージ占拠罪を成立させるべきだと思う』

 

目を物騒な色に光らせた相棒が、俺の隣の観客席でぐるると唸る。

 

俺たちがいるのは観客席で、ステージ上で行われているのはニュースの撮影だ。

 

契国で最も権威がある場所はこのステージなので、俺が非常事態宣言の解除を伝えたのも、その背景を解説するためのニュースもステージの上でというわけだ。

 

「その間は俺が相棒を独占するな」

 

踊りもそれ以外も、自室でもできるしな。

 

『もう、マスターってば。それはそれ、これはこれだよ』

 

相棒の目の光が通常モードに戻った。

 

「ケースさん、メモリさんも、まだ緊急事態ではあるんですから公の場所でいちゃつくのはどうかと」

 

相棒とは反対側の隣にいるドローンが、控えめに注意を促してくる。

 

「ケースさん、あの映像を公開してよかったのですか? 鉄国も本気で探していた情報ですが」

 

「隠していてもばれるからな」

 

光は高速で離れていくのだから、一秒前の光景は一光秒離れた場所で見ることが可能だ。

 

位相跳躍を駆使すれば、過去の光景を見ることは決して不可能ではない。

 

「今回公開しなければ、ばれるまでの時間は稼げたでしょう?」

 

「そりゃそうなんだが、ワンオ司令、じゃなくて駐在武官にせっつかれてな。鉄国の軍事部門が頭を抱えているらしい」

 

範囲攻撃兵器は、位相障壁も船体装甲も無意味にする超兵器だ。

 

惑星を破壊できるというのも脅威ではあるが、一番脅威なのは対抗手段の少なさだ。

 

「既存兵器の価値が大きく変動しましたからね。回避に向いていない巨大艦は、打ち消し用の範囲攻撃兵器を載せない限り、運用コストが大きいだけの的になってしまったわけですし」

 

「そこまで言うと言い過ぎな気がするがな。……復興状況はどうなっている」

 

ドローンはARメガネをかける。

 

「元聖国の星系は酷い状況です。鋼国と近かった分、打ち消しが間に合わなかった惑星が多いです。鉄国とも遠いので宇宙居住地用の建設も遅れていますね」

 

『あれってすごい性能だよね。鉄国の首都星系とかにはあんなのが一杯あるのかな』

 

「聖女が念入りに浄化した惑星と比べると劣りますけど、高治安星系の惑星の下位程度の環境ではあります。国の戦略が変わるほどの代物ですよ」

 

そのあたりはよく分からない。

 

俺に分かるのは、すごい設計で、すごい居住地が宇宙にできるってことまでだ。

 

「元地表民の様子は?」

 

俺が聞くと、ドローンが難しい表情になる。

 

「まだ居住地完成前ですが、移住を喜ぶ者と地表に戻りたがる者の差が激しいです。僕がなんとかしますけど統治コストは増えます」

 

「住み慣れた場所がいいのかね」

 

操縦室や宇宙港での生活に慣れきった俺もドローンも、地表への愛着というものが理解しづらい。

 

『マスターもドローンも、以前は地表に住んでたんだよね?』

 

「ああ。屋内で仕事をしているか、自室でPvPしているか、って生活だった」

 

「僕は今の生活に慣れただけです。姉さんみたいに、地表での生活が窮屈だったとは言いませんよ」

 

『マスター、カノンって古代人だよね?』

 

「宇宙時代の乱世の武人が、運悪く古代に生まれてしまったとかかもしれん」

 

相棒も俺も、カノンの能力は知っていてもなんでああなっているのか全く分からない。

 

頼りにはなるんだがな。

 

前線勤務から外されそうになると、前線に戻るためのクーデターをする変人だが。

 

『ケース代表』

 

元ハカセからの通信が届く。

 

『もう少しで弩級艦の改造が完了する』

 

「分かった。操縦室へ向かう」

 

相棒と俺は同時に立ち上がる。

 

「ドローン。俺の留守中はお前が代表代行だ。必要なら代表になれる権限も与えておく」

 

まだ死ぬつもりはないが、死んだときの備えをしないのは無責任だ。

 

ドローンは一度だけ息を吐いてから、鋭い目つきで俺を見上げる。

 

「代表代行はお受けします。ですが代表は僕に対する嫌がらせであると同時にケース契約国、んんっ、契国崩壊への最短ルートなので止めてください」

 

『どういうこと? 二代目の契国代表がドローンなのって、既定路線だよね?』

 

相棒と俺の子供がいつ作れるかも、作った子供が代表の座にふさわしい能力を持てるかどうかも分からないから、現時点で俺の仕事の多くを任されているドローンが二代目というのが一番無理がないやり方だ。

 

俺とドローンは生まれも価値観もかなり違うが、次を任せてもいいくらいには信用している。

 

相棒と俺の議席は手放さないけどな。

 

「水国や他の列強相手の外交交渉はどうとでもできますが、僕だとディーヴァやハカセたちを制御しきれませんよ」

 

『……確かに?』

 

相棒は、目の光を激しく明滅させている。

 

どこかにアクセスして計算に集中しているようだ。

 

『マスターが契国からいなくなると、ドローンについたカノン妹と、マスターが代表だから大人しくしていた機械人間の一部が武力衝突して、他列強からの介入まで発生して、ってなりそう?』

 

相棒も国家経営の専門家ではないので、口調から確信は感じられない。

 

「政争や内戦が面倒くさくなった姉さんが僕を誘拐して聖女と一緒に故郷に帰還という展開までありえますよ。だからケースさん、帰ってこないと本当に恨みますからね」

 

これが俺を心配する気持ちからでた言葉なら感動的な場面なのかもしれない。

 

実際は、難易度も量も増え続けるばかりの仕事にブチ切れ寸前のドローンによる怒りの表明だ。

 

『ケース代表、指揮艦の改造は完了した。いつでも出港可能な状態だ』

 

「今いく!」

 

『僕も!』

 

相棒と俺は、逃げるように観客席から退出する。

 

大役を果たして戻って来る一番を回収するため、急ぐ必要があった。

 

  ☆

 

対鋼国戦では空母型弩級艦だったそれは、よりボロボロに、より違法建築っぽい外見になっている。

 

無理のない位相跳躍中であるのに、ときどき位相障壁の厚みや形が不安定だ。

 

『艦載機搭載数を二十から五まで減らし、代わりに位相跳躍支援装置とトラクタービーム複数を搭載した』

 

説明をしているのはハカセで、広々とした操縦室には研究職の機械人間たちが散らばり艦の制御を行っている。

 

『戦闘艦として機能はするが無理のある設計だ。これまでと同じ操縦をすると最悪の場合本体が壊れる』

 

「了解した。改造に関わったAIには俺が礼を言っていたと伝えてくれ」

 

元ハカセは、何故か困った表情になる。

 

『ほとんどがストライキ参加者だ。代表から言質をとったと主張するだろうな』

 

「そ、そうか」

 

『マスター、洗脳とか興味ある?』

 

『専用の体は安い機体でも外部からの情報の書き換えは困難だ。諦めたまえ』

 

元ハカセは、混乱する俺と相棒に呆れた目を向けていた。

 

『艦載機関連の装備を全て外してしまいたかったのだがね』

 

元ハカセはオペレーター席を冷ややかに見る。

 

席に立てこもったカノン妹五人が、怯えたようにびくりと体を震わせる。

 

「いきなり職場がなくなるなら抗議くらいするだろ。このくらいは許してやれ」

 

『甘いと思うがね』

 

元ハカセは、俺の言葉で矛を収めてくれた。

 

『マスター、この弩級艦は従来型の位相跳躍機関だから気をつけてね』

 

『護衛もサーフボード型巡洋艦も位相跳躍機関は従来型だ。範囲攻撃同士の相殺が発生した場合は、その場所から離れるのに代表の残り寿命より時間がかかることを覚悟すべきだ』

 

「分かった。まあ、その展開はないとは思うがな」

 

俺は、操縦室……というより艦橋あるいは指揮所というべき空間を見渡した。

 

俺達が乗っている空母型弩級艦とその護衛だけでなく、周辺の星系や艦の情報がリアルタイムで表示されている。

 

契国各所から上がってきた情報だけでなく、相棒の「地図」からの情報も反映しているのだ。

 

この艦隊の目的は、契国唯一の範囲攻撃兵器搭載艦と、そのパイロットである一番の回収だ。

 

『列強基準でも優れた速度と航続距離はあるが、急な加減速については初期船と同程度でしかない。待ち伏せされた場合は極めて不利だ』

 

元ハカセは、自分の仕事をよく見せようという意識がない。

 

だから俺は元ハカセに積極的に仕事を任せている。

 

「そっちは運用する側の担当だな」

 

惑星破壊が防がれたことに気づいた列強が即座に艦隊を出撃させたとしても間に合わない、はずだ。

 

『マスター、一番の艦の後ろに所属不明艦……じゃなくて鉄国の高速フリゲートを確認! 数は二、ってこれってシロとクロの艦だよ! 距離が少しずつ縮まってる!』

 

「艦で攻撃されない場合でも、位相跳躍で操縦室内に踏み込まれると負け確定か」

 

契国と鉄国は敵対はしていないが、古代の友好国同士でも足の引っ張り合いはしていた。

 

パイロットである一番を追い込んで艦から脱出させれば所有権が手に入るのがこの宇宙の慣習だから、まだ攻撃はしていないシロとクロの行動は良識的ですらある。

 

『マスター。今の戦力なら逃さずに破壊できると思う』

 

位相跳躍支援のために艦載機が激減した空母型弩級艦一隻に、熟練の機械人間パイロットが乗るサーフボード型巡洋艦が二十八隻が俺達の戦力だ。

 

鉄国側の戦力は、列強基準でも極めて強力とはいえフリゲートが二隻のみ。

 

「問題はシロとクロだ」

 

あの二人は生身で位相跳躍が可能だ。

 

どれだけの距離を位相跳躍できるかは不明だが、相棒と俺がいる操縦室に直接位相跳躍してきたことがあった。

 

艦は破壊できたがパイロットであるシロとクロに操縦室に乗り込まれて、という展開は避けたい。

 

「はい!」

 

当直のカノン妹五人だけでなく、待機中だったカノン妹たちまで挙手して自己主張する。

 

強化外骨格を着せて剣や銃を持たせれば、陸戦隊をしている機械人間に匹敵する戦力になる奴らだが、鉄国のおそらく超高級機体を使うシロとクロ相手にどの程度戦えるかは不明だ。

 

『マスター、一番と通信が繋がったよ』

 

最初に届いたのは声ではなく高密度のデータだ。

 

シロとクロが護衛を提案しながら迫っているという状況が詳しく説明されている。

 

本来なら俺もそれを精査すべきなのだろう。

 

だが俺の目には、心底焦りながら目を開閉させて、何か合図を送っているつもりの一番が見えていた。

 

『範囲攻撃兵器搭載艦が鉄国の手に渡った場合、鉄国の研究が数十日程度進むと思われる。範囲攻撃兵器は、実用可能であることが分かればどの列強でも開発可能な技術だ』

 

ハカセが意見を述べる。

 

その数十日のために危険を冒す価値があるかどうか、だな。

 

「シロとクロに通信を入れろ。単独行動中だった艦を護衛してくれたことには感謝する。一番はこちらが回収する、とな」

 

俺は艦を諦めて一番の確保を優先した。

 

時間が惜しいので、肉人間ではついていけない高速でやりとりが行われる。

 

一番の艦から操縦室が射出され、その直後に範囲攻撃兵器搭載艦の中に白犬耳と黒犬耳の機械人間が現れたという報告が届いた。

 

『あっ』

 

相棒が顔をあげる。

 

パイロット不在の高速フリゲートが、一隻は溜まりすぎた熱に耐えきれなくなって内側から溶解し、もう一隻は限界をはるかに超えて酷使された位相跳躍機関が故障して文字通り「どこかへ」消える。

 

『やられた』

 

「はったりに引っかけられたか」

 

俺の意識はフリゲートには向いていない。

 

複数のトラクタービームを一番の操縦室に当てるのに忙しい。

 

捕捉はできたが速度がすさまじく、弩級艦の巨体が少し揺れるほどだった。

 

  ☆

 

『マスター、シロとクロから救難要請が来てる』

 

「煽りかな?」

 

『マニュアルなしで操縦できる艦ではない。助けるつもりならトラクタービームで牽引すればいい』

 

「了解。ワンオ司令に直接引き渡すか」

 

シロとクロからすさまじい抗議の通信が届いているが無視をする。

 

実用的な、範囲攻撃による攻撃にも迎撃にも使える高速艦の実物と情報を俺たちから奪ったんだ。

 

このくらいの意趣返しはさせてもらう。

 

「一番」

 

俺が命じると、一番は自分自身からケーブルを伸ばして俺のARメガネに接続する。

 

そこで再生されたのは範囲攻撃がぶつかりあう瞬間の映像だ。

 

ただしその画像は荒い。

 

『機体で撮影したものではなく、目で見たものだな』

 

『もうちょっと性能上げたいけど、それだとマスターの遺伝子の反映率が落ちるんだよね』

 

『何を言っているのだメモリ議員! 単純な性能なら外付けの機械で十分補える! あるのに見えないものを見れるのがこの目の真髄だぞ!』

 

同じパーツを使っている元ハカセが熱心に主張している。

 

ARメガネでは、白い閃光が激突してから消えていくまでが何度も繰り返される。

 

「これか?」

 

俺は違和感のあるタイミングで画像を停止し、映像を小刻みに前後させて異常の有無を確かめる。

 

「ここ、一瞬だけ映っている」

 

激突の直後に、どこか見覚えがある惑星が一瞬見えている。

 

その星系にある惑星とは見た目も大きさも全然違う。

 

相棒も元ハカセも俺の「見覚えのある惑星」の正体が分からない。

 

「先生、あたしも見たいです!」

 

「僕も!」

 

配置も精神も戦時から通常時に切り変わったカノン妹たちが好き勝手なことを言う。

 

俺は全く期待せず、ARメガネをカノン妹の一人に渡した。

 

妹たちは、上機嫌に騒ぎながらARメガネを次々にかけていく。

 

「これ、土星!」

 

「ちょっと前のアニメで出てた!」

 

はしゃぐ妹たちとは逆に、俺は困惑した。

 

「言われてみれば、この輪っかは確かに。……なんで土星?」

 

『さあ?』

 

困惑したのは相棒も同じだが、ただ一人、元ハカセだけは顔を上気させて……猛烈な計算で危険なほど体の温度を上昇させている。

 

『そういうことか! 範囲攻撃兵器は、おそらく兵器として開発されたものではない! 時空間にダメージを与えて移動する種類の位相跳躍のための機械だ! ひどくいびつで、他者の迷惑を考えない設計だがね!』

 

宇宙を切り裂いて望みの時と場所へ移動するためのものだと、元ハカセは語った。

 

「だとしたら、開発者の目的は故郷への帰還だったのかもしれないな」

 

俺は設計者のことを一瞬だけ憐れむ。

 

もしこの機械を完成させたとしても、迷惑をかけられて怒り狂ったこの宇宙の人間に殺されるだけだったはずだ。

 

『開発意図が分かったら、範囲攻撃兵器を悪影響なしの兵器に改造できる?』

 

『……それは無理だ、メモリ議員。今の使用法が、最も悪影響が軽い可能性が高い。悪用は、今回の情報でいくらでも可能になったがね』

 

計算速度を落とした元ハカセが、排熱を兼ねたため息を吐く。

 

一番はケーブルを最大限まで伸ばして操縦室の隅へ向かい、騒ぎを完全に無視して三角座りをしていた。

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