AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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第五章 列強大戦編
列強の洗礼


巨大なディスプレイに、位相跳躍中の敵味方とレーザーやミサイルや質量弾の「だいたいの位置」が表示されて更新され続けている。

 

肉眼で認識可能な細かさを越えた解像度なので現実にしか思えないが、これはある意味で翻訳された内容だ。

 

「多いな」

 

敵は陽国の侵攻艦隊だ。

 

実に三隻の空母型弩級艦と一隻の指揮型弩級艦、そしてその護衛艦隊からなる超巨大戦力だ。

 

俺が経験したことのある宇宙MMOなら、どのMMOでも負けイベント扱いされるだろう存在だ。

 

『マスター、カノンの艦が砲撃を開始したよ』

 

相棒の声には慣れたがその美しさは常に新鮮だ。

 

むくむくと気力が沸き上がるのを感じながら、俺は軽く頷いて意識を判断に集中する。

 

「実相アンカーの展開状況は」

 

相棒は、言葉ではなくディスプレイに実相アンカーの予想位置を表示させる。

 

ドローンに搭載されたものがほとんどであり、一つ一つの予想効果範囲は狭い。

 

「いいぞ。マザーボード改型巡洋艦に乗っているカノン妹にはボーナスだ」

 

マザーボード改型巡洋艦は、超小型質量弾を亜光速で敵に撃ち込むための単装砲を一基だけ搭載している。

 

三基搭載している水上艦型戦艦と比べると攻撃力は三分の一で、水上艦型戦艦と違って位相跳躍機関は従来型。

 

実戦投入が開始された当時は優秀艦だったが、今では平凡な艦だ。

 

しかし一つだけ特別な能力がある。

 

『アンカードローンが新たに十七個撃墜されたよ』

 

「落とされる数が減っているな。まだ百個以上が健在か」

 

ドローンを運用可能なのだ。

 

巡洋艦なのでフリゲートほどではないが速度があって小回りが利き、一度に操作できるのは一つではあるが多様なドローンを運用可能。

 

今回運用しているのは実相アンカー搭載ドローンで、位相戦闘中の敵艦の位相跳躍を妨害するという重大な役割を担っている。

 

『実相アンカーもドローンも結構高いんだけどね』

 

「パイロットの方がずっと高価だからな」

 

それでも高いんだよな、という思いは相棒も俺も同じだ。

 

『カノンの攻撃が着弾するまで、主観時間で後十七秒』

 

主観時間とは、位相戦闘中の時間のことだ。

 

この宇宙には位相跳躍という超光速移動手段があり、戦闘では超短距離の位相跳躍を連続使用しながら戦うのが基本だ。

 

この戦闘は位相戦闘と呼ばれ、何故かは分からないがAIの能力が劇的に低下する。

 

そのため、俺のような肉と血と骨でできた人間のパイロットに出番があるというわけだ。

 

「今回の命中率は……」

 

アンカードローンを破壊するために動いた敵護衛艦隊が元の位置に戻る前に、遠くから飛来した質量弾が守りの隙をつく。

 

目標は敵の指揮型弩級艦だ。

 

質量弾は、星系の端から恒星を挟んで反対側の端まで届くような距離を飛んできた。

 

位相戦闘と亜光速の組み合わせで実質超光速に達してはいるが、発射されてからここまで結構な時間がかかっている。

 

『九割以上が命中』

 

多数の質量弾が、敵弩級艦の周囲に展開された位相障壁を叩く。

 

カノンという、予知じみた先読みと異様な射撃の才を兼ね備えたパイロットが、物理的にはあり得るが非常識な命中率を実現する。

 

狭い範囲だけを攻撃された位相障壁が一部だけ割れて、その割れ目を、まだ勢いを保った質量弾が次々に通り抜ける。

 

敵弩級艦に大量に備えつけられた対空砲が質量弾で以て迎撃を行う。

 

接近する質量弾は多くしかも亜光速で、迎撃されたのは半分にも満たない。

 

『船体装甲に着弾』

 

ディスプレイに映し出された光景が一気に変わる。

 

分厚いだけでなく高性能な装甲が、固定が不十分だったかのように外れて敵弩級艦の巨体から脱落する。

 

剥き出しになったのは、位相戦闘に必須の装備である跳躍機関だ。

 

ここが損傷すれば、列強である陽国の誇りである主戦力である弩級艦が、どこにも移動できなくなる。

 

自らの勢力圏への撤退も、他戦線への移動も、位相戦闘中の回避も不可能になるのだ。

 

指揮型弩級艦が、撤退のために回頭を開始する。

 

陽国の護衛艦隊が、他の二隻の弩級艦の守りを捨てて指揮型弩級艦の防衛に集中する。

 

俺たちの艦隊のすぐ側まで迫っていた敵艦載機総勢七十二機も、俺たちのおんぼろ弩級艦二隻への攻撃ではなく陽国艦隊への接近阻止を目的とした動きに変わる。

 

「さすがに止めは無理か」

 

剥き出しの跳躍機関を見て残念がる俺に対し、相棒は銀のストレートロングを軽く揺らして息を吐く。

 

酸素は不必要でも、思考の際に発生した熱の排気は必要なのだ。

 

『カノンもそこまでは無理だよ』

 

「ええ、わたくしだけではとてもそこまでは」

 

突然聞こえてきた声には、とても聞き覚えがある。

 

数光秒は離れた場所で砲撃を再開した弩級艦、その大きく頑丈な操縦室にいるカノンの声だ。

 

「嬉しそうだな」

 

俺の言葉に、通信越しに見えるカノンの笑みが濃くなる。

 

「この歳で一族を率いる立場になれるとは思いませんでした。さあ、結果が分かりますよ」

 

まるで、指揮型弩級艦の動きがずっと前から分かっていたかのように、マザーボード改型による亜光速質量弾約二百発が、陽国の指揮型弩級艦へと降り注いだ。

 

カノンの砲撃と比べれば狙いは甘く、予測も不十分。

 

しかし熟練の戦闘艦パイロットと比べても異様なほどの精度だ。

 

陽国最良の対空砲群が、レーザーとは異なり実体を持つ亜光速質量弾を効率よく迎撃する。

 

『マザーボード改型の射撃頻度って、結構高いんだよね』

 

だが、新たな約二百発が、陽国の指揮型弩級艦に迫る。

 

これまでの迎撃で限界以上の熱を溜め込んでしまった対空砲の一部が機能を停止。

 

少数の対空砲は発射直前の質量弾ごと爆発して、自艦の船体装甲にダメージを与えてしまう。

 

「いけるか!?」

 

特大の位相跳躍機関に複数の質量弾が直撃する。

 

とんでもないエネルギーを物理的に叩き込まれた跳躍機関は、それでも形を変えず爆発もしなかった。

 

「さすがキャリアの長い列強。いいパーツを使ってやがる」

 

『敵指揮型弩級艦の位相跳躍の頻度低下を確認。もう少しで位相戦闘可能な下限を下回るよ。マスター、追撃する?』

 

ここで潰せたら陽国との講和まで有り得たんだが、残念だ。

 

「鉄国へ、今回の戦果と陽国の損傷艦の位置を伝えてやれ。水国と火国にはナイアTECの各国支社経由でな」

 

『ん。伝えたよマスター』

 

高性能な専用機体を持つ相棒は、思考はAIではあるが位相戦闘中も高速で思考と計算が可能だ。

 

そんな相棒でも操縦は俺より下なんだから、相棒のような機械人間にとって、位相戦闘は最も苦手な分野なのだろう。

 

……そのせいか、それまでの立場や財産を投げ捨てるようにして俺たちの国に移住や亡命してくる機械人間が結構な数いる。

 

そこまでしてでもパイロットになりたい、頼りがいのある変人たちだ。

 

「全艦に告げる。皆、よくやった」

 

俺は、この星系にいる指揮下の全員に通信を送る。

 

「俺たちの国に攻めて来てる国は複数あるが、どいつも欲の皮が突っ張った欲張りどもだ。跳躍機関が不調で動けない弩級艦の位置を俺たちが教えたら、味方同士でも嬉々として争い始めるほどのな」

 

この状況で同盟関係を維持して俺たちに攻撃を集中するほど理性的な国ばかりなら、最初から俺たちの国に攻め込まない。

 

いくら貴重とはいえ、汚染されていない水を位相跳躍で呼び寄せただけで襲ってくる狂犬国家ばかりいるのがこの宇宙だ。

 

古代である二十一世紀前半で暴君扱いされている政治家が、この宇宙なら理性的で良心的と評価されかねないくらいに倫理観が終わっている。

 

『マスター、水国の艦隊が進路を変えてこの星系に向かって来てる。跳躍終了は、たぶん陽国艦隊の近く』

 

相棒が、通信には乗らない形で囁いてくれる。

 

「水国が罠にかかったぞ! 陽国との乱闘に巻き込まれないよう俺たちは撤退する。いつものように、焦らず、素早く、仲間を見捨てずに、だ」

 

俺はにやりと笑い、演説を終わらせた。

 

「終わった……」

 

俺の側にしか映像が表示されないARメガネを外す。

 

ARメガネ経由の演技指導がなければ、艦の操縦技術とPvP知識くらいしか取り柄がない俺が、列強の国家元首としての演説などできるわけがない。

 

『マスターなら演技なしでいけると思うよ?』

 

「あれでいけるなら契国の品位が大問題だぞ」

 

興奮しすぎて口は悪くなるし、滅茶苦茶不適切なジェスチャーまで使ってしまうからな。

 

普通のMMOなら粘着も晒しもBANまであり得るぞ。

 

「わたくしは先に戻ります」

 

弩級艦に乗っているため、星系間の移動にも時間がかかるカノン艦とその護衛艦隊が真っ先にこの星系を後にする。

 

カノンは闘争も好きだが勝利も大好きなので、食おうとすれば食える獲物がいるこの星系を後にするのは悔しそうだった。

 

だがここでカノンを好きにさせるわけにもいかない。

 

陽国以外の列強も攻めてきているし、一応同盟を結んでいる鉄国も、信用できる国ではない。

 

使えば使うほどすり減る戦力を、可能な限り温存する必要がある。

 

「まだアンカードローンの回収が終わっていない艦は、アンカードローンは放棄して偵察ドローンを輸送艦から受け取れ」

 

敵に近付かなくても使えるのがドローンの良い所で、敵に近づけたドローンを回収し辛いのがドローンの弱点の一つだ。

 

「また借金か」

 

それに加えて、偵察ドローンや攻撃ドローンや対空ドローンと比べてかなり高価なのがつらい。

 

「目視で変なのかくにんっ!」

 

カノン妹の報告が、最初はまばらに、数秒して大量に届き始める。

 

報告者の位置がディスプレイに表示されると、こちらの戦力が薄い……陽国艦隊からそこまで来るなら非常に大回りになる位置ばかりが表示された。

 

『念のために白兵戦の準備もして』

 

相棒の声から感情が薄れる。

 

そういうのもいいなと頷きながら準備をしようとすると、相棒は俺を操縦席に押し込めた。

 

『マスター。向き不向き、だよ』

 

複数のベルトが俺の体をしっかりと固定して、半透明の装甲が俺の操縦席を厳重に包み込む。

 

「こちらでも目視でかくにんっ」

 

艦載機の遠隔操作を担当するカノン妹が、オペレーター席から報告してくる。

 

目視で……艦の装甲にとりつけたカメラからの映像でないと分からないかったということは、聖国式のステルスだな。

 

「白……っぽいフリゲート、えっと、いくつ?」

 

「七、今撃墜して五っ」

 

俺の弩級艦は、一隻で何十機も艦載機を載せられる陽国空母型弩級艦とは違って五機しか載せられない。

 

カノンを思わせる先読みと射撃技術で、禍々しい眼球型艦載機が緑のレーザーで船体装甲ごと中身を溶解させる。

 

戦闘艦には不可欠の装備であるはずの位相障壁は存在せず、船体装甲もひどく薄く、操縦室に救命艇の機能がない。

 

防御を考えない代わりに速度を追求した、片道しか考えていないフリゲートだ。

 

「これ見づらいよっ」

 

艦の装甲にとりつけたカメラからの映像も見ながら戦うのは負担も大きいので、気持ちはよく分かる。

 

「ぬかれたっ、二機っ」

 

たった二機では、爆弾を満載しても体当たりでも弩級艦は沈まない。

 

残骸を無理矢理に改造した艦でも、弩級艦はその程度には頑丈なのだ。

 

『まさか』

 

相棒が言い終えるよりも早く、五つのオペレーター席からカノン妹が飛び起きる。

 

その手には軍用の中でも特に強力な銃が握られ、その銃口は俺の操縦席を向いている。

 

その直後に起きたことは高速すぎて、俺の五感では認識できなかった。

 

重く硬いものが、俺の操縦席の近くの床に激突する音がいくつも重なって聞こえたのが、俺が認識できた全てだ。

 

俺は、ベルトによる拘束がきつくて音が聞こえた方向に目を向けられない。

 

「えっ」

 

「これでしぬの?」

 

「ゆだん、だめ!」

 

「とどめとぞうえんけいかいっ」

 

緊張のせいか言葉も発音も舌っ足らずになってはいても、銃の構え方も警戒の仕方も歴戦の兵士のそれだ。

 

カノン妹たちは、聖国から奪った肉人間生産工場で生産した「意思を持たない体」に、志願した「専用の体を持っていないAI」を焼き付けた存在だ。

 

カノンの脳を含めた肉体的才能、AIとして蓄積した知識と価値観、そこに聖国の兵士階層としての能力まで加えた人間型の兵器とすらいえる。

 

カノンの影響が飛び抜けて大きいので、カノンが実質兵器なのかもしれない。

 

……あいつ、一度コピーされたとはいえ天然ものの肉人間のはずなんだがな。

 

『マスター、生身で位相跳躍可能なきか……んんっ、専用の体を持ったAIだったみたい』

 

AIを機械人間扱いするのは既存の列強全てに対して超下品なジェスチャーをするのと同じことだから、俺たちの国でも公の場所では避けることにしている。

 

「助かった。陽国も本気だな。生身で跳躍できる機体なんて、とんでもない高級機体だぞ」

 

「先生! じゃなくて司令! でもこのひとたちさんとーしんだよ?」

 

『僕も最初は三頭身の体だったの。差別は駄目だよ』

 

「はーい!」

 

「わかりました!」

 

「したいのかいしゅうはじめまーす!」

 

高性能爆弾が爆発しても耐えられる回収機械が全ての死体を回収して船倉に移動してから、俺はようやく操縦席による拘束から解放された。

 

  ☆

 

航行中は、戦争中であってもほとんどの時間は退屈な移動時間だ。

 

契国の戦力の中で最後に戦場から離脱した俺たちは、交代で休憩をとり心身を回復させた後、俺は溜まっていた事務仕事の続きを、相棒はその補佐と指揮下の戦力の統括を、カノン妹たちは授業と遊びを真剣に頑張っている。

 

「許可したのは俺だがな……」

 

非番のカノン妹が全員操縦室に集まって、一番大きなディスプレイでアニメを鑑賞中だ。

 

契国の研究職機械人間が総力を結集して回収したデータから復元された古代の映像作品であり、俺にとっては宣伝で流れていたことは知ってるコンテンツでもある。

 

聖国製工場出身のため黒髪エルフな外見の妹たちがアニメに夢中になっているのを見ると、ここがファンタジーなのかSFじみた世界なのか、ときどき分からなくなる。

 

『変に制限をかけてカノンみたいになったら大変だよ?』

 

「まあ、そうなんだが」

 

相棒も俺も、建国以前から肩を並べて戦ってきたカノンを信頼はしている。

 

その上で、闘争と勝利のためには手段を選ばず、前線から離れようとしない性格にはとても困っている。

 

貴重すぎる才能の持ち主だから後方に下げて指揮と指導に専念させようとしたら、クーデターを起こしたあげく面倒を俺たちに押し付けてからまた前線に行こうとする奴だ、あいつは。

 

『マスター、宇宙港と通信の接続が完了したよ』

 

ディスプレイを見上げると、ちょうどエンディングが終わったところだった。

 

『契国国営放送総合ニュースの時間になりました。司会進行はわたくしアナウンサーが。解説はハカセです』

 

『俺がハカセだ!』

 

唐突に番組が切り替わる。

 

カノン妹たちは露骨に落胆して、仲の良い同僚を誘って戦闘シミュレーターが使える端末へ向かったり、仮眠をとるために操縦室の隣接区画にある寝室へ向かっている。

 

当直中のカノン妹たちは、アニメのときよりは仕事に集中できているようだ。

 

『先程、本日二度目の水資源召喚が行われました』

 

アナウンサーとハカセという二人の機械人間の背後に、見慣れた宇宙港の近くに現れた小惑星が表示されている。

 

『スキャンは既に完了している。汚染されていない水が質量の二割を占めている。平均よりは少ないが膨大な量だ』

 

現在の「汚染されていない水」の相場と、その水を使った際に生産可能な「芋」の量とその価格が、小惑星に重なる形で現れる。

 

『マスター、開戦前と比べて値段がすごく上がってる』

 

俺の記憶力の程度を知っている相棒が、開戦前の相場を表示してくれる。

 

「水の供給量と「芋」の生産量が一桁は増えてるのに、値段が数割上がっているのか」

 

『お帰り、ケース代表、メモリ議員』

 

ハカセが挨拶してくる。

 

国営放送ではあるのだが、古代の国営放送とは違ってリアルタイムで話をすることも容易だ。

 

視聴率のために、国家元首の俺や評議会議員である相棒を積極的に巻き込んでいるだけともいえる。

 

『マスター、そろそろ宇宙港に到着するよ。跳躍支援中の艦への指示をお願い』

 

『了解』

 

俺の弩級艦の今の役割の中で、指揮下の艦隊の位相跳躍の支援が最も重要だ。

 

侵攻の際も、迎撃の際も、純粋に移動する際も跳躍支援があるとないとでは速度も効率も違いすぎる。

 

宇宙港から指定された空間で位相跳躍を終了して情報収集および再計算。

 

まだ位相跳躍中のマザーボード改型巡洋艦たちに丁度よい「速度」と「力加減」を伝えると、単独での位相跳躍と比べて明らかに早く目的地へ到着する。

 

最初は数隻単位で弩級艦の周囲に現れていたマザーボード改型は急速に出現数を増して、二百を超えるまで一分もかからなかった。

 

その光景を、ハカセはニュース番組を無視して眺めている。

 

『さすが初期生産分。そろそろサーフボード型の搭乗資格が手に入るのではないか?』

 

『極薄装甲の高速艦に、才能があるとはいえ初心者を乗せる気はないぞ』

 

搭載兵器も距離による減衰が激しいレーザーであり、敵に近い場所で戦うことが多い。

 

普通に考えればとても死にやすい艦なのだ。

 

俺も部下もサーフボード型巡洋艦で死んでいないのは、実力もあるがそれ以上に運があったからだ。

 

『ハカセ、解説をお願いします』

 

アナウンサーが、これ以上仕事を放棄するなら目にもの見せてやるという態度でハカセを促す。

 

『カノン議員の妹の量産が始まったから、汚染されていない水の需要も急増している。生存には必須でないはずなのに、飲んでいる水の汚染の有無で性能が明らかに異なる。実に興味深いな!』

 

旨いものを飲み食いすれば士気が上がって、逆なら士気が下がるのは当たり前だと思う。

 

『志願するAIも増えるばかりで、肉人間風に言うなら待機列は伸びる一方だ!』

 

ハカセはそう言うが、あの日から今まで常に戦場か次の戦場への途上にいた俺は、今の契国のことをよく知らない。

 

宇宙港の近くには、複数の水資源たっぷりの小惑星が十数個浮かんで、採掘用装備を積んだ船に群がられている。

 

下を向けば、既に滅んだ鋼国が使った兵器により崩壊した惑星の残骸が遠くに見える。

 

いや、それ以外にも見えるな。

 

『マスター、ここの宇宙居住地、もう完成しているみたい』

 

相棒が、俺が残骸の一つと勘違いしていたものを強調表示する。

 

とても大きいのに、よく見れば人工物だ。

 

巨大な岩にも見える超巨大居住地の周囲には、居住地と比べると虫というより微生物じみた大きさの何かが忙しなく動いている。

 

その膨大な群れには秩序はなく、しかし個々には確かな意思が感じられた。

 

『新たに生産されたカノン妹の中では、初期船以外への搭乗を希望する声が多く、ストライキへの合流の動きも出てきています』

 

『複数のストライキ団体が、ケース代表が宇宙港に帰還した二十四時間後に限定ストライキを開始予定だ。要求はカノン妹への優遇の中止だが、真の目的は例のパーツの販売許可だろう。契国の初の労使交渉がどうなるか、今から楽しみだ!』

 

「相変わらず好き勝手やりやがる」

 

ほぼ独裁体制の国での動きに、俺は怒りは感じない。

 

契国の機械人間もカノン妹も、この宇宙の住人の中ではかなり理性的だ。

 

今なら要求しても戦争に悪影響が少ないと判断した結果の行動で、つまり、連中はこの戦争に勝てると判断したのだ。

 

『マスター、どうする?』

 

新規パイロットの数は目視可能な分だけでも膨大で、各星系での戦闘艦増産も順調という報告が届いている。

 

「こっちも好きにやるさ」

 

期待通りに勝ってやるとも。

 

列強だろうが何だろうが、俺たちの邪魔はさせはない。

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