AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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サーフボード対ハリネズミ

位相戦闘には様々な特色がある。

 

機械人間の位相戦闘における才能が壊滅的だったり、通常空間での膨大なシミュレーションと位相空間の現実が一致しなかったりだ。

 

だから、性能試験は戦闘艦を使った本番同然のものになる。

 

「俺は戦争から戻ったばかりなんだがな!」

 

久々に乗るサーフボード型巡洋艦は、移動も攻撃も命令した直後に反映されるのが感動的だ。

 

細かく避けても無意味と割り切り、装甲表面にずらりと並んだ眼球型レーザー砲塔で広い範囲にレーザーをばらまく。

 

圧倒的に広い宇宙でまぐれ当たりなど実現不能だが、どこからどう飛んでくるかの予想が当たった上で、レーザーの照射を続けながら眼球をぎょろぎょろ動かせば、結構な確率で何かのどこかには当たる。

 

今も、耐えきれないほどの熱をレーザーにより与えられたミサイルがまぶしく輝く。

 

俺は即座にその輝きに複数の目を向ける。

 

集中した「視線」は濃い緑のレーザーとなり、ミサイルを強制的に爆発させ大きな輝きへ変えた。

 

「ケースさんは多少疲れていた方が調子が良いでしょう。実際、最近のわたくしの勝率は五割を切っています」

 

カノンの声は通信越しに聞こえるが、カノンの位置は把握できない。

 

「どこに隠れて……?」

 

俺は困惑して目をまたたかせる。

 

またたくタイミングを読み切ったようなタイミングで小型のミサイルが迫ってくるが、後退しながらレーザーを集中することで破壊には成功する。

 

「カノンお前、なんて艦に乗ってやがる」

 

操縦室や推進機や跳躍機関などの最低限の要素に、一度撃てば終わりのミサイル発射塔をハリネズミのように大量装備した、巡洋艦サイズの艦だ。

 

ミサイルが模擬戦用だとしても、まぐれ当たり一発で爆散しかねない軽防御艦だ。

 

そのさらに背後にあるのは、万一に事故に備えて展開中の小型艦……トラクタービームと対空砲しか搭載していない救難艇の群れだ。

 

いや、救難目的にしては多すぎるような気もする。

 

大部分が観客かもしれない。

 

「これはこれで機能的ですよ」

 

おそらくあえて俺に発見させたカノンが、俺の視界にあった発射塔全てからミサイルを発射する。

 

その加速はかなりもので、しかも個々の軌道が俺の艦を包囲する形になる容赦のないものだ。

 

俺は、避けにくそうなミサイルにだけレーザーを集中する。

 

そのミサイルは、俺が最初に撃墜したミサイルより明らかに頑丈で、熱への耐性も高い。

 

「完全に読まれたか」

 

「お互い様ですっ」

 

カノンの悔しげな声が俺の耳に届く。

 

猛烈なミサイルの弾幕の影に隠れて加速したカノンの艦の一点に、複数のレーザーが命中している。

 

「たまたまだ」

 

カノンは返答の代わりに、残りのミサイル発射塔の向きを変える。

 

その反動で艦の向きが代わって俺のレーザーの狙いがずれる。

 

カノンは残ったミサイル全てを発射すると同時に発射塔全てを放棄する。

 

推進機と跳躍機関が健在なまま軽くなったため、カノン艦の加速は俺の予想の上限を少し上回っていた。

 

「クソっ」

 

追撃は不可能と判断。

 

サーフボード型に鋭角的な進路でミサイル弾幕を回避させながら、眼球型砲塔の八割をミサイルの迎撃にまわす。

 

艦載コンピューターの補助があるとはいえ、機械人間や専用の体を持たないAIの補助なしで目標選択とレーザーの割り当てを決定するのはかなりの負担だ。

 

「カノンはどこにっ」

 

これまでの戦闘から、今回のカノン艦の性能を予測する。

 

防御が薄いなら加速は向上するが、それだけで勝てるほど俺もサーフボード型も甘くはない。

 

俺は、ミサイルに対する迎撃は最小限にして位相障壁へのエネルギー供給を増やす。

 

直撃コースのミサイルを躱したと判断した直後に、爆発したミサイルの破片が位相障壁へ次々衝突する。

 

模擬戦用なので破壊力は低い。

 

ただし実戦用ミサイルの場合の被害は、艦載コンピューターが計算してディスプレイに表示してくれる。

 

「きついな」

 

これが実戦なら、位相障壁には複数の穴が開いて船体装甲もぼろぼろだ。

 

「こんな奴に襲われたら逃げようとしても逃げられないから、模擬戦の状況設定として間違ってはいないんだが……」

 

列強にカノンと同じかカノンより上のパイロットなんているのか?

 

いても数人だと思うんだが。

 

鋭い刃物が首筋をなぞったような感触があった。

 

俺は俺自身の直感に従い、五感を戦場に向けたまま、感覚としては斜め後方へ「一歩」跳び下がる。

 

その直後、酷く濃い緑のレーザーが、直前まで俺がいた空間を貫いた。

 

「おい待てカノン! そりゃ実戦用の出力だろ! 俺を殺す気か!」

 

殺し合いになるなら確実に殺すつもりで、これまでミサイルに向けていなかったレーザー砲塔で狙いをつける。

 

すさまじい高速で移動し、出力を極限まで高めたレーザーキャノンを一基だけ搭載した骨組みじみた艦が、加速を止めて位相障壁を展開する。

 

この艦、ミサイルを撃ち尽くすと印象が別物になるな。

 

「艦の不具合です」

 

カノンは目を逸らさずに謝罪する。

 

『事実ではあるが、カノン議員が限界ぎりぎりまで高出力にしたから発生した不具合だぞ』

 

観測機材を満載した艦で審判を担当している元ハカセが、頭痛をこらえる仕草をしながら言う。

 

元ハカセもアニメを見て影響を受けているのかもしれない。

 

「カノン、お前って奴は……」

 

カノン艦のレーザーキャノンのチャージ状態を予想する。

 

決着がつくまで、カノンが戦闘を止めるわけがないという確信がある。

 

「謝罪はしますが手加減はしません」

 

カノン艦のレーザーキャノンによる短時間のレーザー照射で、船体装甲の一部ごと跳躍機関一つと推進機一つが破壊されれる。

 

物理的には無事なんだが、機能停止と判定されて実際に機能が停止している。

 

カノンの攻撃と同時に俺の反撃もカノンに届いている。

 

俺のサーフボード型が使えるのはレーザーであり、照射可能時間は長いが時間あたりの威力は低い。

 

加速力が低下して動きもふらつき始めた機体でミサイルを躱しながら、俺はしつこくカノンの操縦室を覆う船体装甲を狙う。

 

その数、半数以上。

 

模擬戦用に出力を落としたレーザーでも、これだけ数が集まると排熱が追いつかないはずだ。

 

射撃ほどではないが操縦も巧みなはずのカノンが、照射箇所を変えるための向き変更に恐れがまじる。

 

「どうしたカノン。まるで怯えているみたいじゃないか」

 

言葉は穏やかに、声にはねっとりした煽りを込めるのがポイントだ。

 

通信ごしに見えるカノンの表情が、微笑みのまま凶悪なものに変わる。

 

「模擬戦でよかったな」

 

「このっ!」

 

カノン艦の方向変更もレーザーキャノンによる狙いも、怒りで我を忘れているとは思えないほど見事なものだ。

 

だが、カノンに動きを読まれている代わりに、カノンの攻撃と回避の癖を知っている俺の前では大きすぎる隙だ。

 

ミサイルの迎撃を止めて全てのレーザーをカノンの操縦室に集中。

 

ミサイルによる俺の艦へのダメージが限界に達するより早く、実戦ならカノンが焼き殺されたと判断した艦載コンピューターが敗北を認める信号を発した。

 

  ☆

 

「姉さん、ケースさんも」

 

宇宙港で出迎えたドローンは、怒り狂った結果の笑みに見える表情をしていた。

 

「相討ち狙いみたいな戦い方は止めて下さいと、毎回言ってますよね」

 

「結果的にそうなっただけだぞ」

 

「そうですよ」

 

俺もカノンが誤魔化そうとするが、ドローンの笑みが深くなるだけで怒りはおさまらない。

 

「ナニー、姉さんを二日休養させて。実戦も模擬戦もなしで」

 

『『はい、弟様。カノン様、こちらへ』』

 

普段は秘密警察込みの警察の統括をしているナニーが、有無を言わずカノンを運んでいった。

 

「ケースさんは、後でメモリさんに叱られて下さい」

 

「うっす」

 

俺は横から相棒に抱きつかれていて身動きできない。

 

普段より熱い体温は、相棒の思考が安堵や怒りで高速化して、その分熱が出ているのだろう。

 

「……座って下さい」

 

いつもならステージがある区画で話すんだが、本来のステージはまだ回収できていない。

 

相棒に運ばれる俺は、ドローンに誘導されて会議室の一つに運び込まれた。

 

「ケースさん。報告は受け取っていますが、戦場で気になったことはありますか?」

 

「範囲攻撃兵器……位相崩壊砲か。あれを全く見なかった」

 

「開発が難航していると考えるのは楽観的すぎますね」

 

「ああ。水国は、惑星破壊犯に含まれる技術者から情報を得ているだろうし、陽国もステルス艦で鋼国艦の残骸を盗んでいる可能性大だ」

 

俺の言葉を聞いて、ドローンは大きなため息を吐く。

 

「僕らの時代の地球をこれほど理性的と感じるようになるとは思いませんでしたよ。この宇宙なら、位相崩壊砲の数が揃い次第、条約を無視して使用が始まりますね」

 

「条約がないなら生産が開始してすぐ実戦投入されるだろうから条約の意味はある。たぶんな」

 

俺は、位相崩壊砲の使用を一部とはいえ制限する条約発効までこぎつけたドローンを慰める。

 

「そっちの状況はどうだ」

 

「この戦争でものになりそうな通常艦は、姉さんが乗ったものだけです」

 

「死に易さを除けばいい艦かもしれんが、あんなの誰が考えたんだよ」

 

「姉さんの妹たちの一部が、学校の自由課題として提出したものの修正版です。地球のコンテンツの影響を受けていますね」

 

「聖女が帰郷するときには、著作権者への賠償と使用料を持たせるべきかね」

 

俺にとっては帰るつもりのない田舎だが、侵略する気はもちろん、壊す気もない。

 

ある程度の配慮は必要だろう。

 

「それは人間が生きて地球に到達できてから考えましょう。……次に弩級艦の件です」

 

俺は、相棒の背中と髪をゆっくりと撫でながらシリアス顔で頷く。

 

「どうやりくりしても、既にある弩級艦を修理するのが精一杯です」

 

契国は列強としては新参も新参なので、富も物資も蓄積が少ない。

 

有能な機械人間は多いが、膨大な物資が必要になる弩級艦建設は、とても苦手だ。

 

「今後、位相崩壊砲が気軽に使用されるようになる前に、星系外からの範囲攻撃なら回避できる居住地は作れるか?」

 

「また無茶なことを」

 

ドローンは呆れた表情になるが、俺の意見をその場で切り捨てはしなかった。

 

「ハカセに検討させます。あれが本格的に使われはじめたら、今のままでは安全な場所がなくなりますからね。弩級艦を新造するつもりでナイアTECに依頼した大型パーツが余っていますから、それが使えればいいのですが」

 

「すまんが頼む。……本当に申しわけないが、ストとの交渉も任せる」

 

「そちらは出来レースのようなものなので構いませんよ。お互い譲歩できる範囲は分かった上で、ケースさんの黙認もありますし」

 

相棒が主導で開発中のパーツを、大口から小口まで含めた出資者が「早く使わせろ」と言ってるだけともいえるからな。

 

『僕らの子のパーツぅ……』

 

相棒を慰めるのに、丸一日と全体力が必要だった。

 

  ☆

 

今回、俺が率いている艦隊には、弩級艦も跳躍支援艦も存在しない。

 

だから速くはないんだが、俺たちが襲う予定の火国艦隊と比べれば少しだけ速い。

 

弩級艦は強いが、速さはないのだ。

 

「隊列を組むまで主観時間で七分か。よくやった!」

 

ハリネズミのようにミサイル発射筒を装備した新型艦が約百隻に、護衛のサーフボード型巡洋艦が二十九隻。

 

そのうちの一隻には相棒と俺が乗っている。

 

『星系内を移動中の火国弩級艦三隻を確認。護衛艦隊は重装甲の艦が主体みたい』

 

俺は相棒に目で礼を言う。

 

「喜べお前ら! 近付いてミサイルをばらまいてから帰ってくるだけの低難易度作戦だ。こんな作戦で失敗したらカノンが悲しむぞ」

 

泣くのではなく、静かに悼んでからすぐに気持ちを切り替えるのだろうが、わざわざ口にはしない。

 

大勢の志願者の中から能力で選抜された新しいカノン妹たちは、初期のカノン妹より操縦技術は劣るが士気は負けていない。

 

「カノン妹は敵の護衛は無視しろ。では作戦開始!」

 

サーフボード型を先頭に、ハリネズミ型巡洋艦がゆっくりと加速していく。

 

気付いた火国艦隊から質量弾やミサイルによる迎撃が飛んでくる。

 

カノンのような非常識な命中率ではないが、肉人間パイロットの基準でもかなり高レベルの射撃と狙いだ。

 

しかしこちらには、対空と対艦の両方が可能なレーザーが山盛りの巡洋艦が三十隻近くいる。

 

速度はハリネズミ型にあわせ、十分に狙った上で複数の艦で狙って質量弾もミサイルも打ち落としていく。

 

『マスター、発射予定地点まで主観時間で後二十秒』

 

「今から射撃を開始する。外れても構わないから、時間内に、味方に当てないよう気を付けてミサイルをぶっ放せ!」

 

フライング気味に発射した艦もいたし、のろのろとしか表現しようのない速度で発射した艦もいた。

 

狙いの精度も様々だったが、誤射だけは発生しない。

 

使い終わった発射筒も、味方を巻き込むことなく敵の反対側に投棄されていく。

 

『マスター、何割当たると思う?』

 

「一割でも並の肉人間パイロットの十倍だ。参加したカノン妹全員にボーナスと、延命治療への研究費増額もしてやるさ」

 

カノン妹たちの予想寿命は、最初と比べて三年ほど延びている。

 

今、敵艦隊とミサイル群が交差した。

 

ここから見えるほどに対空攻撃が激しく、しかしミサイルの爆発が発生したのは火国弩級艦かその至近ばかりだ。

 

『命中率、推測で二割未満、一割以上』

 

相棒は呆れ、俺は口笛を吹く。

 

「ハリネズミ型巡洋艦の進路は予定通りだ。今から加速を始めろ。宇宙港で艦から降りるまで気を抜くなよ」

 

ミサイルと発射筒が全て消えたので、この星系に侵入した直後とは別の艦のように身軽で加速力がある。

 

火国艦隊から、艦隊の規模と比べて少数のフリゲートが報復に来ているが、ミサイルを撃ち尽くしたハリネズミ型には追いつけない。

 

「サーフボード型は、ハリネズミ型の最後尾で敵からの質量弾とミサイルを防ぐ。油断するなよ」

 

俺を除けばサーフボード型のパイロットは皆機械人間で体力は実質無限、技術だって並の肉人間を越える。

 

凶悪な加速で迎撃に向いた距離と向きを確保し、余裕をもって油断なく敵の追撃を物理的に粉砕する。

 

「敵が本格的に連合を組む前に、できるだけ削りたいもんだな」

 

俺が通信を使わずにつぶやくと、相棒が静かに頷いていた。

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