AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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身代金は蜜の味

『船倉をスキャンされたよ! 位相戦闘を開始……します』

 

相棒の言葉を、俺は操縦室に吊り下げたハンモックの中で聞いた。

 

「どういう状況……くそっ、濃いコーヒーが欲しいな」

 

操縦席に座って計器とディスプレイから情報を読み取る。

 

「待ち伏せじゃなくて遭遇戦? 運が悪いな」

 

敵は戦艦二隻に巡洋艦一隻。

 

フリゲートとしては大型とはいえ「マザーボード」一隻を襲うにしては過剰戦力だろ。

 

相棒から操縦を引き継いで逃走を継続すると、じりじりと敵船との距離が短くなっていく。

 

「速いな」

 

『敵船の射程に入るまで主観時間で後二十三秒』

 

「敵船の画像をこっちのディスプレイにくれ。……外見は普通の戦艦だな」

 

宇宙MMOで使われていた戦闘艦の設定……現実になった今なら設計か。

 

ともかくそれを思い出して、敵船の性能にあてはまる設計を探していく。

 

「船体装甲を限界まで薄くした速度特化設計?」

 

『計算完了。その推測が正しい確率は八割』

 

「ありがとう。……この設計なら、同額の金でPvP用の艦隊をフル装備で作れるぞ」

 

フリゲートで火力と移動妨害と攻撃妨害を全て揃えた艦隊が組める。

 

そっちの方がよほど強いだろうに。

 

『撤退を推奨?』

 

「近くに所属不明船がいないか確認してくれ」

 

『主観時間で二十秒以内に到達可能な範囲にはいない』

 

これは罠か?

 

でも罠じゃないなら美味しいんだよな。

 

とりあえず話してから決めるか。

 

「おいそこの三隻。人の船の腹を探って追いかけてくるなんて、下品な趣味をしてるな」

 

「声が震えているぞおっさん。降伏すれば操縦室だけは残してやるぜ。操縦席のパーツは全部剥ぐがなあ!」

 

下品な笑い声が三人分、俺の耳に届いた。

 

『徹底抗戦を推奨!』

 

「了解!」

 

フリゲートという身軽さを活かして進路と「マザーボード」の向きを変える。

 

二隻の戦艦の下方をすりぬけるような形になる。

 

相手は下品で知恵は足りないかもしれないが、戦慣れはしているようだ。

 

当たれば船体装甲を貫きかねない威力のレーザーが次々に飛んでくる。

 

「照射したら光速で飛んでくるはずなのになんで肉眼で見えるのかねぇ」

 

位相戦闘の理屈は本当によく分からない。

 

『船体装甲が最大値の五割まで減少しました』

 

さすが戦艦。

 

速度のために他の性能を削りまくっているのに攻撃力は特大だ。

 

「ロックオンは敵巡洋艦に限定」

 

『敵巡洋艦にロックオンまで主観時間で後七秒』

 

ロックオンがここまで早いってことは、巡洋艦は回避のための動きを全くしてなかったってことか。

 

敵戦艦との距離が急速に広がっていく。

 

『船体装甲が最大値の三割まで減少しました』

 

十分距離が離れたから、敵のレーザーによる被害は激減する。

 

そして、大質量を高速で飛ばしている敵戦艦は、向きを変えて俺たちに追いついて来るまで時間がかかる。

 

「敵増援に対する警戒を最優先に。その次に敵巡洋艦の調査を」

 

ディスプレイに、光学を含むセンサーで調べた情報が表示される。

 

「こいつも船体装甲が薄いな。味方の情報支援をする艦としては悪くはないんだろうが」

 

『船体装甲が最大値の二割まで減少しました』

 

『本船の機能に影響なし』

 

迎撃のレーザーは戦艦のレーザーと比べると貧弱だ。

 

もちろん、攻撃を受け続けるとマザーボードが爆沈する。

 

『ロックオン完了』

 

「撃破優先で攻撃」

 

緑の閃光が敵巡洋艦の下部から上面を貫通する。

 

数秒して小さな爆発が船体に空いた穴の周辺に複数発生して、装甲の一部が外れてそこから操縦室が飛び出した。

 

『敵巡洋艦の所有権が本船のパイロットへ移行します』

 

『敵戦艦の射程に入るまで主観時間で後十三秒。訂正。後二十秒』

 

敵の戦艦の動きが鈍くなっている。

 

「センサーだけでなくお高い支援装置まで巡洋艦に載せてたのか」

 

金がかかる割にあまり強くなれない設計なんだがな。

 

俺は戦艦だけでなく、低速移動中の操縦室にも回線を繋ぐ。

 

「犯罪者ども! 今俺、あんたらの装備に狙いをつけてるんだが、身代金いくら払えるのかなー?」

 

いつでも逃げられる速度で旋回しながら、漂流する巡洋艦にロックオンを続ける。

 

逃げるならこの巡洋艦は持っていけない。

 

だから、身代金をもらえず敵の手に戻るくらいなら壊してしまった方が良いよな?

 

ケッケッケ、と意地の悪い笑い声が漏れてしまった。

 

「この外道が!」

 

「その船を買うのにどれだけかかったと」

 

『レーザーキャノン冷却完了まで主観時間で後五秒』

 

身代金は、大変美味しかった。

 

  ☆

 

『やっぱ人型ボディの方がよかったかなー』

 

積み荷の受け渡し場所である宇宙港で、相棒は新しい体を堪能している。

 

三頭身で横にも広い体格で、背中にはリュック状の外付け動力を搭載。

 

立体映像のときと見た目はずいぶん違うが、美声と元気さだけは変わらない。

 

「そりゃ結果論だろ」

 

俺は俺で忙しい。

 

やるべきことが決まっている手続きはAIである相棒の方が圧倒的に早いが、このSFじみた世界でも「直接に人間が関わらないと礼を失したことになる」ことは多い。

 

相棒も機械人間って種類の人間らしいから、相棒も挨拶とか営業とかを俺と分担してくれないかね……。

 

「しかしあの連中は何だったんだ? 相棒は何か分かるか?」

 

『知らなーい』

 

相棒は、短い手足を使ったキレのあるダンスをしている。

 

俺は発注予定の巡洋艦の設計図の修正を中断して、フライトレコーダーから敵パイロットのIDを読み取りその経歴を検索する。

 

「五年間コピー不使用!? 凄腕じゃないか」

 

パイロットが死ぬタイプのMMOなら、五年も同じ体を使い続けるなんて怪物だ。

 

俺なんて週に十体くらいレーザーで焼いて、六体くらいミサイルかレーザーで焼かれてたぞ。

 

『マスター、何見てるの?』

 

相棒は高速回転しながら器用に俺の膝の上に尻から着地する。

 

柔らかく、それ以上に強烈な重みに「ぐへっ」と口から悲鳴が漏れた。

 

『僕重くないのにー』

 

「頑丈さ優先の体だから重いだろ。……それが前回戦った連中の経歴だ。何か分かるか?」

 

『活動開始時に十人いて、三人が更新料を払えず売却済み。四人が寿命までのパイロットライセンス更新料を払って活動休止。残った三人で今も活動みたい』

 

「三人でPvP……略奪有りの活動か。仲間を新しく増やす気がなかったのか、それとも……」

 

よく分からないが、とても嫌な予感がした。

 

『何度か新規メンバーを加入させたけど、そのたびに詐欺にあって結局三人でいくことにしたみたい』

 

メモリは連中の長い経歴を短時間で読み取り、要約してくれた。

 

「……そうだ。詐欺もスパイも裏切りも、この世界のノリがPvPメインのMMOなら当たり前の戦術だ。俺は、今までなんで忘れていたんだ」

 

楽しむあまり生き残るために最も重要なことを失念していた自分自身の愚かさに、恐怖を感じた。

 

『大丈夫だよ! 僕に投資しまくれば、僕も位相戦闘中でもうまく操縦できるようになるから!』

 

「相棒を信頼してるが頭数が足りないよ」

 

巡洋艦の時点で僚艦は是非欲しいし、戦艦を運用するなら各種フリゲートも一隻ずつ欲しい。

 

「連中が値段の割に弱い船を使っていたのは、パイロットの数の少なさを装備で誤魔化すためか」

 

まずい。

 

本当に明日は我が身だ。

 

俺も人並みのコミュ力は持っていると思うが、裏切っても特にペナルティのない世界で忠実な部下や友人を得られるほどのコミュ力はない。

 

焦りながら複数のディスプレイを見ていると、これまで無意識に無視していた日本語に気がついた。

 

どれも星系内への無差別発信だ。

 

助けを求めるメッセージに、仲間を募るメッセージに、荒唐無稽な野望を語るメッセージ。

 

「この宇宙の常識に染まる前ならいけるか?」

 

連中が本当に日本からの転生者なのか、二十一世紀前半の日本人の記憶を持たされたコピーなのかは分からないしどうでもいい。

 

重要なのは、連中の中に一般的日本人の価値観を持っている奴もいそうだってことだ。

 

『マスター、わるいこと考えている顔してる』

 

「人聞きが悪いな。俺は真っ当な商人だよ」

 

日本人基準で真っ当かどうかは、ちょっと自信がないけどな!

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