AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
敵第二集団はまだ遠く、弩級艦以外の艦の数はよく分からない。
「先生! 敵弩級艦が位相崩壊砲をこっちに向けてます!」
カノン妹が元気に報告する。
『この距離だと細部までは分からないんだよね』
「相殺用の攻撃を準備しておくか」
相棒も俺もカノン妹を信用している。
カノンに近いパイロットとしての優れた才能と、AI時代に蓄えた豊富な知識と、戦闘と勝利に対する強烈な欲まで持っている。
「あたしも撃ちたい!」
「艦載機で襲撃したいです!」
ただ、やる気がありすぎるので、手綱を握れる奴がいないとあっという間に戦死者が大量発生しそうな怖さがある。
「陽国の連中、カノンの守りの堅さに気付いて諦めたか?」
カノン妹の進言を聞き流しはしないが、キーボードで拒否の信号を送っておく。
『この艦にマスターが乗ってることに気付いたんじゃないかな』
相棒は、口頭で俺と会話しながら、通信でカノン妹のナビAIに情報伝達しているようだ。
「敵、はっぽう!」
「全部うってる!」
カノン妹たちが騒ぎ出す。
慌てると口調が幼くなるのはこいつらのクセだ。
個性を獲得するためにわざとやっているんじゃないかという疑いもあるが、戦場以外ではしっかりしているので個性の範疇だろう。
『位相崩壊砲の範囲攻撃だけ暗くして表示するよ』
戦場を翻訳して映し出しているディスプレイが、半分ほど真っ白になっていた。
「あいつら馬鹿じゃないか」
位相崩壊砲を「連射」ではなく「連続」で使用している。
俺が乗る弩級艦一隻を撃ち落とすのが目的だとしたら、過剰すぎる破壊力だ。
しかも、今から限界まで加速しても躱せない、とてつもない広範囲に白い閃光を撒き散らしている。
『それだけマスターを怖がってるとか?』
相棒は誇らしげだ。
評価してくれるのは嬉しいんだが……。
「メタを張られたら勝てないんだがな」
俺は、範囲攻撃の濃淡からこの攻撃を計画した人間のクセを推測する。
これだけ手数が多いのに当てようとしている。
俺がこいつの立場なら、ここまで位相崩壊砲を使うなら、敵がどんな行動をとっても確実に落とせる使い方をする。
少なくとも「ここへ誘導して仕留める」などという小賢しい真似など絶対にしない。
「これでいこう」
白い壁じみた白い閃光が迫ってきてようやく、俺は位相崩壊砲による相殺目的の攻撃を開始した。
攻撃範囲は俺たちの弩級艦が通れるだけの広さがあれば十分だ。
宇宙空間に広がる膨大な破壊力の極一部だけを相殺しながら、俺は陽国の弩級艦とすれ違う進路で弩級艦を加速させる。
「とつげき!」
「すごい!」
カノン妹がはしゃぎだす。
ストレスに耐えきれなくって現実から目を逸らしているのではなく、命の危機が至近にあるのに楽しめる心境に至ったのかもしれない。
『マスター。カノンが増えたみたい。肉の体って、ここまで心に影響するんだね』
「環境が悪いだけかもしれないぞ」
俺の言葉にも声にも説得力はなかった。
『マスター、そろそろだよ』
相棒の冷静な声で、俺の心も切り替わる。
艦の周囲は相変わらず範囲攻撃で満たされている。
位相跳躍難易度は爆発的に上昇中ではあるが、位相戦闘が不可能になるまで後数分は大丈夫そうだ。
「こっちの位相崩壊砲の状態は」
『全力稼働させても三十秒は大丈夫。一分後には艦ごと範囲攻撃に巻き込んで爆発する、多分!』
「十分だ」
俺は、相殺を担当する位相崩壊砲へのエネルギー供給と、推進機と跳躍機関へのエネルギー供給を二段階ほど一気に上昇させた。
「てきほうげきとっぱ!」
「いっぱい!」
契国侵攻艦隊第二集団は、陽国弩級四隻とその護衛艦隊からなる巨大艦隊だった。
弩級艦の内訳は、空母型弩級艦二隻と、位相崩壊砲を多数搭載した弩級艦が二隻。
前者は戦場で見たことがある艦で、後者は今初めて見るだけでなく、これまで一切情報がなかった艦だ。
『マスター、護衛艦隊は戦艦七、巡洋艦九、フリゲート三十数隻!』
弩級艦の規模と比べて異様に少ない。
列強である陽国も、位相崩壊砲の開発と弩級艦二隻の新造と戦線投入のために無理をしたのかもしれない。
「これより本艦は敵空母型に対し突撃を開始する。艦載機を発進させろ! 艦載機の目標は実相アンカーのみだ。どの艦に実相アンカーがあるかは戦いながら判断しろ!」
無茶苦茶な命令なのに、カノン妹たちは嬉々として命令に従い、たった五機の艦載機をあっという間に発進させる。
「フリゲートが突っ込んで来ないな」
実装アンカー非搭載型でもフリゲート三十隻で体当たりを仕掛けられたら、敵弩級艦と戦う前に大破確実なんだが。
『範囲攻撃を正面突破されるのが予想外だったのかも』
艦載機が極太の緑レーザーを放つたびに、フリゲートが一隻、位相障壁を砕かれ船体装甲ごと中身を焼き切られて爆発四散する。
敵巡洋艦は高速と大きさを活かして陽国弩級艦への接近を邪魔する位置へ移動し、敵戦艦は優れたパイロットによる正確な狙いで俺たちの弩級艦を狙い撃つ。
『敵巡洋艦との接触まで、主観時間で後五秒……衝突!』
衝突の数秒前から、こちらの位相崩壊砲を進行方向へ固定して連続使用を開始する。
陽国らしく重装甲の巡洋艦が、薄い紙でできたハリボテだったかのように弾けて散り、その微かな残骸を押しのけて俺たちの弩級艦が進む。
「やったー!」
「いれくいー!」
五機の艦載機は、弩級艦の後方で人外の高機動を見せつけながら近づいてくる敵艦載機とフリゲートを狙い撃っている。
ロックオンして撃つなら絶対に不可能な頻度で撃ち続けているので、おそらく目視と先読みと艦で当てているのだろう。
『連続使用開始から二十秒経過!』
艦の右側の推進機だけを使って強引に進路を変更。
位相崩壊砲搭載弩級艦を守るために急行してきた空母型弩級艦二隻が予想進路上に。
俺は弩級艦に最後の加速をさせる。
気付いた敵弩級艦と敵艦載機が猛烈な迎撃を行うが、範囲攻撃に相殺されるだけで俺たちを止められない。
そして衝突する。
こちらの弩級艦の質量ではなく弩級艦が撃ち続ける範囲攻撃が、二つの陽国弩級艦をえぐり取るように貫いた。
『マスター、艦のあちこちが滅茶苦茶! 船体装甲も位相崩壊砲もあちこち吹っ飛んでるけどどれが吹っ飛んだか分かんない!』
「進路は今のまま固定する。生き残った位相崩壊砲を陽国の艦隊に向けろ!」
俺の操縦席からの操作では、四分の一の位相崩壊砲すら動かせなかったので相棒に頼む。
『駄目! もうどれが暴走してもおかしくないっ!』
「んにゃー!」
「おちた……」
弩級艦を盾にできなくなった艦載機が次々にレーザーの集中砲火を浴びて破壊されていく。
破壊された艦載機担当のカノン妹が猛烈に落ち込むので何機無事だが分かり易い。
艦載機は残り一機。
陽国の弩級艦も艦載機もそれ以外も半減したが、正面から立ち向かうには絶望的すぎる戦力差だった。
「そろそろだと思うんだが」
後数秒で死ぬかもしれない状況でも、俺の頭の芯は奇妙に冷静だ。
『司令! 陽国の偵察ドローンはだいたい落としましたけど、そっちは大丈夫ですか?』
聞き慣れた機械人間の声が通信で届く。
『今から全員サーフボード型で向かいますが、主観時間で二分はかかります』
「連絡ご苦労。後は運任せ……いや、カノン任せか」
俺が言い終える前に、白い閃光がこれまでとは異なる方向から現れた。
俺たちの宇宙港がある場所からの攻撃だ。
気付いた陽国艦隊が回避や相殺を試み、俺たちを狙う攻撃の数が激減する。
「もう、こんな綱渡りはしたくないな」
陽国の生き残りの弩級艦二隻に、カノンの超遠距離狙撃である範囲攻撃が突き刺さり、膨大なエネルギーを生み出す動力を破壊されて機能を停止させられる。
『カノン妹も、カノンみたいに射撃が上手になるのかな?』
戦慄する相棒の声は、カノン妹たちの爆発的な歓声にかき消されるのだった。
☆
「全員います!」
宇宙服を着込んだカノン妹二十人が、大型の操縦室の中で四列に並んでいた。
「よし」
俺は、実際に二十人いることを確かめてから大きく頷く。
「この艦は放棄する。敵の追撃が来る前に艦の外に出て第一艦隊のサーフボード型に乗り移るぞ」
「先生、船外活動をするんですか? あたしたちはいいけど先生は危険なんじゃ……」
「操縦室ごと回収してもらうのはだめですか?」
カノン妹たちは、俺の命を最優先にしているわけではない。
生身の戦闘力や身体能力が低すぎる俺がお荷物になることを懸念している。
「サーフボード型は戦闘力に直接関係ない能力は劣悪だ。弩級艦に使うような大型操縦室は船倉に入らないし、トラクタービームを搭載しようとしたらレーザー砲塔をほとんど外すことになる。……諦めろ」
高性能ではあるが、設計に余裕がなくて改造も改善も難しい艦なのだ。
「はーい」
納得している感じはないが、俺の命令には素直に従ってくれた。
『マスター、船外活動、いける?』
「体力の維持はしているが自信はない。移乗が完了するまでは全権限を渡しておく」
『カノン妹の面倒を見るのは自信がないよ』
実は俺もあまりない。
なお、サーフボード型が近くに来るまでは陽国の艦隊相手の追いかけっこのつもりでいたのに、陽国からの追撃は皆無だった。
『マスター、跳躍難易度が酷い数値になってる。少しでも戦場から離れないと』
相棒が伝えて来た数値は、予想の倍近かった。
「メモリ様! 今、陽国の艦が一隻……今二隻消えましたっ」
カノン妹の一人が挙手しながら大声で報告すると、他の妹たちも別の艦の消滅を口々に報告し始める。
『僕は同時に言われても分かるけど、肉人間だと難しいから注意すること!』
「相棒、跳躍に失敗するとどうなるんだ」
『行き先を証明できたらハカセになれるよ』
「つまり現ハカセでも元ハカセでも分からない、と。怖いな」
サーフボード型が合流するまでに、半分近くの陽国艦がこの宇宙から消えていた。
☆
船外活動でサーフボード型巡洋艦に取り付き、機械人間の使用が前提となっている入り口から艦内に入って操縦室までたどり着く。
その時点で俺は疲れ果てていたが、敵の第三集団への攻撃に参加するつもりだった。
「撤退した?」
俺の言葉に、ドローンが通信越しに頷いた。
「第四集団がワンオ司令の艦隊に撃退された後、第三集団を構成する火国艦隊が停戦を打診してきました」
そのときの条件がARメガネに表示される。
開戦後に火国が制圧した星系は契国に返還。
他に細かな条件はあるが、相互非賠償と不可侵と通商が主な内容の条約だ。
「こちらに残った戦力を考えると、火国が譲歩しすぎか?」
「こちらのAIが使っているパーツに、火国が強い関心を示していました。火国は人体機械化技術が発展しているようですので……」
「これまで知覚できなかったものが知覚できるようになるパーツが、それだけ魅力的だったってことか」
時間経過で火国の技術力と国力が急上昇する可能性はあるが、戦力をほとんど失っていない列強が対契国戦から手を引く意味は非常に大きい。
「問題は他にもあります。現在のワンオ氏の艦隊ですが……」
ドローンは、言葉とデータで手短に伝えてくる。
「高速高加速のフリゲートのみで編成された艦隊?」
「はい。多数の艦隊を、ワンオ氏が弩級艦から指揮し、位相崩壊砲にほとんど出番を与えることなく撤退に追い込みました。この艦って、どう考えても対契国のための艦ですよね」
「俺たちにとって相性最悪の艦だな」
サーフボード型巡洋艦は速度と加速で負けているので追いつかれて戦闘を強いられる。
ハリネズミ型巡洋艦も、接近されるまでにミサイルで打撃を与えても、接近された少数の高速高加速フリゲートに甚大な被害を受ける可能性大だ。
唯一対抗できそうなのはカノンの砲撃だが、カノンが使った弩級艦は位相崩壊砲の使いすぎで大破に近い状態だ。
「現状を確認するぞ。鉄国と火国は損害軽微。水国と陽国は契国侵略に使った戦力がほぼ壊滅。契国は、パイロットは温存できたがミサイルなどの消耗品は底をついていて弩級艦も壊滅状態」
酷い状況だ。
リアル重視なSLGなら、投了して次のゲームを始める奴も多いだろう。
「いっそ、水国と陽国から資源の略奪でもするか」
俺がそう言うとドローンが考え込む表情になり、側にいる機械人間たちと猛烈な勢いで議論を行う。
「いける……か。ケースさん」
「ドローンに策があるなら任せる。位相崩壊砲による範囲攻撃相殺の影響で、俺が宇宙港まで戻るのに時間がかかりすぎる」
「はい。新規弩級艦開発の名目で改造した宇宙居住地を使います」
『契国国営放送総合ニュースの時間になりました。司会進行はわたくしアナウンサーが。解説はハカセです』
『俺がハカセだ!』
通信に使っているディスプレイの隅に、いつものニュースが表示される。
アナウンサーとハカセの背後には、岩塊じみた外見の、容量は特大だが攻撃力も防御力も皆無の弩級艦が映っている。
『先程、主星系防衛作戦の成功の宣言と、水国と陽国に対する侵攻作戦開始の宣言が同時に行われました』
『侵略というより略奪の方が実情に近いな! 容量特化型弩級艦の試験航海を兼ねて、両国の領域から資源を回収。その資源で新たな戦闘艦を建造するという作戦だ。まだ専用の体を持たないAIには最高の稼ぎどきだぞ!』
育成に時間がかかる通常の肉人間は極力使わず、機械の体を量産してAIに使わせることで労働力を確保する予定らしい。
二隻の容量特化型弩級艦に、専用の体を熱望するAIが、銀河中から集まろうとしていた。