AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
契国の陸上戦力は、各惑星からも各資源衛星からも撤退を終えた。
物資を満載した容積特化型弩級艦に最後に乗り込んで、初期船程度しかない速度と加速で略奪済み星系から撤退中だ。
「略奪者を逃がすな! 殺せ!」
「絶対に捕まえろ! 犯罪者は見せしめに、物資は復興に絶対に必要だ!」
複数の水国艦隊が俺たちを追いかけている。
速度も加速も素晴らしいが連携は最悪だ。
軽い暗号化しかされていないので、艦隊同士でもめている様子が簡単に分かってしまう。
「舐められてるのかね」
一隻一隻は高性能艦で熟練パイロットなんだろうが、数隻で突っ込んできても的にしかならない。
慣性だけを使って後退しながら全力で位相障壁を張る七隻が囮になり、ほぼ全エネルギーを加速に使った七隻が大きく迂回して敵の退路を断つ動きを見せて動揺させ、残りの十四隻が二手に分かれてレーザーにエネルギーを集中させる。
『マスター、油断大敵だよ!』
相棒の指摘は正しい。
通常の戦艦なら二、三秒で位相障壁が全壊する攻撃を撃ち込んでも、敵巡洋艦の位相障壁は弱まるだけで穴すら開かなかった。
「そうだな」
反省する。
敵の位相障壁は五秒目で全体が砕け、障壁とは逆に見た目倒しだった船体装甲が一秒ももたずに融けて内部のパーツにかかる。
艦のあちこちに小爆発を発生させながら、速度が落ちた敵主力艦がゆっくりと離れていった。
「次は慎重にする」
敵巡洋艦の陰に隠れる位置にいた駆逐艦サイズの船が、剥き出しの発射筒を大輪の花のように広げる。
レーザーを当てるなら減衰が厳しい距離だ。
俺は、敵艦の正面にのみ装甲が集中しているのに気付くと、すぐに攻撃を中断させる。
『マスター、見たことないミサイルだから気を付けて』
俺は、戦場を翻訳したディスプレイと、ARメガネに映し出される艦外カメラで撮影した映像を同時に見ながら、了解の信号を送る。
発射筒から一斉にミサイルが飛び出す。
ミサイルの側面についた推進器が、ミサイルの向きを俺が乗るサーフボード型を含んだ七隻へ変更させる。
「狙うのは少し手前だ」
他の六隻に指示を出しながら俺自身もレーザー砲塔へ狙いを指示する。
多数のレーザー砲塔が、完全に機械であるのに生き物じみた動きでぎょろりと動く。
「主観時間で一秒間撃ってから大きめに躱すぞ」
均等に割り振られた緑レーザー群が、当然のように全てのミサイルを撃破した。
しかし予想していた爆発は発生しない。
ミサイルから生じた輝くもやのような何かが、進路を変えず七隻のサーフボード型巡洋艦へ接近し続ける。
どうやら、レーザーで打ち落とすのは無理そうだ。
「新兵器ばかりだな」
艦が、真横に蹴飛ばされたかのように加速する。
操縦席が変形して俺の体を保護するが、強烈な加速で俺は情けないうめき声を上げてしまった。
『司令! 敵の残骸を回収します?』
『研究職に高く売れそうです』
『私、サーフボード型に新兵器を積みたいです』
俺の命令を完璧にこなした上での雑談なので文句も言いにくい。
「俺たちは味方の最後尾だ。うっかり撃墜されたらどうする。味方の救難艇に助けてもらえないぞ」
こいつらの練度は、ゆるやかではではあるが上がり続けている。
パイロットとしての価値は極めて高く、サーフボード型よりも貴重だ。
『司令、もったいなくないですか』
「欲をかきすぎると犬死にするぞ。……おかわりがきたぞ」
艦のセンサーが反応するより早く気付いたような気がする。
まあ、敵の大型艦の配置から無意識に推測しただけだと思う。
『マスター、今度は記録にある艦種だよ。実相アンカーが搭載されているフリゲートが二十隻以上!』
『司令、敵の高速巡洋艦も続いてます!』
『数は六、ではなく八!』
真正面から戦えば、サーフボード型二十八隻の何隻は中破するかもしれないが味方の戦死なしで勝てるとは思う。
ただし時間がかかる。
敵の戦艦群に追いつかれたら、火力的にはちょっと強い巡洋艦でしかないサーフボード型二十八隻など短時間で全滅だ。
「逃げるぞ」
一度決断を下せば後は速い。
部下たちも、敵に背を向けて逃走するときは操縦に専念する。
鋭角的に進路を変えて加速し、味方との合流を目指す。
巡洋艦の割に小さなサーフボード型は、レーザーも位相障壁も使わず加速すればかなりの速度になる。
味方との距離はみるみるうちに縮まり、しかし敵フリゲートとの距離はほとんど変わらない。
このままでは敵を味方のもとまで導くことになってしまう。
『マスター、いいの?』
「後はディーヴァに任せる」
俺は操縦を相棒に任せ、敵味方の配置が表示されたディスプレイへ目を向ける。
一番が操縦する容積特化型弩級艦は味方の跳躍支援艦と合流し、相変わらず遅くはあるが倍近い速度で契国の星系を目指している。
水国側はようやく艦隊同士で妥協が成立したようで、これまでとは違って連携が感じられる動きで迫ってきている。
そして、容積特化型弩級艦を背中に庇う形で水国艦隊に立ち塞がるのが、ディーヴァが率いる水上艦型戦艦群だ。
「これだけ敵味方の数が多い戦場では、俺が直接指揮するより官僚系の人材に任せた方がいい」
『でもディーヴァだよ?』
相棒はディーヴァを嫌っているが、今の言葉は悪意から発せられた言葉ではない。
ディーヴァには、パイロットしての才能が皆無なのだ。
「実際に操縦するのも操縦する奴に直接命令を出すのもディーヴァじゃないさ。規模を考えると、指揮というより統治かもしれん」
ディーヴァにとって本当につまらない仕事だろうが、この状況ではしてもらうしかない。
報酬として何を要求されるか考えると、正直頭が痛い。
『……陽国方面はドローンが総指揮をしてるんだよね?』
相棒の目の発光は、強くも弱くもない普通のものだ。
我慢させてしまっているな。
ステージの再建を急がねば。
「条件の良い星系は略奪せずに占領して本拠地を移転するつもりらしい。相棒に感謝してたぞ」
惑星がある星系は占領しない。
略奪した資源や星系内の資源を使って、惑星居住地と宇宙港を建設して主星系にする計画だ。
『僕やマスターより「地図」を有効活用してるよね』
「本当にな」
水上艦型戦艦群と水国の間で戦端が開かれる。
俺やカノンがしてきた「短時間で勝敗が決する戦い」ではなく、多数と多数で向かい合い殴り合う、個人技の影響が少ない戦場だ。
「操縦室で脱出しても回収は難しいか」
宇宙には空気抵抗がなく、慣性があるので、敵味方ともに移動しながら戦うことになる。
『マスター……』
寄り添ってくれる相棒が、あたたかかった。
☆
試作兵器まで投入したのに契国に逃げられた水国と、膨大な資源を得て艦の損害は少ないが被撃破の数と戦死者の数が同数の契国。
戦争としては契国の勝ちかもしれないが、契国はかなり厳しい状況だ。
星系の存在しない宙域で、俺は容積特化型弩級艦と合流して通信越しに会議を行っていた。
『マスター、積み荷の推定価格が出たよ』
「助かる」
俺が例を言って、ARメガネに表示された数字を読み取り、変な声が出た。
「見たことのない桁数なんだが」
『鉄国の商業星系でも滅多に見ない額だと思う』
歴史のある列強ってのは、すごいな。
容量特化型でしかも弩級艦とはいえ、一星系すべての略奪品を載せるには容量が足りない。
だから、体積あたりの価格が高い順から積み込んだ。
原材料は平凡でも加工に膨大なエネルギーが必要な合金とか、相棒が目標としている超高性能機体に必要な最高品質の記憶装置とか演算装置とか、高性能な跳躍機関に必須の超希少触媒とか、そんなものばかりだ。
「美術品や人間は傷つけずに残してるんだな」
『ケース様。国家の至宝を保護装置から取り出し、至宝を放置して保護装置だけを略奪するのは、極めて強力な挑発行為ではないでしょうか』
ディーヴァが、本当に言いづらそうな表情で発言した。
「戦闘艦や機体の材料にならない文化財なんて必要ないだろ。奪った代わりに元の持ち主から死ぬまで怨まれるのも面倒だし」
文化財保護のための装置は、かなり希少かつ有用な素材が多用されていたので略奪品としては最高の獲物だった。
『僕にはそのあたりのことはよく分からないよ。契国に置き換えて考えると、古代の映像作品が放送されなくなる感じかな?』
相棒の目の発光と点滅頻度は、特に興味がないときのものだ。
ディーヴァは困り顔で、相棒と俺を見比べる。
『……今、鉄国のワンオ司令から連絡がありました。数時間以内に水国主星系へ到達するそうです』
「ワンオ氏も無茶をする」
『マスター、まずくない? 鉄国が拡大しすぎると契国との同盟を一方的に破棄されるかも』
「そうなりそうなら、こっちから破棄して、水国首都星系攻略戦で戦力を消耗させたワンオ氏を襲う」
俺個人はワンオ氏に恩を感じているが、契国の生存と国益の方がずっと大事だ。
『マスター、戦うときはシロとクロに気をつけて。すごく長い間目立っているのに健在なAIは、たぶん、見えているよりずっと強くて危険な存在だよ』
目の光を見れば、相棒が戦う覚悟を決めているのは分かる。
その上で、最大級の警戒を行っているようだ。
「承知した。とはいえ」
俺は、相棒の「地図」を有線でディスプレイへ表示させてもらう。
「いくらワンオ氏とはいえ、奇襲攻撃で列強の首都を落とせる可能性は低いと思うぞ。そんなことができる人材なら、治安維持艦隊で現場仕事なんかせず、鉄国中枢で高官になるか、危険視されて粛清されてただろ」
『その推測は、おおよそ正しいと思われます』
このディーヴァの発言は、本音か俺に配慮した内容かよく分からない。
いずれにせよ、三人ともワンオ氏が負けるとは思っていない。
水国が首都を奪われるか、水国が鉄国相手に不利な条約を強要されると思っていた。
☆
水国と陽国での略奪で活躍した機械人間たちは、宇宙空間での建設作業でも大活躍していた。
肉人間より力強く、位相戦闘以外では思考の速度も圧倒的に速く、水や空気がなくても働ける彼らの仕事はとてつもなく速いだけでなく正確だ。
「ドローン、お疲れ。ここが新しい主星系か」
宇宙港に格納された艦から降りると、ドローンが出迎えてくれた。
「宇宙港はそのまま移設しましたから、暮らしていて不自由はないと思いますよ」
顔色は少し悪いが、ドローンの言葉は明瞭だ。
若い上に能力が高い奴は、すごいな。
「論功行賞の案はできています。ケースさんに異論がなければそのまま実行します」
「チェックはしたいが、数がなあ」
俺とドローンは、護衛に厳重に警備されながら、式典会場としても使われる大型会議室へ向かう。
「ディーヴァと第一艦隊のAIたちの論功行賞案は、確認することをお勧めします。……後で苦労するのはケースさんですよ」
「うっす」
案を見るときに、覚悟する必要がありそうだ。
『マスター、第一艦隊の二十八人は……僕らの子供用のパーツすべて購入権だって』
相棒の瞳が攻撃的に輝いている。
あいつらは、毎回すごく活躍して稼いだ金を、ほとんどパーツ購入にあてている。
契国契約国の研究職の頂点であるハカセでも苦労する金額を、おそらく一括で支払い可能だ。
『ディーヴァは……』
「メモリさん、それは後で。ケースさん、緊急です」
データを受け取った相棒の態度が、強い嫉妬から戦闘時の冷静なものに変わる。
俺は、ARメガネに表示されたものを見て絶句した。
鉄国の、ワンオ氏が座乗しているはずの弩級艦が、その巨体のあちこちに小さな穴が開いた状態で敗走している光景だ。
観測ドローンで撮影可能な限界の距離で撮影したものなので、画像はかなり粗い。
水国主星系がある方向から、位相崩壊砲による範囲攻撃が、一つ一つは小さいが無数といって良い数飛んで来ている。
弩級艦に外付けされた位相崩壊砲が連射して迎撃して相殺を行い、そのたびに位相跳躍が困難な空間が増えていく。
「ワンオ氏が敗走しました。これまでの戦いで、水国には戦闘可能な弩級艦はほとんど残っていないはずです。おそらく、水国が通常艦への位相崩壊砲搭載を始めたと思われます」
列強同士の大戦は、崖から転がり落ちるように破滅的な方向へ向かっていた。