AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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列強大戦終結

「第一目標は俺たちの生存。第二目標は生活水準の維持と向上だ」

 

評議員全員に対し、俺は今後の方針を説明する。

 

「ぶっ殺すのも、仲良くするのも、相手に従うのも、目標達成のための手段であって目的ではない」

 

今回は演技指導はなしだ。

 

国家元首として決断して実行してきた経験が活きていればいいなと、少しだけ思った。

 

「以上の方針をもとに議論を進めて欲しい」

 

『マスター、立派になって』

 

「ケースさんは最初から立派でしたよ」

 

相棒もドローンも、褒めてくれるのは嬉しいけど今は仕事を優先して欲しい。

 

「ケースさんが立派なのは緊急時限定だと思いますよ。普段は少し……いえかなり雑です」

 

カノンはそんなことを言っている。

 

カノンとドローンの後ろに控える二人の機械人間は、特に反応しないが同意の雰囲気を放っている。

 

『ケース様は常に立派です!』

 

今のディーヴァは政治家でも官僚でも聖女たちの代理人でもなく、パイロット志願の一人の機械人間としての態度だ。

 

彼女は評議員ではないが、評議員でもある聖女たちの代理人をずっと続けているので誰も文句は言わない。

 

「「「俺たちに国家戦略なんて分かるわけねーだろ」」」

 

久々に合流した凄腕パイロット三人組は、一人一個ずつ、合計三つ持つ議席について「白票」の設定にしてしまった。

 

「「「「「がんばります!」」」」」」

 

きりっ、と効果音が聞こえそうな真剣な表情をしているのは、この宇宙の倫理観の無さにまだあまり染まっていない少女たちだ。

 

真剣な表情のまま、自分たちの議席の分の判断はディーヴァに任せると宣言して、契国各所の慰問へ出かけてしまった。

 

「皆のやる気は分かったから、議論をだな」

 

俺がなんとか会議を進めようとすると、ドローンが困ったような表情で目をまたたかせた。

 

「既に方針が決まっているなら後は計算するだけですよ」

 

ドローンは、会議室の壁全体を覆うディスプレイを示す。

 

そこには、俺の目では読み取れないほど小さな数字と文字がびっしりと表示され、常に勢いよく変化し続けている。

 

『相棒』

 

「僕も専門じゃないから」

 

明後日の方向を向く相棒の目は見えないが、分からないから誤魔化そうという意図が感じられた。

 

数字と文字の変化の速度が低下する。

 

一部では、数字と文字の変化が止まってもいる。

 

ドローンの表情が真剣さを増した。

 

「元ハカセに質問します。修理中の弩級艦から位相崩壊砲を取り外してハリネズミ型巡洋艦にとりつけるのに、どの程度の時間が必要ですか」

 

『弩級艦の修理を諦めるなら今日中に五十隻。明日からは全て取り付け終わるまで一日八十隻だ。ところで、なんで私がここに呼ばれるんだ。こういうのはハカセの役目じゃないかね!』

 

ドローンは軽く礼をしただけで、元ハカセに対しては何も言わない。

 

「元ハカセはハカセよりエキセントリックじゃないからな」

 

俺が慰めたのに、ハカセはため息をついて排気した。

 

「ケースさん。ミサイルなし、位相崩壊砲ありのハリネズミ型が何隻あればこの星系を防衛できますか」

 

「水国が位相崩壊砲とその搭載艦の開発と量産に大成功した上で、全戦力を契国へ向け、占領ではなく殲滅目的と仮定するぞ」

 

『マスターって、計画を考えるときは悲観的な状況から考えるよね』

 

「戦いが始まった後は前しか見ないから最初くらいはな」

 

俺のARメガネに、仮想の戦場と敵味方の戦力が表示される。

 

ディーヴァの仕事だ。

 

水国は、ワンオ氏を敗走させたとはいえ多くの艦と資源を失っている。

 

予想される艦の数は、それほど多くはない。

 

「助かる。……俺たちが一番困るのが、主星系の宇宙居住地に同時に着弾するよう複数方向から大量の範囲攻撃をされることだ」

 

範囲攻撃より高速な艦なら、目標に近づきながら位相崩壊砲を使うことで位相崩壊砲の数より多い数の範囲攻撃が可能だ。

 

それを迎撃するのも大変だが迎撃してからも大変だ。

 

範囲攻撃の相殺は、位相跳躍不可能な……移動速度の上限が光速になって星間文明を維持できなくなる領域を一気に広げてしまう。

 

「これは、かなり死ぬな」

 

俺の頭では、厳密に敵味方の戦力を計算して戦いの展開を予測するなど不可能だ。

 

古代にPvPで得た知識と経験、そしてこの宇宙で得た経験を参考にして「だいたいこうなるな」と予測する。

 

「俺が参加した上でハリネズミ型を使い捨てる気なら七十隻。パイロットの待遇を現状のままにするなら倍は欲しい」

 

一騎打ちから小規模な艦隊戦までなら、機械人間による計算より俺の勘の方が正しいことが多い。

 

俺はこれから老化する一方で、機械人間は老いずに学習を続けるから、いずれは俺より正しくなるだろうがそれは今ではない。

 

壁ディスプレイの数字と文字が再び変化を始め、最初とは異なる数字と文字で停止した。

 

「ケースさんが直接関与した場合でも、その数が必要ですか」

 

ドローンの眉間にしわが寄った。

 

「わたくしには聞かないのですか、ドローン」

 

カノンが口を尖らせる。

 

心身ともに充実している美少女、というより、戦いを心ゆくまで楽しんでいる戦闘狂が放つ気配は強烈だ。

 

「姉さんはケースさんよりさらに直感型だから参考にならないんですよ」

 

「狙いをつけるときは計算していますよ?」

 

『カノン議員にとっての計算と、我々にとっての計算は高確率で違うものだ。予知か事象改変能力という説が今の有力説だよ』

 

元ハカセが、カノンの言い分に我慢できなくなって口を挟んでいた。

 

ドローンが軽く拍手をして注目を集める。

 

「今後、複数の展開がありえますが、どの展開でも鉄国との同盟は必須です。……ケースさん」

 

「分かった。後は頼んだ」

 

俺が立ち上がるより少し早く、相棒が立ち上がっている。

 

少し遅れて立ち上がろうとしたディーヴァは、ドローンによって「あなたの仕事はこっちです」と引き止められていた。

 

  ☆

 

敗走中のワンオ氏を助けに向かった俺たちは、水国ではなく陽国の遊撃艦隊の待ち伏せにあった。

 

陽国遊撃艦隊の編成は、戦艦四隻、駆逐艦八隻、フリゲート十六隻という様々な状況に対応可能な編成だ。

 

位相崩壊砲を搭載している艦は一隻もなく、列強の艦隊なのに個々の性能は平凡で外見も古びている。

 

そんな、サーフボード型が十四隻もいれば簡単に殲滅できる相手に、俺は窮地に陥っていた。

 

「頑張れ俺の筋肉!」

 

慣性制御装置でも消しきれない重さに耐えるため、俺は全身の力を振り絞る。

 

ロックオンを完了した戦艦からの質量弾が、俺のハリネズミ型が展開する位相障壁に直撃する。

 

巡洋艦としては平凡以下の位相障壁は消滅こそしないがひび割れた上に消える寸前まで薄れ、巡洋艦としては極薄ですらある船体装甲が剥き出しになる。

 

だが耐えた。

 

ただ距離をとるだけでなく複雑怪奇な回避運動を行うことで、敵からの被弾確率を徹底して低下させる。

 

『被ロックオン解除! でも後ちょっとで別の艦にロックオンされそう!』

 

「畜生っ! 推進機の配置はもうちょっとどうにかならなかったのか!」

 

レーザーキャノンの代わりに取り付けた位相崩壊砲は、巡洋艦が装備する武器としてはかなり大型だ。

 

取り付けの際に邪魔になった推進機や跳躍機関が別の場所へ移され、その分、移動の際の効率が低下してしまっていた。

 

『短期間で設計して短期間で量産した艦に、本来搭載されないはずの兵器を積んだのだ。称賛されることはあっても逆はないと思うがね!』

 

俺に対して文句を言う元ハカセは、敵フリゲート十六隻と敵駆逐艦八隻に襲われている位相跳躍支援艦の中にいる。

 

位相跳躍支援艦は、大きさは戦艦並だが防御力も回避能力も低い。

 

四隻しかいないサーフボード型が多数のレーザーを放って質量弾と敵フリゲートを迎撃。

 

後方にいるハリネズミ型十数隻が、出し惜しみせずミサイルを全弾発射し敵駆逐艦を狙い、ミサイルの半分以上を撃ち落とされたが敵駆逐艦八隻全てを大破に追い込んだ。

 

「なんで戦艦全てで巡洋艦一隻を狙うかね!?」

 

『マスター、位相崩壊砲を積んでいる艦は最優先で狙うし狙われるでしょ』

 

「そりゃそうだ!」

 

空になったミサイル発射筒を捨てて身軽になったハリネズミ型巡洋艦たちが、軽量を活かした高加速で射撃に向いた場所へ高速移動。

 

その後の展開は一方的だ。

 

カノンの射撃の才の一部を受け継いだカノン妹たちが、目視と勘だけで敵フリゲートを一隻ずつ狙い撃ち撃破する。

 

その間、俺は敵戦艦四隻相手に必死の回避中だ。

 

「発射筒を捨てるぞ!」

 

『ケース代表の操縦を記録するための専用装置が入っているのだぞ! それを持ち帰らないと量産するハリネズミ型改の操縦難易度が最悪なままだ!』

 

ハリネズミ型の位相崩壊砲搭載版のパイロットは、射撃能力の高さからカノン妹がほとんどになると予想されている。

 

AIとして過ごした年齢は分からないが、連中の肉人間としての年齢は零歳児か一歳児だ。

 

『マスター、捨てていいと思う』

 

「いよいよとなったら捨てる! 絶対に捨ててやる!」

 

でもね。

 

戦艦の進路変更の雑さとか、砲塔の向きを変えるときの思い切りの悪さを見るたびに、この程度ならまだまだ余裕と直感してしまうんだ。

 

「先生すごい」

 

「射撃は追いついたけど回避は追いつけないかなあ」

 

「戦闘中に気を抜くなカノン妹ども! そこの戦艦が小型砲をお前らに向けてるぞ!」

 

レーザーが左と斜め後方とほぼ頭上から飛んできているのを、機体を半回転させながら下に移動することでなんとか躱す。

 

そうしている間に、ハリネズミ型からのレーザー八本が敵戦艦の位相障壁に穴を開け、小型砲を直撃して破壊している。

 

『ねえマスター。前線でパイロットを続ける気なら、専用艦が必要だと思う』

 

「確かに、そろそろ被弾しそうだ、なっ」

 

加速が辛い。

 

視界の隅に見える大きな爆発は、敵戦艦の爆発姿だろうか、って後ろ半分が爆発して残骸と化した前半分がこっちに飛んできやがった。

 

「もっと頑張れ俺の筋肉っ!」

 

高性能な操縦席が俺の負担を可能な限り減らしてくれたが、カノン妹たちが陽国遊撃艦隊が全滅させる頃には疲労困憊になってしまっていた。

 

  ☆

 

残骸を回収する時間も惜しんで俺達は先を急ぐ。

 

さすがにワンオ氏が戦死することはないだろうが、指揮艦の機能を持った弩級艦という貴重な戦力が失われる可能性はかなり高かった。

 

『マスター、あれかな?』

 

「たぶん?」

 

観測ドローン経由で見たときよりもボロボロになった弩級艦が、弩級艦だとしても遅すぎる速度で逃げ続けている。

 

ただしその「逃げ」は攻撃的な「逃げ」だ。

 

不規則に方向を変えながら逃げているので、追手である水国艦も攻撃だけでなく移動を強いられる。

 

その移動は、俺が乗るハリネズミ改型よりも動きが鈍い。

 

「サイズは戦艦か」

 

『外見から、装甲と位相障壁を限界まで削って位相崩壊砲を載せた艦だと推測できる。質量が一般的な戦艦の七割程度だから巡洋艦程度の速度と加速力があるかもしれん』

 

元ハカセはパイロットではないが、戦場でもしっかり仕事をしてくれる。

 

水国の位相崩壊砲搭載型戦艦部隊に、白と黒の高速フリゲートが襲いかかる。

 

速度に全振りしたときのサーフボード型より速く、俺が気合いを入れて操縦しているときよりもほんの少しだが回避と移動が巧い。

 

短距離かつ死角からレーザーを浴びせることで、次々に水国の艦を葬っていく。

 

だが、どれだけ優れたパイロットも物理的な限界は超えられない。

 

位相崩壊砲搭載艦を半分ほどを落とした時点で、白の高速フリゲートは推進器に、黒の高速フリゲートは跳躍機関に異常が発生して船体の後ろから半分以上が消し飛ぶ。

 

操縦室まで破壊されていた。

 

しかし大穴が開いた操縦室は無人で、ワンオ氏の弩級艦近くに跳躍したシロとクロが、そのまま勢いよく弩級艦の位相障壁を貫き足から着地して船体装甲に胸まで埋まっていた。

 

『うわ、二人とも生きてる』

 

「水国に気付かれたな」

 

ハカセの跳躍支援艦を狙って飛んで来た範囲攻撃を、俺の艦の位相崩壊砲で相殺する。

 

「俺は契国の国家元首のケースだ! 水国に条約違反の恐れありとの報を聞き、万一に備えて位相崩壊砲をここまで運んで来た」

 

敵味方関係なく、無差別かつ高出力で一方的に俺の言葉を押しつける。

 

「水国が被弩級艦に搭載した位相崩壊砲で攻撃してきたため、やむを得ずこちらも位相崩壊砲を使い範囲攻撃を相殺した」

 

厳密に解釈すれば俺たちも条約違反をしていることになるのかもしれないが、物理的な力で正しさの形がかわるのがこの宇宙だ。

 

「契国は水国の条約破りと、多数の通常艦への位相崩壊砲の搭載および使用を最も強い言葉で非難する! というかアホかお前ら! このままだと位相崩壊砲がその辺の賊にまで広まって人間の住める場所が激減するぞ馬鹿野郎!」

 

後半では本音が出てしまった。

 

派手に使えば使うほど技術は広まる。

 

艦を慎重に運用しても損害は出るし、少しの残骸から情報を得ることも可能なのだ。

 

ミサイルも発射筒もないハリネズミ型が、レーザーキャノンで一隻ずつ水国艦を狙い撃つ。

 

鉄国弩級艦の、少数生き残っていた位相崩壊砲が水国の位相崩壊砲搭載艦を丁寧に消し飛ばしていく。

 

この宙域の水国艦隊が全滅するまで、あっという間だった。

 

『マスター。今ならワンオさんに勝てるよ』

 

相棒は、俺が持つ渇望を熟知している。

 

相棒という最高の女、相棒と俺の子供、そして、最強の男に対する勝利が、欲しい。

 

あのワンオ氏に勝てると考えただけで、頭と胸と下半身がうずく。

 

『司令、いつでもいけます』

 

四隻のサーフボード型巡洋艦から、いつでも突撃できるという報告が届く。

 

俺は、攻撃能力と移動能力が激減した弩級艦一隻しかないワンオ氏の艦隊を見つめ、笑った。

 

「ワンオさん。今ならエスコートと修理施設のレンタルが割増し料金で可能ですよ」

 

ワンオ氏相手の勝利には、妻と子と部下たちの未来を賭けるほどの価値はない。

 

「若造。どうやらまだ、こちらの流儀に染まりきってはいないようだな」

 

通信に出たワンオ氏からは、俺に対する敵意も戦意も感じられない。

 

「この宇宙の流儀に完全に染まっちまった奴に契国の代表なんて危なくてさせられませんよ。で、どうします?」

 

「鉄国勅任艦隊司令にして契国駐在武官のワンオ中級部隊長の名において、契国に対して本艦のエスコートと修理施設のレンタルを要請する」

 

「こちら契国代表ケース。要請を受け入れます」

 

敵を減らして仲間を増やすのが、生き残るための基本だ。

 

「相棒、すまんがそろそろ限界だ」

 

『おつかれ、マスター』

 

目を柔らかく光らせた相棒が操縦を引き継ぐのを確認してから、俺は気絶するように眠りに落ちた。

 

  ☆

 

「ケースさん、起きて下さい!」

 

大声と体の揺れで、俺は無理矢理覚醒させられた。

 

見慣れた操縦室の中に、何故かドローンがいる。

 

「楽園管理機構が水国と陽国に対して懲罰戦争を宣言しました」

 

このタイミングでか……。

 

「既に両国の主星系は陥落。残存戦力の掃討が始まっています」

 

「俺はどのくらい寝ていた」

 

「丸一日です」

 

「丸一日で、これか」

 

相棒が差し出してくれた容器にストローを突き刺し、一気に飲む。

 

新鮮な柑橘類の香りが舌と鼻を楽しませ、濃密なエネルギーが全身に行き渡っていく。

 

「はい。侵攻艦隊は小規模ですが艦一隻あたりの戦力が異常です」

 

「……どうなるにせよ、列強相手の戦争はこれで終わりだな。とりあえず、禁忌扱いされそうな技術や物は隠しておくか」

 

俺がにやりと笑うと、相棒とドローンから戦争の気配が消え、政治と外交での闘争の気配に切り替わる。

 

こうして、後に列強大戦と呼ばれる多国間戦争は終了した。

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