AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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鉄国の影

『お母さんはどうしてお父さんのことをマスターって呼ぶの?』

 

銀華はワンオ氏……いやワンオの野郎に肩車されたままだ。

 

『知りたい?』

 

『うん!』

 

『しかたないなあ。マスターってね、望んだことを全部かなえてくれる、素敵なパートナーって意味なの』

 

メモリは上機嫌だ。

 

評議会議員としての態度でも、契国建国以前から「参加希望の機械人間を選別し続けている」権力者としての態度でもなく、一人の人間としての態度で娘に己の価値観を語る。

 

銀華の目が、物理的には光らないが光って見えた。

 

『私もマスター欲しい!』

 

『お父さんはお母さんのマスターだから、銀華は銀華のマスターを見つけないとね。でもね、銀華がマスターになりたいって思う、素敵な相手を見つけるのもいいと思うよ』

 

『にゃー!』

 

テンションが上がった銀華が、ワンオ氏の肩から飛び降りる。

 

メモリは、シロやクロとは違って戦闘用の体ではないのに、銀華の腕にも関節にも負担をかけずに銀華を踊りへ巻き込む。

 

「古代の……社交ダンスだったか」

 

そんなことを言っているワンオ氏のことも、今はもう気にならない。

 

メモリが男性パートで銀華を楽しませながら誘導し、銀華が楽しみながらみるみる踊りを身につけていく様子が尊すぎて、無意識に拝んでしまっていた。

 

「シロ、クロ。儂の判断が正しかったのか不安になってきたぞ」

 

『ケース代表の能力に偏りがあるのは親分も前から知っているお?』

 

『あれでも、契約、は、守る』

 

「メモリと銀華の踊りが見えづらいので、どいてくれませんかね?」

 

俺は完全に落ち着きを取り戻し、ワンオ氏へ当然の要求を行っていた。

 

  ☆

 

「申し訳ありません」

 

俺は九十度に近い角度で頭を下げていた。

 

「儂は子供を持ったことはないが、部下が喜んでいた姿は何度も見てきてきた。責めはせんよ」

 

責められはしなくても、評価は下がったのだと思う。

 

謝罪とその受け入れを済ませた後、俺たちは実務的な話を進める。

 

「お子さんは契国籍で?」

 

「うむ。機械人間として生まれるのだから、鉄国ではろくな扱いをされんだろう」

 

思慮深げに言うワンオ氏の後ろに「やったぜ」という顔のシロとクロが控えている。

 

「鉄国と戦うことになっても構わん。儂個人を狙った粛清部隊も送り込まれるだろうから、儂に戦う気がなくても戦うことになる」

 

「歴史の長い列強の、暗殺部隊ですか」

 

艦隊戦ならなんとかする自信はあるが、宇宙港や地表での戦いに関する自信は皆無だ。

 

「正規艦隊が攻め込んで注意を引きつけ、ステルス艦隊が特殊部隊を対象がいる基地に送り込むのが基本だ。戦力を用意するのは非常に面倒だが、やられる側にとっては悪夢だろう」

 

『親分も子供も守るお!』

 

『だから、侵攻、参加、無理!』

 

頭目であるワンオ氏を暗殺されたら、ワンオ氏を守れなかった契国を見捨ててシロもクロもワンオ氏の子飼いも去るだろうから、シロとクロを契国が便利に使うのは無理だ。

 

「儂の条件は一つだけだ。……時間稼ぎには協力しない。代表は気にいらんだろうが、儂の鉄国からの離反は公の経路で鉄国へ伝えさせてもらう」

 

「それは構いませんが、弩級艦の買い取り費用を送りつけるのはやりすぎでは?」

 

俺に対して示されたのは、予想していた額の倍以上だった。

 

「鉄国に対する最後の義理立てだ。儂の血縁も、艦隊司令に任じて下さった方もその御子も既にいないが、その程度はな」

 

ワンオ氏にも色々あるらしい。

 

「承知しました」

 

俺は礼儀正しく頷いてから、儀式用の表情になるよう気合いを入れる。

 

「ただ今をもって、ワンオ氏とその配下の、契国への亡命申請を承認します。ようこそ、契国へ」

 

ワンオ氏と二人の機械人間が、完全に同期した敬礼をした。

 

  ☆

 

『契国国営放送総合ニュースの時間になりました。司会進行はわたくしアナウンサーが。解説はハカセです』

 

『俺がハカセだ!』

 

ハカセは、いつも以上にテンションが高い。

 

『番組が始まったばかりではありますが、ゲストであるケース代表が発言されます』

 

「契国の代表であり、評議会議長であるケースだ」

 

新規に建造されたステージ。

 

その中央に設置されたスタジオ風の場所で、俺は番組を見ている全員に対して語りかける。

 

「契国国民の協力と尽力により、契国を襲っていた脅威を全て退けることに成功した。皆の協力と尽力に心から感謝する」

 

頭を下げる角度はわずかだが、込めた感謝は本物だ。

 

「後は簡単な伝達事項だ。本日ただ今より、専用の体を持つAIのことを機械人間と呼ぶことにする。強制ではないが、嫌がっている機械人間をAIと呼ぶのはなしにしとけ」

 

俺が「機械人間」と言った瞬間に、ニュース番組に対する問い合わせが膨大な数になったらしい。

 

『ケース代表! 専用の体というのはレンタルでもいいのかね!?』

 

ハカセは俺もドローンたちの意図も正確に見抜いているのだろうが、番組の進行のために質問している。

 

「そのあたりのことはテキトーでいいだろ。機械人間でもAIでも肉人間でも国民は国民だ」

 

機械人間に特権が付与されるわけでも、肉人間が冷遇される訳でもない。

 

単に、契国内部で「機械人間」という言葉が大っぴらに使われるようになるだけだ。

 

「時間をとってもらって感謝する」

 

俺がそう言ってアナウンサーに目配せすると、アナウンサーは平然と頷いて番組を進行させる。

 

『以上、ケース代表からお言葉でした。続いてのニュースです』

 

契国全域に届けられている映像と同じ物が、俺たちの前にも立体映像で表示される。

 

カノン妹たちとシミュレーターでリーグ戦をしている銀華だ。

 

凜々しい表情、心からの笑顔、敗北したときの悔しがる表情まで、見ているだけで幸せになれる。

 

記録映像なので俺が見るのは三度目だが、何度見ても良いな!

 

『ケース代表とメモリ議員の第一子が誕生しました』

 

その瞬間、契国の回線網が増えすぎた通信量により不安定になった。

 

『カノン妹が全員参加のリーグ戦で百位以内! ケース代表の遺伝子まで反映したハイエンド機としては少々物足りないな!』

 

『ハカセ、まだ生後一日目ですよ』

 

『肉人間流の教育を用意していたのに、つたないクラッキングで勝手に情報を集めて育った子供だ! そんなことをされては、今後の成長速度を保証などできないぞ!』

 

ハカセは、銀華に対して厳しい。

 

『『ケース様』』

 

滅多に連絡してこない、契国全体の治安維持を担当している機械人間が連絡してきた。

 

『『AIと機械人間の多くが興奮し混乱しています。安全のため、しばらく宇宙港からの外出は控えて下さい』』

 

「それは構わんが、銀華の護衛に支障はないか」

 

『『問題ありません』』

 

映像が切り替わり、地表基地を走る銀華と、武装女中姿で並走するナニーたちが映し出された。

 

なお、遠くにメモリがいて追いかけているんだが速度が足りない。

 

『『ディーヴァと協力して厳重に警備を』』

 

不自然に、ナニーたちの言葉が止まった。

 

映像では、仕事用の笑みを浮かべたディーヴァに元気に挨拶した銀華が、ディーヴァの手を引いて宇宙船に向かっているところだった。

 

銀華とディーヴァが何かを話しているが声は届かない。

 

ただ、銀華に向けて複雑怪奇な感情を向けていたディーヴァが、まだ善悪も知識でしか分かっていない、けれど輝くような若い心に触れて変化していっているのが分かる。

 

『ハカセ、似たようなものをものを見た覚えがあるのですが』

 

『古巣から逃げ出した昔の機械人間が急拡大する新興国の王子に見初められてという、古代小説の翻案だな!』

 

遠くで、メモリがすごい表情でディーヴァを睨み付けていた。

 

  ☆

 

「この新型戦艦をグローブ型として登録します」

 

評議会議員を全員集めた会議場で、ドローンの声が響いている。

 

メモリとディーヴァの間で、兵器も武器も使われていないのに空間が歪んでいるようにも見えてしまう。

 

『聖女さま方を故郷へ送り届けた後、一介の機械人間として銀華様のナビになるつもりです』

 

『へー』

 

『思い返してみれば、わたくしはメモリ様に筋違いの嫉妬を向けていました。銀華様に出会えたことに、メモリ様にもケース様にも心より感謝申し上げます』

 

既に、メモリの目の光は「確実にぶっ殺す」モードだ。

 

ドローンが短く、強く拍手する。

 

「仕事をする気がないなら出て行って下さい。メモリさんも、ディーヴァもです」

 

ここ数日ディーヴァの協力を得られないまま軍の再編成をやりとげたドローンは、表情こそ平然としているが目は血走っていた。

 

『ごめん』

 

『申し訳ありません』

 

メモリとディーヴァの敵対の気配が、少しだけ薄れた気がした。

 

「もう一度最初から言います。楽園管理機構が使用している艦の性能が、推測ではありますが判明しました。元ハカセ」

 

『マザーボード型フリゲートやサーフボード型巡洋艦のように、極限まで無駄を削った上で、全て高性能パーツで構成した艦だと思われる』

 

元ハカセは、スティック状の冷却水を食べる手を止めない。

 

『詳しいデータはドローン議員に渡している。私はこれから整備を受けに行く。以上だ』

 

よろめきながら立ち去る元ハカセの背中に、俺は深く頭を下げる。

 

「要するに、勝てない相手じゃありませんがこれまでの戦力では効率が悪すぎました」

 

だから、高速艦のみで正規艦隊を編成し、それ以外の艦は宇宙の拠点や惑星の防衛にまわす。

 

「正規艦隊に残すのは、グローブ型、ビートボード型、ハリネズミ型の三種類のみです」

 

ハリネズミ改型からは既に位相崩壊砲が取り外され、ハリネズミ型へ再改造されている。

 

『ドローン。サーフボード型は?』

 

「一応正規艦隊には属しますが、ケースさん個人の護衛にまわします。ビートボード型とは違ってケースさんを乗せることも可能ですから」

 

『分かった。ありがとう』

 

『三種類のみで鉄国に対抗可能なのでしょうか。鉄国も楽園管理機構と条約を結んで位相崩壊砲を廃棄しましたが、位相崩壊砲とワンオ司令を除いても強力な戦力を保有しています』

 

ディーヴァの疑問ももっともだ。

 

「手持ちの戦力の種類が少ないと、相手にメタを張られたときに一方的な不利な状況になりかねないぞ」

 

「ケースさんの懸念も分かりますが、そこは数と他の戦力との連携で補う予定です。増えた機械人間のパイロットを量産中のビートボード型に乗せ、今はハリネズミ型に乗っているカノン妹をグローブ型へ機種転換させていく予定です」

 

ドローンは、最近再び値段が上がった飲用水で水分補給する。

 

「聖女たちを故郷へ返す目的以外で新型跳躍機関を使えなくなったため、汚染されていない水資源の新規獲得は困難になりました。今後はカノン妹の生産はほとんどできません。量産に向いていてもパイロットが死に易いハリネズミ型は、順次退役させる予定です」

 

俺は、ドローンの目と表情を観察する。

 

知識や思い込みで先走っている様子はなく、利点と欠点を冷徹に計算し決断した態度に見えた。

 

「俺はドローン案に賛成する」

 

『ごめんマスター。僕は、今回は棄権』

 

『この件については、判断はお任せします』

 

ドローン案は承認され、限られた種類の艦の量産が一気に進むことになった。

 

  ☆

 

縦十隻、横十隻の、合計百隻からなる正方形の隊列でビート板が進む。

 

破壊と接近阻止のためにミサイルと質量弾が飛んでくるが、ビート板の片面に多数浮かび上がった眼球型レーザー砲塔が緑の閃光を放ち、ミサイルと質量弾を的確に破壊していく。

 

無論、ミサイルも質量弾も残骸は残っている。

 

それでも最初のまま直撃するよりは位相障壁に対するダメージは少なく、障壁を弱らせた艦はいるが船体装甲は全ての艦が無傷だ。

 

「指揮艦とマザーボード型フリゲートの組み合わせの上位版だな」

 

『懐かしい組み合わせだよね、それ。あれから結構たった気がするけど、古代の暦でまだ一年と何ヶ月だっけ』

 

俺たちが乗っているのは、ミサイル発射筒も予備のミサイルもその他削れるもの全てを取り払って指揮支援装置を積み込んだグローブ型だ。

 

百隻のビートボード型巡洋艦のやや後方にいて、ビートボード型のレーザーの狙いだけでなく位相障壁の使い方も指示している。

 

遠くに、鉄の色をしたフリゲートから戦艦まで多様な艦が見える。

 

超豪華な遊撃艦隊かな?

 

『マスター。この距離でも呼びかけに反応がないよ』

 

「鉄国はお行儀が良いと思っていたが、お行儀が良いのはワンオ司令だけか」

 

ほんの少し心の中にあった遠慮が、綺麗さっぱり消えた。

 

「初陣のお前らにわざわざ獲物が寄ってきてくれたぞ。訓練通りにやれ!」

 

敵味方の前衛がレーザーの射程まで接近する。

 

鉄国艦が実相アンカーでビートボード型の動きを止め、鉄国艦がクラッキングによりロックオンを不可能にしても、銀華のパーツを参考にした廉価な「目」や「耳」を持つ機械人間たちが平然とレーザーで集中攻撃する。

 

実相アンカー搭載フリゲートや、高度なコンピューターを積んでクラッキングだけでなく対空攻撃にも秀でる駆逐艦が、跳躍機関を狙い撃たれて位相戦闘を不可能にされて置き去りにされる。

 

フリゲートと駆逐艦で構成される鉄国艦隊前衛を突破し、十近い戦艦からなる鉄国艦隊の中核が見えてきた。

 

『マスター。ハリネズミ型が追いつくまで主観時間で後二十秒』

 

「温存したかったが仕方ないか」

 

信号を送る。

 

俺たちのグローブ型と同じ速度で飛ぶグローブ型の背部装甲が開いて発射筒が姿をあらわす。

 

「タイミングをあわせろ。ビートボード隊、突撃開始! ミサイル発射まで後三、二、今だ!!」

 

高速なミサイルが、ビートボード型巡洋艦を追い抜き鉄国戦艦群に突き刺さる。

 

強固な位相障壁が激しく揺らぐがなんとか耐え、しかし自艦からエネルギーを注がれ位相障壁が回復するまでに無数の緑レーザーを叩き込まれて位相障壁も本体装甲も甚大なダメージを負う。

 

「よーし帰るぞ!」

 

深追いはしない。

 

乱戦になれば新人パイロットたちがボロを出すかもしれないし、万一撃墜されて鉄国に残骸を持ち帰られたらリバースエンジニアリングされてこちらの不利になる。

 

「ハリネズミ隊! 狙いは雑でいいから全弾ぶっ放せ!」

 

甚大な被害を受けた鉄国艦隊に、ハリネズミ型巡洋艦が放ったミサイル群が直撃する。

 

味方の救助を求める通信の数が一桁減る。

 

「今のうちに可能な限り削りたいな」

 

空になった発射筒を放棄したハリネズミ型が合流する。

 

身軽になったハリネズミ型と、直線なら速いグローブ型と、もともと速いビートボード型が、グローブ型の中に一つだけ含まれている位相跳躍支援装置により猛烈な速度で契国の星系に帰還するのだった。

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