AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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転生者への解答

捕虜への尋問は苛烈を極めた。

 

「このアニメの十一話の内容をこたえろ!」

 

「答えないとカツ丼あげないよっ」

 

警察官風の衣装を着た黒髪エルフ娘……カノン妹たちが、本人たちにとっては一番「こわい」表情で、アニメの十話を古代基準で違法放送の携帯ディスプレイを突きつける。

 

「お、おう……」

 

俺と一度戦ったことがあり、前回の戦いで一番によって捕虜にされた「日本人」は、十二、三歳にしか見えないカノン妹たちを押しのけることができずに心底困っているようだ。

 

なお、この捕虜が本気で暴力を振るおうとしたらカノン妹の銃による早撃ちで両手両足を撃ち抜かれてしまうだろうが、そんなことは知らずにすむのが誰にとっても一番良い展開だ。

 

「あいつら何をしてるんだ」

 

俺は、ARメガネで捕虜の様子を見ていたときに始まった珍場面に混乱中だ。

 

『マスター。あのアニメ、銀華が十一話のデータが見当たらないって、僕に聞いて来たのだよ』

 

「メモリ、俺、銀華から相談されてないっ」

 

足元が崩れて底のない宇宙に落ちていくというのはこういう感覚だろうか。

 

俺は平衡感覚を失い、メモリに支えられてぎりぎり倒れていないだけの状況になっていた。

 

「ケースさん。何をしてるんですか」

 

ドローンが呆れた目で俺をちらりと見る。

 

ディスプレイも立体映像も見ていないのに、キーボードでの入力速度は全く変わらない。

 

ドローンの前のディスプレイと立体映像に手分けして映し出されているのは、契国傘下の星系に存在する宇宙港や宇宙基地の現状だ。

 

そして、ドローンが入力しているのは、部下に対する命令や、部下からの相談に対する回答。

 

命令や回答を全文書いているわけではなく、短文の命令で文章を作成させてそれを確認と修正した後に部下へ送信するというやり方で、俺より一桁以上高速で仕事を進めている。

 

メモリと俺は、何故かドローンの執務室にいる小柄な聖女から薄緑のお茶を受け取り、精神力を回復させた。

 

「ありがとう」

 

『マスター、これいいね!』

 

メモリと俺の両方が飲食しても害がない食べ物はごく少数しかないから、こういうもてなしは非常に嬉しい。

 

「脳をいじる気はないですけど、入力速度を上げるために手首から先だけ機械しようか悩んでいます」

 

ドローンは、これが日常であるかのように、平然と聖女から茶を受け取っていた。

 

『機械化は勧めないぞ!』

 

両手に、がらがらではなく大きなデータチップを抱えたハカセが、ドローンの執務室に入ってくる。

 

『機械化の程度によってはコピー回数を増やすのと同程度の悪影響がある!』

 

冷却水としても機能するお茶を味わっていたメモリの目が、ハカセの言葉を聞いてくつろいだ色の光から仕事用のやや冷たい光に変わる。

 

『ハカセ。何か分かったの?』

 

『ケース代表にすぐに影響する内容ではない! 俺の論文が公開されるのは明日の予定だ!』

 

『なら後回しでいいか』

 

メモリの目の光が仕事用ではなくなる。

 

最近気づいたことだが、メモリは、銀華や俺に関わることを除けば、雑なところがあった。

 

  ☆

 

俺やドローンはARメガネで、メモリやハカセたちは戦闘ログを直接触れることで、一番が苦戦した戦場を追体験する。

 

大気圏内で使うわけでもないのに戦闘機風の翼が生えている巡洋艦が、サーフボード型を上回る加速と速度で一番艦隊の背後をとり続けている。

 

使用する武器は普通のオートキャノンだが、宇宙では射程が無限の武器で背後から攻撃するのはとても有効で、やられる側にとっては最悪の攻撃だ。

 

「俺なら、船の損害を覚悟して逃げるな」

 

一番の指揮は俺の指揮とは全く異なる。

 

事前に指揮下の艦に複数の戦術を覚えてもらってから実際の戦場で戦術を切り替えながら戦うのが俺で、指揮下の艦に細かく命令を出し続けるのが一番だ。

 

だから一番は、想像外の性能を持つ艦に対して動揺するハリネズミ隊を回避に専念させつつ、ビートボード隊の一部を割いて迎撃に回すという戦術を即興かつ即座に実行できる。

 

『ここからだ!』

 

ハカセが熱い息を吐く。

 

排気だけでは冷却が間に合わないほどに高速で計算している。

 

恒星を挟んで星系の端から端までの距離ほどある遠方から、固定型の大型レーザー砲を搭載した戦艦が全力射撃する。

 

距離の二乗に比例して減衰するはずの紫のレーザーが、何故かゆっくりとしか減衰しない。

 

位相戦闘なのでレーザーも当たり前のように超光速で、一番の艦隊に主観時間で数秒で到達する。

 

とっさに前へ出たグローブ型戦艦が、位相障壁と船体前面の分厚い装甲で耐え、無傷だったのに一度の被弾で船体前面装甲をほとんど失った。

 

「鉄国の新兵器にしては、数が少ないな」

 

二隻、いや、もう一隻投入するだけで一撃でグローブ型を一隻落とせていたはずだ。

 

位相障壁を全開にしたビートボード型に庇われたグローブ型が、手間取りながら百八十度方向転換して分厚い後部装甲を敵レーザー戦艦へ向ける。

 

主観時間で一秒レーザーを浴びただけで位相障壁を吹き飛ばされたビートボード型がその場から飛び退き、グローブ型が後部船体装甲と回復しかけの位相障壁で耐える。

 

『位相戦闘でここまで細かく指示を出せるの? 一番って僕と同程度の体使ってるよね』

 

「無駄を省いた計算と指示なら可能なのでしょうか」

 

メモリとドローンは戦闘結果を既に知っているからか、一番の指揮能力が気になっているようだ。

 

いきなり、前と後ろも損傷したグローブ型の至近に、敵駆逐艦が出現した。

 

「は?」

 

俺が間抜けな声を出している間もARメガネの映像は先に進む。

 

駆逐艦が猛烈な勢いで連射した「散弾」により、側面の薄い装甲をぼろぼろにされたグローブ型から操縦室が射出された。

 

そこからは酷い戦いであり、一番の異様さを示す戦いでもあった。

 

とにかく戦死だけは回避するため操縦室を守る一番艦隊と、個々が異様な性能を持つ少数の艦たちとの乱戦だ。

 

契国艦は全ての艦が数秒ごとに戦い方を変えて格上に対抗する。

 

戦い方が変わるタイミングは全ての艦で異なり、一番の艦隊は、一つの生き物ですらない異様な何かにも感じられた。

 

『ケース代表! この指揮はケース代表でも可能か!?』

 

「無理だ。思考と情報を伝える速度が全く足りない」

 

『そうか!』

 

ハカセは聞きたいことを聞くと、再び戦場の光景に集中する。

 

戦場では敵味方どちらも後退しない。

 

個々の質で劣る契国艦は徐々に数を減らし、敵艦の、通常の鉄国艦の倍以上頑丈な位相障壁と船体装甲が徐々に削られていく。

 

その激戦とは対象的に、撃破された契国艦の操縦室がそろそろと逃げていく。

 

一番が戦闘を継続したのは味方が逃げるための時間を稼ぐためだろう。

 

結果的に成功したのは知っているが、一番はリスクを許容して積極的に大勝利を目指していくタイプだな。

 

「……映像の再生スピードが変わりましたか?」

 

俺が気づかなかったことにドローンが気づく。

 

『違うよドローン。鉄国の艦の動きが鈍ってる。一番はわざと動きを鈍らせてる?』

 

鉄国艦の動きが、俺の目でも分かる程度に鈍くなる。

 

その直後、鈍いふりを止めた一番艦隊が一斉に攻勢に出て、鉄国艦を短時間で次々に撃破する。

 

勝者は一番の艦隊であり、戦死者もごく少数。

 

しかし艦の損傷は酷く、放棄後破壊する艦だけでもかなりの数になってしまっていた。

 

  ☆

 

一番の戦場の記録の再生は終わり、俺達はARメガネを外したり冷却水を飲んだりする。

 

『ケース代表なら一隻も失わなかったというのが俺の予想だ!』

 

「その代わりに捕虜もとれず、必要な情報も得られなかったさ」

 

俺は、一番の指揮の巧さに感動している。

 

今の臨時の艦隊司令の立場から、正規艦隊の艦隊司令に無理矢理でも移行させようと改めて心に決めた。

 

なお、戦場の記録の再生は終わったが尋問は続いている

 

「しらないの!?」

 

「俺はオタクじゃねーよ!」

 

「オタクってなに?」

 

「たしか、時代によって意味がちがうはず……」

 

既に雑談に移行している気もする。

 

「カノン妹を利用して警戒心を解いたのですか」

 

『そうだ! 死ねば復活すると言って自殺した捕虜が多かった! 正規の鉄国軍人は普通に捕虜をしているのにな!』

 

「画面に映ったNPCではなく生きた人間と認識した時点で殺せなくなる人は結構いますから、このやり方も有効ですよ。……例の鉄国艦の残骸は回収したんですよね?」

 

『極端なカスタマイズがされていたが、パーツの性能は鉄国正規艦隊と同等でしかない!』

 

「つまり「日本人」の特殊能力が原因ですか。ケースさんや姉さんと違って、艦の性能を物理的に向上させる? まるでファンタジーですね」

 

メモリとハカセが真剣に話をしているんだが、俺には二人が何を懸念しているのか分からないし、分かるために努力する余裕もない。

 

緊急の仕事に集中しているからだ。

 

「敵の手札がわからないときは、こっちの手札を増やすしかないんだが」

 

敵を足止めするための実相アンカーを載せている艦も、敵の動きを乱すためのクラッキング専門艦も、契国では研究所の中かデータの中にしか存在しない。

 

だから俺が、最低限必要な性能を開発部門に伝える必要がある。

 

「速度は妥協するしかないか」

 

キーボードでの入力速度はドローンの半分以下で、生成AI的なものの使い方もうまくないので仕事はとても遅い。

 

それでも、この宇宙で艦隊戦を繰り返しているのに死んでいない俺の経験と知識は、艦の開発でも役立つらしいので仕事をするしかないのだ。

 

いきなり、元ハカセと通信が繋がった。

 

『ケース代表。またかね。私も一回ストライキに参加したくなったよ』

 

さらに、最近はカノン妹相手の教育に専念しているパイロット兼評議員三人組からも通信が繋げられる。

 

「「「グローブ型戦艦に実相アンカーやクラッキング用機材を載せるってアホかお前。お前と初めて会った頃の、追い詰められていた俺たちみたいなことをお前がしているぞ」」」

 

うん。

 

距離が近いほうがすごくよく効くから、そこそこの性能の実相アンカーやクラッキング機材を小型高速艦に乗せて敵に突っ込ませる方が圧倒的に効率がいいんだ。

 

戦艦にそんなもの載せるなという三人組の意見も、正しくはある。

 

「あの種類のフリゲートはパイロットが滅茶苦茶死にやすいから使いたくないんだよ」

 

サーフボード型巡洋艦に乗っているときに大量に撃ち落としてきた種類のフリゲートだ。

 

実相アンカー搭載フリゲートやクラッキング特化艦は、敵を妨害するためには近付くしかない。

 

つまりレーザーに弱い。

 

対艦対空両用レーザーが多数載っているサーフボード型にも弱い。

 

サーフボード型に頻繁に乗っている俺は、うっかり操縦室までぶっ壊してしまったことが何度もある。

 

『ハカセがまた成果をあげるというのに、私はまたこんな面倒なだけな設計を……』

 

「割増かつ前払いで報酬を払っているぞ」

 

『私の立場でケース代表からの依頼を断れると思うかね!? まあ、金があれば可能になる実験もある。引き受けよう』

 

今度似たような依頼をしてきたらぶっ殺すぞと目で言われた気がして、俺は元ハカセに対する報酬を少し増やすことにした。

 

  ☆

 

契国傘下の星系に配備された水上艦型戦艦は、決して悪い艦ではない。

 

跳躍機関は新型から通常型に変更されて実相アンカーによる足止めに弱くなってはしまったが、数が多い地表居住者の中にパイロット候補が見つかりやすいという性質はそのままなのだだ。

 

その水上艦型戦艦艦隊が、ぼろぼろになっても粘り強く抵抗を続けている。

 

住人の避難が最終段階に入った惑星を背中にかばい、契国建国時点で旧式艦だった「船体装甲を自己修復可能な」戦艦を盾にし、一隻一隻が異様な戦力を持つ襲撃者に対して必死に時間を稼ぐ。

 

「こちら契国代表のケース。今から突入する」

 

俺の宣言と同時に、位相跳躍支援装置で支援されたままの高速艦隊が、星系外から可住惑星の至近まで超高速で駆け抜けた。

 

これほどの移動の直後に攻撃するのは不可能だ。

 

勢いを消しきれない俺の艦隊に対し、惑星防衛艦隊の始末を後にすることにした鉄国艦が、思い思いにレーザーや質量弾を発射した。

 

グローブ型戦艦が手を開いた。

 

指の先にあたる部分にある対空砲が猛烈に対空弾をばらまく。

 

対空弾はレーザーに自ら当たって蒸発することでそのエネルギーを減らし、質量弾に衝突することでその進路を捻じ曲げる。

 

だが、数や威力が減っても鉄国艦の攻撃は強烈だ。

 

位相障壁が歪み、薄くなった障壁を突き抜けて質量弾が船体装甲へめり込む。

 

グローブ型戦艦の分厚い前面装甲は、巨大な運動エネルギーを抑え込んで破壊を最小限に抑え込む。

 

被弾したグローブ型は一隻ではなく、しかし被弾した全ての艦が推進機を駆使して百八十度回転して、無傷の後ろ側を敵へと向けた。

 

『敵艦をクラッキングの有効射程内部に確認。これよりクラッキングを開始します』

 

『実相アンカーの使用を開始します。効果は限定的ですので、カノン妹のみなさんは注意してください』

 

ミサイル発射筒とミサイルの代わりに特殊装備を積み込んだグローブ型が、おそらく「日本人」の移動も攻撃も徹底的に妨害する。

 

攻撃力や防御力がこちらの倍でも、移動力と狙いをつける速度が激減すれば手数の差で圧倒できるのだ。

 

「デバフ無効のチート持ちや、味方全体へのバフのチート持ちが出てくるまでの優勢だろうが、な……」

 

俺は、ストレスで腹に痛みを感じて息を乱す。

 

元ハカセに払った報酬を無視しても、グローブ型のバリエーションに金がかかりすぎている。

 

建造も運用もだ。

 

開発期間の短縮のために、かなり無理をした結果でもある。

 

『マスター、まだ戦闘中!』

 

「ああ、分かっている」

 

小声で話しかけてきたメモリに小声で返事をする。

 

グローブ型、特に長距離でクラッキングできるよう高性能パーツを大量使用した艦に被害がでると超高額の修理費が、と思った直後に被弾の報告が届く。

 

『背部に被弾しました。クラッキング停止。推進機と跳躍機関は無事ですがクラッキング関連が再起動しません』

 

俺は歯を食いしばって、悲鳴を我慢する。

 

「戦況は、圧倒的優勢だ。損傷した艦は攻撃に参加しなくていいからパイロットの命を最優先に。艦の維持はその次に優先しろ」

 

移動も攻撃も封じられた鉄国艦が、復讐心に燃える水上艦型戦艦に撃破されていく。

 

ビートボード版は二手に分かれ、ずらりと並んで城壁じみた印象のグローブ型戦艦の護衛と、鉄国艦隊の退路の遮断を同時に行う。

 

決着するまで、主観時間で一分間もかからない。

 

外見は完全な勝利。

 

そして、戦闘で消費した資金と資材については、おそらく互角の戦いであった。

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