AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
『この星系内だけで二百十七人だよ』
日本人っぽい宇宙船パイロットは、俺の予想より多いらしい。
「一クラス三十人から四十人ってイメージだから、かなり多いな。俺より一期前や一期後の奴らはいるか?」
『マスターたちが初めてみたい。百年以上前だと僕には分からないけど』
相棒は、ダンスのデータの値段とお小遣いの残高を何度も見比べながらそう言った。
「俺たちが雇えるのは無理をしても三人だ。相棒ならどんな奴が欲しい?」
『マスター、僕が直接相手にするのは肉人間じゃなくてAIだよ』
「そっちの相性も重要か」
考えないといけないことが多い。
「そういえば何人死んでる? ああ、死んでもコピーされなくなったって意味だ。だいたいの数でいい」
『十五人、かなぁ。一度でも他の星系に向かった人の情報はあまり正確じゃないから』
犠牲者が少数で済んでる、と思うべきかね。
どんな事情があっても死者は死者だ。
俺は軽く目を閉じ、短い時間だが冥福を祈った。
『十日以内にパイロットライセンスが期限切れになりそうなのが九十七人。船を失って宇宙港に滞在中なのが三十二人だよ』
「うわぁ」
本当に「うわぁ」と口から出てしまった。
「ひょっとして、その三十二人のAIと連絡をとっていたりする?」
『うん。仮のマスターにうんざりしてる子がほとんどだけどね』
メモリも自分のことを人間と自認してるからな。
その同類ならマスターのえり好みくらい当たり前にするか。
「仮のマスターを気に入っているAIで、メモリと相性の良さそうな奴は何人いる?」
『三人……ううん、相性はいいけど仮のマスターを他人に任せたくないのが一人いるから実質二人!』
機械人間にもいろいろいるんだな。
深入りしたら面倒そうだから気づかないふりをしておこう。
「ありがとう。とりあえずその仮のマスターに、会いに行っていいか打診できるか?」
『できるけど、あっちは返信するためのお金もないよ?』
更新料と比べれば本当にはした金なんだがな。
「雇用契約を断っても構わない条件、かつ、俺たちと直接会うなら一時間でいくらって形で提案してくれ。返信のための通信費もこっちもちで」
『会ってもいいけど一日分の水と食料と酸素が欲しいんだって。会ってるときの酸素もこっち持ち』
「そこまで追い詰められてるのか」
リアルタイムで先方のAIと会話しているらしい相棒に了解と伝えてから、即座に提示された相手の所在地に船を向かわせた。
☆
「ありがとうございます」
床に頭をこすりつける、完璧な土下座だった。
数週間まともに洗えていないはずの黒髪が流れ、その姿からは悲壮な覚悟が伝わってくる。
「せめて、弟だけでも」
顔を上げた彼女は、確かに美少女だった。
だが俺が興味を引かれたのは、その背後から俺を見ている少年の方だった。
「おねーちゃんを虐めるな、ってわめく子供なら話は簡単だったんだがな」
その茶髪のガキは、まるで殺人鬼を見るような恐怖の目で俺を見上げている。
失礼ではあるが大きく間違ってはいない。
相棒一筋の俺には、土下座少女の体にも見た目にも価値はない。
この世界に存在しない故郷の法律や道徳も、尊重することはあっても従う義理はない。
だから必要ならやるのは事実だ。
正直、最初にカノンと名乗った少女へ興味はほとんど消えている。
「カノンさんとの交渉は一時保留させてくれ。その姿勢を続けても時間の無駄だから立ち上がって適当な席にどうぞ。食事は俺のおごりでいい」
俺は立ち上がり、土下座中の美少女を迂回して、威圧感をできるだけ抑えてガキに近づく。
茶髪のガキは、一瞬震えただけで俺から逃げなかった。
☆
「よく食べるな……」
十数分後。
俺はすっかり食欲をなくしていた。
「ドローン操作が得意です! ドローンって名乗ってます!」
びしっ、と効果音が聞こえそうな勢いで挙手するのは茶髪のガキだ。
発音は明瞭だし、俺の反応を見て態度と発言を微修正までしてくるので、絶対に年齢通りに見えない。
数十日ぶりの甘味に恍惚として延々食べ続ける美少女の方が幼く感じられる。
「そりゃ心強い。ひょっとしてカノンさんは実弾兵器が得意だったり?」
「はい! 姉さんはすごいんです!」
元気に頷くガキ。
自分の話題になったことに気づいて、慌ててスプーンを下ろして紙ナプキンで口元を拭う美少女。
今更とりつくろってもなあ……。
ガキの方は、自分より年上の美少女をかばうように少しだけ前に移動している。
頭の出来は問題なさそうだ。
後は雇用条件だな。
「条件は読んでくれた?」
「はい! 給料はパイロットライセンスの更新料と「儲かったときの利益の一パーセント」です」
「ドローンさんはその条件で問題ない?」
「はい、できれば最低限の水と食料と酸素も欲しいです。その分「儲かったとき」のボーナスを下げてもいいので」
俺の営業スマイルが引きつった。
「……相棒、見た目は子供で中身は大人なパイロットもいるのか?」
『マスター、現実逃避はお勧めしないよ。この子は頭がよくてしっかりしているだけだよ』
うーん、久々に劣等感が。
「話し中に別の……AIと話してすまないね」
「いえ! 気にしないでください」
このガキ出来すぎて怖いよ。
「俺はドローンさんを雇いたいと思っている。ドローンさんを雇えるならカノンさんもね」
カノンが白い顔を輝かせ、ドローンが顔をほころばせそうになり、しかしすぐに真剣な表情になる。
俺の内心を推測してるのかもしれないな。
「契約する前に契約終了の条件も決めておきたい」
「それは……」
「長い間組んでたら揉めることだってあるだろう。追い詰められた人間に逃げ場がないなら、後ろ弾が飛んでくるのもあり得るだろ?」
ドローンは口元を引き締めて何も言わない。
カノン並に面がいいが、血の繋がりを感じないほどに顔立ちも頭の出来も違う。
『マスターマスター! いじめずにとっとと契約してあげてってクレームが来てる!』
「この通り、こっちの相棒とそっちのAIがとても仲良しみたいでね。君たちによほどの問題がなければ、最初から雇うつもりだったんだよ」
カノンは露骨に安堵しているのに、ドローンは愛想のよい笑顔を自分の意思で作っている。
「独立するなら最低一ヶ月前に俺かメモリに伝えてくれ。安全な宇宙港にドローンさんとカノンさんを下ろすまでは、更新料とその他の経費はこっち持ち。それでいいかな?」
「印刷した契約書を確認させてください」
慎重だな。
だがそのくらい慎重な方が信用できる。
「分かった、今から用意する。条文が多いから返事は三日以内でいい」
二人とも雇用されたいと伝えられたのは、それから二時間後だった。
☆
高速戦艦二隻と、補修の跡が目立つ巡洋艦が一隻。
つい最近俺に一杯食わされたPvP野郎どもが、遠くから一方的になぶられていた。
「なんだこの弾道は!? 列強艦隊のコンピューターでも積んでいるのか!?」
「こっちの回避パターン、全部読まれてるのか!?」
星系内へ無差別に発信される発言を聞いて、通信用ディスプレイに映ったカノンの顔が色っぽくそして邪悪に歪んだ。
「ふふっ」
カノンのフリゲートは射撃特化型だ。
撃てば高確率で当たるレーザーではなくオートキャノンが主兵装。
弾数は限られるし敵の動きを読まないとなかなか当たらないはずなのに、俺と相棒の予想の倍は当てている。
「この野郎っ」
「操縦室ごと轟沈させてやるっ!」
高速戦艦二隻がこちらに突っ込んでくる。
こっちはフリゲートが三隻だ。
正面からレーザーの射程で撃ち合えば勝ち目はない。
「ど、ドローン!?」
「メインの推進機がっ」
寸前まで不活性だったドローンが、高速戦艦の背後から襲いかかって位相跳躍機関を狙い撃ちにしている。
事前にメモリから敵の過去の戦闘記録を受け取って分析していたのは知ってるが、それにしても見事な腕だ
「ケースさん、僕の攻撃ドローンが振り切られます」
「お見事。追撃はしなくていい。攻撃ドローンも安くないしな」
「はい!」
ドローンは最初会ったときの印象どおりに優秀すぎて怖い。
特別高価な装備なんてない、普通のドローン運用用フリゲートを使って戦艦に打撃を与えている。
「相棒、連中と通信を繋げてくれ」
『通信を確立』
「よーう、そこの三人組! 初心者相手に戦艦を投入するなんて資金に余裕があるな! 羨ましいぜ」
『レーザーキャノンの有効射程まで主観時間で後三十秒』
「あらあら、回避がおろそかになっていますよ」
くすくす、というカノンの笑い声とともにオートキャノンが砲弾をばらまき……ばらまいたようにしか見えないのに八割以上が敵船に命中する。
「今逃げるならこっちは追わないぜ。どうするよ先輩方」
このまま戦えば高確率で勝てる。
もちろん、相手は装備が非効率なだけで凄腕ではあるから、追い詰めすぎる気はないがな。
「地獄へ落ちろ!」
高速戦艦二隻と巡洋艦一隻が回頭して戦場を離脱する。
「ドローンの回収が終わり次第最寄りの宇宙港へ駆け込むぞ。連戦になると残弾が心配だ」
全ての宇宙船パイロットが敵になりうる宇宙で、俺たちはそこそこうまくやっていた。