AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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超重装甲vs一撃必殺

二十八隻のサーフボード型巡洋艦は、契国の敵にとっての恐怖の象徴だ。

 

高速で敵に襲いかかり、あるいは契国艦を守るために短時間で出現し、敵も敵弾も全て撃ち落とす。

 

敵にとっては悪魔の群れ。

 

味方にとっては天使にも守護神にも見えるのが、この二十八隻とそのパイロットだ。

 

なお、撃破した艦の数でも、操縦室ごとうっかり撃破してしまって殺した数でも、二十八隻全てをあわせた数よりカノンの方が多い。

 

カノン妹は最上位層でも一日四交代なので、まだカノンや一番や二十八人ほどの知名度を持つ者はいない。

 

『司令ー。保険の契約、そこまで考えないと駄目なんですか?』

 

『めんどくさいです』

 

そんな、契国内で大量のファンを持つ二十八人が、どこからどう見てもダメ人間として振る舞っていた。

 

「当たり前だ馬鹿野郎! パイロットってのは死にやすい職業なんだ。お前らに太くて信頼できる実家か何かがあるならうるさく言う気はないが、お前ら身一つのその日暮らしだろう」

 

名声も実力も実績もある機械人間パイロットであると同時に、私生活ではツッコミどころが多すぎなのがこの二十八人だ。

 

好きに生きて好きにくたばるのも個人の自由だと思うが、そいつが子持ちや子持ち予定でしかも俺の部下なら話は別だ。

 

「自分の子供に身売りさせたくないなら、契約に穴がないか全条文しっかり確認しろ」

 

古代の「身売り」ならまだマシだ。

 

この宇宙での「身売り」は、人間扱いされずにパーツやコピー元や消耗品として利用し尽くされることを言う。

 

死ぬよりはマシかどうかは個人の価値観によるだろうが、少なくとも俺にとって、銀華がそんな目にあうのは俺が死ぬより恐ろしいことだ。

 

『はい……』

 

『やるしかないかー』

 

俺がそこまで言ってようやく、子持ちと子持ち予定とそれ以外の合計二十八人が、遺族年金と年金関連の契約書の検討に本気になる。

 

ここは位相戦闘中の操縦室ではなく、主星系の宇宙港の中にある警備厳重な会議室だ。

 

機械人間である二十八人が、俺とは隔絶した速度で検討を重ねて契約の抜け道や俺が想定していなかった事態について指摘していく。

 

つまり、俺の処理能力では足らなくなる。

 

「ドローン、頼む」

 

こういうときに頼りになるのが代表代行のドローンだ。

 

もう一人いる代表代行は、多数の星系の統治や銀華の見守り……悪くいえば覗き見で忙しいようで、最近は俺が頼んでも断られることが多い。

 

ドローンとの通信はすぐに繋がった。

 

「いいですけど、契国のパイロットライセンスの規約に流用させてもらいますよ」

 

「うちにそんなのあったか?」

 

「制度の立ち上げのときも、以前の改訂のときも、ケースさんの許可をもらったでしょう。また確認もせずに許可を出したんですか」

 

文句を言っているときもドローンの仕事は正確かつ高速だ。

 

二十八人に対して新たな修正案が提案され、二十八人がさらなる修正案を出すが修正箇所はとても少ない。

 

「列強規模の国家の独裁をできる能力なんて俺にはないからな。信頼できる奴に任せるようにしているだけだ」

 

任せた相手に利用されることになっても構わない。

 

利用しているのはお互いさまだし、今俺が失脚しても、メモリと銀華の生活が成り立つ程度の財産と武力は残るからな。

 

「鉄国主導の社会体制からの脱却という意味で、とても重大なイベントだったんですけどね」

 

ドローンの態度は、諦めが半分、自身の仕事に対する自負が半分という感じだ。

 

契国は鉄国に従属してはいないが、特に建国直後は鉄国の制度を参考にしている部分が多く、鉄国のやり方が「事実上の標準」だった。

 

鉄国を相手に戦争と停戦をしてからは、契国独自の制度やその運用が増えてきたわけだ。

 

「鉄国か……。他の国と比べれば、まあまあまともな国だから、できれば友好的にいきたいんだがな」

 

現在、鉄国との関係は冷え切ってる。

 

「一年前の停戦条約締結直後に「芋」の輸出を止めましたからね。そりゃ怒りますよ」

 

別に嫌がらせではない。

 

契国と楽園管理機構の間で結ばれた条約により、新型位相跳躍機関の開発と使用にすさまじい制限がかかった。

 

無汚染水の新規獲得が事実上不可能になったので、理想を言えば即座に「芋」の輸出は止めたかったのだ。

 

鉄国をブチ切れさせるのが怖くて、戦争中でも無理をして取引を継続していた。

 

「無汚染水がどこかの星に埋まってないかな?」

 

農作物の輸出は水の輸出でもある。

 

無汚染水を獲得し続けられるできるなら「芋」輸出の継続は可能だ。

 

「今の技術で行ける場所の水資源は、取り尽くされているか汚染済みですよ。浄化しようにも、真っ当な手段ではハカセも元ハカセもお手上げです」

 

「聖女たちに妙な要求がいかないようにしてくれ。できるだけ万全に近い状態で帰郷させてやりたい」

 

「大規模な浄化のたびに例の数字が少し減るんですよね。本人たちが無視すればいいのでは?」

 

ドローンの発言は薄情だが、この宇宙では善人の言動だ。

 

「俺やお前やカノンみたいに鼻で笑って無茶な要求を拒否できる奴ばかりじゃないんだ」

 

「ケースさんは保護者面しすぎだと思います。他にも何人かいる「日本人」には、そこまで優しくないですよね?」

 

鉄国の奴隷市場のタイムセール兼ワゴンセールで購入した「日本人」は、聖女以外にもいた。

 

「評議会の議席を与えないと報酬が足りないほど貢献したのはドローンとカノンと聖女五人組だけだからな。腕力が常人の倍以上あっても、パイロット適性がない奴には生活の保証以上はできんよ」

 

「パイロットができないならAIや機械人間が競争相手ですから、肉人間には厳しい宇宙ですよね。最近では例のパーツを組み込んだ機械人間や、カノン妹もパイロットになってますし。……はい、これで確定です。承認の前に確認をお願いしますね、ケースさん」

 

俺は、特大ディスプレイに表示された膨大な条文を見下ろし、ARメガネのレンズ機能を起動してから作業にとりかかるのだった。

 

  ☆

 

『マスターはしばらくパイロットの仕事は禁止!』

 

メモリは怒っていた。

 

俺には無理をしたつもりはなかったんだが、主星系への帰還後の健康チェックでいくつか悪い数字が出たからだ。

 

『お父さん、だいじょうぶ?』

 

銀華が俺を見上げ、銀の姫カットが揺れる。

 

心配してくれる銀華は最高だな!

 

「もちろん大丈夫だ!」

 

『もー、真面目に聞いて、マスター』

 

二人に気遣われる俺は、この宇宙で一番幸福な人間で間違いないと思う。

 

幸せな家族の場所に、無遠慮に割り込む者がいる。

 

まあ、お邪魔したのは俺たち家族なんだが。

 

『説明を始めて良いか!?』

 

ハカセがかなり苛立っている。

 

契国国営放送総合ニュースの解説、教養番組のプロデューサー兼司会、契国における新造機械人間の設計と生産の責任者に加えて、自身の研究も進めているので時間の価値は俺の時間より貴重なのだ。

 

「頼む」

 

『よろしお願いします!』

 

俺はしっかり頭を下げ、銀華は勢いよく頭を下げ、メモリは仕方なさそうにハカセ軽く頷いた。

 

『ケース代表の検査データの分析は完了した! 老化の進行は年齢相応より激しい!』

 

ハカセの言葉に、メモリの目が殺意を帯びて光った気がした。

 

『あれだけ頻繁に戦場に出撃してこの程度なのだから、我々研究部門が処方している薬を評価して欲しいぞ!』

 

ハカセは少し腰がひけているが、メモリの眼光から逃げずに反論する。

 

『……続けて』

 

『これだからメモリ議員は嫌なんだ! 後は、例の数値は百から変化なしだ! 特殊能力に近い勘を使っても下がらず、肉人間を殺しても上がらない!』

 

「まるで、俺が特別な存在のようにも聞こえるな」

 

『そうなの? お父さん』

 

「銀華とお母さんに会えた俺は特別ではあるぞ!」

 

『特別!』

 

はしゃぐ銀華と俺に、ハカセが冷たい目を向ける。

 

『遊びに来たつもりなら帰ってくれ!』

 

「すまん」

 

『ごめんなさい』

 

頭を下げる銀華と俺の背後で、メモリが危険な気配を発していた気がした。

 

『話を戻すぞ! ケース代表が何らかの特殊能力を使っているのは確実だ! 代表が高度な操縦技術と指揮技術を持っているのは事実でも、それだけでは説明不能な戦果を上げ続けている!』

 

「続けてくれ」

 

『うむ!ケース代表を除く肉人間は、特殊能力を使うたびに例の数値が減少する! カノン議員も、実戦から一月離れていたときは百二から九十九まで低下した!』

 

その後に、契国の地方星系に現れた宙賊を少数のカノン妹と共に撃破し、百一まで戻したらしい。

 

『最後になるが!』

 

ハカセが銀華を凝視する。

 

銀華は不思議そうに目をまたたかせ、俺は護衛としてついて来た機械人間に通信を遮断できているかどうか確認し、メモリはハカセの視線に割り込んで銀華を隠す。

 

『銀華の数値を再度測定した! 五十で変化なしだ!』

 

『ハカセさん。私、チート、じゃなくて特殊な力、使えないよ?』

 

銀華はメモリと俺にとっての特別ではあるが、機械人間として珍しくパイロットの素質を持ってはいることを除けば、ハイエンド機体なのに「成長速度が遅い」個体だ。

 

『契国にとっても、機械人間にとっても、この特殊能力は研究がはじまったばかりの分野だ! 銀華に特殊能力があるかどうかは現時点では不明だ!』

 

ハカセなりに銀華に気を使っているのか、単に傲岸不遜なのかは、俺には分からない。

 

「メモリ。これは公表していい情報か?」

 

『分からない。公表するかどうか、公表する場合でもどの程度公表するかは慎重に判断した方がいいと思う。……すごく嫌だけど、ディーヴァに検討させるのが一番だと思う』

 

メモリの目の光は、銀華のナビを公言する契国高官に対する殺意で眩しく輝いていた。

 

  ☆

 

ハカセ専用の小型宇宙居住地から、家族全員で乗り込んだサーフボード型巡洋艦で離れる。

 

『みゃっ!』

 

銀華が興奮している。

 

ゲスト用の座席に行儀よく座ってはいるが、興奮を押さえきれずに人間の言葉を話さなくなっている。

 

「メモリ」

 

『通信越しの会話は普通だよ、マスター。銀華のこの癖、治そうとしてるんだけど……』

 

「癖で済んでいるなら構わない。伝えたいことは分かるからな」

 

パイロット候補生にとって、サーフボード型は憧れの艦の一つらしいのだ。

 

「しかし、指揮もせず操縦をしないというのは慣れないな」

 

銀華に憧れの視線を向けられている二十八人のうちの一人が、いつもとは別人のような引き締まった表情をして操縦している。

 

お前、戦場でもそんな表情しないだろ。

 

『ディーヴァ地表統括がいる宇宙居住地へ向かいます』

 

「頼む」

 

俺はゲスト用の席に座り直し、メモリや銀華に向かおうとする視線を、無理矢理に別方向へ向けた。

 

「ハカセ。自家用船を使わないのは珍しいな」

 

ハカセも同乗している。

 

いつもは誘っても『他人の都合にあわせるのは面倒だ!』と答えて断ってくるのに、今日はハカセの方から同乗を依頼してきた。

 

『俺もディーヴァに相談がある! そこで話す!』

 

俺は静かに頷き、艦の外を映し出すディスプレイに映った、聖女用の宇宙居住地を見下ろした。

 

  ☆

 

名工が魂を削って形にしたかのような美貌が、心の底からの喜びで笑顔を浮かべる。

 

『銀華様』

 

蕩けるような甘さも、燃え上がるような情熱も、どれだけ表面をとりつくろっても隠しきれない。

 

圧倒的能力に加えて、ドローンと並び立つ契国代表代行という地位も持つのがディーヴァという機械人間だ。

 

彼女からの熱烈な好意を真正面から浴びれば、心が強い人間でも堕落しかねない。

 

が、うちの銀華だけは別だ。

 

『ディーヴァおはよう!』

 

平然と挨拶をして、ディーヴァとお互いに近況を話し始めた。

 

「「「「「すみませんばたばたして」」」」」

 

口調や言葉の細部は違うが全員同じような発言をしているのが聖女たちだ。

 

鉄国でパイロットとして失敗して俺たちに買い取られて一般人にされた後、自分たちの特殊能力と人格的影響力を駆使して成り上がった人物たちでもある。

 

「帰郷に備えて忙しいところすまんな」

 

「いえ、帰還自体は時間をかければなんとかなりそうです。使える新型跳躍機関の数が減ったので、必要なエネルギーが増えちゃいましたけど」

 

技術に詳しそうな聖女が代表して話を続ける。

 

『それって、同行しようとしてるAIや機械人間が多すぎるからだったりしない? 連れて行かなくてもいいからね。はい、これお土産。聖女のみんなが浄化した品ほどじゃないけど、鉄国では人気らしいよ』

 

メモリが、贈答品っぽい色合いの、大きな箱を渡す。

 

重力が箱限定で軽減されているのに結構な重さで、しかし外装に気付いた聖女たちが嬉しげな歓声をあげる。

 

『にゃー……』

 

「んんっ。銀華」

 

他人のお土産をねだるような態度は良くないぞ、と言いたかったのだが銀華に伝わる前に聖女たちに気付かれた。

 

「銀華ちゃんをお借りします!」

 

「難しい話はディーヴァさんにお任せしているのでディーヴァさんとお願いします!」

 

「「「今日はパーティーだー!」」」

 

取り残されたディーヴァが、滅びの日に一人取り残されたような絶望顔をしていた。

 

  ☆

 

『火国から俺個人に依頼が来ている! 国家規模でだ!』

 

ハカセはいつも真剣だが、今は深刻でもある。

 

『銀華の目と耳のパーツの改良版の設計依頼だ! 契国の法と規制をぎりぎりで回避はしているが……肉人間の言う「嫌な予感がする」だ!』

 

ハカセは、注文の具体的な内容が入ったデータチップをディーヴァへ直接手渡した。

 

『確認いたします』

 

ディーヴァは直接は読み取らず、ディスプレイに表示させて確認する。

 

もっとも、情報を読み取るスピードは圧倒的で、俺が見た画面は超高速スクールの最中で一文字も読み取れなかった。

 

ディーヴァの表情が、絶望が色濃く残った表情から、膨大な人口を統治する政治家に顔に変わる。

 

『火国の技術の傾向は、まだ物理でしょうか』

 

ディーヴァのその言葉を聞いた瞬間、ハカセの頭部が見て分かるほど熱を持つ。

 

『そうか! あの目と耳のパーツで精神分野の技術を知覚と利用が可能になったということか!』

 

メモリのように目は光らないが、ハカセの迫力とが明らかに濃くなる。

 

ゲームに例えるなら、物理のテクノロジーツリーだった国が、精神のテクノロジーツリーも伸ばせるようになったってことか。

 

中途半端になって国力が低下する可能性もあるし、両者の長所を持つ最高の技術や最強の艦が完成する可能性もある、のか?

 

「予想される脅威は」

 

独裁者である俺は、契国の全てに責任を負っている。

 

何が起こっているか分からなくても、打つべき手を打たねばならない。

 

『旧聖国技術の再現程度なら全く脅威ではない! が! 奴らが目指しているのはおそらく別だ!』

 

仕草としては舌なめずりではないが、ハカセの態度は舌なめずりそのものだ。

 

『研究職だけでなく国民の数割に銀華の目と耳を持たせるつもりだ! あの、機械人間にもコピーを繰り返した肉人間にも見えないものをな!』

 

「メモリ。銀華って何か変なものが見えるのか?」

 

『旧聖国のステルスが通用しないくらい? マスターと同じだと思う』

 

メモリも俺も、ハカセが何に興奮しているのか分からない。

 

『御義母様、御義父様』

 

ディーヴァがとち狂ったことを言い出した。

 

メモリが無言のままナニーに暗殺の依頼を出そうとしたことに気付いて、俺は慌てて止める。

 

『わたくしの前職は連邦直轄地の地表統括ユニットです』

 

鉄国相手にしぶとく抵抗を続ける、準列強の集合体だ。

 

鉄国に攻め込まれる前は、その時点の契国とは次元の違う巨大勢力だった集団だ。

 

ハカセがぎょっとした顔でディーヴァを見るが、ディーヴァは真っ直ぐに俺たち夫婦を見つめている。

 

『その際に精神分野の技術に触れたことがあります。至急、対策を始めることを進言いたします』

 

守秘義務について指摘するのは無意味だろう。

 

おそらくディーヴァは、契国というより銀華個人に全てを賭けている。

 

メモリの関節部から異音が生じる。

 

生後一年の娘に執着するディーヴァに対する敵意は凄まじく、しかし銀華の役には立つという理性の判断が武力行使を押し止めさせている。

 

「信用しよう。銀華とのつきあいについては、話は別だが」

 

後半を聞いたディーヴァの顔が、非常に情けないものになっていた。

 

  ☆

 

それから約一ヶ月後。

 

火国に近い契国地方星系では大量の賊が襲撃を繰り返していた。

 

数が多いがそれ以上に異様なのは個々の艦の大きさだ。

 

『司令! また戦艦サイズの艦ばっかりです! 超重装甲!』

 

サーフボード型もビートボード型も、この種の艦の相手は苦手だ。

 

遭遇戦なら速度の差を活かして逃げれば良いが、地方とはいえ自国の星系を見捨てて逃げるのは統治の面で非常にマズイ。

 

「試作艦を使う」

 

『うわ』

 

『司令、誤射は勘弁してくださいよ』

 

サーフボード型二十八隻が加速を最小限にして、俺の艦の前で位相障壁を展開して盾になる。

 

「この距離でなら外さんよ」

 

俺が乗っているのは、長大な砲身に小さなパーツがくっついた形の大型艦だ。

 

体積は大きめの戦艦だが見た目の印象は小型の弩級艦。

 

外見はほぼ「信号機」だ。

 

「契国の奴らびびってやがる!」

 

「サーフボード型なんて軽くて速いだけのカスだぜ!」

 

賊が煽ってくる。

 

腹が立つが、ここは我慢だ。

 

連射性能が皆無の、一度撃てば主観時間で一分間は撃てなくなる砲にエネルギーを注いでいく。

 

華麗に戦い敵を屠って来たサーフボード型が防戦一方で位相障壁を削られていく姿は、敵を興奮させて冷静さを失わせる。

 

『マスター、カウントを始めるね。三、二、いくよー!』

 

サーフボード型がわずかに陣形を変えて、新型艦『信号機型戦艦』が放つ質量弾が通れるだけの隙間を空ける。

 

砲身の端から端まで移動するまでに、多数の位相跳躍機関により超高速まで加速させられた通常サイズの質量弾が、敵艦隊の対空砲やレーザーによる迎撃を圧倒的な速度で最小限のダメージで突破する。

 

「なっ」

 

賊には、悲鳴をあげる時間も残されていなかった。

 

位相障壁は接触と同時に砕け散り、分厚い装甲は衝突時の衝撃に耐えきれずに艦ごとひしゃげてどこか遠くへ飛んでいく。

 

操縦室の中身は、衝突の瞬間に潰れているはずだ。

 

「位相崩壊砲相手には効果が薄い艦だが、敵を選べば使えるか」

 

信号機型戦艦が、サーフボード型艦隊と共に、後ろへ向かって加速する。

 

敵の重戦艦艦隊は追撃しようとするが、最高速も加速力も倍は違うので全く追いつけない。

 

『マスター。エネルギーチャージ終了まで主観時間で後四十秒だよ』

 

「時間がかかるな。次の弾はメモリが撃つか?」

 

『うん!』

 

『司令! 次の出撃では私も信号機型に乗りたいです!』

 

『『『『わたしも!』』』』

 

多数の小さなレーザー砲塔で戦ってきたサーフボード型乗りにとって、一撃必殺の超光速質量弾は、特別な魅力があるのかもしれないと思った。

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