AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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【声】の暴虐

【おのれっ、このっ、肉人形に機械人形どもっ】

 

聖国の弩級艦にしか見えない艦から、大気がないはずの宇宙に大声が響いている。

 

「あー、今わるぐち言ったー!」

 

カノン妹たちは位相崩壊砲の使用はできるだけ避けて、弩級艦の船体装甲を剥がすためにミサイルを撃ち込んでいく。

 

カノンと比べれば練度は低く、しかし射撃に限定すれば俺より巧い。

 

『司令ー。私たちには聞き取りにくいので通訳してくださいよー』

 

サーフボード型は弩級艦とそのパイロットの癖を把握して、対空砲を向けられると同時に砲口をレーザーで焼き潰したり、装甲が動いてあらわになった魚雷射出機構を融けるまでレーザー複数で狙い撃ったりと、やりたい放題だ。

 

もちろん、サーフボード型の個々のレーザーは弱いので、弩級艦は小さなダメージしか受けていない。

 

「うちまーす」

 

『どーぞー』

 

サーフボード型により反撃手段がなくなった箇所に、カノン妹たちが操縦するハリネズミ型からのミサイルが飛んで来て、ひどいことになる。

 

【人形どもがっ】

 

相変わらずの大声だ。

 

「勘弁してくれ」

 

耳栓をすれば聞き取りづらく、耳栓を外せば俺の耳にダメージがある。

 

「A班。敵艦の操縦室を位相崩壊砲で狙えるか?」

 

「できますけど命中率は五割を切りますよ? 相殺だいじょうぶです?」

 

俺は、カノン妹たちのこれまでの戦いぶりと今の疲労具合をもとに脳内で計算し、この戦場での相殺に失敗する可能性と、相殺に位相崩壊砲を使い過ぎる可能性があると判断した。

 

「だいじょうぶではない、と判断する。陸戦隊は連れてきていないから、敵が仕掛けてきても躱せる距離で痛めつけてやれ。降伏の条件を言いながらにしろよ」

 

「はい! 命のほしょー! 水とごはんはちょっとまずい!」

 

お前らカノン妹にとってのちょっと不味いは、俺にとっての普通で、地表居住者にとっての一生に一度食べられるかどうか分からないごちそうだと言いたい。

 

「大きく間違ってはいないがな……」

 

『汚染した水に弱いのが肉人間の弱点だよね、マスター』

 

メモリがうんうんとうなずいている。

 

肉人間の弱点は他にも無数にある気がするが、メモリがそれで納得しているなら否定する必要はない。

 

敵弩級艦は、純白に近かった装甲のあちこちが削ぎ落とされたかのように消滅し、内部の巨大パーツから細々したパーツまで剥き出しになっている。

 

『マスター、そろそろ倒せそう?』

 

「最初に戦った弩級艦みたいにボロければいけそうだが、今回は長引きそうだ」

 

この程度の相手なら、俺が細部まで指揮しなくても部下が対処可能だ。

 

つまり、俺の仕事はそれ以外だ。

 

『どこで整備してたのかな?』

 

「それが重要だよな」

 

敵が単独なのかどうか、敵の拠点がどこにあるのか、次の戦いのために何をすべきか、それとも撤退すべきか。

 

予測するだけでなく、どんな展開になっても破滅しないよう計画と準備をするのが、司令官である俺の仕事だ。

 

「とりあえず、専門家を呼んでくるか」

 

『マスター、伝令にするのはミサイルを全部使った班だけでいい?』

 

「一つの班は残してくれ。眼の前の弩級艦をどうにかした後に、哨戒を任せる」

 

俺のやり方を俺よりも知っているかもしれないメモリは、数秒で計画をまとめてディスプレイに表示する。

 

「これでいこう」

 

『ちょっと待ってマスター。先に増援が来たみたい』

 

赤ミミズの残骸が浮かぶ灰色の宇宙に、信号機の形をした砲撃戦艦が前触れなく出現する。

 

出現直後は隊列も乱れていたのに、数回呼吸をする時間で俺の艦隊に対する支援を行える位置と隊列への変更を完了する。

 

「やるじゃないか、カノン」

 

「お褒めの言葉より、連絡が遅れたことに対する謝罪を頂きたいです」

 

穏やかな口調で言うカノンだが、カノンにしては珍しいほど明確に要求を突きつけてきていた。

 

「時間?」

 

『マスター。ここと主星系で、時間が流れる速度が予想以上に違うみたい』

 

データとして情報を受け取ったメモリが説明してくれる。

 

「そうか。カノン、悪かった。事情は聞いた通りだ。赤ミミズの駆除を急ぎたい」

 

俺は口で言っている間もキーボードを介して指揮を行っている。

 

位相崩壊砲は威力はあるが後始末が面倒なので、まだミサイルが残っているハリネズミ型巡洋艦を「新しい敵に備えた予備戦力」にするために後退させて、それまでミサイルが担当していた攻撃を信号機型による超光速質量弾に切り替える。

 

このあたりのことは、詳しく指示を出さなくても察してあわせてくれる程度に、カノンは俺の指揮の癖をよく知っている。

 

「下拵えが終わってから戦場を任されても……」

 

不満げなカノンだが、指揮の手際は見事なものだ。

 

「追い詰めすぎるのはいけません。敵の心を折るのが、最大の戦果に繋がるのです」

 

カノン本人が乗り込む砲撃戦艦が、敵弩級艦の操縦室がある部分に超光速質量弾を直撃させる。

 

威力を考えれば操縦室が潰れていてもおかしくないはずなのに、超光速質量弾による破壊は広範囲の位相障壁の破壊と操縦室を守る船体装甲の損壊と脱落という形になる。

 

本当に、こいつの射撃技術がわけが分からん。

 

見本を至近距離で見せられたカノン妹たちが、俺が知っている技術よりも成長した技術で攻撃を開始する。

 

「ねーさますごい!」

 

『久々に見ましたが相変わらずすごい。司令の回避とどっちが上なんです?』

 

おい。

 

カノンを煽るんじゃない。

 

「どの艦で戦うかで勝敗は変わりますよ」

 

ディスプレイに映るカノンが俺を見る。

 

なお、大型野生動物が獲物を見るような視線は、ディスプレイではなくカノンの艦がある方向から感じる。

 

【ば、かな。何故、人形どもの増援として、人間が現れる!?】

 

声はさらに大きくなり、俺は内容をキーボード入力するのを諦めた。

 

「おかしな発声法ですね」

 

カノンは「あー」とか「いー」とか何度か声の調子を確かめてから、一度大きく息を吸った。

 

【そこのパイロット。所属勢力に殉じるか、わたくしたちに降伏するか選びなさい】

 

カノンはシリアス顔だが、つきあいの長いメモリや俺には【あら、これはいったい?】とカノンが内心困惑しているのが分かっていた。

 

【下界で何が起きて……いや、なんでもない。降伏する。戦士として名誉ある扱いを希望する】

 

それまでの【人間未満の人形もどきに対する態度】は、完全に消えていた。

 

  ☆

 

「次は狩りではなく戦場をお願いします」

 

メモリと俺は、そんなことを言うカノンと別れて主星系へ帰還する。

 

途中で、ミサイルを満載したハリネズミ型部隊や、橋頭堡あるいは害獣駆除拠点建設のための資材を詰め込んだ容量特化型弩級艦とすれ違う。

 

俺たちが連行中の「聖国の弩級艦」にしか見えない特大艦に気付いたパイロットたちが、とても驚いていた。

 

『そういえばマスター。あの灰色の場所ってなんて言うの?』

 

メモリは瞬きと目の光の点滅を同時に行っている。

 

「俺は「主星系の近所」と呼んできた気がするな」

 

『マスターの発言をもとに公的文書で使う用語とかが決まることもあるから、何か名前を考えよ?』

 

メモリはやる気だ。

 

ただ、俺も人のことは全く言えないが、メモリもネーミングセンスがかなり壊滅的だ。

 

「研究部門の奴らは、あそこをなんて言ってるか分かるか?」

 

『灰相界だ!』

 

ハカセが夫婦の会話に通信で割り込み、メモリの『後で必ず殺すポイント』のハカセの点数がまた一点増えた。

 

『この主星系があるのが実相界! 灰相界の果てにあると予想されるのが無相界だ! 聖女の帰還の後は無相界を目指して研究を!』

 

ハカセからの通信は唐突に途切れた。

 

代わって、申し訳なさそうな顔の元ハカセの通信が届く。

 

『同僚の醜態を、契国研究職を代表して謝罪する』

 

最初にハカセになった後にその称号を奪われたままの元ハカセではあるが、常にハカセと比較される程度に実績も知名度もあり、研究職の割には常識的なので研究職の中で地位も立場も強い。

 

メモリをちらりと見ると『元ハカセがそこまで言うなら今回だけは見逃してあげる』という目の光をしている。

 

「これからは灰色の宇宙のことを灰相界と呼ぶ。ハカセのことは、まあ、なんだ。元ハカセたちがふりだけでもいいから猫の被り方を教えてやってくれ」

 

『代表……。私はそれほど悪いことをしてしまったかね!?』

 

元ハカセが、見たことのないほどの焦り顔になっている。

 

ハカセが表面だけでもまともになる日は、遠そうだった。

 

  ☆

 

宇宙港に戻って休憩中の俺たちのもとに、次々に報告が届く。

 

『マスター。楽園管理機構の調査は順調で、艦隊の接収は難航中だって。どっちから聞く?』

 

「調査から頼む」

 

『うん。カノン妹は知性が自然発生しない肉人間の体にAIを書き込んだ人間だけど、AIのかわりに人工無脳を書き込んだのが、これまで調査した楽園管理機構の人間みたい』

 

悪趣味だな。

 

『建物とか基地とかは、普通にセキュリティが強くて時間がかかりそう。……次に接収だけど、所有権を書き換えるのを一気にやらないと、深刻な事故と判断して自壊するみたい。それ用の機材はあるけど数が少ないから時間がかかりそうなんだって』

 

「一気に戦力拡大とはいかんか」

 

火国や鉄国が介入してくるかもしれん。

 

介入前にできるだけ回収してぶっ壊すか、共同して調査や接収をすすめるか、ドローンやディーヴァに相談すべきかもしれない。

 

『それとこれは元ハカセからだけど、楽園管理機構の艦は構成に余裕がなさすぎて、僕たちが使ってる跳躍機関は載せられないみたい』

 

「高性能に喜ぶべきか、灰相界で使えないのを嘆くべきか……」

 

『何か意図がありそうだよね、マスター』

 

二人同時に茶をすすりながら、むむむと唸った。

 

そうしているうちにドローンからの通信が届く。

 

「無理でした」

 

ドローンが疲れ顔だ。

 

「珍しいな」

 

交渉と尋問と高度なスキャンを駆使できるドローンは、これまで多数の捕虜から膨大な重要情報を抜き取ってきた。

 

なのに、灰相界で捕まえた捕虜相手の情報収集に失敗した。

 

『マスター』

 

「分かっている。元ハカセとディーヴァも呼んでくれ。……それと銀華もだ」

 

「いいんですか?」

 

ドローンが銀華を心配する。

 

「激しい尋問や拷問はしない。滅多にないことは、できるだけ経験させてやりたい」

 

『大丈夫だよドローン。僕らの銀華はしっかりしているからね!』

 

メモリは自信満々に、薄い胸を張っていた。

 

  ☆

 

『エルフさんだ!』

 

銀華がはしゃいでいる。

 

仕事で勉強だと伝えておいたのに、完全に遊ぶ気分になっていようだ。

 

【人形、ではない。人間を機械で作ったのか、お前たち!】

 

厚さ数メートルの透明な装甲越しに見える捕虜は、確かに銀華の言うとおりにエルフに見える。

 

中性的な美貌を持つ、色あせた金の髪の長耳人間だ。

 

【このようなものを作るとは、正気なのか?】

 

そのエルフは、嫌悪を通り越した畏れに近い目を銀華に向けてから、明らかに乱れた息を吐きながら俺に向き直った。

 

「俺は、ここら一帯を統治している契国の元首だ。ケースでいい」

 

銀華を悪く言われて腸が煮えくりかえる思いではあるが、情報収集が終わるまでは殺さない程度の理性は残っている。

 

【青灰の枝と呼ばれている。好きに呼ぶがいい】

 

俺が、銀華を含む全員に聞こえるよう「通訳」すると、銀華は『じゃあエルフさんで!』と元気に言った。

 

長耳なのはカノン妹たちも同じだが、銀華にとってあいつらはエルフとは別らしい。

 

銀華のお気に入りなら、殺せない……。

 

「銀華。本名がある相手は本名で呼んでやろうな。オブザーバー席はそこだから座っていなさい」

 

『はーい!』

 

足音をたてず、軍人ではなく踊り手の動きで優雅に席に座る。

 

ただし、わくわくと比喩的な意味で輝く瞳は、踊り手でも軍人でもなく好奇心旺盛な子供のそれだ。

 

「所属は?」

 

【他国は聖国と呼んでいた】

 

「俺たちが滅ぼした奴とは別か?」

 

【お前たちは畑を踏み荒らしただけだ。我々は戦いと思っていなかった。灰の宇宙にお前たちが入り込むまでは、だがな】

 

エルフを見るメモリは表情を変えず、しかし同席するディーヴァや元ハカセと活発に意見交換しているのを示すように目の光が瞬いている。

 

【しかし……】

 

エルフを渋面を浮かべて俺を凝視する。

 

メモリから、強い殺意がエルフに向けられる。

 

【人間なら鳴かずに声を出せ】

 

「その声の出し方が分からん。出せるかどうかもな」

 

俺は肩をすくめ、同じ部屋にいる警備に合図を送る。

 

すると、捕虜であるエルフがいる部屋の扉の一つが開き、既に準備されていた食事が自走するカートに載せられエルフに近付いた。

 

「俺たちはあんたの文化を知らない。食事中は見ない方がいいか?」

 

【捕虜になった戦士が気にすることではないな】

 

エルフは、料理の匂いが届く距離になってから露骨に動揺している。

 

毒や自白剤の可能性を考えるべきなのに、食欲に突き動かされている。

 

『うむ、なかなかではないか】

 

普段カノン妹が食べているものより汚染が強い食事を、本当に美味しそうに食べる。

 

食べ終えるまでの時間は短かったが、心底満足しているのはエルフの顔を見るだけで分かる。

 

【悪いことは言わん。灰の宇宙に興味本位で関わるな。お前たちは強い。我らと戦いが成り立つ程度にはな】

 

「こっちもやめる訳にはいかない用件があってな。衝突を回避できるなら是非したくはあるが」

 

契国の目的は、聖女の帰郷と水資源の獲得だ。

 

お互い、相手の望むことと望まないことを推測しながら、次に口にする言葉を選んでいた。

 

【ケースさん。カノンです。わたくしの声が聞こえますか?】

 

その声は、強いていうなら「神々しく」聞こえた。

 

エルフの【声】より大きいのに聞き取り易く、存在感も強い。

 

「聞こえるが……。カノン、どこから話している、じゃなくて俺の声が聞こえるのか?」

 

実相界と灰相界の間での通信は実用化されておらず、意思疎通は伝令を使うしかないはずだった。

 

【やはり聞こえていないのでしょうか。この発声法は消耗しますし、宴会芸にしか使えませんね】

 

エルフが、比喩的な意味で顎が外れそうな顔をしている。

 

【下界相手の託宣まで可能だとは、王族並ではないか】

 

思わずこぼれたように聞こえた言葉は、演技か本音か俺には分からない。

 

ただ、通信越しに聞いていたドローンには何か重要なことが分かったようだ。

 

「ケースさん。まずいです」

 

エルフに聞こえない音声で、俺だけでなくメモリたちにも聞こえる音が届く。

 

「火国に物資などを与えていたのは、この捕虜が属する勢力かもしれません。先程聞こえた姉さんの【声】ですが、例の数値が低い者ほど【声】に抵抗できず顕著な影響がでています」

 

俺が百、ドローンが九十、カノン妹たちが四十程度で、主星系まで働きに来れるほど有能な地表出身者が二十に届くかどうかという奴だ。

 

「どんな影響だ?」

 

「崇拝です。これを意図的に聞かせられるなら、国ひとつ支配するなんて簡単ですよ」

 

気合い十分なカノン妹ならなんとか抵抗できるらしい。

 

カノン妹の数値も、列強の住人基準では「極めて高い」数値だ。

 

国家の中枢が『専用の耳パーツあっても聞き取り辛い』機械人間と「抵抗可能な」肉人間である契国しか、おそらくこの【声】には抵抗できない。

 

銀華が聞こえるのは、メモリと俺の娘だから当然だな!

 

『マスター。火国と灰相界にある……仮に本家聖国って呼ぶけど、この二国は同盟関係?』

 

「火国は使い捨ての道具かもしれんな。クソっ。楽園管理機構の接収が終わってからなら楽勝だったのに!」

 

俺たちの声は聞こえないようにしているが、雰囲気で察したエルフが得意げな顔をしていた。

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