AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~ 作:星灯ゆらり
「実相アンカードローン、二つとも破壊されました!」
『敵巡洋艦が加速を開始。レーザーキャノンの射程まで主観時間で後二十八秒』
「ケースさん、敵船すべてを仕留めるには弾が足りませんよ」
『質量弾到達まで主観時間で後五秒。後三秒。命中。敵巡洋艦の速度が低下しました』
商売が順調ということは儲けているということで、頭数を揃えて襲っても黒字になるってことだ。
つまり敵の数がとても多い。
「残骸の回収は諦める。前の星系に戻るぞ!!」
俺たちは巡洋艦二隻の残骸を放置して、最初にこの宇宙へ目覚めた星系へと長距離位相跳躍を実行した。
☆
まあ、当たり前のように追撃されるんだけど、あの星系にはあの三人がいる。
「儂は勅任艦隊司令のワンオ下級部隊長である!」
汎用巡洋艦がミサイルとオートキャノンとレーザーを乱射する。
タイミングがばらばらにしか見えないのに着弾は狭い範囲にほぼ同時で、位相障壁と船体装甲と動力を破壊された戦艦が船体の各所から火を噴き出して崩壊していく。
『その一の子分のシロだお!』『その一の子分、クロ!』
高速フリゲート二隻が、二つの頭を持つオルトロスのようにレーザーという牙で駆逐艦やフリゲートを次々に食い破る。
「ケースさん、この人たちって……」
「治安維持艦隊だよ。間違っても攻撃しようなんて思うなよ。誤射も論外だ」
MMOでは場所全体を安全地帯とする代わりに強力なNPCを配置することもあるが、この三隻はそういうNPC並に強力だ。
この星系で誰が最強か宣言するかのように、他星系からの侵入者を短時間で殲滅してみせた。
「ふん、儂の手を借りずとも、数隻は自力でやれたようだな」
『治安維持艦隊に賊をなすりつけるのは感心しないお』
『残骸は、証拠品、兼、出動費用として、押収!』
三人は厳しい表情をしているが、見た目ほどには感情を害していない。
「いつもありがとうございます」
俺は姿勢を正して頭を下げる。
「私たちはこの星系へ位相跳躍する前に、ここを目指していると全力で発信したのですが……」
このあたりはワンオ氏の縄張りだ。
犯罪を犯しても短時間でなかったことになる末法宇宙だが、犯罪の直後にこのあたりに侵入すればワンオ氏直々の迎撃があるってわけだ。
「儂と知って襲ってくるとはのう」
『親分は舐められてないお!』『親分、舐める奴、殺す』
俺の船、マザーボードの操縦室では、相変わらず三頭身の相棒がワンオ氏の部下が撒き散らす殺気に怯えている。
「若造もそろそろ中堅だろう。うまいことやれ。ではな」
汎用巡洋艦一隻と高速フリゲート二隻が、残骸の中から金になりそうなもの全てをトラクタービームへ引っ張りながら位相跳躍していった。
「いつもの宇宙港で良いのでしょうか」
戦闘中でなければ上品な美少女なカノンが、ディスプレイ越しに確認してくる。
「大型造船設備がある宇宙港へ行く」
カノンもドローンも露骨に落胆する。
いつもの宇宙港と違って、良い飯屋がないからな。
「そろそろ次の船が必要だろ。愚痴ってないで行くぞ」
いつもの宇宙港より警備は厳重だが、俺たちは犯罪をしたことのない真っ白な経歴を持っている。
特に呼び止められることもなく、宇宙港の隅に三隻とも係留を許可された。
「今回のボーナスで僕の船を買うためのお金が貯まりました」
「おめでとうドローン!」
「姉さんももうちょっとでしょ。僕が買えるのは船本体だけで、特殊なドローンにはまだ手が届かないよ」
おそらく血の繋がりのない姉弟は今日も仲良しだ。
「船を買うつもりなら新しい船を買えるまで貯蓄してもいいんじゃないか。俺も一隻買うつもりだし」
相棒からの発言はない。
現在相棒は、三頭身の体だけでなくこの船のコンピュータも使って、新しい船について検討を重ねている。
「とうとう戦艦ですか!」
ドローンは目をきらきらさせている。
大きくて火力が強い戦艦には魅力があるから仕方がないね。
「戦艦も魅力的だが、目的は輸送艦だよ。今日も撃破した後の残骸をかなり諦めただろ? カノンも残弾を気にしながら戦ってたし、船倉の容量が大きくて、宇宙港以外でも積み荷の出し入れができる船が欲しいんだ」
頑丈さと容量だけを考えるなら大型輸送艦一択だが、あれは宇宙港でしか荷下ろしできないから俺たちには使いづらいんだ。
『あった、これ!』
相棒が大声を出す。
俺の船だけでなく、ドローンとカノンの船にも宇宙船のカタログデータを送信する。
「武装輸送船か。武装も装甲もあるから中途半端だが、フリゲート艦隊に随伴させるなら丁度いい速度だな」
これがあれば、今日の儲けは倍になっていたはずだ。
安い戦艦が買えるほどには高いが、それだけの価値は十分にある。
だが、盛り上がる俺と相棒とは違って、ドローンもカノンも乗り気ではない。
「誰か一人が輸送艦に乗ると全体の火力が落ちます」
「信用しきれない方をこれに乗せるのは反対させていただきます。乗り逃げされると損害が深刻な額になってしまいます」
反論できない。
でもなー。
俺の琴線に触れるんだよなー。
『マスター、スカウトはうまくいっていないの?』
相棒は宇宙港で同好の士と踊るために、ダンス用の靴の準備を始めている。
「うん」
完全に駄目だ。
人が良いだけの無能なら低待遇で雇った可能性もあった。
だが現実は、悪意を隠している奴、自分の悪意に気づいてもいない奴、善意で俺に被害を与えそうな奴ばかりだった。
『マスターってひょっとして』
「メモリさん!」
ドローンが必死の表情で相棒を止めようとしている。
ごめんね、コミュ力足らなくて。
「適当に休憩や飯を食いながら聞いてくれ。今の俺たちに足りないのは輸送能力だ。PvPで稼ぐ場合でも、輸送で稼ぐ場合でも、今のままだと儲けは頭打ちだ」
戦利品を運ぶときも、武器弾薬を持っていくときも、船倉の容量がきつい。
「何か良い案があれば提案してくれ。俺の今の案は、俺が戦艦に乗り換えて単純に船倉を大きくするって案だ。維持コストが大きく増える割に戦力はあまり上がらないからできれば避けたいと思っている」
今使っている「マザーボード」の性能が良すぎるんだよ。
もちろん「フリゲートとしては」高性能ってだけだが、戦艦は強さの上限は高いが強くするためのコストも維持するためのコストもフリゲートの比じゃないんだよな。
カノンとドローンは相談……あれ?
姉弟で相談はせずに、見えない誰か、おそらくAIと相談している感じだ。
「ケースさん、AIについてどう思われます?」
カノンが俺に質問した。
「相棒の種族」
この世界じゃAIは機械人間らしいからな。
種族でいいだろ。
「ケースさん、それはあまり公言しない方がいいです」
ドローンは俺をなだめるみたいな雰囲気だ。
「ひょっとしてドローンもカノンもAIから聞かされてる?」
俺が尋ねると、両方から頷かれた。
機械人間って単語は禁忌中の禁忌で、それを連想させる言動も危険ってことらしい。
「すまん、気をつける。で、どんな提案だ?」
「はい。新しく購入する輸送艦をAIに操縦させるのはいかがでしょうか」
俺は、宇宙船パイロット不在時の、位相戦闘中の動きを何種類か思い浮かべて検討する。
「可能な限り戦闘を避けさせる場合でも、撃沈されたり捕獲されたりする可能性が大きすぎないか? 最高級の体を持っているAIなら話は別だろうが」
『そっかなー。人数がいれば輸送艦ならなんとかなると思うよ』
相棒は靴を履き終え、出かける準備を終えている。
『仮のマスターが死んで立場が宙ぶらりんになった子がこれから増えていくし、手分けすれば戦闘以外はなんとかなる気がしない?』
「相棒と同程度を期待していいのか?」
『僕よりちょっと下が十人……んんっ、三十人……ちょっと待って、希望者が百人超えそう』
相棒が百面相をしている。
「まさか」
カノンの顔色が悪くなる。
転生者あるいは日本人のコピーたちが大勢死んだと思ったのかもしれない。
『無職……じゃなくて宇宙船に転職希望のAIが思ったよりいっぱいいたみたい。このあたりのトップがあの二人だから当然といえば当然かあ』
あのシロとクロって機械人間、マスターを乗せずに高速フリゲートを乗り回してたりするのかね。
『ねえマスター。給料どのくらい出せる?』
相棒の目の光は、かなり真剣に聞いているときの色と強さだ。
「能力と適性によるとしか言えない。輸送艦も安くはないんだ」
俺の手元のディスプレイが、大型造船設備から俺宛への連絡を表示する。
俺限定でAI専用輸送艦の割引販売?
この世界にも詐欺メールがあるのか。
着信拒否だ着信拒否。
「その給料は、お高い人型機械を買うための給料ってことだよな」
『うん。みんな買えるなら専用の体を買いたいよ、絶対』
「星間国家に喧嘩を売るのは嫌だぜ」
『大丈夫! そのあたりのことはこっちでうまくするから。行政機関勤務のAIも参加する気みたいだし!』
その情報、俺が聞いていい情報か?
そのタイミングでまた詐欺メール……メールじゃないがだいたいそんな役割の通信がディスプレイに表示される。
『マスター! それ詐欺じゃないってば。補助金とかいろいろついてその価格なんだって』
誰かにされた説明をそのまま俺に話しているような口ぶりだ。
補助金、出どころは行政組織、行政勤務のAI……。
「癒着?」
『合法! 合法だから! 新型輸送艦の実戦データ収集への協力が条件の補助金とかだから!』
割引が良すぎて、俺はAIの雇用とAI専用輸送艦の購入を了承することになった。
☆
重武装の輸送艦が一隻、ぎこちない動きで位相戦闘を継続する。
人間の宇宙船パイロットの操縦にしては判断も行動も遅すぎ、急接近する敵フリゲートに対する迎撃もひどく甘い。
あまりに教科書通りの距離とタイミングで迎撃を開始する。
ほとんど狙わなくても命中が期待できる高価なミサイルも、操る者が下手なら実力を発揮できない。
並のフリゲートの二、三隻なら撃破できるはずの弾幕が、敵フリゲートにより簡単に回避された。
それでも時間は稼げた。
遠距離で発射された質量弾が、薄い船体装甲ごと艦本体を破壊する。
また、武装輸送船に随伴していた攻撃ドローンが猛烈な勢いで弾幕を張り、輸送艦を目指していた第二第三の敵フリゲートの接近を阻む。
「間に合った」
『ロックオン完了しました。事前の命令に従い攻撃します』
緑の閃光が逃げ腰になった敵フリゲートを貫いた。
前よりアップグレードしているので、速度と引き換えに薄い装甲しか持たないフリゲートを一撃で爆散させる。
既に攻撃ドローンはエネルギー切れで沈黙しているが問題ない。
俺たちの「マザーボード」が盾になっている間にカノンの実体弾が敵船に飛来し中破させ、今操縦室が艦を離れて逃亡した。
『主観時間で一分間の範囲に敵の反応なし』
「超短距離位相跳躍の頻度を下げてくれ」
『超短距離位相跳躍の頻度を順次低下させます』
『させてるよ』
『三十人がかりで頑張ってこれかぁ。いいミサイルもいっぱい使っちゃってる……』
「思ったより強いと思うぞ」
もっと絶望的に弱いと思っていたのに、被害は船体装甲の一部破損で済んでいる。
普通の宇宙船パイロットなら初心者未満の論外の腕だが、人間とは違って契約は守りそうなAIたちだから俺にとっては許容範囲だ。
雇われAIに払うのは一隻あたりパイロット更新料一人分だしな。
「この調子なら、十年以内に相棒に体をプレゼントできるかもな」
『ほんと!? やったぁ!』
AI専用武装輸送艦が、放棄された敵フリゲートを分解しながら回収していた。