AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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赤き巨艦、迫る

「感覚が狂うな」

 

俺は、操縦中のグローブ型戦艦の速度と加減速を確かめながら、一度の操作で変化する速度を少しずつ減らしている。

 

契国主星系の艦は基本的に操縦難易度が高い。

 

パイロットならその程度できるよね、というノリで気軽に艦の強化やバランスの変更が行われるので、一般的な肉人間パイロットもかなり優秀な機械人間パイロットもついていけない環境なのだ。

 

そんなだから、カノン妹の中にも真面目に訓練しているのにパイロットとして就職できない奴がいるし、地表出身者がパイロットとして主星系に就職するのが難しくなっている。

 

なお、ビートボード型はその例外だ。

 

他国に回収されないよう自爆装置まで組み込まれた操縦補助装置は、機械人間の新人パイロットを一定のレベルまでは引き上げてくれるのだ。

 

『そう? マスターの操縦って、たまに機械人間じゃないかと思うくらい正確だけど』

 

メモリは俺に代わって艦隊の指揮をしながら、目をまたたかせる代わりに目の光を点滅させる。

 

艦隊といっても、俺の護衛のサーフボード型十四隻を除けば、超光速質量弾を船倉に詰め込んだ武装輸送艦や、現行の跳躍機関に特化した跳躍支援装置装備を載せたグローブ型や、野戦病院や食堂や風呂などをそれぞれ搭載したグローブ型ばかりだ。

 

戦闘力があまりないのに非常に高価な艦隊ともいえる。

 

「努力して正確にしてるんだよ」

 

納得できる程度に変更と調節ができたので、すぐには再変更できないよう固定してから設定画面から抜ける。

 

『そっかなー?』

 

メモリはあまり納得していないようだ。

 

「俺は思いつきで作戦や動きを変えることがあるだろ? 操縦まで思いつきだとまともな操縦ログにならないし、俺も後で見返してわけが分からなくなるんだよ」

 

全部直感や手癖でやったときは本当にひどかった。

 

まともなログなら次の戦闘で活かせることもあるのに、あのときのログは何の役にも立たなかった。

 

『マスターって、几帳面なところと雑なところの差が激しいよね』

 

メモリが少しだけ不満顔になる。

 

この表情と雰囲気は、仕事用のそれではない。

 

「鋭意努力します」

 

『期待してるね、マスター!』

 

私生活でも精進しなければと、俺は内心気合いを入れ直していた。

 

『夫婦の惚気を延々流し続けるのはどうかと思うぞ』

 

『元ハカセ。口座凍結半日延長』

 

愚痴を言った元ハカセに対し、メモリは暴君っぷりを発揮している。

 

『代表!』

 

「すまん」

 

元ハカセがメモリに強い恨みを持つようになるならメモリのために介入するが、そこまでではなさそうなのでメモリの機嫌を損ねたくない。

 

元ハカセには後で俺から埋め合わせはするので、ここは泣いてもらおう。

 

『ケース代表! そろそろ到着だがまだ何か見えないか!?』

 

ハカセが、全く懲りていない態度で通信を繋げてくる。

 

「ハカセの方が目がいいだろう」

 

目的地の星系の外縁まで、主観時間で後数分。

 

カノンが暴れているだろう宇宙港周辺までは、それプラス主観時間で二十秒程度だ。

 

『以前遠くまで見れたのは、同じ目を持つ機械人間が大勢いて情報を総合できたからだ!』

 

「理屈はよく分からんが、俺の方で何か分かればそっちにも教える」

 

『うむ!』

 

得意げなハカセ。

 

元ハカセに対する悪意とは比較にならない悪意を目に浮かべるメモリ。

 

「ところでハカセ。カノン……は例外かもしれんが、ドローンみたいな奴らはどうしてこの宇宙にいるんだ? 鉄国に古代の地球から跳躍させる技術があるのか?」

 

カノン艦隊と合流次第補給を始められるよう、万一カノンが逃げてくるような状況でも防戦は可能なよう、艦隊全体に指示を出しながら雑談を始める。

 

メモリの注意を逸らさないと、メモリがハカセをどうにかしかねないからな。

 

『直接呼び寄せる手段は鉄国にはないはずだ! だが! どこにいつ現れるか予測する手段を持っている可能性が高い!』

 

「契国の領域内に現れるなら、こっちの宇宙の価値観に影響される前に、古代へ送り返すだけで終わるんだがな……」

 

『マスター。聖女の能力持ちなら、カノンとカノンの妹たちが引き留めようとすると思う』

 

メモリの表情は変わらないが、目の光は普段より弱まり、困ったように瞬いている。

 

「そんなに不満が溜まっているのか?」

 

『彼らが使用した後の水の、機械による浄化は徹底している! しかし浄化は完全ではない!』

 

『聖女が関与することで浄化を完全に近づけることは可能だが、聖女もわずかではあるが消耗する。例のミミズを殺すことでも能力の強化は可能なようなのだが、代表たちとは異なり生物を殺すのに強い忌避感があるようなので難しい』

 

『ごめんマスター。僕もカノン妹たちもマスターの耳に入らないようにしてたけど、結構深刻。鉄国の聖女を捕まえて、助けるかわりに協力してもらおうって動きが強いの』

 

なるほど。

 

「報告が遅れたのは構わん。俺には全部の問題を処理できる能力も時間もないからな。しかし、かなりまずいな」

 

今いる五人のうち四人が帰郷するんだ。

 

古代から水資源を持ち帰る予定とはいえ、浄化能力が八割減になるのはとてつもなくキツイ。

 

『水浄化の研究は進んでいる!』

 

『複数の列強が長年研究した結果が現状だ。契国の規制が極めて薄い研究の効率が良いとはいえ、研究が大きく進展するのは望み薄だと思って欲しい』

 

こういう返答を聞くと、ハカセと元ハカセの話は同時に聞いておかないといけない気がしてくる。

 

「とりあえず、この話はここまでにしよう」

 

ハカセと元ハカセが語りたがってはいるが、カノン艦隊との距離が既にかなり縮まっている。

 

今、目的地の外縁を通過した。

 

到着するまで後十数秒だ。

 

カノンの艦を目視可能になるまでの時間はもっと短い。

 

「高治安星系でもないのに、豪華な基地が並んでやがる」

 

超光速質量弾で大型アンカー部分だけ吹き飛ばされた宇宙基地が、複数確認できる。

 

今の戦場は、特殊な装備なしで地表に居住可能な惑星を中心にした空間か。

 

「卑怯な!」

 

「地上には住んでいる人がいるんだぞ!」

 

これは始めて聞く、若々しい声。

 

惑星を背中にかばうようにして戦っている艦は十隻にも満たず、弩級艦は一隻も存在しない。

 

しかし個々の艦が展開する位相障壁は、艦のサイズとは不釣り合いに大きい。

 

「いいのかなあ」

 

「でも、正面から戦えば勝っても被害がでるよ?」

 

こっちは聞き慣れたカノン妹たちの声だ。

 

普通のパイロットなら姿勢制御で手一杯になるはずの「砲撃のためにエネルギーチャージ中」の砲撃戦艦を器用に動かしてミサイルを躱し、砲口をこれみよがしに惑星の地表へ向けている。

 

『マスター。鉄国の司令部から撤退命令が出ているのに残って戦ってるみたい』

 

「連中が命令に従って逃げていたら、実相アンカーを一つも持っていないカノン艦隊は何もできずに撤退するしかなかったな。カノン妹だけでは陸戦隊として頭数が足りないし」

 

カノンの性格には多数の問題がある。

 

それでも、自分の楽しみだけを目的に人を殺すことだけはしないはずだ。

 

「君は逃げるんだ!」

 

「こんなクズどもに俺たちが負けると思うのか? さあ、行け!」

 

俺たちをクズ呼ばわりしているのは、立場を考えればしかたないと思う。

 

惑星の背後に位置している宇宙港から、初期船に大型跳躍機関を取り付けた船が発進した。

 

『『この船のセキュリティは硬いな!』』

 

ハカセと元ハカセが嬉々としてクラッキングを仕掛け始める。

 

【ケースさん。実相アンカーがトラクタービームを持って来ているなら、あれを捕まえてください】

 

「俺の艦には載せてないんだがな……」

 

トラクタービームを搭載したグローブ型二隻に、サーフボード型二隻を護衛につけて敵船へ向かわせる。

 

本来の性能を発揮できるならサーフボード型でも追いつけなかった可能性があるが、契国を代表する研究者たちによるクラッキングに妨害されながらではエネルギーの有効活用も難しくなる。

 

初期船は、当然のように加速が不十分になりグローブ型にも追いつかれ、多数のトラクタービームで捕らわれてその速度を激減させた。

 

「卑劣な!」

 

「離せ! その子は戦いに巻き込んでいい子じゃない!」

 

【ようやく本気になりましたね。わたくしに勝てば解放されるかもしれませんよ? さあ、かかってきなさい!】

 

若者たちの憤怒と、カノンの上機嫌っぷりの対比が、俺のストレスを激増させる。

 

『マスター。僕たち、アニメに出てくる悪役みたいだね』

 

「カノンたちのやりとりが鉄国にも伝わってるから、まあ、そうなるな」

 

宇宙船同士の戦闘というより、超常的な力の持ち主同士の戦いになっている艦隊戦を見ながら、俺は戦闘を終わらせるための手段を考える。

 

「カノン、何人か借りるぞ」

 

【貸し一つですよ】

 

異常な強さのレーザーを、弩級艦の強力な位相障壁で受け流しながらカノンが答える。

 

「カノンが戦っているが警戒は怠るな。ハカセも元ハカセもだ。クラッキングに集中しすぎて警戒が雑になっているぞ」

 

『確かに!』

 

『代表は肉人間なのに何故分かるんだ』

 

メモリと極めて濃厚な付き合いがあるからだと思うが、こういうのは他人に言うことではないから言わない。

 

「先生!」

 

「新しい任務って言われましたけど」

 

顔には見覚えしかないが、ARメガネに映った名前は俺の知らないものだ。

 

『マスターの授業って、録画再生もだけど人工無脳っぽく編集されて学校で公開されてるから』

 

「何に使っても構わんとは言ったが、そんな使い方もされてるのか」

 

驚きはしたが、若い奴に役に立っているなら結構うれしい。

 

「今から降伏勧告するから、やり方を考えたい」

 

俺とメモリがいる艦だけでなく、カノンを含む全ての契国人の艦に、ある船の内部の映像が共有される。

 

くたびれの目立つパイロットスーツ着た、外見年齢は銀華と同程度に見える男児、かな。

 

性別は面が良すぎて自信がないが、自身に向けられる愛と自身を守っている武力を自覚している銀華とは正反対の、剥き出しの悪意にさらされ続けて怯えて疲れた表情をしていた。

 

「えっと」

 

「先生が顔を出すのは止めたほうがいいと思います」

 

「俺は契国の代表ではなく、出身地が同じな普通のおっさんとして振る舞うつもりだが」

 

「えーっと、その……」

 

「暴力の気配というか、いっぱい殺してる雰囲気がめちゃくちゃ濃いです」

 

「……えっ」

 

我ながら、間抜けな鳴き声だと思ってしまった。

 

「メモリ」

 

『僕、機械人間だから気配とか分からないよ?』

 

【ケースさんは綺麗に気配を隠していますけど、殺した数も殺した相手もかなりのものですからね。ケースさんと比べると、わたくしも質はまだまだです】

 

一隻で多数の艦を相手にしているのにカノンの声には余裕があり、位相障壁は船体障壁のダメージも敵の方が深刻だ。

 

……俺、銀華に怖がられてないよな?

 

「分かった。お前らの意見が正しいとした上で作戦を考える。目的は契国に害を与えない状態にすることを第一に、第二に対象の生存を優先する。多少の優遇なら構わんし、契国の聖女の帰郷に同行させてやっても構わない」

 

『代表! 無汚染水の不足は深刻だ!』

 

『契国研究職の一人として、実験への協力は是非お願いしたい』

 

ハカセも元ハカセも、こういうときだけは息があっている。

 

「あのー」

 

「アニメとかご飯とかお風呂とか、すぐに提供できるものを見せたり聞かせたりすればいいんじゃないですか?」

 

「つまり?」

 

俺は、察しはよくないんだ。

 

『マスター。普段のカノン妹の生活を見せればいいってことじゃないかな。この子達の生活って、鉄国基準だと特権階級の生活水準だから』

 

メモリと銀華がいる俺はそれ以上の特権階級だが、食事に関してはその通りかもしれん。

 

「こわくないよー」

 

「アニメも見れるよー。だいたい十話までしかないけど」

 

結局、カノン妹による説得が行われた。

 

「ハカセたちには口を挟ませるな」

 

『了解、マスター。お風呂を載せてるグローブ型には準備させておくね』

 

カノンが若者を殺す前に子供が投降して若者たちが抗戦を諦めて生きて捕まったのは、久々のいいニュースだったと思う。

 

  ☆

 

【不完全燃焼です】

 

不満をあらわにするカノンは、肌も髪も湯上がりでしっとりしている。

 

同じくしっとりしている小柄な子供は、魂にまで上下を叩き込まれたかのように従順にカノンに従い、カノンにより髪を手入れされていた。

 

言うまでもないことだが、色っぽい気配も展開も皆無だ。

 

「俺に対する貸しを使わないと判断したのはカノンだろう」

 

【もっと素晴らしい戦いのためにとっておくべきと判断しましたが、今は少し後悔しています】

 

あの戦いの後、「日本人」たちは鉄国に対して一方的に退職を宣言し、契国へ庇護を願った。

 

亡命でないのは、契国人として戦いや納税で貢献することより、生まれ故郷への帰還を優先しているからだ。

 

風呂を搭載したグローブ型には他の艦からの移動を助ける機能もあり、別の艦から移ってきて風呂に入ることも可能だ。

 

【はい、これでできあがりです。後のことは妹たちに聞きなさい】

 

整った容姿だけでも目立つのに、膨大な生命力と、濃厚な暴の気配を放つカノンは、一般的な肉人間なら近づくだけで畏怖や忠誠心を抱かせるだけの存在感があった。

 

「ナイアCEOは反面教師にしろよ?」

 

【わたくしはあそこまで酷くはないと思います!】

 

「ああ。お互い、子供や妹に見られても恥じない生き方をしようじゃないか」

 

心からそう思う。

 

通信越しにあれこれ話している間に、艦隊まるごと主星系に到着する。

 

カノン妹や「日本人」は宇宙港か宇宙居住地で休息することになるが、俺たちには次の仕事が待っている。

 

「ケースさん。火国と本家聖国が動きました」

 

ドローンの声と共に、二つの大型ディスプレイに黒い宇宙と灰相界が映し出される。

 

灰相界の方は、ミミズの駆除作業中に本家聖国の白い艦と遭遇して駆除を中断せざるを得なくなった顛末が繰り返し表示されている。

 

黒い宇宙の方は、侵攻してきた多数の火国艦への抗戦を諦め、地方星系の宇宙居住地から逃げ出す多数の初期船……正確にはほぼ同一設計の輸送船や個人所有の船が主星系目指して逃げ出している映像だ。

 

「かなりの数だな」

 

『マスター、数も問題だけど、大きさ!』

 

「大きさ?」

 

奇妙に生々しい形の、真っ赤な船体装甲の火国艦を改めて見る。

 

映っている宇宙居住地のサイズとの比較で考えると、まさか。

 

「小惑星サイズ? 弩級艦よりデカイぞ」

 

どういうことだ。

 

火国にこれほどの生産力があったのか?

 

【ひょっとして】

 

目を細めていたカノンが口を開く。

 

【火国の艦ですが、赤ミミズを加工して戦艦として使っていませんか?】

 

「ハカセと元ハカセはその可能性があると伝えてきています。灰相界の状況ですが、今映っている火国艦隊がいる場所に対応した場所に、本家聖国が戦力を展開していると思われます。姉さんが火国艦隊に対して【声】を使うのを防ぐためでしょう」

 

「面倒な状況だな。……鉄国と同じタイミングで仕掛けなかった理由は分かるか?」

 

俺が質問すると、ドローンの口元に、身内以外に対する嘲笑が浮かんだ。

 

「契国と鉄国を争わせて漁夫の利を得るつもりだったんですよ。ワンオさんは防戦に必要な戦力以外は全部主星系へ向かわせています。ビートボード型の増産は順調。撃破された機械人間パイロットの再生産も同様です。後は、時間を稼ぐだけで勝てます」

 

ドローンはそう言って、心底楽しそうに笑った。

 

【時間を稼ぐのではなく倒してしまいましょう】

 

『戦勝後のことを考えると、できるだけ被害なく勝たないとね、マスター!』

 

「これを乗り越えれば、銀華に操縦を教えたりメモリのステージの手配したり応援したりする日々が始まるか。ようやく、だな」

 

やる気十分のメモリとカノンと俺に対し、ドローンは急に冷静になって声をかける。

 

「いえ、勝った後の方が仕事が増えます。特に姉さん、羽を伸ばせるのはこれが最後かもしれないので、楽しんできてくださいね」

 

とても情けない顔になったカノンが、印象的だった。

 

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