AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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円環を飛び出して ~初期船一隻から初期艦隊へ~

過去に戻るというのは特級の異常事態だ。

 

そして、異常事態であると同時に、究極のチャンスでもある。

 

「未来知識を使って儲けろ! 金も物資も隠れるための場所も、全部ぶんどって来い!」

 

敵を倒すだけでは勝利に繋がらない。

 

だから俺は、いつものメンバーなら防衛も反撃もできると信じて、他にすべきことを命令する。

 

『マスター! 敵は!?』

 

「ドローンに任せる!」

 

「ケースさん!?」

 

ドローンは、口で文句を言っているが、野心に溢れた顔と目になっている。

 

キーボードで文章ではなく事前登録した命令を呼び出すことで、艦隊の機械人間全てに対して偵察、防衛準備、鉄国のゆるゆるな法律的にもぎりぎりの仕事を割り振っていく。

 

『ドローンお兄ちゃ……ドローン代表代行からの命令に従い、警戒します!』

 

きりりと表情を引き締めた銀華が、オペレーター席に座る。

 

銀華なら、敵艦でもミミズでもステルスしていても高確率で気づける。

 

『にゃー?』

 

ただ、索敵で目や耳で無理をさせた分は言葉遣いなどにしわ寄せがいく。

 

『ところどころ空間が歪んでいるのは、過去に使用された実相アンカーの影響です』

 

ディーヴァは、本人はシリアス顔で答えているつもりだろうが、でれでれしているのを隠せていない。

 

『にゃ?』

 

『灰相界への偵察は危険だと思われます。二年後の鉄国付近の灰相界は平穏でしたが、現時点での鉄国付近の灰相界についての情報は存在しません』

 

ディーヴァは、パイロット適性が皆無であることと女の趣味を除けば、極めて優秀ではあるのだ。

 

【時間移動中に、艦と位相跳躍機関にダメージを与えたと思われる存在は見つかりません。あくまで勘ですが、時間移動中しかこちらに関与できないのかもしれません】

 

銀華とカノンによる情報収集とディーヴァによる分析でも分からないなら、本当に正体不明だ。

 

いつ襲撃があっても防戦できる備えをした上で、放置するしかないのかもしれない。

 

『二十八隻中十五隻しか戦えませんっ。無傷の艦は十隻未満です!』

 

サーフボード型巡洋艦の二十八人を代表した一人が、ドローンに対して抗議する。

 

「鉄国に僕らの技術か戦力が露見した時点で終わりです。今は待機してください」

 

ドローンは、言葉とキーボードで別々の相手に命令を出し続けている。

 

『代表代行、ナイアTEC鉄国支社のサーバーの掌握が完了した。ナイアTECから送金させた資金を元手にして、仕手戦に乗じて市場の一割を掌握したが、ハカセが……』

 

『二年後の契国主星系と比べればセキュリティが薄い! 関連企業を買収して鉄国のパイロット養成スクールを掌握したぞ! コピー生産施設もだ!』

 

元ハカセはある程度命令に忠実に、ハカセは相変わらず好き勝手やっている。

 

好き勝手やった結果が「メモリ」相手のクラッキング成功なのだから文句を言いづらい。

 

「……鉄国相手に装備とパーツを隠せそうにない艦から、買収した企業のドックへ移動させてください」

 

ドローンは、ハカセに対するいらつきを顔には出さなかった。

 

『ディーヴァ、ドローンお兄ちゃんを手伝ってあげて』

 

銀華の指揮下には、いつの間にか非戦闘職の機械人間が大勢参加している。

 

どいつも優秀だが数は少ないので、膨大な数の統治が得意なディーヴァの出番はあまりない。

 

『はい……』

 

ディーヴァは肩を落とし、これまでほとんど無視していたドローンからの指示に従う。

 

銀華のサポートは維持しつつ、圧倒的な計算能力と膨大なノウハウと情報を活用して鉄国星系へ支配の手を広げる。

 

市場の掌握率が一割から六割まで上がるのに、ほとんど時間はかからなかった。

 

後の俺の仕事は責任をとることだけなので、覚悟を決めてしまえば気楽なものだ。

 

「俺が最初に目覚めた時刻まで後一分間か」

 

何が起きるかは分からないが問題ない。

 

俺はメモリの夫で、銀華の父親だ。

 

『なんとかなりそうだね、マスター』

 

メモリは既に落ち着いた様子だ。

 

俺と出会ってから多くの経験を積んでできることは増えたが、各分野の専門家よりは劣るので、後方でのんびり見守る気分になっているのだろう。

 

『……ねえマスター。「地図」の更新が止まってるんだけど』

 

いきなりメモリが重要な情報を口にした。

 

肉人間と違って冷や汗は流さないが、目の光の明滅が動揺しているときのそれだ。

 

「今後二年間は「地図」なしでも問題ありません。メモリさんから既に情報をもらっています」

 

ドローンは、メモリに直接説明せずに、小声で俺にささやく。

 

俺との時間を邪魔するとメモリが憎むことを、知っているからだ。

 

「なくなっても問題ないよう準備はしてきた。気にする必要は……」

 

『気にする必要は大いにあるぞ、メモリ議員! 「地図」がどこから来ているのか調べる好機だ! 何をする元ハカセ!? 放せー!』

 

ハカセが元ハカセに連れて行かれていく。

 

『マスター。僕の記憶と思考に直接関わる機能を、ハカセに調べさせるのだけは嫌!』

 

「同感だ。家族の頭をマッドサイエンティストに弄らせるなんてできるか」

 

ハカセに対する評価と信頼は別だ。

 

ハカセならやらかすという確信がある。

 

【ドローン】

 

「僕が調べるんですか?」

 

『ドローンなら、まあ、ぎりぎり我慢する。変なことしないと思うし、調べた方がいいのは確かだと思うから』

 

「これを信頼と受け取っていいんでしょうか。少し失礼しますね」

 

ドローンは携帯用の端末を取り出し、ケーブルの端を繋いでもう一方の端をメモリに渡す。

 

『んっ』

 

「ケースさん。怖い顔しないでください。……ケースさんと銀華さんと次の子供の設計のことしか考えていないですね。次にダンスで、優先度の最下位近くが議員としての仕事、と。分かりました。この回線です」

 

ドローンの携帯端末に、俺が目覚めた直後の艦外カメラの画像とほぼ同じものが表示される。

 

【この映像の癖は、機械人間の視界ですね】

 

「例の「地図」の発信元の視界です。人格も記憶も派手に壊れています。これ、もしかしなくても」

 

『これって、僕に「地図」を伝えてたのは「メモリ」ってこと?』

 

メモリは困惑している。

 

「そう……なるんだろうな」

 

俺も困惑している。

 

『メモリ議員! 似たものは同じもの、だ! 研究対象ではあるが未だ成果が出ていない、契国最先端の分野だぞ!』

 

それって、古代基準だとオカルトじゃないか?

 

【そういえば、そろそろ三分ですね】

 

いつ襲われても防戦できるよう、位相戦闘中と同じように超短距離の連続位相跳躍をしていたので主観では既に十分近く経っている。

 

『ねえマスター。「メモリ」の視界の、ここにあるの何?』

 

「腕、かな。焼け焦げたパイロットスーツ……ああ、なるほど」

 

「メモリ」に会いに行って拒絶された、あの男の腕だ。

 

腕の他に体が残っているかどうかも、この視界だけでは分からない。

 

【操縦室が破壊されるタイミングで「メモリ」さんを庇ったのかもしれませんね。素晴らしい精神力です】

 

文字通り最後の力を振り絞った、ということか。

 

『マスター。時間だよ』

 

映像が乱れ、宇宙ではなく操縦室の中を映す映像に変わった。

 

「別の回線に切り替わったのでしょうか。……しかし、ずいぶんと使い込まれた操縦室ですね。聴覚が復活したようなので音も出しますね」

 

ドローンが操作をすると、集中すれば気付かなくなる程度にうるさい、計器の音が聞こえてきた。

 

聞き覚えがある。

 

俺がこの宇宙で最初に乗った初期船の、操縦室だ。

 

「って、これ、MMOの操縦席じゃねーか!」

 

俺の声が、回線の向こうから聞こえた。

 

  ☆

 

精神的な衝撃で思考停止状態になった俺が回復したのは、契国一行がクラッキングと詐欺的手法で入手した、元ナイアTEC鉄国支社のオフィスだった。

 

『どういうこと? 二年前のマスターがなんで僕の近くにいないの? えっ、浮気!? でも僕のマスターはここにいるよ!?』

 

メモリは混乱から回復していない。

 

空回りする思考と計算で膨大な熱がでて、密着した体が幸せではあるがそろそろ火傷になりそうだ。

 

『あの瞬間に「日本人」が乗る初期船が大量に出現した! 虚空に現れた船もあった! 船ではなかったものが「変わった」ものもあった!』

 

ハカセが興奮して、メモリ並に物知的に熱くなっている。

 

『わけが分からない! 素晴らしい研究対象だ!』

 

「そうか」

 

俺は理解を放棄して、メモリの唇に饅頭型冷却水を当てている。

 

無意識に食べるのも、唇が俺の指に触れるのも、実にいい。

 

「回線がまだ繋がっているということは、あの初期船の隅にある機材が元「メモリ」さん、ということですか?」

 

ドローンも理解を放棄して、艦隊の修理の監督に戻る。

 

鉄国が気づく前に修理を終わらせ、安全な星系または灰相界まで移動する計画らしい。

 

「つまり、あの「俺」は元美青年で俺をスキャンした内容をもとに自己改造した奴、ってことか?」

 

【仮に「ケースさん」がケースさんと同じ二年を過ごしてから二年前に戻った場合は……】

 

カノンは【あ】と声をもらし、振り返って俺を凝視する。

 

【「ケースさん」と元「メモリ」さんのナビAIが、僕らの主観時間で二年前のケースさんとメモリさんでは?】

 

「……えっ」

 

『……えっ』

 

『お父さんとお母さんが同じ表情してる!』

 

俺の真似をしてディーヴァに饅頭型冷却水を押し込んでいた銀華が、俺たちを見て面白がっていた。

 

『つまり』

 

元ハカセが現状を要約する。

 

『だいたい全部メモリ議員が原因だ』

 

【メモリさんがケースさんと出会って建国してその後に色々あって、それから時間遡行と過去改変と再度の時間遡行を繰り返した結果、最終的にここにいるメモリさんになった、と】

 

「ということは、俺は元美青年で改造人間であって、日本人ではない訳か。……徹頭徹尾メモリのための人生って、最高じゃないか!」

 

テンションが上がってきたぞ!

 

ドローンが頭を抱え、カノンが笑いをこらえ、銀華がディーヴァの世話に戻る。

 

『古代人であるケース代表が転移や転生する際に、目的地にあった肉と骨を利用しただけの可能性もある! なのでケース代表! 研究費を!』

 

「メモリに出会えたことが大事なんだ。俺自身の経歴は、どうでもいいとは言わんが老後の暇な時間に少し調べる程度で十分だろ」

 

詳しく考えるのは後でいい。

 

それより、二年後の契国主星系に戻ることを考えないと。

 

建国前後に特に世話になったパイロット三人組や、契国に新規加入した機械人間とか、カノン妹たちも結果的に置き去りにしてしまったわけだからな。

 

「ケース」が俺と同じ行動をすれば、この宇宙の二年後が「俺が二年前に飛ばされたときの宇宙」になる、と思いたい。

 

【ほ、本心で言っているのが本当にケースさんですね】

 

カノンは、こらえきれなくなって笑い始めた。

 

『僕と出会う前のマスターのこと、調べた方がいいのかな』

 

メモリは、後ろにまとめていた髪をほどき、頭を振って少しでも放熱しようとしている。

 

「後回しで構わんだろ。それより、鉄国が気付いて治安維持を送り込んでくる前にここを離れるぞ。非戦闘員を大勢抱えてワンオ氏とシロクロを相手にするなんて悪夢だからな」

 

【勝てますよ?】

 

「艦隊戦で勝ててもこっちが何人か死んだら大敗北だろ。この艦隊に乗っている人間の力があれば戦闘以外でも色々できる。戦闘にこだわる必要はない」

 

『マスター。二度目のスタートは初期船じゃなくて初期艦隊だね!』

 

「初期船一隻からえらく豪華になったな」

 

メモリとの出会いと約束があるだけでどこまでも行けるのが俺だ。

 

メモリと銀華と仲間たちだけでなく艦隊まである今なら、どこまでいける。

 

  ☆

 

そして二年がすぎた。

 

あの後、ナイアCEOが俺に気付いてびびったり、機械人間が私物で運用していたマザーボード型フリゲートをナイアCEOに売りつけたり、「メモリ」や元「メモリ」のメモリに見つからないよう連邦の星系に移動して覇権企業になったり鉄国の侵攻艦隊と戦ったりと、本当に色々あった。

 

そして今、俺たちがいるのは、灰相界で最も古代の地球に近い場所だ。

 

『マスター、見えてきたよ』

 

聖女の艦を中心にした船団が近づいて来る。

 

帰郷予定の聖女たちが、以前は『サーフボード型』がいた場所に展開する艦隊に気付き、通信を求めてくる。

 

「よう!」

 

「「「「ケースさん?」」」」

 

あれから二年だけ歳をとった俺とは違って、聖女たちはあの日のままだ。

 

「人間が時間移動すると変な化け物に襲われるみたいでな。お前たちの帰郷の護衛のため、出待ちしてたってわけだ」

 

艦の性能は少ししか上がっていないが、艦の数もパイロットの数もずいぶん増えた。

 

二年も経てば学習と成長が進んだ機械人間の幼児は少年少女になるし、連邦でも機械人間やAIが艦隊に参加したからな。

 

「「「「え、エスエフだぁ」」」」

 

聖女たちの表情から緊張が消えた。

 

文字通りの奇跡を何度も起こして来た聖女たちとは違う意味の、圧倒的な大勝利や大出世という意味の奇跡を連発してきたのがメモリと俺と仲間たちだ。

 

再会できれば勝ち確定みたいになるのは自然なことかもしれない。

 

『マスター。聖女たちに甘すぎない?』

 

俺の人生の相棒であるメモリは、今日も麗しい。

 

「銀華も一度行きたがっていたし、俺が古代人本人なら、あっちの職場や血縁に失踪についての謝罪はした方がいいからな」

 

『もう……。いいけど、危ないことは駄目だからね! 二人目作るんだから!』

 

「ああ。邪魔する奴は安全に蹴散らして、用事を済ませて主星系へ戻るぞ!」

 

ログアウトするつもりのない宇宙で、俺は家族と生きる。

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