AI相棒と築く銀河国家戦記 ~初期船一隻でどうしろと?~   作:星灯ゆらり

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偽りの採掘場

『マスター! 武装輸送艦に乗りたいって子がまた増えてる。もう一隻増やしちゃ駄目?』

 

全力でおねだりしてくる相棒は最高にかわいい。

 

三頭身にも独特な魅力があって、多分一生見続けても飽きはしない。

 

「俺を破産させる気か」

 

だがそれはそれ、これはこれだ。

 

「武装輸送艦が一回交戦するたびに弾薬費がいくらかかると思ってるんだ。三度交戦すれば一度の航行の儲けが消えるぞ。かなり優秀なAIでも、高命中の高価な武器がないと抗戦も難しいんだからな」

 

『なんとかならない?』

 

「……少し待ってくれ、考える」

 

「ケースさんって……」

 

「ドローン。上司の私事に口を出すのは感心しませんよ」

 

そこの姉弟、そういうのは俺の聞こえないところでやってくれ。

 

「根本的に戦力の拡充は必須だ。この星系にはワンオ氏という圧倒的な戦力がいるから大規模な賊は長時間存在できないが、この星系を離れただけでPvP用の艦隊が普通に襲ってくる」

 

PvPのノウハウ持ちの俺とパイロットとして優れた才能を持つドローンとカノンがいても、一戦なら勝てるが連続で二戦すると負けるか誰か死にかねない。

 

戦力も継戦能力も、遠くに遠征するには不足している。

 

「この星系だけで仕事していくのはどうでしょう」

 

ドローンは、俺がする回答を予測した上で議論を円滑にするための発言をしてくれる。

 

「それだと俺たちがフリゲートから巡洋艦に乗り換えたり輸送艦を増やしたりしても、儲けが増えずに維持コストだけが上がりそうなんだよ」

 

「他の星系の治安はそれほど悪いのですか?」

 

カノンが興味津々で聞いてくる。

 

こいつは、普段の見かけと態度とは違って本当に好戦的だ。

 

「治安が良い星系もある。ワンオ氏以外は容赦なく賄賂を要求してくるらしいがな」

 

ワンオ氏のことがゲーム初期のお助けキャラだと思えてきたぜ。

 

『はい! だったら駆逐艦にすれば良いと思います!』

 

相棒が挙手して発言する。

 

「元気な声で大変よろしい。でも駆逐艦は中途半端だ。採掘船には向いているが……採掘船か」

 

俺は、武装輸送艦に乗り込んでいるAIたちに計算と検討を依頼した。

 

『ますたぁ?』

 

相棒の嫉妬を感じた瞬間、俺は戦闘中よりも真剣に思考し言葉を選択する。

 

「この星系ですらいつ戦闘が起こってもおかしくない。一番頼りにしている相棒には、いつでも戦闘に対処できるよう余裕を持っていてほしいんだ」

 

『うんうん。僕ってマスターの一番だもんね!』

 

それは事実で真実だが、大規模な計画立案に関しては相棒より武装輸送艦の連中のほうが圧倒的に仕事が早いんだよ。

 

計算と検討が終わったとすぐに返事が来たので、全員に見える位置のディスプレイに表示させる。

 

「資源採掘とはこれほど儲かるのですか」

 

カノンが目を見張る。

 

ディスプレイに表示されたのは、星系に属さない小惑星と、そこでの採掘計画だ。

 

「俺たちが採掘を始めると、確実に俺たち狙いの賊が現れる。採掘用装備や運搬用の大型船倉を持っている船は、弱い割に美味しい獲物だからな」

 

襲われる危険を考慮に入れたら、資源採掘は「危険の割に安い」仕事だ。

 

考え込んでいたドローンが発言する。

 

「人間のパイロットを一時的に雇うのはどうでしょう」

 

「ドローンやカノンならともかく、船を用意してやる価値も義理もないぞ」

 

パイロットとしての腕と、おつきのAIがメモリとの相性が良いのと、何より契約を守る意思と力があるのが最低限の条件だ。

 

「艦を維持しているパイロット限定です。採掘はとても危険みたいですが、今の仕事を続けたら確実に更新料が払えなくなるパイロットが大勢いると思います」

 

単純な慈悲ではなく、こちらの利益と相手のリスクが前提の提案だった。

 

あの「日本人」たちも、そろそろパイロットライセンスを更新できない奴が激増するはずなので誘えば飛びつく奴は多いだろう。

 

「相棒、どう思う?」

 

『僕としてはAIの子たちに仕事をまわして欲しい。でも戦闘が確実なら仕方がないかなって』

 

「カノンは」

 

「問題ありません。ですが我々とどこまで連携できるかは気になります」

 

『武装輸送艦に乗ってる子たちは僕と相性が特に良い子たちだから、あの子たちみたいな連携は期待しないでね』

 

となると、一時雇いのパイロットと俺たちは分けて運用すべきか。

 

「ドローン、バイトパイロット募集と、そいつらに採掘させる計画の立案を任せて良いか?」

 

「は、はい!」

 

このガキ嬉しそうな顔しやがって。

 

俺の考えを先読みしてやがるな。

 

「今日からドローンの取り分はパイロットライセンスの更新料と「儲かったときの利益の三パーセント」だ」

 

正規メンバーへの昇格ってことだ。

 

「ありがとうございます!」

 

ドローンは綺麗な姿勢で頭を下げ、カノンは心から喜んでいる。

 

「必要なら武装輸送艦の連中に協力を仰げ。カノンはドローンの補佐だ。相棒は遊びながらでいいからここの宇宙港のAI連中と顔つなぎを頼む」

 

「承知しました」

 

『りょーかい!』

 

休んでいる間もパイロットライセンスの有効期限は迫ってくるんだ。

 

ゆっくり休むためにも、まずは稼がないとな。

 

  ☆

 

「というわけなんです先輩方」

 

「誰が先輩だ」

 

ディスプレイと回線の向こうで、五年間コピー不使用の化け物が首をかき切る仕草をする。

 

「えぐいこと考えやがる。使い捨ての下っ端が他所に情報を売るのを知った上で、誘い込んで一網打尽か」

 

詳しく説明していないのにこちらの作戦を見抜いている。

 

「そういうわけなんで、偽の採掘会場に仕込んでいる偽採掘艦のコントロール権、欲しくないですか?」

 

遠隔でコントロールした艦を襲わせ、犯罪者判定された哀れな賊を狩る。

 

よほどの凄腕でないと実行不可能だが、この三人にとっては簡単な仕事のはずだ。

 

「何を考えてやがる」

 

「俺たちも罠にかけるつもりか」

 

俺に対する牽制と威圧か、単純に人間不信になっているせいなのか、俺には分からない。

 

「先輩方と敵対したくないんですよ。ガチビルドの艦に乗った先輩方に勝てるとは思えないんで」

 

五年間戦い続けてコピー不使用というのは、それほどに強い。

 

「いいだろう。寄越せ」

 

「おい、安すぎるだろこれ。罠にしか見えねーぞ!」

 

俺があっちの立場でもそう思う。

 

「これから始める採掘作戦で大勢から恨みを買いますから、恨みを持ちそうな奴らを先輩方に徹底的に叩いて欲しいんですよ」

 

コピーが当然の世界とはいえ、一度殺されたら頭に血がのぼるし恨みもする。

 

だから一度襲撃に失敗してもしつこく復讐戦を挑んでくる奴がいるはずだ。

 

そいつらを、できればコピーの数がゼロになるまで追い込んで欲しいんだ。

 

「お前……」

 

「性格悪いな」

 

「お前、友だちいないだろ」

 

「ご心配なく。信用を金で買うのは得意な方でして」

 

俺は、平然と答えたつもりだった。

 

「そうか、悪かったな後輩」

 

「ま、少しは性格を改めるこったな」

 

「うまい話はいつでも歓迎だぜ、後輩」

 

後輩認定されたので交渉には勝ったはずなのに、敗北感がすごかった。

 

『大丈夫だよマスター! 僕がいるよ!』

 

三頭身の相棒が全力で自己主張する。

 

相棒はいつも麗しいなあ。

 

俺は相棒を膝の上に乗せる。

 

「ケースさん、いちゃつくのは後にしてください。そろそろ会合予定地点です」

 

ここは、ワンオ氏がいる星系から少し離れた場所だ。

 

他の星系というほどには離れておらず、有用な資源を採掘可能な小惑星とも距離がある。

 

「分かった。ドローンは索敵ドローンを展開して敵襲を警戒してくれ」

 

「二分前から実行中です」

 

うーん有能。

 

「承知した。バイトの集まり具合は?」

 

「現時点で四十六人です。こちらのAIたちの情報解析によると、最低でも十九人が、外部に情報を流しているか、その準備をしています。採掘装置のダミーを持ってきている艦も複数確認しました」

 

深くため息をつくドローンは、見た目は幼さの残る美少年だから俺と違って絵になる。

 

「……この仕事を続けると人間不信になりそうです」

 

それは俺も同感だ。

 

「残りの二十七人だけを連れて本物の採掘会場へ行く。裏切った十九人は適当に言いくるめて先輩方が待ってる場所へ送り込んでくれ」

 

「僕、この見た目ですよ?」

 

ドローンは文句は言うが、仕事は確かだった。

 

  ☆

 

バイトたちの仕事は単純だ。

 

採掘装置を使って小惑星を削り、有用な鉱石を多く含むものを指定の場所へ運ぶだけ。

 

敵襲がない限り非常に退屈な作業だが、運ぶたびに支払われる報酬はバイトたちにとってはかなりの額だ。

 

そんな変化のない場所に、三隻のフリゲートと一隻の武装輸送艦が位相跳躍で出現する。

 

『とうちゃーく!』

 

「すみません仮眠をとります」

 

「僕も二時間後から仮眠をさせてください」

 

既に五回も往復しているから、カノンもドローンもつらそうだ。

 

『マスター、休憩少ないけど大丈夫?』

 

「先輩方のことは信用してるが、今の俺たちは美味しい獲物だから、時間制限有りだと思った方がいい」

 

武装輸送艦はトラクタービームを駆使して採掘物を猛スピードで船倉に回収している。

 

これを大型造船設備がある宇宙港へ運び込めば、装備が一式揃った巡洋艦が買える額で売れる。

 

「後輩、こっちはだいたい片付いた」

 

「賞金も残骸も美味かったぜぇ」

 

複数の通信ドローンを経由した通信が届いた。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

「おう。そろそろそっちにも行くと思うから気を付けな、後輩」

 

通信が完全に切れ、こちら側からあの三人に連絡する手段がなくなる。

 

「現時点をもって採掘作業を終了する! まだ運搬していない分も報酬を支払うが、これ以上採掘しても我々は買い取りを行わない」

 

俺の声がこの場にいる全員に届いたはずだが、まだ採掘を続けている船がいくつもある。

 

『マスター、振込は全部完了したよ!』

 

『複数の所属不明船を発見』

 

『事前の命令に従い位相戦闘を開始します』

 

奇襲されたか。

 

レーザーを照射された武装輸送艦の装甲が、不吉なオレンジ色に輝こうとしている。

 

「武装輸送艦はミサイルを使うな。最悪の場合誘爆する。カノンはAIに操縦を任せて先に逃がせ。途中で起きても戻らなくていい」

 

「ケースさん!」

 

ドローンは動揺している。

 

裏切りはしないと思うが、普段通りの動きは無理だな。

 

「ドローンはカノンを護衛しろ。合流は大型造船設備がある宇宙港だ」

 

「すみません!」

 

迷いのない奴め。

 

俺だっていざというときは相棒優先だから文句は言えないがな!

 

「武装輸送艦は俺について来い」

 

バイト連中は放置してワンオ氏の星系を目指す。

 

もともと現地解散の計画だと伝えているし、個々人で逃げたほうが宇宙港までたどり着ける確率が高い。

 

採掘に固執していた場合は、冥福を祈るしかないがな。

 

『武装輸送艦の船体装甲が最大値の六割まで減少しました』

 

敵はフリゲート、いや、巡洋艦が二隻か。

 

「武装輸送艦の船倉の中身を放棄させろ」

 

『放棄作業開始します』

 

『放棄が完了しました』

 

巡洋艦一隻が方向を変えて、採掘物の回収へ向かう。

 

武装輸送艦に対する攻撃が、これで二分の一だ。

 

「最も近い巡洋艦をスキャンしてくれ」

 

『スキャン完了』

 

『表示します』

 

「老朽艦か」

 

見た目よりは強くない。

 

マザーボードだけで勝てる相手だが、敵の増援がフリゲート一隻でも現れたらその時点で武装輸送艦は終わりだろう。

 

「このまま移動を継続する」

 

武装輸送艦のオレンジ色の発光が、徐々に弱くなっていく。

 

荷物を捨てた武装輸送艦の速度が上昇し、敵巡洋艦との距離が少しずつ広がっていっているのだ。

 

主観時間で数分が経過する。

 

バイトたちの安否は分からないが、AIが動かす船よりは安全なはずだ。

 

『主観時間で一分間の範囲に敵の反応なし』

 

敵巡洋艦を完全に振り切った。

 

「連続超短距離位相跳躍は宇宙港の至近に到着するまで継続だ」

 

ドローンとカノンと合流するまで、生きた心地がしなかった。

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