(1507年12月)
再び意識が引き込まれるようにして、あの静かで深く、どこか懐かしい光に満ちた空間へと誘われた。
気がつくと、俺は十数年前、冬の夕方の公園に立っていた。
日が傾き始めた空は淡く茜色に染まり、乾いた冷気が頬を撫でる。足元の土は霜柱でざくりと鳴り、吐く息が白く立ちのぼる。
公園の片隅には、錆びたブランコと、夕陽を受けて赤く染まるベンチ。そして、その向こうには、かつて俺が何度も通った携帯ショップの看板が、微かに灯りをともしている。
その思い出の風景の中に、彼女はいた。
まるで最初からそこにいたかのように、ベンチのそばに佇み、俺を見つけるとふわりと顔をほころばせ、小さな手を振ってくる。
その笑顔は、冬の空気に溶け込むように、やさしく、あたたかかった。
「こんばんは、よしたかくん」
「ここは…夢の中か?」
「うん。よしたかくんは、この風景覚えてるかな?」
「……懐かしいな」
「そう、わたしとよしたかくんが、出会った場所だね」
「あの公園か…」
「うん。今の身体は赤ちゃんだから、記憶が完全に結びつくには、もう少し時間がかかるみたい。でも、この夢の中なら、いつでも元のよしたかくんとして話せるよ」
「なるほどな……あれから、ずっと考えていたんだ。この新しい命で、俺は何を為すべきなのか。何を目指すべきなのか、と。」
少女は楽しそうに頷いた。
「うん、うん。でも、まだ始まったばかりだよ!」
「パチン!」と小気味良い音が響き、紀理が指を鳴らした。
瞬間、夢の空間が静かに揺らぎ、空中に淡い光が広がっていく。
その中から、まず色とりどりの線で描かれた戦国の地図が浮かび上がった。
「これ……
「うん。それと
俺の視線を追うように、地図の上に年表が重なり、その年ごとに事件や戦の名が小さく現れては消えていく。
「この年表……覚えがある。自分でノートにまとめたやつと、よく似てる」
「その通り。十年間、よしたかくんが調べてきたこと、読んできたもの、感じたこと――全部ここに記録されてる。だから忘れても、こうして一緒に辿れば、すぐに思い出せるよ」
空中にふわりと広がった家系図には、無数の武家の名が連なっていた。大内、
「これも全部、頭に入れなきゃならないのか……正直、気が遠くなりそうだ」
「ううん、最初から覚える必要なんてないよ。今は、自分がどこにいるのかを知るだけで十分」
紀理は微笑んで、空に浮かぶ家系図のひとつを指差した。
「それに、君には実感がある。知識と記憶だけじゃなく、気持ちと結びついてる。だから、たとえ靄がかかっていても、必要な時にちゃんと引き出せるはず」
その言葉に、自然と感謝が込み上げる。
「……感謝してもしきれない。本当に、ありがとう。正直、この状況は『無理ゲー』だって思ってた。でも……」
俺はあらためて空間を見渡した。
戦国の地図。流れる年表。記憶の底から甦る名前の数々。
目の前の少女が、どれだけ俺の記憶を大切に抱えてくれていたかが、痛いほど伝わってきた。
「今は少しだけ、現実味が出てきた気がする。立ち向かえるかもしれないって」
「ふふっ、でしょ? 私を信じてくれたら、もっと色々見せてあげる」
紀理は楽しげにくるりと一回転し、情報の浮かぶ空間をひとつひとつ撫でるように整えていく。
「でも、これはあくまで準備室みたいなもの。現実の中で使えるようにするには、君自身が感じて、動いて、選ばないとね」
「……覚悟はしてる。だけど、ありがたいよ、こんなにも支えてくれる存在がいてくれて」
少女は照れたように頬を赤らめると、ひとことだけ、優しく言った。
「うん。まだ始まったばかりだよ。ここからだよ、よしたかくん」
彼女は地図の一点――山口県の場所に印をつけた。
「ここが
「あぁ、周防国、それに上の長門国。あとは福岡あたりと島根、広島の一部も領地だったな」
紀理は、地図の東側にそっと指を滑らせながら。
「そして、よしたかくんの父上――
「将軍……足利か?」
「うん、
「う〜ん……誰だっけ、それ」
「ふふ、あとで思い出せば大丈夫。それよりも――細川家の内部抗争の方が、今は重要かな」
「あ〜……なんか、どろどろしたやつか」
「そんな感じ。まぁ、時間はたっぷりあるから、その話はまた今度にしよっか」
紀理は一呼吸おいて、真剣な表情を見せる。
「それより――今の課題は、よしたかくんがまだ幼すぎるってこと」
「……だな。すぐに権限を持てるわけじゃない。けど、今のうちに種を撒いておけることもある」
彼は静かに言葉を重ねていく。
「家臣団への影響力、
「そして、この時代が生み出すはずだった、美しく洗練された文化を守ること。それが俺の望みだ。」
「そう、それよ!町づくり、人々の礼節、公共性の意識、娯楽の洗練……本来、この時代が育むはずだった それらが、この歴史の流れの中で失われることだけは避けたいのよね?」
「もちろんだ。俺は江戸の文化もその流れから来る現代の文化も好きだから!」
少女は目を細めて言った。
「よしたかくん、やっぱり君はそういう人だね。だから……私も、全力でサポートするよ!」
そこで、ふと思った。
「そういえば、おまえの名前、まだ聞いてないな」
「え?」
「呼びづらいだろ、スマホとか少女とか」
少女は頬を染めて、もじもじと指をいじった。
「うーん、じゃあ……よしたかくん、つけて?」
「……いいのか?」
「うん。十年も一緒にいたんだから、君に名前をもらえるの、きっとすごく嬉しいと思う」
少し迷って、そして口にした。
「
少女――紀理は、ぱっと顔を明るくして、にっこり笑った。
「うん!紀理、いい名前だね。ありがとう、よしたかくん」
その瞬間、夢の空間にひときわ強い光が満ちた。
まだ夜は明けきらない。だが、この小さな体の中で、俺は確かに何かが動き出す予感に震えていた。
現在は週1ペース金曜日での更新を予定しています。
裏で資料調べや構成を進めており、時代背景や物語に深みを持たせる準備中です。
執筆の裏話や進捗状況はNOTEにも書いていますので、
制作過程やChatGPTに興味がある方はぜひ覗いてみてください。
朗読版も用意しました。VOICEVOXで読み上げた音声を、Noteの記事内に埋め込んでいます。
https://note.com/miura_saemonjo/n/n1dbde4b0bb2b
※AIツール(ChatGPT)を執筆の補助に使いながら、自分の構想をもとに書いています。AIの可能性などを模索し、比較などもしています。