(1507年12月)
朝の光が、
白絹の
(俺は、今、誰なのか?)
――
気がつくと、そこは懐かしい感覚がする空間だった。
夕暮れ時の光が差し込むキッチン。食卓の椅子に、白銀の長い髪を揺らす少女がちょこんと座っている。
まるで時間が止まったように、日常の一瞬が切り取られていた。
そして、その手には、十年間ずっと共に過ごしてきた俺のスマートフォン。あの、手放せなかった相棒を握っていた。
「おはよう、よしたかくん」
「あぁ、ここは?」
「ふふ。よしたかくんのおうちだよ」
「懐かしい感じがする。だけど、よくわからない」
「少しづつね」
紀理は楽しげに笑った。十代前半の姿をしたその存在は、俺のスマホに宿った
「三日目になるね、よしたかくん。ようやく君の置かれた環境も安定してきたみたい。そろそろ、具体的な初期計画を立てるにはいい頃合いかしら?」
この体じゃ、言葉も発せない。泣くか寝るか、視線を動かすくらいしかできない。
だが、目を凝らせば、ぼんやりと動く人影や、声の調子は感じ取れる。耳は、はっきり聞こえる。
「でも、だからこそできることがあるのよ」
少女──紀理は、優しく微笑みながらそう言った。
いつの間にか、俺の周囲には、どこか懐かしい紙と墨の匂いが立ち込めていた。見ると、書棚が何段にも並ぶ、書庫のような準備室。
その中央に、畳一畳ほどの古地図と、家系図を模した巻物が広げられている。
「今の君には、見ることと、聞くことが何より大事なの。だからこそ、ここで少し整理しておくね」
「……こっちは、どこまで史実通りなんだ?」
「うん、だいたいはよしたかくんの知ってる現実と近いよ。でもね、同じ時代でも説がいくつもあったりして、たとえば――」
紀理は指先で空間をなぞると、地図の一角に「
「元就さんの若い頃の評価もまちまちだし、陶家の地位だって記録によって微妙に違ったりするの。つまりね、こっちの現実って、確定してるようで、まだ揺れてるの」
「なるほど……小さな歴史の分岐が重ねて起きるって事か」
「そう。小さなズレが積み重なれば、遠い未来では全く違う景色になるかもしれないよ」
俺は頷きを返した。
「お父さまの
「……そうか。そういう人間関係も、ちゃんと見ておかないと、だな」
「うん。人の表情、声の調子、仕草。そこから信と疑の空気を読み取るの。君は大人の感覚を持ってるんだから、視線の先がぼやけていても、聞こえた声の温度で何かが掴めるはず」
巻物の一角に広がった勢力図が、微かに揺れる。だがそれは、押しつけられる知識というより、旅の前の地図のようだった。
「観察して、信頼できる人間を見極める。それが、これからの土台になるよ」
彼女の言葉は、静かに、深く染み入るように響いた。
「赤子でそれをどうやる……」
「視線と反応だよ。人の目を見て、誰がどんな感情で近づいてくるかを観察するの。君はもう大人なんだから、それくらいできるでしょ?」
「まあな……」
「それと、これも覚えておいて」
紀理が指を動かし、一枚の記録を呼び出した。
そこには、ある人物の最期が記されていた。
「これは?」
「
「なんだと……」
「義興さんは後にその誤りを悔やみ、弘矩の娘を室に迎えた」
「つまり」
「お母さまは、大内家に父を殺された娘。そういう立場なの」
心がざわついた。理不尽な死、愛する者の犠牲。
「彼女は、気性は穏やかで優しく、物腰も柔らかい。だが、孤立しやすい立場にある。東向御殿という呼称も、屋形の正殿に対して微妙な位置関係を示しているからね」
「君の存在が、お母さまを守る楯になる」
(守る。この命に代えても、絶対に守り抜いてみせる)
そう口には出せないが、心の底からそう誓った。
「では、第一段階の目標を共有しましょう」
紀理の言葉と共に、光るパネルが空中に浮かび上がる。そこに記されていたのは、『環境分析と基礎構築』という明確な指針だった。
初期段階――環境分析と基礎構築。
・御殿内の人間観察(目線・反応・仕草)
・乳母や侍女たちとの信頼構築(泣き・笑顔などによる印象形成)
・外部との接触機会の模索(見舞いや祝賀など)
・紀理を通じた記憶訓練と情報整理
・お母さまを守るための観察と布石
「この段階で無理に動かなくていい。けど、今から始まっているという意識は持ってて」
「わかった。……ありがとう、紀理」
夢が静かに薄れていく。
まだぼやける視界の中、格子戸から差し込む光が、まるで水面のように揺らめいている
年若い侍女は、まだ慣れない手つきで俺の世話をするが、その一生懸命さが、どこか微笑ましい
すると、几帳の外に、人の気配が近づく。
「若君を……御台様の元へ」
年若い侍女の声と共に、乳母の温かな腕に抱かれて揺れる感覚が伝わってきた。
まだ目もはっきりと見えぬ中、かすかな香と
「……亀童丸」
柔らかな声が名を呼んだ。
目を向けると、ぼやける視界の中に立つ女性の姿があった。凛とした声の奥に、母としての優しさを感じる。
母上。内藤弘矩の娘。
やや緊張した様子で、しかし誇り高さを感じさせる所作で、彼女は手を差し伸べる。
「……よう生まれてきてくれました」
声が震えていた。
「あなたが、無事でいてくれるだけで……それだけで、私は……」
その細い指が、産着の上から頬に触れる感触が、温かく、優しい。
涙が、そっと零れた。
母上の着物から漂う、ほのかな香の匂いが、安心感を与えてくれるそれが何よりも、母の愛情だった。
(この人が……将来、孤立してしまうことになる……)
怒りにも似た感情が、胸の奥に宿る。
(守る。必ず、守ってみせる。母上も、大内家も)
声に出せなくても、心の奥に焼き付けた誓いだった。
母上は、俺の手を小さく握った。
「強い子に……なってくださいね」
まるで、未来を見通しているかのような声だった。
母上との対面を終え、東向御殿に静寂が戻る。だが、母の面影を胸に、
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※AIツール(ChatGPT)を執筆の補助に使いながら、自分の構想をもとに書いています。AIの可能性などを模索し、比較などもしています。