(1508年12 月)
薄明の光が、障子を淡く透かして差し込む。部屋の中央、
冬とはいえ、この御殿の朝は早い。俺は、柔らかな布にくるまれながら、身じろぎもせずに目を覚ましたふりをしていた。
すぐそばに置かれた炉の上には、布がふわりと掛けられていて、その端が俺の体にもかかっている。仄かなあたたかさが、じんわりと身体に染み込んでくる。
――一年前、俺は亀童丸として、この
今はまだ、寝返りとハイハイが得意なだけの赤子として、日々を観察と学びに費やしている。
ごそり、と隣で
「……まあ、よう目を覚まされましたね。今日で若様も、まる一年になられます」
その背後には、俺の兄代わりでもある少年が立っていた。
「これ、亀童丸様にと思って、
彼の手に握られていたのは、竹と布で丁寧に作られた小さな太鼓だった。
思わず手を伸ばすと、少年は嬉しそうに差し出してくれる。俺はそれを軽く叩き、ポン、ポン、と音を鳴らした。
「上手にお叩きになりますね。これは、武の道にも向いておられるかもしれませんね」
まつゑの言葉に、少年も誇らしげに頷いた。
その少年――
その存在が、この家の、いやこの国の未来を変える鍵になるかもしれない――そう、あの夢の中で、紀理はそう告げていた。
その日の昼下がり。
「都ではまた、
「細川の家が騒がしゅうて、どちらが勝つやら……」
「義興様は
「けれど、そのお志ゆえに……敵もまた増えましょうな」
母上の声音は、穏やかで、それでいてどこか淋しげだった。
――父上が堺から手を引いたことで、その空白を巡り、遠からず
(以前、夢で紀理が告げた言葉が、今改めて俺の脳裏をよぎった。)
この状況が、まさしくあの時の話した通りに進んでいるのだと、俺は赤子ながらに確信した。
「……けれど、お前には、そんな世の荒波など知らずに育ってほしゅうございますよ」
母上は、ぽつりとそう言ってから、ゆっくりと身をかがめ、寝籠の中の俺に手を伸ばした。
その指先がそっと頬に触れ、ぬくもりが伝わってくる。
「亀童丸……あなたが無事に、健やかに育ってくれれば、それだけで私は……」
微笑みながらも、その瞳はどこか憂いを湛えていた。
(俺がこの時代に生まれたのは、やはり偶然ではない……)
母上の温もりに包まれながら、俺は己の使命を、改めて心の底に刻んだ。
その夜の夢の中。
紀理は、また現れていた。目元に灯を宿したような微笑を浮かべながら。
「一歳、おめでとう。これで一年分、未来に近づいたよ」
「京の情勢は、前に話した通りに進んでいるね」
「そうだな。今のところ歴史の通りに進んでるな」
「そうね。このままなら、来年の夏に
俺は軽くうなずいた。紀理の言葉には、いつも謎があるが、確かな情報もある。
「義興さんは、今はまだ細川高国と組んでる。でも……いずれ、高国すらも警戒することになる」
「どういう意味だ?」
「詳しくはまだ秘密。だけど、都は今、まるで将棋盤のようなもの。堺の辞退は、駒を捨てたように見えて、じつは王手の一歩手前だったの」
紀理は、袖から何かを取り出した。
スマホ……ではない、小さな紙の札だった。そこには一首の和歌が書かれていた。
――志ある 人こそ知るや 世のうつろひ
光となりて 影を結ばん
「これは?」
「未来のヒント。でも、今はまだ、覚えておくだけでいいよ」
紀理がふっと笑い、風のように姿を消す。
目覚めると、夜の御殿はしんとしていた。
薪の火の名残が、ほのかに赤く光っていた。
満一歳。生まれて一年。
まだ何もできない赤子としての俺は、それでも少しずつ、この世界を知り、変えようとしている。
やがて訪れるであろう動乱の夏に向けて――この静けさの奥に潜む兆しを、俺は赤子ながら、深く心に刻み込んでいた。
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※AIツール(ChatGPT等)を執筆の補助に使いながら、自分の構想をもとに書いています。AIの可能性などを模索し、比較などもしています。