ただただ戦闘シーンが書きたかったので、設定・導入はAIに任せました。

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戦闘シーンだけ書きたかった存在しない物語

 霧の中に足音が一つ、微かに響いた。

 

 桐島レンは朽ちたビルの屋上に立ち、手の中の《共鳴刀リヴァイブ》をゆっくりと抜く。刃は淡く発光していたが、その光は揺れていた。――迷いの兆候。

 

 「……まだ俺を、斬れるか?」

 

 霧を裂いて現れた男。顔の下半分を隠していた防護マスクを、静かに外す。そこにいたのは、五年前に死んだはずの男――久遠タクト。だが、その瞳は人のものではなかった。微かに光を帯び、霧と同じ色を宿している。

 

 レンは答えなかった。ただ、一歩前に出た。

 

 そして、斬りかかった。

「くっ……!」

「やるじゃん、あの時とは大違いだ」

 レンの一閃は、片手で受け止められてしまった。

 そしてニヒルに笑って見下すタクトに、レンは大きく目を開く。あの歪んだ顔に、過去の記憶が重なったからだ。

 全く違う表情、あの日のタカトは爽やかに笑って……今目の前に立つ彼は爽やかさすらない。

 

 過去の記憶に意識が持っていかれた瞬間、レンの持つ《共鳴刀リヴァイブ》の刀身が短くなり始めた。

 感情を元に刀身に変化が起こる《共鳴刀リヴァイブ》、その特性を知っていたタカトの能力が隙を作る。

「記憶に浸るの、はやいんじゃねーの?」

「しまっ――!!」

 力が弱まった所を狙い、タクトは両足を踏み込んでレンの腹部に一撃を与えた。

 数秒の差で防御態勢に入ったレンは、落下防止の鉄柵が凹む勢いで吹き飛ばされる。そして口から少量吐きながらも、武器を手にして立ち上がる。

 

 その後怒りに感情が狩られ、刀身が伸びると同時に怒鳴るように言い放つ。

「お前……タカトじゃないだろッ…!!」

「いぃや、俺は俺だ。」

「ふざけんな…、前のタクトはそんなヤツじゃなかった!」

「はぁ……レン。俺は変わったんだよ。」

「!!」

 ため息混じりに髪をかき上げるタカト、そして協調的に見せられた彼の右目にレンは呆然と見つめた。

 この場を包む霧と同じ色に変色したのだ。

 

「霧と融合した世界こそ、人類の進化。また俺達で最強伝説作ろうぜえ?」

 

 数年前の霧事件。あの日久遠タカトは死亡した。

 だが死体は見つからず、捜索は打ち切り。だがその裏では久遠タカトという人間は、霧と融合した新たな進化点に行き着いていたのだ。

 精神を侵蝕し、「アビス」と呼ばれる異形へと変貌せずに。

 

 変わってしまった親友にふつふつと怒りが募る。

 気づけば武器を握る手は震えはじめ、レンは唇を噛むと同時に一直線に走り出す。

 

 尋常じゃないスピートでタクトの目の前に来ると、瞬く間に消え去る。

 何処へ行ったかと左右を見渡すタクトの背後、そこから突拍子もなく現れると武器を振りかぶった。

「残念っ……!」

「は?」

 手応えのない首を切り裂いたその瞬間、タクトの姿が霞んで消えた。

 何が起きたのか理解が追いつかないで留まっていると、上空からタクトの地面を大きく凹ませる着地が轟く。

「こうして幻覚を作るのも簡単なんだよ。さぁ…手合わせしようじゃないかァ!!」

「チッ…!」

 嬉々として笑うタクトとは逆に、怪訝な顔で舌打ちをしたレン。

 拳と刃。相反する二人の一撃が次の瞬間、ぶつかりあった。

 

 大地を揺らすほどの怒号、それと共に隣のビルへ吹き飛ばされたレンの影。

 

 そのまま壁を破壊する前に体勢を変え、両足で着地。

 一呼吸置いて顔を上げると、目の前からはタクトが笑い声を上げながらレンに直撃。壁を破壊し、オフィスの机に二人は離れて倒れる。

 

 先に立ち上がったのはレン。

 レンは《共鳴刀リヴァイブ》を握りながら飛び上がり斬りかかる。だが身構えたタクトに剣を受け止められてしまうと、赤い血が垂れた。

 

「やるねぇ、こいつは楽しくなれそう…だッ!!」

「グホッ……!?」

 勢いよく地面に叩き落されたレンは嗚咽共に無数の椅子を壊し、倒していくと受け身を取りながら飛び上がり、武器の剣先をタクトに向ける。

 そして怒りの感情によって勢いよく伸びた刀身が、タクトの腹部に突き刺さった。

「はぁ…ァ!」

 両手で柄を握り、天井に持ち上げると天井には大穴が開いた。

 だが霧が刀身を裂き、粉々に砕け散ってしまう。突然の事に瞳が揺れるレンだったが、落ち着いて刀身を元の長さに伸ばした。

 

「いや〜、やるね。思っていた以上に強くなってるじゃない」

「む…傷……」

 

 瓦礫と共に落ちてきたタクト。そして立ち上がった体には、かすり傷すらついていない。

 まるで子供とぶつかったかのような飄々とした顔に、レンは一瞬の絶望を感じながらも右足を踏み込んで、高速で近づく。

 そして両肩をつかみながらもう一度踏み込んでブースト、壁を突き破って会議室にタクトを投げ飛ばす。

「痛いなぁ、ハハッ!」

「チッ、クソ…!」

 まだ余裕を崩さないタクトに苛立ちながら立ち向かうレン。

 右手に握る武器を掲げ、タクトの手を切り落とそうと斬りかかるが、彼はその姿を捉えないままレンの近づいてきた右手首を掴み、右手で刀身を軽々と殴り折った。

 その光景に目を丸くしたレンへ、爽快に笑ってみせると胸部を蹴りつける。

「そうだ、これならどうだ?」

「ぅ……、ぁあ…?」

 指をぱちんと鳴らすタクト、何が起こるかもわからずに立ち上がったレンだったが彼の周囲に赤い霧が囲む。

 数秒後、レンを囲む霧が爆発を起こして吹き飛ばした。

 青い絨毯の上を転がるレン、だが武器を手にして杖代わりに立ち上がる。

「これが霧と融合した俺の力だ。どう、魅力的だろ?」

「んなもん、どこに魅力があんだって言うんだよ!!」

 

 あの霧は民間人を危機に晒し、怪物を生む。

 それなのに友は魅力的だと言い放った。それが許せずに、レンは大きく武器を振り下ろした。

 

「ぅグッ……!!」

 

 その刃はタクトの右肩を突き刺した。

 口から血を吐くタクトの姿に、レンには一度戸惑いが生まれるがすぐに振り払って斜めに大きく切り落とそうと力を込める。

 だがトンッと、腹部に何かが当たる感触がした。

 

「なーんてね」

 

 ヘラヘラとしたタクトが、レンの腹に赤い霧で形作った鋭い棒状のものを振りかぶる。

 何もできないレンは反射的に目を強く瞑った。

「……お前の本気は、こんなもん?」

「…タクト……」

 だが痛みはなく、タクトの言葉にレンは困惑した表情で見上げた。

 物足りなさを感じるハイライトがない瞳、少し呆れているようにも見える表情。先程の言葉から何を求めているのか、さっぱりわからなかったレンは名を呼ぶことしたできずにいた。

「その程度かって言ってんだよ。お前とやり会えなきゃ意味ない、どうしてそこまで本気になれない? 攻撃を当てる寸前に毎度緩んで、こっちが焚き付けてもお前は過去の記憶に縋る。

「――! お前がやってたのか」

 レンは戦いが始まってから異常なほど過去の記憶が蘇っていた。

 それはタクトの持つ能力で、霧でレンの頭の中に眠る記憶を掘り起こさせていた。

「そうだ、お前の本気を感じたい。見たい。だから引き出そうと焚き付けてるのに、過去の記憶にも影響があるかと思っていたのに、何も変わらない」

「……そうか、じゃあお前が言うならやってやるよ。」

 

 変わってしまった親友が求めているというのならと、もう一度気を引き締めるレンの目は鋭くタクトを見つめる。

 

「その顔、いいじゃんか」

 

 求めていたものに近づいたのか、タクトは嬉しそうに笑う。

 そして刹那の事。レンは体勢が低い状態のまま、タクトの足元を蹴り払った。

「!!」

 体勢を崩されたことで目が大きく開くも楽しさだけは残っており、笑顔に変わって拳を握るレンを見据えながら、霧を固形化する。

 次に手に握った霧を伸ばし、レンの攻撃を避けた。拳は固形化した霧に直撃し、粉々に砕け散った。

 背後に回り込んだタクトは、振り返ったばかりのレンに容赦なく霧で作った剣で斬りかかる。

「させるかッ!」

 迫りくる切っ先を見たレンは即座に対応し、右脚を高く上げて地面に抑えつけた。同時に剣の上で足を踏み込み、タクトの頭を殴る。

 口と鼻から血が流れる中、タクトは余裕そうに口角を上げると、右手でレンの拳を払う。

 そして右手に剣を作り上げると、レンの首目掛けて振り下ろす。

 

 もうやがて刃が首を切り裂く。

 

 勝ちを確信するタクトの目尻が上がる姿を一目にしたレンは、すぐに目の前の状況を冷静に分析する。

 

(霧の能力が厄介。大穴のせいで霧が張り込んだせいで手品じみた武器生成が可能になってる、だから壊したところでなんにもならない……武器があれば多少は動きやすくなるけど、タクトの後ろにある。まずは武器の回収だな)

 

 浅く息を吸い、数秒の瞬間にだけ集中する。

 左手で受け流しながら掴み、そこからタクトの背後に回り込む。

 

 目を丸く、驚いた表情をするタクトをよそ目にレンは地面に落ちた《共鳴刀リヴァイブ》を回収しようと走った。

 それに気づいたタクトは霧を剣に呼び寄せ、一直線に伸ばして攻撃を仕掛ける。

「っ……!」

 風を切る音、それだけで距離を掴み、レンは屈んで地面を滑る体勢に切り替えた。すると頭があった場所にタクトが伸ばした剣が通り過ぎる。

 武器を手にしたレンは、立ち上がりざまに剣を切り落とした。

「いくそタクト…。」

「ハハッ、興が乗るねえ!!」

 武器を構えながら走り出したレン。その先に立つタクトは霧の剣で身構えると、剣の刀身に一閃が走る。

 背後にはレンが走り終えた体勢、明らか速くなった速度にタクトは息を飲む。

「これが本気…ッ!」

「もう容赦しない」

 レンの瞳に映るタクトは、もう友情も思い出も捨てられた別の人物として視ていた。

 その目を、その瞬間を望んでいたのか、タクトは今までにない幸福感に笑みが溢れ、高笑いしながらレンに剣をぶつける。

 

「ッ……!」

「ハハハッ!!」

 

 霧の剣を受け止めたレンが天に弾いたその瞬間、衝撃波とともに建物を突き破る。

 光が差し込むその中で、一歩踏み込んだレンは体勢を低く保ち、懐に潜り込む。そして重い打撃が胸部に叩きつけられた。

 

 

 建物を突き破り、外へ飛ばされたタクト。だが彼自身からは興奮が冷めていない。

 

 

 まだ来る。不完全燃焼な体は闘争を求め、視線の先に立つ親友を見つめて待つ。

 刹那――、1秒で10メートル離れたタクトに追いついたレン。二人は長く短く見つめ合ったあと、拳を交わし合う。

 

 二人の拳がぶつかり合い、その次の拳もぶつかり合う。

 そのまま二人の殴り合いは続き、一歩も引かない。こんな状況で隙を見つけたレンが剣を手にして落下していく中、背後に回り込む。

 

 そしてその剣でタクトの右肩から左の横腹目掛けて振り下ろすと、刃が届く寸前に姿を消された。

 

「霧を使って移ったか」

 

 霧を使った移動、それを見抜いたレンは身を大きく回って高層ビルの側面に足をつけ踏み込んで跳び上がる。

 その先で待ち構えるタクトに剣を振るうと、金属音が甲高く響き渡りながら反対側のビルに足をつけた。

 

「やっぱりお前が一番だ!!」

「……。」

 

 レンの元にタクトが飛んで着地すると、彼の足元にはうっすらヒビが入る。

 そして剣を構えて動きを待つレンを見据え、両腕を左右に大きく広げたタクト。その手には赤い霧が収束していた。

「――!!」

 それを目撃したレンは、すぐにタクトへ飛びかかると剣を霧の剣で受け流されてしまう。

「危ない危ない。あと少しで切られるところだ…」

「チッ…」

 再び剣を握り直したレンは、再び攻撃を仕掛けようとしたところでタクトが先手を取った。

 雷のようなジグザグな動きで距離を詰め、足を止めたレンは目先に現れた切っ先を自身の剣で弾く。すると一瞬の軌跡が見えたかと思えば、背後に移ったタクトの気配に振り返る。

 大きく振り払ったことで生まれた隙、それを意図して動かしたタクトは余裕そうに笑ってみせた。

 

 赤い霧が鋭さを増す。

 

 頭を横真っ二つに。そうして迫る刃に、レンの視線は真逆に替わる。

 タクトが振るう剣の刃はレンの髪の先だけを切り、避けたレンが反撃に出る。

 

 剣の持ち手を両手で握り、レンはタクトの胴目掛けて武器を振り下ろす。だが左手に持っていた霧の剣にうけとめられてしまう。

 するとレンは勢いよく押していき、タクトの体勢を崩させた。

 

 一呼吸入れ、鋭くタクトを見つめたあとに素早く動く。

 大きく建物の側面を走り、剣に怒りを込めて刀身を伸ばす。そしてそれをタクトに叩きつけ、ガラスを割りながら引きずり回した。

 破片が当たりに舞い、地上へと落ちていく。

 それを眺めず、ただじっとタクトを見つめるレンは彼の元へ飛んで拳で殴りつけた。

 

「俺はお前を否定する。こんな霧、不幸の連鎖を止めるために……!!」

 

 強く握った爪が皮膚を刺し、血が流れた拳で腹部を殴りつけ、二人は地面が凹む勢いで叩きつけられた。

 

 煙が舞い上がり、二人の姿が外側では見失ってしまう。けれど内側では、二人は重い体を上げて身構えている。

 レンは頭から左目に掛けて血が流れ、タクトは口から首もとに血にまみれている。そんな二人は息が荒かった。

 

「…はっ……、ぁははははっ!」

「何が、おかしい……?」

 ここまでの戦いの高揚を振り返ったタクトは突然上体を反らすほどの大きな笑いを上げる。

 それには冷静なレンも疑問を投げかけるが、なにを仕掛けてくるかわからずに身を屈めながら剣を構える。

「わからないかレン……俺はお前の本気をここまで味わえた。やっぱりお前といっしょに世界を手にするべきだ。」

「は……? 笑えもしない冗談だな。」

「俺達は二人で最強。それは確かだっただろう? 同じ戦いの才能を持っていて、高めあった仲!!」

「……もう聞く価値もない。」

 語りを遮るレンは、一瞬にしてタクトの前に剣を掲げて現れた。

 冷たい視線を送り、表情一つ変えないで剣を振り下ろすと、タクトの体は赤い霧となって姿を消す。

「どこだ……くッ!!」

「動きが鈍いぞレンッ!」

 煙によって辺りが見えない上に疲労で体が重いレンにとってはこの状況は最悪。

 

 身構えていたいたというのに、真正面の蹴りの反応に遅れて吹き飛ばされてしまった。

 体を捻って体勢を整えたあと、地面に滑りながら着地。同時に足を踏み込み、タクトの立つ方角へと疾く飛び出す。

 辺りの煙は、その突風に晴れていき軌道を作る。

 

 腕を大きくクロスさせながら、待ち構えているタクトへレンは一閃を繰り出す。そしてタクトの左腕は宙へ舞った。 

 勢いを殺しながら着地したレンが振り返る。そこには赤い血ではなく、霧を流すタクトの姿。

 

 もうただの人間じゃない。その現実を見せつけられているようで、レンは顔をしかめて剣を左手に逆手で持ち直す。

 この場で二度目の踏み込みで、もう一度疾走。

 

 

 拳一つも挟まらない間合い、二人はそれぞれの瞳を見つめ合う。

 

 

 レンの剣が、タクトのがら空きになった首に狙いが定まっている。

「これが”本物”だと、思ってるんだな?」

 

「――は?」

 

 タクトの声が脳に響き、気味の悪い感覚に襲われる。

 

 次の瞬間首を斬った――ように見せられた。

 

 混乱したレンは瞳を揺らすと、突然体が右に傾き、地面に叩きつけられてしまう。

「うっ……、なんで……だ…」

 急いで立ち上がったレン。だがその隣にはタクトがゆっくりと歩いて近づいてくる。

 そしてタクトは口を開いた。

「霧は朧。それが俺のもう一つの力だ。」

「そうか……じゃああの時、気づいたら背後にいたのは、幻を見せてたってことか。変な手品見せやがって……」

「なあレン。俺のようになろう? そうしたら、新しい力も手に入る!」

「断る。誰が好んで霧の力なんか手に入れるんだよ、お前知ってただろ……あの霧で、俺は家族を失ったってッ!! 」

 レンの両親は霧の中で死んだ。というより、怪物に成り果てた。

 せっかく、共働きの両親が揃っていたというのにあの大災害のせいで、大切な時間を消し炭にされた。

 

 その事をレンはタクトにだけ教えていた、それなのにあの発言に怒りが頂点に上った。

 刀身は鋭さを増し、それをタクトにぶつけに走る。

 

 感情的になったからか、速度も上がっており、タクトはそれに一度目を丸くした。

 だがすぐに笑顔へ変わり、攻撃を真正面から受け止める。そしてレンの剣が腕に刺さる中、大きく地面に引きずり回されて上空へと投げ飛ばされる。

 

 レンは高く跳ぶと、二人は空中で激突。

 霧のトゲがレンの足を狙うと、彼は攻撃をひらりと舞うように交わし、乗る。そしてそのまま走り、距離を詰めてくる。

 だがもう一本のトゲがヘビのようにうねりながら攻撃に向かってくると、レンは剣を持ち上げて受け流す。そして下をくぐり抜けて切り抜けた。

 

「つッ…!!」

 

 その後足を踏みしめ、トゲを砕くほどの脚力を見せると、そのままタクトに向けて片手に握った剣で肩から肋にかけ斜めに振り下ろす。

 だが距離感覚が甘かったせいか、狙い通りに切ることはできても斬ることはできなかった。

 赤い血が垂れる中、タクトは笑みを崩さず、レンに拳を叩きつける。それもレンが防御態勢になっても絶対に届かない箇所へ。

「うグッ…!?」

「甘いんだよ、お前は!」

 血を吐きながら吹き飛ばされたレン。そのまま霧を突き破り、ガラス張りの高層ビルへと突っ込んだ。

 

 地面に横たわり、体は悲鳴をあげているかのように力が入らない。

「け……ん…」

 手放し、転がった剣に手を伸ばしたい上がろうとしなその瞬間、レンの体の数カ所から切り傷が生まれて血が吹き出す。

 

「カっ……は゛ぁ゛………、ぉぇえぇ…ゴホッゴホッ!!」

 

 そして口からは血が吐き出し、血溜まりを作る。

(殴られた瞬間の違和感、まさかこれだったのか…!!)

 先程タクトに殴られた瞬間、痛みと共に何かが体を駆け巡る違和感があった。

 まさか目に捕らえられないほどの大きさにして、打撃と一緒に放っていたとはあの時は思っていなかった。

 だがレンは痛みを押し殺し、立ち上がったあと地上へと落ちていく。

「これで……ここで決着をつけてやる…!」

 

 風にレンの髪が大きく荒れる。

 だがそんなことは気にしない、なぜなら目の前にタクトが迫ってきていたからだ。

「お前はなるべきだ! 絶対に逃さないっ!!」

 

 絶対に交わることのない道を、二人は歩いている。

 

 人を害する霧を滅しようとする道を歩むレン。自身の進化の道になった霧を信仰する道を歩むタクト。

 

「誰が…お前と同じ道をいくかよ……っ」

 言いたくなかった。親友への心からの拒絶の言葉を。

 その言葉は間違っている、戻ってこい。そういう気持ちがレンにはあった、だがタクトはその道を引き返そうとしなかった。

 それならば、こうして対立してしまうというのなら、自分自身がケリをつけるべきだ。

 

「レぇエエエンッ!!」

「チッ」

 

 霧のトゲを足場に飛んできたタクト。

 レンは剣を身に寄せると、刀身に重い一撃が乗った。そして二人はビルの壁を抉る。

 苦しい表情を浮かべて抑えつけられたレンは、刀身に乗る拳を振り払う。

「なぜ逃げる、お前はわからないのか!!?」

 拳を振り払ったレンは、タクトから距離を捕るためにビルの壁を走って行く。そこにタクトは霧で拳を強化した波動を放つ。

「!」

 風を切るというよりも、空間を抉ると言って良い歪んだ音。

 ビルを抉る波動がレンに向かって襲い来るが、彼は落ち着いて剣を身構えて左右に切り流す。だが、視界の上から飛びかかってきたタクトの膝蹴りに気づけず、右頬に食らう。

 鼻から飛び出る血を袖で拭い、剣を両手で握って構えの体勢に移る。

 

「まだまだ動けるだろう!!?」

「黙れよ、耳障りだッ!」

 興奮が冷めきらないタクトに冷たく言葉を返すと、一気にレンは間合いを詰める。そして右足で蹴りかかるが右に避けられてしまう。

 だが体を捻り、左足で追撃するとタクトの腰に直撃。

 体勢を崩したところに斬りかかると、タクトの右手が一線を描く。すると剣は霧の一線によって防がれてしまった。

 タクトは一本の霧を握ってレンを振り払うと、身構える。

 レンの体を穿つためだ。

 一瞬の間、体勢を大きく崩したレンは大きく体を反らし、突きを避ける。

 その後ぐるりと一回転すると、霧の一線を踏み折り、目を大きく仰天したタクトを見つめる。そこから剣を振るうが、霧となって消えた。

 

「また背後か!」

「せいィッ!!」

 レンの背後に回ったタクトの大きい右足の振りを、瞬く間に姿を消して避けた。

 

 そして見上げたタクトは口角を上げる。

 彼の前には剣を振りかぶったレンが居たからだ。頬にはかすり傷があり、先程の蹴りを完全に避けていないことが伺えた。

「はぁああああ!!」

「やるなレン!」

 迫りくる刃、だがタクトは右手を大きく力を込めて刃を殴り折った。

 リーチが足りなくなった刀身は何も斬ることもできず、冷や汗をかいたレンにタクトが真正面蹴りを食らわせる。

 

「くっ…がっ! ガハッ…!」

「もう終わりか? 残念だ!!」

「ぐぁ゙……かはっ…ぁ……」

 大きく吹き飛ばされたレン、だが抉り壊された箇所に手を伸ばして難を逃れた。

 そして血を拭い、目の前のタクトを見つめる。

 

『お前、何のために戦ってんだ?』

 

「…!」

 それは昔、タクトに投げかけられた疑問だった。

 たった小さい復讐心から始まった俺の戦い、終わりの見えない戦い。

 何度も自分と同じように悲しむ人を見てきた、その中には死んだ者も大勢いた。

「……」

 グッと握りしめた拳、痛い。

「何をボーッとしている、レン。」

「ああ、少し昔のこと思い出したんだよ。お前が俺に何のために戦ってるのかって聞いた事。」

「そんなこと、話したっけな」

「覚えてるわけねぇか…。」

 もう目の前のタクトは、長く短い思い出にいるタクトじゃない。それは最初からわかってたけど、やっぱり心のどこかであの時に、戻ってくれると信じていた。

 だけど、もう決別の時だ。

 

「終わろう、偽物。」

 

 鋭い目つきと、無意識に低くなった声でタクトに言い放つレン。

 するとタクトは残念そうに肩をすかした。

「残念だな…お前ならわかってくれると思ってたのに。」

「無駄だろ、大事なことも忘れるバカの所に行くかよ」

 2人は最後の会話を終えて、戦闘体制に移る。

 

 僅かな浅い呼吸。

 レンとタクトはほぼ同時に動き出し、ぶつかりあったあと宙を360度回りながら殴り合う。

 

 拳を避けてはぶつかり合い、そんなそんな停滞した状況から左右に大きく二人が離れた。

 赤い霧がそれぞれに足場を作り、着地。武器を握って見つめ合う。

 最後の勝負ということもあってか、こうして足場を作るタクトに気味悪さを覚えるレン。足先で霧を軽くつつきながら細工されていないことを確認したあと、勢いよく飛び出した。

 

 鋭く研がれた刀身、それがタクトの霧の剣を一度折った。

 宙へ飛んだ切っ先に目もくれず、タクトは折れた部分を霧で修復。だがそこにレンの的確な蹴りが入ったことにより、手元から武器が抜け落ちてしまう。

 それを下から覗き込んでいたレンは、すかさず体勢を変えて相手の足に切りにかかる。

 

 だがそれを読まれていたのか、刀身は踏み抑えられてしまう。するとレンは自ら刀身を折って伸ばすと、弧を描くようにタクトを斬った。

 

 赤い霧が頬に触れる。

 

 背後を振り返るとそこには拳を向けたタクトの姿、走る拳を屈んで避けたあと地面に両手を着けたレン。

 そして両足で逆立ちしながら顎を蹴りつけ、身を回しながら元の体勢へ戻る。

 一呼吸入れたあと、突然視界が傾いた。

 

 タクトはレンの足場を崩し、地面に叩きつけようとするがレンは異常な反応で這い上がってきた。

 そのまま二人の剣同士が勢いよくぶつかり合い、鍔迫り合いに移る。だが次の瞬間、レンの体に細かな斬撃が走る。

 また霧が体中に切り、血を流れ出したのだ。

 けれどそれに慣れたレンは、気にすることなく霧の剣を自身の剣で薙ぎ払った。

 

 大きく体勢を崩したことで攻撃を入れやすくなる、そう思い両手で握って攻撃を叩き込もうと一歩踏み込む。するとタクトは足技で、しかも霧で強化も入れてレンを吹き飛ばす。

 攻撃を柄で受け止めていたことでそこまでの衝撃はこず、建物に突っ込んだが僅かにかすった、そのせいで鼻血が流れている。

 

 こうしている暇はないと立ち上がったレン、すると目の前から波動が迫ってきた。

 立っている階の上は全て吹き飛ばされ、顔を上げると突風に混ざってタクトが勢いよく地面に着地。再び睨み合った二人。

 

 今度はタクトが攻撃を仕掛ける。

 

 両手を合わせ、握り、そして地面に叩きつけた。その瞬間一直線に霧で固形化したトゲが襲い来る。

 だが怯まず剣を振るって真横に切り倒すと、それを足場にタクトに反撃。

 剣を振りかぶって迫ると、霧の剣で受け止められた。ぎりぎりと刃が軋む中でタクトはもう片方の手に剣をもう一本作り出し、レンに斬りかかる。

 レンはもう一本の剣に素手で受け止め、足でへし折った。

 

 その後折った刃をタクトに突き刺す。

 

 心臓を狙った一閃、これが致命的な一撃を与える。

 足をおぼつかなくなったタクトは、そのまま地上へと落ちていくが霧を使って叩きつけられずに辿り着く。

 

「がっ……なん、で……ッ、はぁッ!はぁッ!」

 

 自分は死ぬ、その恐怖が込み上げてくる。

 まだ死にたくない、生きたい。まだ生きて……レンと戦いたい。

「そうだ、俺はッ……レっ…ンと……」

 自分の望みは果たされていない、満たされていない。

 

 するとタクトの前にレンがやってきた。

 レンは静かに、親友が悶え苦しむ姿を見つめている。どこか心を締め付ける、こんな友を見たくなかった、こんな立ち会う死は嫌だと心でつぶやきながら。

「レン、……俺とまだッ、戦ぇよ…」

「……」

 焦点の合わない瞳、だが確かに自分自身に話かけていることはわかっている。

 気が狂った彼にどんな言葉を駆けるべきだろうと迷いながらも、心を律して肩を右手で掴む。

「ふーぅ……」

 そして深呼吸。

 覚悟を決めたレンは左手で拳を作り、振りかぶった。

「うぉおおおお!!」

 悲痛にも聞こえる叫び声で、決別を決める。

 勢いよく頬を殴ったタクトの体は、ガラスのようにヒビが入っていくと操り糸が切れた人形のように倒れるのだった。

「じゃあ、な……親友。」

「………」

 そんな言葉は死人には届くことはなく、ただ彼の体は霧のように跡形もなく消滅した。

 

 


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