赫焉の記憶   作:Reivalt

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第一章「赫焉の目覚め」
「赤い夢、黒い現実」


夢の中で、俺の家は毎晩燃えている。

 

 紅蓮の炎が壁を這い、天井が崩れ、柱が呻くような音を立てながら折れていく。黒煙が視界を遮り、鼻を突く焦げ臭さが、眠っているはずの俺の嗅覚を刺した。遠くから、誰かの悲鳴が聞こえる。女の声――あれは、母さんの叫びだった。

 

 八神烈火は、息を荒げて目を覚ました。額に浮いた汗を手の甲で拭い、暗い天井を睨みつける。

 

 「……またかよ。くそが」

 

 金属板の壁が薄っぺらな音を立てて、朝の光を遮ることなく室内に射し込んでいた。ここは「Z13区」と呼ばれる湾岸部の再開発地区――の失敗例だ。都市機能の再編成と称された再開発は、貧困層をこの仮設住宅地に押し込めただけの代物だった。

 

 烈火の部屋は、四畳半の簡易コンテナ。ベッドと机、電子レンジのような調理装置が1つあるだけ。だが、これが彼にとっては「帰る場所」だった。

 

 6時15分。ドローン配送の唸り声が遠くから響き、路地の向こうで誰かが怒鳴っている。

 

 烈火は服を着替えながら、鏡の前で自分の顔を見た。短く刈り上げた黒髪、眠たげだが鋭い目つき。眉間にはかすかに皺が寄っている。右手の甲には、焼け焦げたような小さな痣があった。

 

 ――能力《圧縮熱(ヒートコンプレッション)》。

 

 空気中の熱や摩擦、さらには自身の怒りや感情の“高まり”を圧縮し、一点に凝縮して放つ。範囲は狭く威力も弱い。初期はライターの火程度しか出せなかった。だが、それでも初めて発動したときは、拳を叩きつけた壁が赤熱し、焼け落ちた。

 

 きっかけは、あの火災だった。

 

 あの日、烈火の家は全焼した。両親は焼死。だが、焼け跡から見つかった父の遺体には“鋭利な刃物による傷”が複数見つかったという情報があった。事故ではない。――あれは、殺人だった。

 

 「火ノ目(ひのめ)……」

 

 烈火はつぶやいた。父が残した最後の言葉――「火ノ目に、気をつけろ」。意味はわからない。だが、それが犯人に繋がる手がかりであることは確信している。

 

 その情報を追って、烈火は今日、“ある機関”の門を叩こうとしていた。

 

 C.A.L.E.――Central Authority for Latent Evolution。通称キャル。政府直轄の異能保持者育成・管理組織。表向きは“青少年支援センター”の名で活動しているが、実際には“能力者兵士”の選抜機関だ。

 

 「力がなきゃ、真実にも届かねえ。復讐の資格もねえ」

 

 烈火はリュックを背負い、部屋を出た。朝の冷たい空気に晒されながら歩き出す。足元の舗装はひび割れていて、数年前に打ち捨てられたロボット掃除機の残骸が転がっている。

 

 歩きながら、烈火は拳をぎゅっと握った。かすかに手のひらが熱を帯びる。怒りが、能力の“燃料”になる。それが《圧縮熱》の性質だった。

 

 だが、この力は弱い。敵を殺すには足りない。守るには遅すぎる。

 

 ――それでも、俺はこの手で掴みたい。あの日失ったすべてを、取り戻すために。

 

 キャルの施設は、都心からやや離れた地下区域に存在した。封鎖された旧鉄道跡の奥。電子ゲートを抜けた先に、鋼鉄の巨大な扉がそびえ立っている。

 

 烈火は深呼吸し、指先をわずかに発熱させながらパネルに触れた。

 「八神烈火。試験志願者だ」

 《識別完了。入室を許可》と機械音が応答する。

 

 扉が開き、烈火の前に、未来と地獄が同時に広がる空間があらわれた。

 

 そこには、彼と同じように力を欲した者たちが集い――互いを押しのけて這い上がろうとしていた。

 

 “力だけが全て”の世界。その入り口に、八神烈火は今、足を踏み入れた。

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