任務終了から数時間後。C.A.L.E.本部・中央棟の会議室。
八神烈火、名瀬シア、榊ユウトの三名は、風間の前に座っていた。
空気は静かで、重い。
「まずは――任務完遂を祝おう。よくやった」
風間の言葉に、誰も反応しなかった。褒め言葉が口先だけではないと分かっていても、彼の言葉には、常に何か“裏”がある。
「特に烈火」
風間の視線が鋭く突き刺さる。
「お前の能力《圧縮熱》に、因子の“第二段階”と思しき現象が確認された。焦熱拳の臨界型――通称“赫焉式”。間違いなく、計画の設計通りに進行している」
「……計画、ね」
烈火は視線を逸らし、壁のディスプレイに映る任務記録を眺めた。
「俺はもう、与えられた計画には従わない。この力は“誰かの道具”じゃない」
「だが、その力は――」
「俺の意志で使う。それが、俺が選んだ生き方だ」
静かに、だがはっきりと。
その言葉に、風間の口元がわずかに緩んだ。
「ならば、その“意志”を評価しよう」
風間は腕を組み、こう告げた。
「君たち三名を、“特別選抜部隊《赫焉班(かくえんはん)》”として正式任用する。C.A.L.E.が抱える“未処理案件”の対処を担う、実戦部隊だ」
「……は? いきなり過ぎねぇか?」
鷹人がドアの隙間から顔を出し、呆れた声を上げた。
「俺、聞いてねぇぞ!? 俺は!?」
「君は補欠だ。後日、再審査する」
「ひでぇ……!」
風間の言葉に、誰もが驚きつつも、内心では納得していた。
烈火の異能は明らかに“次の段階”へと踏み込んだ。
そしてユウトとシア――二人もまた、計画の核心に関わる存在。
選ばれた理由は明白だった。
「“赫焉”の名を与えられた部隊。その意味は――自分たちで考えろ」
風間はそれだけ告げると、背を向けて部屋を出た。
その数分後、烈火たちは廊下を歩きながら、重たい沈黙を共有していた。
「……赫焉班、か」
「皮肉だよな。俺たち、“赫焉計画”の残骸みたいなもんだろ」
ユウトがポツリと呟くと、シアが肩をすくめる。
「でもまあ、悪くないと思うよ。“選ばれた”ってことは、“終わりにできる”ってことでもあるから」
「終わらせる……この力を、過去を、全部か」
烈火は立ち止まり、深く息を吐いた。
そのとき、背後で異音がした。
――カツン、カツン、カツン……
規則的な足音が、誰もいないはずの廊下を響かせる。
振り返った瞬間、烈火の背筋に寒気が走った。
白衣の男が一人、廊下の奥から現れた。
顔は見えない。だが、どこかで見た記憶がある。
「“E-07”。予想より早かったな」
低い声。鋭利な眼差し。
シアとユウトが即座に前に出る。
「誰だ……関係者か?」
「元関係者、だろうな」
男は笑った。
「私は“火ノ目”と呼ばれていた者だ」
空気が凍りついた。
烈火の目が見開かれる。
「てめぇ……!」
「次に会う時が、“決着”の時だ。今はまだ――“鍵”が揃っていない」
そう言い残し、男は廊下の闇に溶けるように消えた。
烈火の拳が、熱を帯び始める。
「火ノ目……! 仇が、ようやく……!」
怒りと、恐怖と、宿命と――
すべてが再び、烈火の胸に火を灯した。
次回:
間話「静かなる灯火(ともしび)」
特別任務を終えた烈火たちに訪れた、束の間の休息。
喧騒のない訓練区、夜の食堂、ベッドの上の独白――
それぞれが抱える“孤独”と“記憶”が、静かに揺れ始める。
そして、シアが烈火に語るのは――もう一つの《赫焉計画》の記憶だった。