──夜が明ける。
赫焉班の五人は、前夜の出来事を反芻するかのように、静かな朝を迎えていた。
旧研究所跡での真実の発見――
八神烈火と名瀬シアの名前が刻まれた被験体リスト。
そして、かつて観測者として記録に関わっていた風間教官の姿。
「本当に、何もかも知ってたのか……風間さんは」
烈火は、施設を後にしてからずっと黙っていたが、ようやく口を開いた。
口調に怒気はなく、ただ疲弊したように思えた。
「だが、あの人の目に偽りはなかった。少なくとも、俺たちを“見ていた”のは事実だ」
ユウトが断言する。あの記録に映る風間は、無機質な記録係ではなかった。
異能を暴走させる子供たちに付き添い、時に手を取り、時に静かに言葉をかけていた。
「……それでも、黙っていたのよ?」
シアが抑えた声で言う。
「私たちが、どれだけ自分の“力”に苦しんだか、知らないはずないのに」
静寂が訪れる。
そこへ、ドアをノックする音が響いた。
C.A.L.E.本部からの召集命令だった。
指令室には、風間玲司教官がいた。
目の下に疲れの色を浮かべているが、その眼差しはいつもと変わらず鋭い。
「来たか、赫焉班」
「……聞きたいことが山ほどある」
烈火が一歩踏み出し、風間と真正面から視線を交える。
だが、風間はそれを制すように、低く言った。
「……その前に、話さねばならんことがある。お前たちに“選択”させなければならない」
風間の後ろのスクリーンに映し出されたのは、ある隔離区域の航空写真。
荒れ果てた施設跡のように見えるが、熱反応が複数確認されていた。
「ここには《第弐段階》の被験体が眠っている」
「……第弐段階?」
鷹人が思わず声を上げる。
風間は頷いた。
「お前たちが属する《赫焉計画:第一段階》の後、国家はさらに“純粋な異能”を求め、倫理を超えた人体実験を推進した。より強力で、より制御不能な能力者の育成だ」
「つまり……」
ユウトが呟く。
「俺たちを上回る、“何か”が眠ってるってことか」
「そういうことだ。だが、その実験は失敗し、被験体の多くは暴走の果てに廃棄された。唯一、収容された個体がひとつ──“E-00”」
「ゼロ……?」
「お前たちに任務を下す。E-00の生存確認、ならびに施設の封鎖。だが、ここで“選択”をさせる」
風間は、まっすぐ烈火たちを見据えた。
「これはただの任務ではない。お前たちの過去と、正面から向き合うことになる。辛い現実を掘り返し、仲間を傷つける可能性もある。行くか、行かないか──それを、今ここで選べ」
烈火は、一瞬だけ目を伏せた。
だが、迷いはなかった。
「行く。俺は、知りたい。全部。自分が何者なのか。そして……この力の意味を」
シアも一歩、横に並ぶ。
「逃げてばかりじゃ、前に進めない。あの施設で得たのは、情報だけじゃなかった。あなたたちと並んで進む、覚悟よ」
鷹人はため息まじりに笑って、
「俺は最初っからついてくって決めてたよ。烈火が真っ直ぐに進むなら、道が茨でも楽しいってもんだろ?」
ユウトは短く頷いた。
ミオは、不安そうにしながらも小さく拳を握る。
「怖いです……でも、置いていかれる方がもっと嫌です……」
風間は、一呼吸置いて、静かに言った。
「……分かった。お前たちが決めたなら、俺も止めない。だが覚えておけ。“檻”の中にあるのは、真実とは限らん。化け物だって、心を持つ」
「それでも──俺たちは、前に進む」
烈火の声は、もう迷っていなかった。
その夜、彼らは出撃準備に入った。
選ばされたのではない。選び取ったのだ、自らの意思で。
赫焉班は、過去の亡霊に立ち向かうため、再び戦場へと歩き出す。
次回:
第36話「E-00 -檻の番人-」
旧隔離区画に足を踏み入れた赫焉班。
静寂に包まれた廃墟の奥で、彼らを待つのは過去の亡霊か、あるいは人ならざる存在か。