赫焉の記憶   作:Reivalt

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第二章「赫焉の影」
間話 静かなる灯火


夕食の時間を過ぎた訓練棟は、静けさを取り戻していた。

 

 照明は間引かれ、廊下には小さな非常灯がぽつぽつと灯るだけ。

 まるで、誰かの心の奥をそのまま映したような――そんな夜だった。

 

 八神烈火は、自室のベッドに寝転んだまま、天井をぼんやりと見つめていた。

 

 特別任務、選抜入り、赫焉計画、そして“火ノ目”。

 一気に押し寄せた現実の波が、ようやく身体に重たくのしかかってくる。

 

 「……静かだな」

 

 ひとりごとのように呟いてから、烈火は起き上がった。

 水を飲もうと扉を開けた瞬間――ちょうど向かいの部屋から出てきた人影と鉢合わせた。

 

 「……お、奇遇。起きてたんだ」

 

 それは名瀬シアだった。

 

 フードなしの素顔。夜着姿。

 いつもの軽口も、今夜ばかりは抑え気味だった。

 

 「お前こそ。こんな時間に何してんだよ」

 

 「月、見てた。なんか、見てると落ち着くんだよね。あたしにとっては、唯一“焼かれてない記憶”だからさ」

 

 その一言に、烈火は小さく息を呑んだ。

 

 「……記憶、か」

 

 シアは黙って頷いた。

 

 「昔ね。あたし、旧施設にいた頃、よく言われてたんだ。“君たちは希望の炉だ”って。

 意味はわかんない。でも、あの部屋の中で育った子たちはみんな“火”を与えられて――みんな、燃やされて死んだ」

 

 烈火は、何も言えなかった。

 

 「ただ一人だけ、生きてた。あたし」

 

 「……生き残ったのは、お前のせいじゃない」

 

 「でも、それを知った時からずっと思ってた。“生きてた意味はあるの?”って」

 

 シアは軽く笑って、廊下の端にあるベンチに腰を下ろした。

 

 烈火も無言でその隣に座る。

 

 「……俺も、ずっとわかんねぇままだ。

 自分の力が“作られた”って知ってから、何を信じればいいのか……」

 

 シアが小さく息を吐く。

 

 「でも、あんた……この前、言ったでしょ。“俺が選ぶ”って」

 

 「……ああ」

 

 「それが答えなんじゃないの? “作られたかどうか”じゃなくて、“今、誰のために燃えてるか”ってこと」

 

 烈火はゆっくりと目を閉じた。

 

 熱は、確かに今、自分の中に灯っている。

 奪われた過去でも、与えられた力でもなく――

 「自分で決めた炎」として。

 

 「……ありがとな、シア」

 

 「ん、別に慰めたわけじゃないけど」

 

 にやっと笑うその顔は、どこか寂しげで、どこか優しかった。

 

 そのまま二人は、しばらく無言で並んでいた。

 

 遠く、夜のドーム天井にぼんやりと映る人工の月。

 それを見つめながら、烈火は思った。

 

 (この炎は、きっとまだ小さい。けど……この小さな灯火が、誰かの心を照らせるなら)

 

 「――燃やすだけの力じゃなく、“灯す”ための火にもなれるかもな」

 

 そう呟いた烈火の声に、シアがわずかに肩を揺らした。

 

 「……うん。それ、悪くないね」

 




次回:
第11話「赫焉の影」
《赫焉班》としての初任務が発令される。
だがその裏で、国家と旧C.A.L.E.幹部たちによる“第二の赫焉計画”が密かに動き始めていた。
そして、烈火の炎が照らし出す、“もう一つの過去”とは――
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