赫焉の記憶   作:Reivalt

14 / 47
影に抗う

爆煙が晴れると同時に、烈火の拳が閃いた。

 

 「《圧縮熱・撃砕》ッ!」

 

 火花が弾け、装甲ごと拳がねじ込まれる。

 だが、相手は倒れない。むしろ、微動だにしなかった。

 

 「く……硬ぇ……!」

 

 目の前の存在――赫焉因子改造兵。かつて人間だったものに、因子を無理やり注入した結果、異能そのものに呑まれた“被験体の残骸”。

 

 「なぁ、E-07……お前は、成功体だったのか?」

 

 低く、かすれた声が烈火の耳を打つ。

 

 「成功? 何が……」

 

 「俺たちは、お前の“対照データ”だった……赫焉計画の、“失敗例”さ」

 

 言葉と共に、空気が重くなる。

 

 敵の腕が異様に膨張し、次の瞬間、爆発的な衝撃波が周囲を襲った。

 

 「くっ……!」

 

 烈火とシアが吹き飛ばされる。

 鷹人はドローンを使って空中に退避、ユウトは空間断裂を展開して直撃を防いだ。

 

 「こいつ、異能そのものが不安定……! 暴走寸前だ!」

 

 ユウトの声が響く。

 

 (こいつは、もう――人間じゃない……)

 

 烈火は立ち上がりながら、拳を見た。

 “圧縮熱”が、うまくまとまらない。熱が不規則に脈打っている。

 

 (躊躇してる。俺が……)

 

 相手が“自分と同じ赫焉因子の持ち主”だと知って、どこかで無意識に踏みとどまっていた。

 

 「烈火……あたしが援護するから、今は仕留めて」

 

 シアが前に出る。だが烈火は、その手を伸ばして止めた。

 

 「待ってくれ……あいつ、何か……言いたげだった」

 

 烈火が、敵の前に一歩、進み出る。

 

 「お前の名前は?」

 

 沈黙が流れた。

 

 やがて、機械に損傷した喉が、低く動いた。

 

 「……番号でしか……呼ばれてなかった。でも、昔……母が俺を、こう呼んだ気がする……“カナメ”と」

 

 その名に、烈火の脳裏が焼かれたように疼いた。

 

 ――カナメ。

 

 それは、烈火が幼少期――炎に包まれる直前、確かに母が呼んだ名前だった。

 

 (まさか……この男……)

 

 「カナメ……お前……俺の……」

 

 そのとき、敵が動いた。

 

 「思い出してくれて、嬉しいよ……兄さん」

 

 その言葉を最後に、カナメの体が発光した。

 

 「暴走が来るぞッ! 全員、離れろ!」

 

 ユウトの叫びと同時に、烈火は走った。

 間に合わない。間に合わない。だが、止めなければ。

 

 「やめろ……!!」

 

 烈火が咆哮するように叫び、己の熱を全開放する。

 

 「《赫焉式・臨界結界》――ッ!!」

 

 熱が奔流となって空間を覆い、暴走の爆発エネルギーを包み込む。

 

 轟音。閃光。そして、静寂。

 

 烈火は地面に膝をつき、蒸気に包まれたカナメの前に立っていた。

 

 彼の肉体は、もはや形を保っていなかった。

 しかし、最後の瞬間だけは“人の顔”をしていた。

 

 「……ありがとう、兄さん。今度は、“灯火”になって、帰れたよ」

 

 そう呟いたように見えた瞬間――彼の身体は光に還った。

 

 しばらく誰も言葉を発せず、ただ、蒸気の中で静かに佇んでいた。

 

 烈火は、拳を強く握った。

 

 (これが……赫焉計画の結果か。俺の炎が、命を照らすためじゃなく、“犠牲”を生むためだったなんて……)

 

 その背後で、風間が無言で立っていた。

 

 「彼は……烈火の弟だった可能性が高い。だが正式記録は抹消済みだ」

 

 「記録なんて、もうどうでもいい」

 

 烈火の声は震えていた。

 

 「俺の手で、弟を……殺したんだ」

 

 その手は、確かに灯火だった。

 誰かの命を、静かに包んで消した――そんな、ぬくもりのような炎だった。

 




次回:
第13話「赫焉班、始動」
任務は続く。烈火たちは悲しみを抱えたまま、新たな指令へ向かう。
だが、その裏で“第二の赫焉計画”を動かす黒幕たちの動きが加速し始めていた――。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。