爆煙が晴れると同時に、烈火の拳が閃いた。
「《圧縮熱・撃砕》ッ!」
火花が弾け、装甲ごと拳がねじ込まれる。
だが、相手は倒れない。むしろ、微動だにしなかった。
「く……硬ぇ……!」
目の前の存在――赫焉因子改造兵。かつて人間だったものに、因子を無理やり注入した結果、異能そのものに呑まれた“被験体の残骸”。
「なぁ、E-07……お前は、成功体だったのか?」
低く、かすれた声が烈火の耳を打つ。
「成功? 何が……」
「俺たちは、お前の“対照データ”だった……赫焉計画の、“失敗例”さ」
言葉と共に、空気が重くなる。
敵の腕が異様に膨張し、次の瞬間、爆発的な衝撃波が周囲を襲った。
「くっ……!」
烈火とシアが吹き飛ばされる。
鷹人はドローンを使って空中に退避、ユウトは空間断裂を展開して直撃を防いだ。
「こいつ、異能そのものが不安定……! 暴走寸前だ!」
ユウトの声が響く。
(こいつは、もう――人間じゃない……)
烈火は立ち上がりながら、拳を見た。
“圧縮熱”が、うまくまとまらない。熱が不規則に脈打っている。
(躊躇してる。俺が……)
相手が“自分と同じ赫焉因子の持ち主”だと知って、どこかで無意識に踏みとどまっていた。
「烈火……あたしが援護するから、今は仕留めて」
シアが前に出る。だが烈火は、その手を伸ばして止めた。
「待ってくれ……あいつ、何か……言いたげだった」
烈火が、敵の前に一歩、進み出る。
「お前の名前は?」
沈黙が流れた。
やがて、機械に損傷した喉が、低く動いた。
「……番号でしか……呼ばれてなかった。でも、昔……母が俺を、こう呼んだ気がする……“カナメ”と」
その名に、烈火の脳裏が焼かれたように疼いた。
――カナメ。
それは、烈火が幼少期――炎に包まれる直前、確かに母が呼んだ名前だった。
(まさか……この男……)
「カナメ……お前……俺の……」
そのとき、敵が動いた。
「思い出してくれて、嬉しいよ……兄さん」
その言葉を最後に、カナメの体が発光した。
「暴走が来るぞッ! 全員、離れろ!」
ユウトの叫びと同時に、烈火は走った。
間に合わない。間に合わない。だが、止めなければ。
「やめろ……!!」
烈火が咆哮するように叫び、己の熱を全開放する。
「《赫焉式・臨界結界》――ッ!!」
熱が奔流となって空間を覆い、暴走の爆発エネルギーを包み込む。
轟音。閃光。そして、静寂。
烈火は地面に膝をつき、蒸気に包まれたカナメの前に立っていた。
彼の肉体は、もはや形を保っていなかった。
しかし、最後の瞬間だけは“人の顔”をしていた。
「……ありがとう、兄さん。今度は、“灯火”になって、帰れたよ」
そう呟いたように見えた瞬間――彼の身体は光に還った。
しばらく誰も言葉を発せず、ただ、蒸気の中で静かに佇んでいた。
烈火は、拳を強く握った。
(これが……赫焉計画の結果か。俺の炎が、命を照らすためじゃなく、“犠牲”を生むためだったなんて……)
その背後で、風間が無言で立っていた。
「彼は……烈火の弟だった可能性が高い。だが正式記録は抹消済みだ」
「記録なんて、もうどうでもいい」
烈火の声は震えていた。
「俺の手で、弟を……殺したんだ」
その手は、確かに灯火だった。
誰かの命を、静かに包んで消した――そんな、ぬくもりのような炎だった。
次回:
第13話「赫焉班、始動」
任務は続く。烈火たちは悲しみを抱えたまま、新たな指令へ向かう。
だが、その裏で“第二の赫焉計画”を動かす黒幕たちの動きが加速し始めていた――。