灰色の空。廃墟と化した都市外縁の第13封鎖区域。
コンクリートの骨組みだけが風に晒され、無数の崩れた建材が地面を覆っている。
かつて、都市の再開発候補地だったこの一帯は、ある事故をきっかけに封鎖された。
その“事故”の真実が、今、烈火たち赫焉班の前にあった。
「この空間、完全に誰かの“手”が入ってる。自然崩壊じゃない」
鷹人がドローンを操作しながら呟く。
ユウトがすぐさま地面の断層に触れ、《構造断裂》の感覚で探る。
「……間違いない。これは“異能”による地形変化。しかも……人為的だ」
「つまり、実験場だったってことか」
烈火は拳を握る。
この区域にはかつて、“異能制御の最終実験”が行われていた。
旧赫焉計画の後継、通称《赫焉-II(ツー)》――
政府非公認の“異能戦力自動制御計画”。
その中核にいるのが、“イグニス”――烈火たちと同じ赫焉因子を持つ、人工設計の存在だった。
「いた。座標F-32、廃病棟の屋上。人影一つ、熱源反応は高レベル」
「行くぞ……!」
烈火たちは慎重に周囲を取り囲み、廃病棟の屋上に向かう。
風の中に、焦げたような金属臭が混じっていた。
そして――
屋上に立っていたのは、長い黒髪の少年だった。
静かな顔立ち。淡い金の瞳。
その身に纏うのは、赫焉の印章が刻まれた白の拘束スーツ。
彼は、烈火たちを一瞥すると、ほんのわずかに口元を動かした。
「……八神烈火。E-07。観測一致」
「お前が……イグニスか?」
「識別はそれで構わない」
感情が希薄だ。それでも、烈火にはわかった。
目の前の男は、自分たちと同じ“赫焉因子”を持ちながら、まったく別の道を歩んできた存在。
「俺は、“設計された成功例”だ」
イグニスは淡々と語る。
「君たちは、“自然覚醒型”。だが非安定。不確定要素が多い。
火ノ目博士の提唱した“完全制御型異能兵”は、僕で証明される」
「そんなもん……“証明”して、どうすんだよ」
烈火の声に、イグニスの目が静かに動いた。
「君たちは“希望”だった。でも僕は、“手段”だ。
“炎”は、意志ではなく命令で使われるべきだ。それが……世界を救う方法だと、彼は言っていた」
「ふざけるな……」
烈火が踏み出す。
「誰かの命令で燃やすなんて、そんなもん……炎じゃねぇ。ただの、兵器だ!」
「だから、排除する。君のような“意思を持った炎”こそ、不確定で危険なんだ」
イグニスの右手が、発光する。
瞬間、空気が爆ぜた。
「熱圧制御型異能――《灼鎖(しゃくさ)》」
目に見えない熱線が、一瞬で烈火の周囲を取り囲む。
烈火は紙一重で跳び退く。
「これは……“熱の檻”か……!」
鷹人がドローンを射出し、援護するが、その瞬間に熱鎖が交差し、機体を真っ二つに切断した。
「やべぇ……反応速度が違いすぎる!」
「こいつ……自分の熱をまったく漏らしてない。精密制御だ……!」
ユウトが歯を食いしばる。
シアが、烈火の隣に立った。
「今のあんたじゃ、勝てない。制御力も火力も、全部向こうが上」
「……わかってる」
それでも、烈火は拳を構えた。
「でも、俺は引かねぇ。
意志を捨てた炎なんかに、“俺の炎”が負けるわけねぇだろ!!」
熱が、再び拳に集まり始めた。
イグニスは、初めて微かに笑った。
「なるほど。確かに、君の熱は……燃焼特性では、僕を超えるかもしれない」
次の瞬間、イグニスの周囲の空気がひときわ高密度に振動した。
「だから、君を焼くのは――僕の役目だ」
嵐のような高温戦闘が、幕を開ける。
次回:
第15話「炎の境界線」
赫焉vs赫焉。烈火とイグニスの激突が始まる。
“熱を意志で操る者”と、“命令で操られる炎”――
交錯する拳と炎の先に、果たしてどちらが“未来”を掴むのか――。