鋼鉄の扉が音を立てて閉じた。
その瞬間、八神烈火は背後の世界――Z13区、火事の跡、家族の記憶――すべてを外に置いてきた。
ここから先は、生き残るか、脱落するか。誰も助けてはくれない。
「よぉ、そこの坊主。ずいぶん渋い面してんじゃねえか」
地下通路を抜けた先で、男の声が響いた。
フードを深く被った長身の男。白髪交じりの髪と、機械のように鋭く冷たい瞳。首元には、赤いペンダントのようなデバイスがぶら下がっている。
「お前が新入りか? 八神烈火。火災孤児、能力は《圧縮熱》。ふん、燃え残りか」
烈火の拳が、わずかに熱を帯びた。だが男はそれに反応せず、口元だけで笑う。
「俺は風間。訓練校《C.A.L.E.》の試験官のひとりだ。入学を希望する奴らにまず教えることがある」
風間は手を伸ばし、背後の壁を軽く叩いた。
その瞬間、壁一面がスクリーンに変化し、訓練校の全体図が浮かび上がる。
「ここに集まるのは、異能者予備軍だけだ。だがな、力があっても死ぬ。なくても死ぬ。そんな場所だ。覚悟して入ってこい」
烈火は黙って頷いた。すでに覚悟はできている。家を焼かれ、両親を殺され、生きる意味が“仇”ただひとつになった日から。
風間は踵を返し、歩き出す。烈火はその後ろを黙ってついていった。
地下に広がる都市――それが《C.A.L.E.》訓練校の全貌だった。
ドーム状の天井に人工光が灯り、ビルや訓練施設が整然と並ぶ光景は、まるで未来都市そのものだった。そこにはすでに何十人もの若者たちがいた。皆、年齢も背格好もさまざまだが、ひとつ共通していた。
――全員、異能を持っている。
「集まってんな、バケモンのタマゴどもが」
烈火が小さく吐き捨てると、その背後で誰かが笑った。
「バケモンのくせに、随分と他人事な言い方だな」
振り返ると、金髪を逆立てた少年が立っていた。目元にはサングラス、肩には小さなドローンが止まっている。
「早乙女 鷹人(さおとめ たかと)。能力は《視界連結(リンクサイト)》だ。お前は?」
「八神烈火。《圧縮熱》だ」
「ふーん。聞いたことねぇな。弱そう」
「てめぇ、死にてぇのか」
烈火の拳から微かに熱が上がる。だが鷹人は肩をすくめただけだった。
「まあまあ。第一印象で突っかかってるようじゃ、上には行けねぇぜ?」
――その言葉に、烈火はなぜか引っかかった。“上に行く”――ここは学校じゃない。生き残った者が上がっていく階段なのか?
そのとき、訓練施設全体に警報音が鳴り響いた。
《新規参加者に告ぐ――異能適性試験“焰牙(えんが)テスト”を開始する》
「焰牙(えんが)……?」
風間の声がスピーカー越しに響く。
《これより全訓練生は、区域Bへ移動。1時間以内に“3体の模擬異能体”を撃破し、生存状態でエリアを脱出せよ。制限時間を超えた場合、失格とする》
ざわつく新人たち。その中で、烈火の目だけが鋭く光っていた。
「戦うってわけか……ちょうどいい」
この力が通用するのか。何が足りないのか。確かめるには、格好の場だ。
区域Bは廃ビルを模した立体迷路だった。
烈火は鷹人とともに投入される。なぜか勝手に「俺たちはコンビで行こうぜ」とついてきたのだ。やかましいが、目の良さは頼りになりそうだった。
「一体目、ビルの屋上。体長3メートル、動きは鈍そう。いけるか?」
「余裕だ。近づくまで手出すな」
烈火は壁を駆け上がり、金属の手すりを掴む。屋上には、鋼鉄の鎧を纏った人型の“模擬異能体”が立っていた。無表情の仮面。だがその腕のひと振りは、鉄骨をへし折る威力を持つ。
「1発で沈める……!」
烈火はダッシュの勢いを使い、左腕を後方に引いた。全身を駆ける摩擦熱を一点に集め、拳に収束させる。
「燃えろ――《圧縮熱・打》!」
その一撃は、まさに“拳に込めた火炎放射”だった。
模擬異能体の胸部を貫き、内部機構を一気に焼き切る。機体は赤熱し、立ったまま崩れ落ちた。
「一体目、撃破」
「おいおい、マジでやるじゃねぇか……」
鷹人が思わず声を漏らす。烈火は拳を軽く振り、火の粉を払った。
1体、また1体と撃破していくたびに、烈火の中の熱は増していった。
だが、同時に“限界”も近づいていた。圧縮熱は、連続で使えば自分の体温を奪う。指先が少しずつ冷えていく。
――まだだ。こんなもんじゃ、あいつに届かねぇ。
烈火は、拳を強く握りしめた。
「待ってろ、“火ノ目”。お前を燃やす火種は、今ここにある――!」
次回:
第3話「焰牙テスト、開戦」
訓練生たちはそれぞれの力を試される。烈火は限界を超えた先で、ある“異常な存在”と遭遇する――