空はどこまでも高く、青く澄んでいた。
ここは訓練施設《C.A.L.E.》の敷地内にある、中庭と呼ばれる場所。
硬質な戦場とは違う、やわらかな陽射しが落ちる空間。
任務と訓練の合間、赫焉班の面々に与えられた、ほんの短い休息の時間。
「おい、鷹人。そっちの弁当、それだけじゃ足りねえだろ?」
芝生に寝転がったまま、烈火が横目で笑う。
「うっせーな、食っても食っても腹減るんだよ俺は!」
鷹人が箸を口に突っ込みながら、空になった弁当箱を振って見せた。
「……動物かあんたは」
日陰のベンチに腰掛けるシアが、やれやれといった表情で呆れる。
だが、その口調にはどこか、柔らかな響きが含まれていた。
「ユウトも、食べてる?」
シアがちらと視線を向けた先には、無言でスープを啜るユウトの姿。
「……ああ。味は問題ない」
淡々とした返答だが、その手元には鷹人が配っていた菓子パンの袋が。
「ふふっ、案外みんな仲良いのね」
そこへ、カメラを持った風間教官が不意に現れた。
「お前らの記録用にな。たまにはこういうシーンも必要だろ」
「やめろって、そういうの照れるんだよなー」
鷹人がタオルを被って逃げるが、風間は構わずシャッターを切った。
風が草を揺らし、時間がゆっくりと流れる。
この一瞬だけは、誰もが“戦わない自分”を思い出していた。
「なあ、シア」
食後、少し離れた場所で、烈火が声をかけた。
「……なに」
シアは膝を抱え、少し遠くを見つめていた。
「お前、前に言ってたよな。自分も赫焉計画の一部だったって」
「……ええ」
「それって、怖くなかったのか? 自分が“造られた”存在かもしれないって思うのは」
しばらく沈黙が流れた。やがてシアが、ぽつりと答える。
「……怖かった。でも、あたしは“それ”を誰かに否定されたくなかった」
「否定……?」
「自分の過去も、作られた能力も。全部、今の“あたし”の一部だから」
彼女の言葉に、烈火は黙って頷いた。
「お前、強えな」
「……あんたもよ」
短い言葉の中に、互いの理解が宿る。
その夜、寮の廊下。
ユウトがノートPCを前に、静かに指を走らせていた。
システムのログ、記録映像、異能者の解析。
彼は一人、赫焉計画の“裏”にある情報を密かに集め続けていた。
「“E-07”。やはり君だったか、八神烈火……」
画面には、極秘とされた被験体リストの一部が表示されていた。
翌朝。
「烈火、起きてるかー!? 朝食行くぞー!」
鷹人の声に、烈火が布団の中から手を振る。
「……今日くらい、もうちょい寝かせろ……」
そんな普通のやり取りが、少しだけ愛しく思えた。
束の間の陽だまりは、確かに彼らを少しだけ変えていた。
そして、その変化はやがて、来るべき戦いで力となっていく――。
次回:
第18話「赫焉班、再始動」
短い休息は終わりを告げ、再び動き出す赫焉班。
新たな任務は、異常事態が続出する“Dランク区域”の踏破調査。
静かに芽生えた絆を胸に、彼らは再び“戦場”へと身を投じる。
そこに待つのは、未確認の敵影と、計り知れぬ深淵――
赫焉の炎は、再び戦場にて灯される。