休息は静かに幕を下ろし、赫焉班に再び任務が告げられた。
C.A.L.E.の作戦会議室に集められた烈火たちの前に映し出されたのは、地図上の赤く塗られた広大なDランク区域。その中心には、数年前に封鎖された研究施設が点滅していた。
「今回の任務はこの区域の踏破調査だ。現地では異常な電磁波の発生と、未知の異能反応が検出されている」
風間教官が淡々と説明する。
が、その表情にはわずかな緊張の色が浮かんでいた。
「異能反応って……また“B-Ω”みたいなヤツかよ」
鷹人が苦い顔で呟く。
「正確には不明だ。ただ、内部に進入した複数の偵察機が通信を絶っている。おそらく、“何か”が潜んでいる」
「何かって、具体的には?」
シアの目が鋭く細められる。
「……それも、わからん。だがこの施設は、かつて《赫焉計画》の下請け研究拠点の一つだった。そこで生み出された実験体が今も残っている可能性がある」
風間の言葉に、室内の空気が凍りついた。
烈火は無意識に拳を握る。
自分たちと同じ“計画の産物”が、今もどこかで息を潜めているという現実。
それが、妙に心をざわつかせた。
「出発は明朝。装備は念入りに整えておけ。今回は……死ぬなよ」
風間が最後に放った言葉に、教官としての責任と、彼なりの“祈り”がにじんでいた。
* * *
翌朝、赫焉班は黒い装甲車に乗り込み、都市外縁の未開地へと向かっていた。
車内は珍しく沈黙に包まれていたが、その静けさは気まずさではなく、それぞれが覚悟を研ぎ澄ませている証だった。
「……ねぇ、」
重い空気を破ったのは、意外にもシアだった。
「昨日の……焚き火。悪くなかったわね。ちょっとだけ、普通の子供みたいな気分になった」
それは彼女なりの“ありがとう”だった。
その言葉に、烈火も、鷹人も、ふと口元を緩める。
「おいおい、今更ツンデレかよ? お嬢様のキャラ崩壊しちまうぞ?」
「殺すわよ」
「はい、ごめんなさい!」
笑い声が車内に広がる。
刹那的な日常の名残――
だがその余韻も、車が施設の入り口に到着した瞬間、霧のように消えた。
* * *
廃棄された研究所は、外観こそ風化していたが、地下へと続く通路には、確かに“生きた何か”の気配があった。
「……扉、開けるぞ」
烈火が扉に手をかけ、ゆっくりと開け放つ。
その瞬間――
「ッ!?」
濃密な異能の気配が、肌を刺すように襲ってきた。
まるで、そこに巣食う“何か”が、彼らの存在を歓迎するかのように。
「全員、戦闘準備。油断するな」
榊ユウトの声が冷たく響く。
そして、地下へと続く階段を、赫焉班はゆっくりと降りていく。
その先に待つもの――
それは、過去の亡霊か、あるいは自分たちの“鏡”か。
闇の中、赫焉の炎がふたたび灯る。
次回:
第19話「深淵の気配」
赫焉班が向かったのは、かつて機密研究所だった廃棄施設。
そこに待ち受けていたのは、異能の闇が生んだ“何か”。
それは、彼らの覚悟を試す戦いの始まりだった。