地下へと続く階段は、空気すら淀んでいた。
天井の照明は所々で壊れ、赤黒い液体が壁面に染みついている。
「……まるで、墓場みてぇだな」
鷹人が呟くが、誰も返事をしなかった。
その表現は的を射ていた。
烈火は拳に熱を灯す。
《圧縮熱》が自然と反応している。
近くに“敵”がいる。直感がそう告げていた。
「感知反応、二時方向、距離十二メートル……高速移動、接近中!」
ユウトの声と同時に、壁を突き破って異形の影が飛び出してきた。
「っく、速ッ……!」
姿は人間に似ているが、関節は逆向きに曲がり、眼孔から黒い霧を撒き散らしている。
かつて人だったのかすら不明な“化け物”だった。
「来るぞ!」
烈火が叫び、拳を振るう。
圧縮した熱が爆ぜ、怪物の腹を打ち抜いた。
だが――
「……嘘だろ、まだ動くのかよ」
黒い再生繊維のような組織が、穴を埋めるように蠢いていた。
「再生能力持ち……なら、細胞ごと焼き切るまで終わらない!」
シアが即座に判断し、爆裂型の異能弾を放つ。
直撃と同時に怪物の上半身が吹き飛ぶが、それでも足は蠢いていた。
「分離行動もできるのか……厄介ね」
「まとめて吹き飛ばす!」
烈火の掌に、高密度の熱が集まる。
《焦熱波・解放形態》
灼熱の衝撃波が周囲を包み、ようやく怪物の動きが完全に止まった。
残骸を囲むように立ち尽くす赫焉班。
全員が気づいていた――これは、ただの“先触れ”だと。
「……この施設に、何体いる?」
「分からん。ただ……これはどう見ても《赫焉計画》の産物だ。僕らと同じ、“作られた命”だ」
ユウトの言葉に、誰もが思考を止めた。
烈火も、無意識に口を開く。
「……こういうのを、俺たちの前に置いた奴らがいたんだな」
「ええ。私たちは、ただ運が良かっただけ。成功作と失敗作の境目なんて、紙一重よ」
シアの声は冷たく澄んでいた。
「でも、今さら戻れないだろ?」
鷹人が笑ってみせる。
「だったらさ、せめて――自分が“正しく生きてる”って証明するしかねぇんじゃねぇの?」
「……ああ、そうだな」
烈火は拳を握った。
この場所で戦う意味、それはただの作戦遂行じゃない。
自分たちの“出自”と向き合うための戦いでもある。
その先に、真実があるなら――逃げるわけにはいかない。
「行くぞ、赫焉班。奥に、まだ“何か”がいる」
風間の声が通信に割り込む。
「探知シグナル、階層下部に強い反応……かなり大きいぞ。全員、覚悟を決めて進め」
「了解」
赫焉班は再び歩き出す。
その足取りには、恐れと共に確かな“意志”があった。
過去に生まれ、今を生き、未来へ進むために。
彼らは、深淵の闇へと挑む。
次回:
第20話「赫焉の檻」
施設最下層に辿り着いた赫焉班の前に、巨大な異能存在が姿を現す。
それはかつて、彼らと同じく“人間”として生まれ、そして捨てられた存在だった。
絶望の中に芽吹く小さな火――赫焉の炎は、闇を照らせるか。