地下施設の最下層に、赫焉班は辿り着いた。
分厚い鋼鉄の扉が、不自然な静けさの中に立ちはだかっている。
烈火が扉に手をかけた瞬間――
「熱感知、反応アリ。中に“いる”わ」
シアが短く告げた。
それは警戒というより、確信に近い声だった。
「開けるぞ……!」
軋む音と共に扉がゆっくりと開く。
目に飛び込んできたのは、巨大な球体の水槽。
その中には――人とも獣ともつかぬ異形が、浮かんでいた。
「……あれが、探知された異能体?」
「いや……違う」
ユウトが静かに否定する。
「この空間全体が、まるで“異能”の塊だ。気配が……拡散している」
その言葉を裏付けるように、床が振動した。
天井から黒い霧が漏れ出し、水槽の中の影が動いた。
「起動反応! 封印が……解けるッ!」
警報が鳴る間もなく、水槽が破裂する。
ぶしゅううう――。
泡立つ水と共に姿を現したのは、半身が焼け爛れた青年の姿。
片目が潰れ、皮膚は異様な硬化を起こしている。
だが、その目だけは――烈火たちと同じ、“赫焉の印”を宿していた。
「また……失敗作か。俺は……また棄てられるのか……」
呻くように、青年が呟く。
その声には、怒りよりも先に“哀しみ”が滲んでいた。
「……あんた、もしかして……」
烈火が一歩踏み出す。
だが次の瞬間――
ズン、と重い圧力が空間を支配した。
《重力歪曲型異能》
床がうねり、壁が歪み、空間が沈む。
「くそっ、動きが……!」
「このままじゃ、潰される……!」
赫焉班が苦悶する中、烈火は全身に熱を集中させる。
「……お前の、その力……誰にやらされた?」
その問いに、青年はかすかに目を細めた。
「……名も知らん。俺をここに閉じ込めて、“記録”だけを取り続けた奴らさ。
『B-Ωβ体』……それが、俺の“名前”だった」
――B-Ω。かつて烈火たちが倒した暴走個体と、同じ分類。
「……お前も、《赫焉計画》の犠牲者なのか」
烈火の熱が、感情に比例して高まる。
「なら、お前を……こんな風に作り変えた奴らを、俺たちが断ち切ってやる!」
叫びと共に、烈火の拳が重力の檻を破った。
《圧縮熱・爆雷突》
一点突破の閃熱が青年に迫る――しかし。
「やめろッ!!」
叫んだのは、シアだった。
「その子は……まだ、助けられる……!」
攻撃の寸前、烈火は拳を逸らし、床に叩きつける。
熱波が部屋を覆い、異能の圧力が一瞬だけ緩んだ。
「ッ……っぐ……何を……!」
青年が蹲る。
その体を、シアがそっと支えた。
「私はE-05。あなたと、同じ“捨てられた者”。……でも、だから分かるの。
あなたは、まだ人間としての“心”を持ってる。だから――壊させない」
涙を隠さずに語るシアを、烈火も、仲間たちも見つめていた。
「……俺たちは、赫焉班。
お前を“道具”にも、“敵”にもさせない。ここから……連れて帰る」
烈火の言葉に、青年は震えた唇で呟いた。
「……名前、つけてくれるか?」
「……ああ。そうだな――“ヒカル”ってのは、どうだ?」
「ヒカル……か……いいな、それ……」
力を失い、倒れる“ヒカル”を、烈火は抱き留めた。
誰かに生かされるだけの命から、自ら選び取る命へ。
赫焉の炎は、また一人の光を灯した。
次回:
第21話「赫焉計画、起動」
ヒカルの救出を果たした赫焉班だが、その直後、旧施設の最奥で新たな“異能記録装置”が作動を始める。
次々と明かされる《赫焉計画》の真実――
それは、烈火たちの“存在意義”すら揺るがす、最終段階への序章だった。