暗く、静まり返った施設跡。
地表に打ち捨てられたままの旧研究棟の残骸が、風にさらされ軋んでいた。
烈火たちは、《火ノ目》が示した“座標”――
それが、烈火の両親が命を落とした火災現場であることに気づいていた。
「……ここか」
呟きながら、烈火は踏みしめるように瓦礫の中へ足を進める。
周囲の面々も無言のまま後に続いた。
「まるで……ここだけ、時間が止まってるみたいだ」
鷹人の声に、シアが低く返す。
「この空気……異能の痕跡が、まだ残ってる。かなり濃い」
「実験場だったってことか?」
ユウトが機器を確認する。
「間違いない。
ここはかつて“対象者の異能暴走実験”が繰り返された場所だ」
そして烈火の視線が止まった。
――かつて、自分が住んでいたはずの家の跡。
「俺の……家だった場所だ」
抑えた声だった。
だが、拳は震えていた。
「この場所で……“事故”があったって言われた。
火災で、両親は死んだ――そう信じてきた。
でも……あの時、感じてたんだ。“何か”が、燃えてるだけじゃないって」
烈火の脳裏に、過去の断片が蘇る。
――焼け爛れた天井
――何かがうねるような炎
――誰かの“笑い声”
「火ノ目……あいつが、俺たち家族を“素材”として見てたなら……」
「復讐だけじゃ、足りないな」
烈火の言葉に、全員が目を向ける。
そこにはもう、迷いも怒りもない――“覚悟”があった。
「俺は、自分の“始まり”をこの手で終わらせる。
そのために、ここで何があったのか……全部知る必要がある」
彼は歩みを止め、地面に残る金属製の“地下扉”を見つける。
「……隠し区画だな。開けるぞ」
電子ロックを解除し、開かれた階段の先には――
“完璧に保存された記録室”が広がっていた。
中にあったのは、一冊の古びた手帳と、録音装置。
烈火はゆっくりと再生ボタンを押す。
《……記録、第14回。対象E-07、観測により適応進行中。
ただし、母親の“感情干渉”が予想以上に強く、意図しない覚醒反応が確認された。
廃棄予定。》
《……父親もまた、遺伝的因子の発現が低く、実験には不向きと判断。
よって、処理する。》
再生は止まった。
手帳の最後のページには、こう記されていた。
「“赫焉”とは、過去を焼却し、新たな観測世界を生む火である」
「……ふざけるな」
烈火の声が低く響いた。
「そんな理由で、家族を……!」
震える手で、彼は記録を握りしめた。
「これが、《赫焉計画》の真実か。
“世界を更新するために、個人の命は燃料でしかない”ってか……!」
静かに、だが確かに怒りが燃え始める。
その時――施設全体にアラートが鳴り響いた。
『接近反応確認。高位異能体“アグニコード”が接触圏内へ』
「……新手か!」
ユウトが警戒態勢に入る。
「こっちの動き、完全に読まれてる……!」
空間が歪む。
現れたのは、全身が紅蓮に輝く異能体。
「――“残火”が消えるまで、貴様らの観測は終わらん」
赫焉計画の番犬――《アグニコード》が姿を現した。
烈火は、再び拳を握る。
「なら……燃やしてやるよ。“赫焉”ってやつごと――!」
赫焉班、次なる戦いの火蓋が切って落とされた。
次回
第23話「観測者たち」
襲い来るアグニコード――
だがそれは、“火ノ目”が放った駒の一部にすぎなかった。
赫焉班の前に、“もう一人の観測者”が姿を現す――。