「烈火、反応が……!」
ユウトの声が、焦りを含んで響いた。
イグナートとアグニコードが去った直後。
焼け焦げた地面に膝をついた烈火の全身が、微かに震えていた。
「なんだ……この熱は……!」
シアが距離を取りつつ見守る。
烈火の体から立ち上る蒸気。
その中心にあるのは、明らかに“異質な焔”。
「熱じゃない。これは……異能が暴走しかけてる」
ユウトが解析を進める中、烈火は頭を抱えていた。
脳裏に、断片的な映像が流れ込んでくる。
――赤い部屋。
――ガラス越しに覗く白衣の研究者たち。
――そして、あの言葉。
『被験体E-07、赫焉因子、活性化開始』
「……っ、う、ぁあああッ!!」
烈火の叫びと共に、爆発的な熱波が周囲に放たれた。
「全員、下がれッ!!」
鷹人が即座に叫ぶ。
空間が歪む。熱だけでない――異能そのものが“変質”し始めていた。
「……思い出した。俺は……あの実験施設で……!」
炎の中心に立つ烈火が、顔を上げた。
その瞳の奥には、紅蓮とは違う《赫》の輝きが宿っていた。
「俺は……《赫焉因子》の適合者だったんだ」
その言葉に、全員が息を呑む。
「赫焉因子……?」
シアの表情が強張る。
ユウトも、苦々しい面持ちで頷いた。
「それは、“旧赫焉計画”で極秘に組み込まれた最終段階。
遺伝子レベルで異能を融合させ、《制御不能の超適応》をもたらす因子だ」
「つまり……?」
鷹人が問う。
「暴走と覚醒は、紙一重。
適合者は能力が底なしに成長するが、感情や肉体が耐えられなければ――死ぬ」
その中で、烈火は静かに息を整えた。
「だが、俺は……今、わかる。
この“焔”は暴れるためのもんじゃねぇ。
守るため、貫くためにある」
彼の掌に集まる熱量。
それは、今までの《圧縮熱》とは明らかに違う“何か”だった。
「来い……!」
彼が構えると、地面が砕け、空気が焦げ、全身から赫焉のオーラが立ち昇る。
《赫焉解放・第一段階――焔殻》
烈火の背後に、赤黒い翼のような光が顕現する。
「これは……完全覚醒に至るための、最初の“型”……!」
「くるぞ、何か!」
突如、空間が再び歪んだ。
先程消えたはずのアグニコードが再起動し、異能暴走状態で強制転送されてきたのだ。
「また現れやがったか……! でも今度は――負けねぇ!」
烈火が跳び出す。
その拳は、焔を纏い、赫を宿していた。
轟音と共に、アグニコードの灼熱が烈火を襲う。
だが、今の彼にとってそれは“燃料”に過ぎなかった。
「……ありがとな、アグニコード。
お前がいたから、俺は……思い出せた」
烈火の拳が、アグニコードの胸を貫いた瞬間――
逆流するように、灼熱の異能が“吸収”されていく。
「まさか……同質の因子……!? 君……《火ノ目》の……」
アグニコードの機械音声がかすれ、爆散した。
残されたのは、焔を纏った烈火だけだった。
「烈火……お前……」
鷹人が呆然と呟く。
「……まだ、全部は思い出せてねぇ。
でも、ひとつわかったことがある。
俺は《赫焉計画》の一部だった。そして――」
烈火は拳を握る。
「“火ノ目”と同じ因子を、俺も持ってる」
重苦しい沈黙。
だがその中で、シアが小さく微笑んだ。
「……なら、壊せるね。
あの計画も、あの過去も、全部。私たちで」
烈火は頷いた。
仲間がいる。
この“赫”は、もう孤独な焔じゃない。
「――行こう。次の戦場へ」
赫焉班の物語は、新たな章へと向かっていく。
次回
間話「赫き灯火」
《赫焉因子》を覚醒させた烈火。
だがその反動は、身体と精神に深く影を落とす。
仲間たちは彼を支え、再び笑顔を取り戻そうとするが……
彼の“過去”に触れたとき、思わぬ真実が浮かび上がる。
それは、灯火か――それとも、焔の檻か。