陽だまりのような休息の時は、唐突に終わりを告げた。
赫焉班に再び緊張が走ったのは、出撃任務を終えて数日後の朝。中央連絡局からの通達により、班の構成に変化が告げられたのだ。
「班再編──か。嫌な響きだな」
そう呟いたのは鷹人だった。
烈火、鷹人、シア、ユウト──これまで共に歩んできた4人に加え、3名の転属者が新たに配属されるという。
「どうやら、特殊実験区画“第六封鎖域”への潜入任務が絡んでるらしいわよ」
シアが書類を見ながら言う。
「ただの補充ってわけじゃなさそうね。ねぇ、アンタたち、変な違和感……感じない?」
「感じないわけねぇだろ……」烈火は苦い顔をして返す。
それは、ただの班再編ではない。明らかに「何かを試す」意図が透けて見える。
新たに合流した3人──
一人は、神経質そうな眼鏡をかけた分析官上がりの少年・三嶋 晶(みしま あきら)。異能は《周囲感知》。超高感度で音・熱・気配を探知する。
もう一人は、寡黙で鋭い視線を持つ少女・蔵元 ルナ。異能は《幻視結界(げんしけっかい)》。小規模ながら周囲に幻覚を与える術を使う。
最後に、やや軽薄そうな雰囲気を持つ青年・飛鳥 馨(あすか かおる)。異能は《圧縮波》。空気を一点に集中させ、爆発的に放出する。
「俺たちは今回の任務で、あんたたちと“混ざる”よう命じられてる。上下も指揮系統もなし。お互いがどう動くか、見せ合おうぜ」
飛鳥はそう笑って言ったが、その目は冗談を言っているようで鋭かった。
烈火はその眼に、どこか自分と似たものを見た。
初顔合わせの訓練後、烈火は一人、格納庫の外れに向かっていた。
あの休息の日々の中で芽生えた仲間意識。それを守れるのか、混ざり合えるのか。
そんな思考がぐるぐると頭を巡る。
そこへ声がかかる。
「火が、お前を喰らいそうだったな」
振り向くと、ユウトが静かに立っていた。
「……見てたのかよ」
「見ていた。お前の“火”は、今、籠の中で暴れてる。──檻の中に閉じ込めてるのは、お前自身じゃないか?」
烈火は黙る。
自分の能力《圧縮熱》は、感情に比例して暴走しやすい。
制御を覚えたとはいえ、あの時の“暴走体”を前にした時のような激昂がまた起きれば──
「なぁ、ユウト……俺の火って、本当に制御できてんのか? あいつみたいに、いつか──」
「できている。だが、お前がそれを信じなければ、意味はない」
ユウトの言葉は淡々としていたが、そこには揺るぎない信頼があった。
──烈火。
お前の火は、まだ何かを求めている。
檻の中で、何かを。
その夜、風間教官から直接、次任務の通達が告げられる。
「赫焉班は“第六封鎖域”に潜入し、“標識α-09”の異常反応の調査、および制圧を行う」
「α-09……」シアが声を漏らす。
「そこって……赫焉計画の被験体が暴走した、あの区域じゃ……」
「そうだ。十年前に“赫焉-壱型”が逃走した後、周囲が異能汚染区域に変質した。現場ではいまだに実験体の断末魔が残響として観測されている」
風間は重く語った。
「……つまり、赫焉の檻ってのは、俺たちに課せられた檻か」
烈火が呟くと、風間は頷いた。
「だが、その檻を壊すのはお前たち自身だ。異能とは、お前たちの意志そのものだ。忘れるな。檻の中で火を絶やすな」
──烈火の目に、再び紅い光が宿る。
「絶やさねぇよ……何があっても」
赫焉班、再始動。
檻の中に燃える火は、今、再びその牙を研ぎ澄ませる。
次回:
第26話「赫焉班、封鎖域へ」
異能の痕跡が今も残響する“第六封鎖域”へと足を踏み入れる赫焉班。
そこは、かつて“赫焉計画”の核心が眠っていた場所。
新たな仲間との連携、過去の亡霊、そして明かされる“α-09”の正体とは