第六封鎖域──
そこは、地図上ではすでに“存在しない”場所として扱われていた。数年前のある事件を境に閉鎖され、政府の全データベースから削除された禁忌の地。
「ここが……」
烈火が呟く。
眼前には、鋼鉄のフェンスとコンクリート壁に囲まれた灰色の施設群。廃棄されたはずの施設には、未だ人の気配がわずかに残っている。
「思ってたより、荒れてないな」
鷹人が双眼鏡を下ろしながら言った。
「誰かが……ここを管理してる?」
「いや、管理というより“見張ってる”って感じね」
シアは鋭い視線で周囲を見回す。
彼女の指先には、わずかに痺れるような異能の気配がまとわりついていた。
C.A.L.E.の調査班が編成した特別任務──
それが「封鎖域への潜入と情報回収」。
対象は、過去に異能体が暴走し、施設ごと消滅したとされる“赫焉実験中枢”の跡地。
「ここで……何があったんだろうな」
烈火が呟く。だがその問いに答える者はいない。
誰もが、心のどこかで“知りたくない真実”を予感していた。
施設内は、奇妙なほど整然としていた。
書類棚も備品もそのまま。埃さえ積もっていない場所もある。
「……誰か、最近までいた形跡がある」
ユウトが静かに言った。
彼は何も触れず、ただ空間の“構造”を読み取ることで判断していた。
「注意しろ。どこかに罠がある可能性がある」
風間の言葉に、全員が身を引き締める。
まるで、何者かが彼らの到来を待っていたかのような雰囲気だった。
「……おい、こっち」
鷹人が警戒しつつ、地下への通路を指差す。
そこには“E-07”と刻まれた錆びたプレートが残されていた。
「俺の……番号……?」
烈火の胸が締め付けられる。
幼い記憶の断片。実験室の白い光景。冷たい器具。焼けるような痛み。
「無理に思い出さなくていい」
シアが小さく言った。
彼女も“E-05”――同じ記号を持つ被験体だった。
「でも……もう、逃げたくないんだ」
烈火はゆっくりと階段を降り始めた。
地下は異様な空気に包まれていた。
赤黒いコード、ひび割れたガラスのカプセル、そして壁面に残る焼け焦げた痕。
「これは……爆発痕だな。しかも、内側から」
鷹人が分析しながらつぶやいた。
「何かが……ここから脱出した?」
ユウトが構造を観察して呟く。
その瞬間、警報のような耳鳴りが全員の脳を突き刺した。
――異能反応、急速接近中。
「来るぞ、構えろ!」
闇の中から現れたのは、異形の影。
だが、それはかつてのB-Ωのような暴走体ではなかった。
「……人間?」
だが目は虚ろ。口元には狂気の笑み。
身体中に注射痕と異能強化の痕跡が残る、半ば“異能体化”した人間だった。
「α-09……!」
風間の声が震える。
「お前……まだ、生きて……!」
「久しいな、観測官どの」
人影が嗤う。
「E-07、E-05……ようこそ、帰ってきたまえ」
烈火の拳に熱が集まり始める。
「ふざけるな……!」
叫びと共に、赫き炎が檻を打ち破る――!
次回:
第27話「封印された実験体」
赫焉班を待ち受けていたのは、過去に“消えた”はずの被験体、α-09。
烈火の記憶、シアの傷、ユウトの沈黙――それぞれの過去が交差し、檻はゆっくりと開かれていく。