赫焉の記憶   作:Reivalt

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焰牙テスト、開戦

異能適性試験――焰牙(えんが)テスト。

 

 それは《C.A.L.E.》に入隊を志願する者すべてに課される、初の選抜試験。

 ルールは単純。「模擬異能体」3体を制限時間内に撃破し、区域Bから脱出すること。

 

 だが、その“単純さ”に罠がある。

 

 「おい烈火、残り時間あと27分だ。あと1体!」

 

 金髪の少年――早乙女鷹人が、肩に乗せたドローンで周囲を確認しながら言った。

 炎を纏った拳で2体を撃破した烈火は、息を切らせながら廃ビルの階段を駆け上がる。

 

 「わかってる……! どこだ、最後の奴は……!」

 

 天井が剥がれかけた最上階。足元には瓦礫、壁には熱で焦げた痕。異能体と戦った痕跡か、それとも落第した受験者の痕か。空気に緊張が走る。

 

 ドンッ!

 

 突如、階下から轟音。床が揺れる。

 

 「来たぞ……!」

 

 それは“模擬異能体”とは呼べない異様な存在だった。

 

 鋼鉄のボディ。だが他の機体と違い、腕部が4本。

 しかもその一対からは、鋭い“骨のような”刃が突き出ていた。

 仮面の目元も、赤い光が点滅している。

 

 「おい……あれ、他のと違くねえか?」

 

 鷹人が後ずさる。ドローンが警告を発した。

 

 《警告:該当個体、規格外データ。型式コード“B-Ω”。使用禁止領域から逸脱確認》

 

 「おい、マジかよ。なんでそんなのがここに……!」

 

 「知らねぇ。だが、やるしかねぇんだよ!」

 

 烈火は拳を握る。その手のひらが、高熱で赤く染まり始めた。

 《圧縮熱》――今、自分が出せる最大出力を超えて燃やす。

 

 「来い、怪物……!」

 

 B-Ωと呼ばれた個体は、異様なスピードで接近してきた。

 人間離れした跳躍。鋭い両腕を振り抜き、烈火へ斬りかかる。

 

 「っぐ……!」

 

 咄嗟にかわすが、右腕の袖が裂け、火花が散る。すぐさまカウンター。拳に熱を集中し、上段から叩き込む――!

 

 「《圧縮熱・裂》ッ!!」

 

 激しい音と共に爆炎が吹き上がる。だが、その奥からB-Ωが無傷で歩いてくる。

 

 「な……効いてねぇ!?」

 

 「烈火ッ、退け!!」

 

 鷹人の叫びと同時に、烈火は身を引いた。次の瞬間、床が爆裂する。

 

 B-Ωの攻撃で、フロアが崩れ落ちたのだ。

 烈火と鷹人は、そのまま2階分を転落した。

 

 「っ……ちくしょう、骨折は……してねぇか」

 

 瓦礫の下から這い出た烈火は、割れた唇から血を拭いながら立ち上がった。

 

 「鷹人、おい!」

 

 「生きてる……が、やべぇな。ドローン潰された……! あの化け物、もうすぐ来る……!」

 

 「なら、ここで終わらせるしかねぇ」

 

 烈火は拳を見つめる。

 ……火力が足りない。いや、それ以前に、相手の装甲が異常すぎる。

 

 けど――。

 

 “怒り”を燃料にできるなら、まだ……限界は超えられる。

 

 「俺は……負けねぇ。俺は、あの火事で何も守れなかった。無力で、どうしようもなかった。

 けど今は違う。力がある。弱くても、まだ動ける。だから、負けねぇんだよッ!!」

 

 烈火の右腕が、赤から白へと変わっていく。

 火ではなく、“熱そのもの”が拳に宿る。

 

 「《圧縮熱・解放形態――焦熱拳(しょうねつけん)》」

 

 烈火の全身から蒸気が噴き出す。髪が逆立ち、視界がゆらぐほどの熱を纏う。

 これまでの《圧縮熱》とは違う。

 “本能で掴んだ、次の段階”だった。

 

 B-Ωが階下から突入してくる。壁ごと吹き飛ばして現れたその姿に、烈火は構えを取った。

 

 「一撃で終わらせる……!」

 

 全身の熱を右腕に集中。

 

 「これが……俺の、覚悟だぁぁッッ!!」

 

 烈火の拳が、雷鳴のような轟音と共に、B-Ωの胸部へ直撃する。

 

 瞬間、周囲の空気が焼き切れた。

 金属の装甲が裂け、内部機構が爆発。

 B-Ωは吹き飛び、壁に叩きつけられながら動かなくなった。

 

 残り時間:2分13秒。

 

 烈火と鷹人は、息を切らしながら出口のゲートへ向かっていた。

 

 「……よく、やったな」

 

 鷹人が珍しく素直に言う。烈火は口元だけで笑った。

 

 「これで……終わりじゃねぇよ。仇を取るまでは、絶対に倒れねぇ」

 

 ゲートの扉が開く。

 

 その瞬間、烈火の視界が暗転した。




次回:
第4話「選抜者と落第者」
焰牙テストを終えた烈火の前に現れたのは、意外な人物――そして、「力の格差」という現実だった。
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