」
――重い。
誰もがそう感じていた。
かつて実験施設だった廃棄区画。かろうじて機能する照明がぼんやりと闇を照らす中、赫焉班は慎重に奥へと進んでいた。
「この先、反応あり。単独個体……だけど、尋常じゃない数値だ」
先行していたドローンからの映像を確認し、鷹人が険しい顔をする。
「異能濃度が……常軌を逸してる。これは……人間、なのか?」
「かつて、“人間だったもの”かもしれないな」
ユウトの言葉に、一瞬、空気が張り詰めた。
烈火は一歩前に出て、拳を握る。
「行くぞ。何が来ても、後ろは任せる」
「はい!」
「……了解」
返事は静かだったが、誰もがその背に決意を感じ取っていた。
──そして、彼らは“それ”と対峙する。
崩れかけた鉄扉の奥。冷気が漂い、床は血と薬品が混ざった異臭に満ちていた。
中央に佇む人影。いや、影“だった”もの。
白い拘束衣を纏い、数多のチューブが体から垂れている。頭部には鉄製のヘルメット。顔は見えない。
その背後の壁には、かすれて読み取れない識別番号――だが、かろうじてひとつだけ、赤く刻まれていた。
《α-09》
「――“封印された実験体”……!」
思わず、烈火が息を呑んだ。
「動きが……ない?」
「いや、こちらに反応している」
そう言ったユウトの声と同時に、鉄仮面がギリギリと軋み音を立てる。
次の瞬間、床が割れるような衝撃が走った。
「来るぞ――!!」
叫び声と同時に、α-09が跳んだ。
鋼の爪のような義手が唸りを上げ、烈火の拳と激突する。
「うおぉッ!!」
一瞬で距離を詰めた接近戦。烈火の《圧縮熱》が爆ぜ、相手の装甲を弾き飛ばすが、まるで怯まない。
「攻撃が通じねぇ……!?」
「こいつ、異能耐性が……高すぎる」
シアが間合いを取りながらも、鋭い観察眼で冷静に状況を分析する。
「α-09は……赫焉計画の最終段階で設計された個体だ。異能の封印と再構築を繰り返して生き残った……異端だ」
ユウトの言葉に、誰もが一瞬、動揺した。
「それって……」
「俺たちの“原型”みたいなもんさ」
苦笑混じりにユウトが言う。
「つまり……!」
「全員、同じものとして戦うしかないってことだよ!」
そう言い放つと同時に、烈火が渾身の拳を叩き込む。
拳が風を裂き、α-09のヘルメットを砕いた。
中から現れたのは――人間の顔。
……いや、それに酷似した“何か”だった。
「目が、ない……?」
「異能の代償で視覚を失った……それでも、戦闘本能は健在というわけか」
α-09の口元がわずかに動く。
「……カ……カエ……セ……」
かすれた声。だが確かにそう聞こえた。
「返せ……? 何を――!」
その瞬間、α-09の体から異能の奔流が溢れ出した。
「やばい、逃げ――!」
言い終わる前に、烈火の体が吹き飛ばされる。
床に叩きつけられ、視界が揺らぐ。
しかし、彼は立ち上がった。
「……こんなもんじゃねぇ……! 俺は、終わらせるって決めたんだ……!」
烈火の《圧縮熱》が限界まで膨れ上がる。拳が紅蓮に包まれ、周囲の空気が歪む。
「いけ烈火!」
「今よ、ぶっ壊せ!!」
仲間の声を背に、烈火が跳ぶ。
渾身の焦熱拳――《烈焔崩撃》がα-09の胸を貫いた。
爆発するような衝撃と共に、空気が一瞬止まり――
……静寂。
α-09は、崩れるように倒れた。
烈火はその体に近づき、目を閉じる。
「……お前も……俺たちと同じだったんだな」
誰に聞かせるでもないその言葉に、微かに、風が答えたような気がした。
──こうして、“封印された実験体”との戦いは幕を下ろした。
だが、それは終わりではなく、次なる“計画”への扉だった。
次回:
第28話「赫焉計画、再起動」
廃棄区画での戦闘を経て、赫焉班はついに“封印された実験体”の真実に触れる。だがその死は、止まっていた歯車を再び動かす合図でもあった――
記録庫に残されたデータ、《E-01》、そして“火ノ目”の名。
すべての起源が、静かに覚醒する。
赫焉計画の影は、今も終わっていなかった。