赫焉の記憶   作:Reivalt

30 / 47
封印された実験体

 

――重い。

 

誰もがそう感じていた。

 

かつて実験施設だった廃棄区画。かろうじて機能する照明がぼんやりと闇を照らす中、赫焉班は慎重に奥へと進んでいた。

 

「この先、反応あり。単独個体……だけど、尋常じゃない数値だ」

 

先行していたドローンからの映像を確認し、鷹人が険しい顔をする。

 

「異能濃度が……常軌を逸してる。これは……人間、なのか?」

 

「かつて、“人間だったもの”かもしれないな」

 

ユウトの言葉に、一瞬、空気が張り詰めた。

 

烈火は一歩前に出て、拳を握る。

 

「行くぞ。何が来ても、後ろは任せる」

 

「はい!」

 

「……了解」

 

返事は静かだったが、誰もがその背に決意を感じ取っていた。

 

──そして、彼らは“それ”と対峙する。

 

崩れかけた鉄扉の奥。冷気が漂い、床は血と薬品が混ざった異臭に満ちていた。

 

中央に佇む人影。いや、影“だった”もの。

 

白い拘束衣を纏い、数多のチューブが体から垂れている。頭部には鉄製のヘルメット。顔は見えない。

 

その背後の壁には、かすれて読み取れない識別番号――だが、かろうじてひとつだけ、赤く刻まれていた。

 

《α-09》

 

「――“封印された実験体”……!」

 

思わず、烈火が息を呑んだ。

 

「動きが……ない?」

 

「いや、こちらに反応している」

 

そう言ったユウトの声と同時に、鉄仮面がギリギリと軋み音を立てる。

 

次の瞬間、床が割れるような衝撃が走った。

 

「来るぞ――!!」

 

叫び声と同時に、α-09が跳んだ。

 

鋼の爪のような義手が唸りを上げ、烈火の拳と激突する。

 

「うおぉッ!!」

 

一瞬で距離を詰めた接近戦。烈火の《圧縮熱》が爆ぜ、相手の装甲を弾き飛ばすが、まるで怯まない。

 

「攻撃が通じねぇ……!?」

 

「こいつ、異能耐性が……高すぎる」

 

シアが間合いを取りながらも、鋭い観察眼で冷静に状況を分析する。

 

「α-09は……赫焉計画の最終段階で設計された個体だ。異能の封印と再構築を繰り返して生き残った……異端だ」

 

ユウトの言葉に、誰もが一瞬、動揺した。

 

「それって……」

 

「俺たちの“原型”みたいなもんさ」

 

苦笑混じりにユウトが言う。

 

「つまり……!」

 

「全員、同じものとして戦うしかないってことだよ!」

 

そう言い放つと同時に、烈火が渾身の拳を叩き込む。

 

拳が風を裂き、α-09のヘルメットを砕いた。

 

中から現れたのは――人間の顔。

……いや、それに酷似した“何か”だった。

 

「目が、ない……?」

 

「異能の代償で視覚を失った……それでも、戦闘本能は健在というわけか」

 

α-09の口元がわずかに動く。

 

「……カ……カエ……セ……」

 

かすれた声。だが確かにそう聞こえた。

 

「返せ……? 何を――!」

 

その瞬間、α-09の体から異能の奔流が溢れ出した。

 

「やばい、逃げ――!」

 

言い終わる前に、烈火の体が吹き飛ばされる。

 

床に叩きつけられ、視界が揺らぐ。

しかし、彼は立ち上がった。

 

「……こんなもんじゃねぇ……! 俺は、終わらせるって決めたんだ……!」

 

烈火の《圧縮熱》が限界まで膨れ上がる。拳が紅蓮に包まれ、周囲の空気が歪む。

 

「いけ烈火!」

 

「今よ、ぶっ壊せ!!」

 

仲間の声を背に、烈火が跳ぶ。

 

渾身の焦熱拳――《烈焔崩撃》がα-09の胸を貫いた。

 

爆発するような衝撃と共に、空気が一瞬止まり――

 

……静寂。

 

α-09は、崩れるように倒れた。

 

烈火はその体に近づき、目を閉じる。

 

「……お前も……俺たちと同じだったんだな」

 

誰に聞かせるでもないその言葉に、微かに、風が答えたような気がした。

 

──こうして、“封印された実験体”との戦いは幕を下ろした。

 

だが、それは終わりではなく、次なる“計画”への扉だった。

 




次回:
第28話「赫焉計画、再起動」
廃棄区画での戦闘を経て、赫焉班はついに“封印された実験体”の真実に触れる。だがその死は、止まっていた歯車を再び動かす合図でもあった――
記録庫に残されたデータ、《E-01》、そして“火ノ目”の名。
すべての起源が、静かに覚醒する。
赫焉計画の影は、今も終わっていなかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。