再び、その地に足を踏み入れる――。
灰色の空の下、赫焉班はかつての任務地、旧施設跡へと降り立っていた。封鎖域からの一時的な退避、そして急ぎ整えられた装備と共に、彼らは“計画の中心”へと帰還する。
「戻ってきたな……」
先頭に立つ八神烈火が低く呟いた。かつて、己の出生と向き合ったこの場所。その扉の先に、答えと仇と、そして闇が待っている。
「空気が……違う」
鷹人が警戒するように周囲を見渡す。施設全体が微かに軋む音を立て、風もないのに空気がざらついている。
「異能の残滓……それに、魔素が混じってる。誰かが――起こしてる」
静かに語るシアの表情はいつになく険しい。既にこの地は“再起動”していた。
「それでも、進むんだろ?」
榊ユウトの言葉に、烈火は迷わず頷いた。
「……ああ。赫焉計画を、終わらせるためにな」
彼の拳が微かに熱を帯びる。《圧縮熱》がその意志に呼応するかのように、温度が上昇していく。
施設内は異様な静けさに包まれていた。灯りは消え、しかし通電はしており、誰かがここで“動いている”ことを物語る。
「こっちだ。B区画の先、地下フロア……再起動の痕跡が集中してる」
索敵用の小型ドローンを操作する鷹人の目が鋭く光る。赫焉班は無言でそれに従い、廊下を駆ける。
と、その時だった。
「接触、右からくる!」
警告と同時に、天井を突き破るようにして、奇形の異能体が襲いかかってきた。腕の関節は逆に曲がり、顔は潰れて目も口も存在しない。
「――ッ、来るなああッ!」
烈火の拳が火を纏い、異能体を吹き飛ばす。その熱波に焼かれても、なお異能体は動きを止めない。
「再生速度が早すぎる……普通の異能体じゃない!」
「違う、“造られた”やつだ。B-Ωの時みたいに!」
再び現れる異能体たち。数は少ないが、どれも再生能力と身体強化が極限まで調整されている。即ち、“戦闘用”にデザインされた試作品。
「援護する! 全方位に展開!」
榊ユウトが手を広げると、床に触れていたパネルの接合部が一斉に崩壊し、異能体の足元を引き裂く。
「砕け散れ」
冷淡な声と共に、異能体の上半身が一瞬で断裂する。
「烈火、今のうちに!」
「任せろ!」
烈火が駆け、施設奥へと突破する。その後ろを赫焉班の面々が続いた。
地下区画――。そこはかつて、烈火たちが眠っていた“檻”だった。
今はその全てのポッドが開いており、内部は空。だが、それ以上に注目すべきは――中央に立つ“人影”だった。
「……よく来たな、“E-07”」
低く、嗄れた声。その声の主は、白衣を羽織った男――《赫焉計画》主任研究員、《鳴神ハク》。
「貴様……!」
「怒るな。お前たちはすべて、我々の“希望”だったのだから」
その笑みは、歪みきっていた。常識も倫理も崩壊した者の、それだった。
「今から始まる。赫焉の焰が、再び世界を焼き尽くす」
男の背後で、何かが“脈動”を始める。巨大なチューブに繋がれた実験体。皮膚の下を蠢く光。新たな《実験体》が、覚醒しようとしていた。
「止めさせてもらう……お前たちが犯した罪を、ここで終わらせる!」
烈火が叫び、赫焉班が一斉に構える。
再び、戦いが始まる。
だがそれは、全ての序章に過ぎなかった――。
次回:
第30話「赫焉の檻、再び」
再起動された《赫焉計画》。
赫焉班の前に立ちはだかるのは、かつて彼らと同じように生まれ、
しかし異なる“道”を選ばされた存在――新たなる実験体。