赫焉の記憶   作:Reivalt

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赫焉計画、原点

密閉された地下研究棟の空気は、異様なほどに冷たく、乾いていた。かつて無数の悲鳴と沈黙が交錯したその空間は、今はただ機械の作動音と、彼らの足音だけが響いていた。

 

「ここが……《赫焉計画》の、出発点……」

 

烈火が呟くように言った。分厚い防護扉の先には、重厚な観測装置やカプセル状の培養ポッド、そして無数の資料が散乱した制御室が広がっている。シアが一歩前へ進み、無言でスキャン装置に端末を接続する。

 

「データログを確認する。セキュリティ層……突破済み。ロック解除。……映像記録が残ってる」

 

壁面の大型スクリーンに、薄暗い実験室の記録映像が映し出された。時刻は“皇紀−3年”と表示されていた。まだ帝國が正式に世界へ姿を現す以前の記録。

 

画面の中には、複数の白衣の人物と、カプセルに入れられた幼い子どもたち。その中のひとつには、確かに見覚えのある少年の姿があった。

 

「それ……オレ……?」

 

烈火の目が見開かれる。カプセルの中で眠る、自分と瓜二つの少年――E-07。今の自分よりも幼く、無垢な表情を浮かべていた。

 

《試験体E-07、異能付与実験、第23段階。加熱耐性、成功率89%。精神安定化処理、進行中。》

 

機械的な声とともに、実験報告が続けられる。だが次第に、その映像は別の子どもたちの記録へと切り替わっていった。E-01、E-03、E-05……次々に映る中に、シアの名も含まれていた。

 

「……あたしもここにいた。ここで、“作られた”。」

 

そう言い放つ彼女の表情に、迷いはなかった。烈火は沈黙しながら、スクリーンに映る自分を見つめ続けていた。

 

「でも、なぜ俺だけ……今まで覚えてなかったんだ?」

 

「精神制御措置だろうな。おそらく《抑圧因子》を埋め込まれてた。何かの拍子に解除された――たとえば、戦闘中の高負荷反応とか」

 

風間の声が研究室の奥から響く。彼は、いつの間にか現れていた。だが今回は、教官ではなく“記録者”としての顔だった。

 

「……ようこそ、原点へ。ここが《赫焉計画》の始まりであり、終焉だ」

 

「どういう意味だよ、風間教官。いや……あんた、何者なんだ」

 

烈火の問いに、風間は無言のまま制御盤の端末を操作する。やがてスクリーンに、今度は“Eシリーズ統括計画”と銘打たれた機密ファイルが現れた。

 

そこには、信じ難い内容が記されていた。

 

《Eシリーズは、外的脅威に対抗する最終防衛因子として開発された。

 計画立案者:統合科学庁・第零部門 観測管理官“風間 忠嗣”。

 目的:異能の臨界点を測定し、制御不能域に至った場合の対応策を実施すること》

 

「……あんたが、この計画の責任者……」

 

烈火の拳がわななく。

 

「俺たちは、あんたの実験台だったってわけかよ……!」

 

「違う。お前たちは、“観測対象”だった。だが……俺自身、いつしかお前たちに――希望を託していた。烈火、お前が生きて、ここに辿り着いた意味は――」

 

そこへ、急報が飛び込んだ。制御室内の端末が赤く点滅し、シアが即座に確認する。

 

「地下第3層で未登録反応。……これは――異能反応体、封印解除の兆候……!」

 

「まずい……あれが動く気配だ……!」

 

風間の顔が青ざめた。次の瞬間、警報音が研究所全体に響き渡る。

 

『警告。封印区画にて反応確認。全戦闘班、対応行動を開始せよ――』

 

「行くぞ……今度こそ、終わらせるんだ。この《赫焉》の業を――!」

 

烈火は仲間たちに目を向け、拳を強く握り締めた。

 




次回:
第32話「赫焉反応、暴走」
封印されていた異能体が、ついに目覚める。赫焉計画の“失敗作”――制御不能な力が地下研究施設に解き放たれ、烈火たちはその暴走に巻き込まれていく。仲間を守るため、そして自らの出自に決着をつけるため、烈火の炎が再び燃え上がる。だが、それは新たなる“覚醒”の引き金でもあった――。

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