静寂を破る、低く唸るような振動――。
「熱反応、急激に上昇中!これは……異常だ!」
警報が鳴り響く研究施設内。先ほどまで落ち着きを取り戻していたはずの空間が、再び不穏な空気に包まれた。施設最奥の隔離区画、その中心で、赤黒いエネルギーが脈動していた。
「封印されてた異能体が……起きた?」
早乙女が呟いた瞬間、施設全体が大きく揺れる。警報が断続的に鳴り、天井から粉塵が舞い落ちる。モニターには“赫焉反応”という文字が点滅し、赤い警告ラインがエリア全域を覆い始めていた。
「ここはもう安全じゃない。全員、避難ルートを確保しろ!」
教官・風間の冷静な指示が飛ぶ。その目は鋭く、状況の深刻さを誰よりも理解していた。
「いや……逃げられないかもしれない。あれは……もう完全に目覚めた」
榊が呟く。彼の視線の先――重厚な扉の向こうで、何かが蠢いている。その“赫焉反応”は、烈火の能力と極めて類似したエネルギーパターンを示していた。
「まさか……」
烈火は立ち尽くす。熱を感じる。遠くにいるはずなのに、まるで自分の中で同じ火が燃えているかのように。
――オレと同じ“何か”が、そこにいる。
扉が、崩れ落ちた。
轟音とともに現れたのは、人の形をしていながら、どこかが歪んでいる存在だった。炎を纏いながらも、冷酷な赤い目だけが鮮明だった。彼の姿に烈火は見覚えがあった。
「……E-01……!」
榊の声が震える。
それは、赫焉計画の第一被験体。烈火たちの前段階に造られた、最初の“炎の異能体”。
「感情がない……いや、すでに壊れてる」
名瀬シアが言う。その口調にも緊張が滲んでいた。
「皆、下がれ。俺が前に出る」
烈火が一歩、踏み出した。敵が放つ熱に負けぬよう、自らの炎を強める。
「お前が……この炎の元凶か。だったら……オレが、終わらせる!」
瞬間、二つの炎が激突する。赫焉と赫焉。計画が生み出した“最初”と“最後”の炎が、今、交錯した。
攻撃は苛烈を極めた。爆発的な熱量が周囲を溶かし、床が焼け落ちていく。CI装備の冷却フィールドが間に合わず、周囲の壁が一瞬で赤熱する。
「烈火、下がれ!今のお前じゃ……!」
「違う!オレは、オレの意志でここに立ってる!」
烈火の目が光る。炎はただの破壊ではなく、意志の灯だ。
「お前に、オレは超えさせない!」
爆発とともに放たれた“圧縮熱・連撃”が、赫焉体の腹を抉る。だが、それでも立ち上がるE-01。まるで痛みも、感情も、何も感じていないかのように。
――これが、オレの原点……!
烈火の記憶が、痛みと共に蘇る。
あの日、両親を失った炎。胸に焼きついた恐怖。そして、今目の前にいる“火ノ目”の原型のような存在。
「終わらせてやるよ、お前の炎も、赫焉計画も――!」
最後の一撃が放たれた。烈火の拳が、赫焉体の胸を穿つ。
「うああああああああッ!!」
光が炸裂し、衝撃波が施設全体を包む。
静寂――そして、崩壊の音。
だが、その中心に、まだ立つ影があった。
烈火の両足は、崩れた床に沈みかけながらも、しっかりと地を踏みしめていた。
「これが……オレの、炎だ」
施設が静まる。赫焉反応、沈静化。
しかし、彼らはまだ知らない。この戦いが、本当の“目覚め”の序章でしかないことを――。
次回:
第33話「赫焉の檻、解放」
崩壊した封鎖施設。烈火たちの前に現れた“E-01”の存在は、赫焉計画の闇を決定的なものに変えた。
戦いの傷跡が残るなか、風間はついに語り始める――《赫焉》という名に秘められた真の意味を。
かつて檻に囚われた者たち、その“記憶”が一つずつ明かされていく時、赫焉班の運命はさらに深く交錯していく。