意識が戻ったのは、真っ白な天井の下だった。
八神烈火は、硬いベッドの上で目を開けた。顔には点滴の針、腕にはバイタル計測用のコードが何本も貼られている。周囲を見渡せば、金属製のパーテーションと、機械音を立てる医療機器の数々。
「……医務室か?」
思い返す。最後に見たのは、試験ゲートの開く光――その直後、意識が抜け落ちた。
焦熱拳。あれは明らかに自分の限界を超えた。だからこそ、体が強制的にシャットダウンしたのだろう。
「よく生きてたもんだぜ、ほんと」
隣のベッドから声がした。振り返ると、金髪の男――早乙女鷹人が、額に包帯を巻きながら座っていた。腕に乗っていたドローンは新型に取り換えられている。
「お前、爆心地であの怪物と一緒に吹っ飛んだくせによ。目ぇ覚まして第一声が『医務室か?』って、お前ほんとに人間かよ」
「うるせぇ。じゃあお前は、いつから見張ってた?」
「ん? さっき起きたばっか。てか、さっきまで“誰も”起きてなかったんだよ。
ここに運び込まれた連中、少なくとも10人以上いたらしいけど……」
「……生き残ったのか?」
鷹人は、視線をそらす。
「……いや。回収されたのが10人。目覚めたのは、俺たちだけだ」
室内の空気が、静かに沈んだ。
訓練校《C.A.L.E.》は表向き、“異能者支援教育機関”とされている。
だがその実態は、国の命令で動く「戦力育成施設」だ。
生徒を育てるというより、「使えるか使えないか」を見極める――それが、本質だった。
烈火は、左手を見つめた。拳に、微かな痺れが残っている。あの“焦熱拳”、意識は飛んだが――確かに、敵を倒した。
力は……届いた。
その時、医務室の扉が開いた。
「お、起きてんじゃん。ようこそ、生存者くんたち」
声をかけてきたのは、やけに軽いノリの少女だった。
鮮やかな銀髪をツインテールにまとめ、制服の代わりに黒いフードジャケットを羽織っている。背は小柄で、だが妙な存在感を放っていた。
「自己紹介ね。私、名瀬シア。2期生代表で“選抜チーム”のリーダーやってまーす」
「選抜……?」
「そ。焰牙テスト、1位通過の子とか、私みたいに“初期能力で殺しきれるレベル”の人たちが集まってる。
要するに――“戦わせたら即使える人材”。あんたらは“様子見”」
言葉の棘に、烈火の眉がわずかに動いた。
「テストで倒した敵、見たか? “模擬異能体じゃない”やつが混じってた」
「見たよ。あれ、暴走型だったね。使用禁止領域からの逸脱個体。でもまあ、“生き残った”ってことは――評価されてるってこと。おめでと♪」
まるで買い物ついでに褒めるかのような口ぶり。
だが、烈火の目は鋭く光っていた。
「“評価”なんかいらねぇ。俺はここで、力を手に入れるために来たんだ」
「へぇ……言うね。でも、“力を持ってる人間”って、案外みんなそう言うよ」
シアはくすっと笑うと、鷹人の方へ向き直った。
「そっちの金髪くんも、“連携戦術評価”で合格ラインだったから。ま、仲良くやってよ。明日からは訓練地獄、始まるからね~♪」
そう言い残して、彼女は医務室を去った。
扉が閉まり、再び静寂が戻る。
「……あの女、何者だ?」
「“殺れる奴は好き、殺れない奴は無視”ってタイプ。選抜チームの“狂犬”だって噂は聞いてたけど……まんまじゃねえか」
「だが、確かに強かった。わかる。あれは――殺意が本物だった」
烈火はベッドから立ち上がった。ふらつく足に、全身の痛みが走る。
だが、それも構わずに拳を握る。
「明日から訓練か……やってやるよ。どんな地獄でもな。
この手が、あいつに届くまで――俺は、倒れねぇ」
その夜。C.A.L.E.本部の監視室にて。
風間は、烈火の“焦熱拳”の記録映像を何度も再生していた。
「初期適性、Dランク。能力出力、平均以下。精神耐性、評価不能……なのに」
熱圧縮の限界を超えた出力。そして、意識を飛ばすギリギリで放った一撃。
「このまま育てば……《あの器》に届くかもしれないな」
風間の隣には、シアがいた。
「お気に入り? でもさ、あいつ――見えてるよ。“焰”じゃなくて、“憎しみ”しか」
「それでいい。あの炎は、誰かを守るためにあるんじゃない。
“焼き尽くす”ために生まれた。だからこそ――期待してるんだよ、八神烈火に」
次回:
第5話「異能訓練開始」
待ち受けるのは、常識外れの訓練と“選抜チーム”との初接触。そして烈火の能力に、新たな試練が迫る。